第14話 強いモノの『義務』 上

 「お面のせい…ではないけど…」

 面を外したミュムは、細い眉で綺麗な瞳を持ち、小さな唇にきめ細やかで色白の肌を持っている、女性のような表情で小さな笑みを見せた。

 「ごめん…君がリーダーなんだ……」

 ミュムの言葉に小さく俯いたアサト。

 ミュムの隣にいた鬼たちも驚いた表情を見せた。


 「…まぁ~、主も同じ感じだが…。威厳があるよね…」

 「威厳?」

 青い肌をしているモノの言葉に、クラウトが反応した。

 「…そうだよ…どう見ても…威厳があるだろう…」

 「威厳とは言い難いが…、登場の仕方や、彼らの動きを見ればわかる。」

 「フェレスト…いいよ。今回は僕が間違ったんだ。」

 「主が間違うなんて無いですよ、彼らのリーダーにリーダーだって言う感じが感じられないだけで…」

 「すみません……」

 青い肌をしているモノはフェレストと言うらしい。

 その言葉に呟いたアサトをみたフェレストは、申し訳なさそうな表情を見せて口をつぐんだ。


 アサトを見ているミュムの傍に少女が現れ、その気配を感じたミュムは、一度少女を見る

 「この子がロス。さっき言っていた予知をした子。それで…君の名前は」

 ミュムの言葉にロスを見てからミュムへと視線を向けた。

 「アサトです…」

 「アサト…。そうか、アサトね…それで…君たちは、どうしてここにいるの?」

 軽い感じで訊いてくるミュム。


 赤鬼もそうであったが、雰囲気が違う。

 今までにあったモノらとは違う…余裕と言うものがある感じがしていた。

 それは…赤鬼との戦いで感じたモノを、このミュムに向けて見ていただけなのかもしれないが、確かに、余裕がある感じがする…でも…クレアシアンとは違う余裕に感じられる。


 「僕たちは…」

 「私たちは、フーリカへ向かう旅をしています。この地方の情勢を考え、兵士や奴隷狩りに会わないように進んでいるだけです」

 アサトの言葉を、遮るように答えたクラウトを見るミュム。


 「あぁ~、なんだ弱いからか、敵に会わないようにしているのか…フーリカって……」

 フェレストの言葉に、フェレストを見るアサトの表情を、ロスは見逃していなかった。


 「フーリカって…海の向こうの国だろう…、そこにいる子を連れて、この国から脱出しようとしてんじゃねぇ~?」

 黄鬼が薄い笑みを見せて言葉にすると、その黄鬼を見るアサトを、腕組みをしたミュムが、その表情を見逃さなかった。


 「…とにかく主。この者らが脅威になるようには感じられないけど…」

 フェレストが呆れた表情で言葉にすると、黄鬼が小さく噴き出し、そこに白鬼が並んでアサトら一同を見ると、その視線がセラに止まった。


 「彼女が…ドラゴンの主だ」

 指さす白鬼。

 「ロジアン。子供だぞ!それは無いだろう!」

 小さく驚いた表情を見せる黄鬼。


 「これ、ポワレア…人を見た目で判断するなといつも言っているだろう!」

 「見た目で判断って…誰が見てもおかしいだろう!」

 「そうだな…。」

 フェレストが鼻を鳴らす。


 「とにかく、よわ…」

 「私たちは弱くはない!」

 その言葉に目を見開いたフェレストとポワレアは、馬車の後方にいるシスティナを見ると、ミュムも小さく視線を移し、隣のロスも視線を移した。


 「…あなた達は…何を基準にとかとか決めているんですか?」

 「何を基準って…なぁ~」

 ポワレアがフェレストに同意を求め、その言葉に呆れた笑みを見せたフェレスト。


 「私は訊きます。答えてください。この先で多くの遺体を見ました。それは…あなた達ですよね?」

 システィナの言葉に笑みを見せるポワレアとフェレスト。

 「あぁ~確かに俺達ってか、ミュム様とフェレストと俺と…メルディスでやったんだけどな…すごいだろう俺達!」

 胸を張って見せたポワレア、その隣で大きく笑みを見せているフェレスト。


 「…なら…あなた達は、ですね…」と小さく言葉にした。

 その言葉に反応を見せる。

 「なに?」

 「弱いって…俺たちの完全しょう…」

 「あれは…、あなた達が弱いから出来る事。命は奪って自慢するモノじゃありません。命は尊いモノです。それを…あなた達は…」


 「娘さんの言う通りだ…」

 白鬼が進み出してきた。


 「すまんな~、娘さん。こやつらは力の使い方を分かってない…、わたしから謝る。」

 頭を下げて見せる白鬼。

 「ロジアン…なんで頭なんか…それも弱い奴らに…なんか負けた気がするぞ…」


 「…そう言う事か……」

 フェレストの言葉を聞きながら、頭を下げているロジアンの行動を見て、ミュムが小さく言葉にしてロスを見た。


 ロスはシスティナを見ている。

 アサトがロスを見てからミュムを見ると、腰に携えた太刀の柄に手を当て、小さく滑らして鍔をつかむと、同時に鞘をも手にして腰から太刀を外した。

 その姿を見ていたミュムは目を細める。

 手にした太刀を目の前に持ってきたアサトに、小さな笑みを見せた。


 「それくらいでやめてもらえないかな…」

 止める手を見ているミュム。

 「ミュム様…」

 フェレストが言葉にする。


 「…もう君たちの勝ちだよ…。」


 ?


 その言葉に、何が起きたのかわからない表情を見せたフェレストとポワレア…。

 ミュムは言葉を発すると腕組みをほどき、黒鉄くろがね山脈が見える方向へと視線を移して、ゆっくりと動き出した。

 「ミュム様…どうし…」

 「僕たちの負けだ…」

 「え?…なんで?」


 「わからないのか?…まぁ~わからないなら、勝った意味も解らないんだな…お前は!」

 ロジアンはポアレアの腹を叩くと進み始めた。


 「…どこに行くんですか主?」

 進み出したミュムにポアレアが声をかけた。

 「決まっているだろう。」

 立ち止まり鬼たちを見る。


 「後片付けだよ…。僕らは戦場をあのままにして来た。それは力があるモノの義務を放棄している。ロスが言っていた様に、この者たちは、僕を危機に追いやる者達だ…。それは…命を軽く見ている僕らの行動を示していたんだ…。たぶん…、あの戦場では、奪ってはいけない命もあっただろう。それを分ける事は出来なかった…出来たにしても、やろうと試みなかった。それは力に勝って、心に負けた…。自分らより弱い者と戦い、勝つのは当たり前だが、それは義務を要するんだ…。」


 「義務?」

 「あぁ~義務だ!」

 ロジアンがフェレストの腰に手を当てた。


 「アサト君。君達の旅が急がないのなら、どうだ?僕らの住む街によってくれないか?」

 アサトはミュムの言葉にクラウトを見ると、クラウトはメガネのブリッジを上げて小さく頷いて見せた。


 「…はい、じゃ…お言葉に甘えて…」

 「うん」

 大きな笑みを見せたミュム。


 「じゃ…ちょっと後片付けをして来る……、彼らを頼んでもいいかな?」

 ゴブリンのイィ・ドゥらを見るミュム。

 そのミュムに小さく頷いて見せると、ミュムは、再び笑顔をみせ、背中から黒い靄を出し、翼を形作らせると羽ばたかせ始め、ゆっくりと空へと飛び、鬼たちは馬に乗り、ゴブリンのイィ・ドゥらはアサトらへと進んできた。


 「すみません…お願いします……」

 そのゴブリンのイィ・ドゥらに小さく頷くと、去ってゆくミュム達を見送った…。

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