獣神を纏う『ミュム』との遭遇 下

 「脅威になるかどうかは…会ってから決めてもいいんじゃないかな?」

 「ミュム様がわざわざ出る必要があるのですか?」

 オークのイィ・ドゥがミュムへと言葉を投げかける。

 「うぅ~ん、そうだな…、メルディス一人でもかなりやれたしな…ドラゴンさえ出て来なきゃ。」

 黄鬼が腕組みをして目を閉じた

 「ダメだよ。そんなに自分の力を過信しちゃぁ~、君たちは確かによ。誰が見ても、戦わなくてもわかるレベルだと思う。でも…それが命取りになる事もあるんだ」

 ミュムが心配そうな表情を見せて一同を見渡す。


 「それに…メルディスだけではないよ。君たちも、この地方ではかなり強いと思う。僕らがその気になれば、この国を征服できると思うよ…」

 「そうでしょうか……」

 隣のロスが小さく言葉にし、その言葉に一同がロスを見る。


 ロスはうつむいていて、何かを隠しているような表情を見せており、その表情に顔を近づけるミュム

 「ロス?どうした…、なにか言えない事があるの?」

 ミュムの言葉に小さく首を振って見せ、ミュムは、その表情をしばらく見つめていると、視線に頬を赤らめるロスの姿があり、その表情をみてから一同を見渡したミュム。

 「とにかく…明日はみんなで行って、…彼らが敵とわかれば…、まぁ~、一気に片付けるのも手かもしれないね…」

 ミュムが腕組みをして、椅子の背もたれに背を預けると、そのミュムを見るロスの姿があり、彼女の表情を、目を細めて見ていたコウレナの姿がそこにあった……。


 翌朝…。


 旅の支度をしたアサトらは、ゴブリンのイィ・ドゥらと別れの挨拶をしていた。

 彼らの住む『ミュム』へは、ここから平原を歩いて半日のようであり、また、森を抜ける道は、森沿いを進むと何か所か小さな道があり、3本目に見えた道が一番距離が短い事も教えてくれた。

 彼らは、自分らが進む平原方向へと指をさしてみせた…と?何かが飛んでくるのが見え、また、平原を走る馬の姿も小さく見えた。


 …なんだろう…。


 アサトは目を細めて確認をする。

 上空には…、羽ばたいている黒く大きな翼が見え、その下にある平原を駆けてくる姿は、馬が4頭に馬車が一つ…。

 その姿は、時間を置かずに近づいてくると、そばにいたゴブリンのイィ・ドゥらが声を上げ始めた…。


 「ミュムさまぁ~、ミュムさまぁ~~」

 手を振っているイィ・ドゥらを見てから、その先の者を見ると、そこには…、翼を羽ばたかせ、奇妙なお面をつけているモノが見え、そのモノも気付いたのか、やんわりと速度をおとし、地面に羽を巧みに使い降り立つと、翼が小さな靄になって拡散を始め、黒く長い髪にお面の姿のモノがアサトらの前に立った。

 その姿に、馬車に乗ろうとしたタイロンが視線を向け、クラウトは、メガネのブリッジを上げながらアサトの傍につき、セラとシスティナは馬車後方で様子を伺い、ケイティは、馬車の上で口をもごもごさせながら胡坐をかいて見ており、ジェンスとアリッサは、焚火の跡片付けをしていた。


 「君たちぃ~、どうしたの?」

 ミュムがイィ・ドゥへ言葉をかける。

 「おはようございますミュム様。昨夜は、遅くなりそうだったから、この方らの傍で休ませてもらいました。」

 元気よく答えるゴブリンのイィ・ドゥ。


 「へぇ~、そうなの…」

 ミュムは、アサトらを見てから首を傾げて辺りを見渡した。


 「…なにか用ですか?ミュム様と言われていたようですが…」

 クラウトが言葉をかける。

 「あ…、ごめん、ごめん…はじめまして、僕はミュム…その人達は、僕の街の人達なんだ、一緒に休ませてもらってありがとう…」

 アサトは、お面の男を見ていた。


 「…ところで…、ここらに、凶悪そうなドラゴンを伴った者達がいるって聞いていたけど…しらない?」

 辺りを見渡しながら話すお面の男。

 「ドラゴン?」

 アサトが訊く。

 「そうそう…僕の仲間が火傷しちゃってさぁ~~」


 「あぁ~、ミュムさま、その方たちなら、ここにいる人達ですよ!」

 ゴブリンのイィ・ドゥが指をアサトへと向けた。

 その行動にミュムはアサトを見てから、隣のクラウトへと視線を移して、タイロンにシスティナ、セラ…、ケイティへと視線を移し、平原側が騒めいているのに、不思議そうな表情で、アリッサとジェンスが馬車後方から平原側へと出てくると、その2人へも視線をむけたミュム。と…。


 「ミュム様~、そいつらです!気をつけて!」

 「え?」

 アサトは馬に乗っている赤い肌…と言うのも、赤い塗料を体に塗っているモノを見た。


 「また来たのか!」

 ジェンスが脇に携えている剣の柄へ手を当てた。

 ミュムは、クラウトを見ている。


 「ミュム様?」

 ゴブリンのイィ・ドゥが小さく言葉にすると、ミュムはクラウトから視線を外さずに彼らに言った。

 「こちらに来て…そして、馬車が来たら…乗って…」


 ミュムが、異様な感じのする青っぽい靄に包まれているように、アサトには見えていた。

 …何かを…纏っている?…いや…体の中から何かが…溢れている…それは…なんだ…?


 しばらくすると、馬に乗った赤鬼、青鬼、黄鬼と白鬼、馬車の手綱を持つ巨大なゴブリンと、荷台に乗っている少女と女性が現れた。


 …アサトの血が騒いでいる…。


 馬から降りた鬼たちは、ミュムの横に並び、白鬼がゴブリンのイィ・ドゥらを連れて馬車へと向かい、入れ替わるように、馬車からは女性が向かって来ており、馬車の荷台で立ち上がっている少女は、胸に両手を持ってきて、切なそうな表情を浮べていた。


 「…それで…。君たちは何が望みなの?戦争?それとも…略奪?…奴隷?」

 ミュムが言葉にする。

 「…」

 クラウトは黙ってミュムを見ている。

 「…そうか…話せないんだね…、じゃ、質問を変えよう。君たちは脅威なの?」


 「脅威?」

 アサトの言葉にお面が小さく動き、アサトを捉えたような感じがしたが、再びクラウトへと向いた。


 …って、この流れって、もしかして?


 「僕の仲間が言うには、ドラゴンが君たちの仲間…。僕の仲間が予知した。街を焼くドラゴンと僕を危機に陥れる者達の存在…僕はそれを確認したいだけなんだ。」

 ミュムが言うと、クラウトはメガネのブリッジを上げた。

 「あなたは、凄そうな人だが、見えてない…」

 「…見えてない?」

 「お面のせいかもしれないが…」


 小さくアサトを見るクラウトの動きに、お面がアサトへと向いた。

 「君の質問に答える事が出来るのは、僕ではない…彼だ」

 その言葉に動きが止まったミュム…。


 そして……。

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