第10話 帰還のオーブの謎 上

 夕方近くに雨が上がり、ロイドらは先を進むとの事である。


 本当は、明るい内は洞穴か森の中で身を潜め、夜になったら動くつもりであったが、雨だったので、大丈夫だと思い、動いてひどい目に合い、あわせてしまったと言っていた…。


 雨も上がり、もう少しで宵闇がこの地方に訪れる。


 森の向こう…、アサトらが通って来た方向の事を言っていると思うが、その方向は、比較的安全のようであるとの事、夜のうちに熱帯雨林まで行ければ、明日にはトンネルへと進めるとの事であった。


 『ゲルヘルム』へ続くトンネルは警戒されているようなので、『デルヘルム』へ続くトンネルを進むと言っていたので、戦があった事を伝えると、小さく舌打ちを見せたロイド。


 「…なんで、今になって血を流さなきゃならないのか…」

 呟くように言うと、アサトとクラウトを見て手を差し伸べて来た。

 「ありがとう…。この恩はかえせるなら返したい」

 「いえ…道中気をつけて…」

 「あぁ…それに…、恩を売って置いて、また押し売りな事はしたくないが…」

 すこし俯いたロイドは、小さく頷きながらアサトへと視線を向けた。


 「もし…セナスティが助けを求めても…君たちは手を貸さないで欲しい…」

 「え?」


 …どう言う事?…


 確かに皇女は、アサトらへと助けを求めて、『デルヘルム』へ来たことは分かっており、ロイドも、セナスティから、『デルヘルム』へ助けを求めに行くと言っていた事を、聞いたようであったが、そのセナスティを止める事も無く、行かせた彼が、なぜ助けには応じるなと言うのか…、アサトには、彼の真意が分からなかった。


 「はい…、その件は、こちらでも踏まえております」

 考えているアサトとは別にクラウトが即答をし、そのクラウトを見る。

 「そうか…」

 「はい、あなたが言ったように、私たちには、セラと言うイィ・ドゥがいます。この地方…この国の内情を考えれば、この国から早めに出た方がいいと思っています。」

 「そうだな…。早めに出るとは…目的でもあるか?」

 「まぁ~、こちらの事ですので…ご容赦をお願いします…」

 頭を下げたクラウトの行動を見たロイドは、小さく笑みを見せた。


 「あぁ~、でなきゃ、ここまで来る意味がないからな…、この件は、俺達王族でなんとかしなければ、民に示しがつかないからな…それに…命は大事だからな…」

 ロイドの言葉に小さく頷いているクラウトは、出された手を握り、しばらくして、その手はアサトに向けられる。


 「……達者で…。旅のご武運を祈っている……。」

 「ハイ…」

 手を握るアサトはロイドを見た。

 ぼさぼさの髪は乾いていたが、異様な輝きを見せ、少し匂ってもいたが、その表情は晴れているように感じられた。

 小さく力を手に込めたロイドは、アサトらの向こうにいる一同をみると…、アサトから手を離して進み出した。


 …そして…

 「わりゃぁ~~!」


 アサトの後方からアリッサの声が聞こえてきて、小さな笑い声が響いて来た。


 …って、まぁ~、見なくてもなんとなくわかるけど…。


 ロイド達を見送ったアサトらは、結局、今夜も同じところで泊まる事にし、食事をして眠りについた。

 すでに雨はあがり、雲の切れ間から、星々のきらめきが届き始めている。


 馬車上で寝ているジェンスとアサト…。

 アサトは、監視をしているイモゴリラを見下ろしていて、その2体のイモゴリラは、退屈そうにあくびをしていた。

 まぁ~無理も無いだろう、監視とはそう言う仕事であるから……。


 以前までは、交代で監視をしていたが、セラのおかげでみんなぐっすり眠る事が出来る。

 馬車の中では女性陣4人が寝ていて、馬車上はアサトとジェンス。

 タイロンは、今日は木の上で寝ており、クラウトは火の傍で寝袋に収まっていた。


 この地方に来て4日目の夜を迎えていた…でも、その道中では、出来事が充実していた気がしている。

 それは…。


 ?


 今まであくびをしていたイモゴリラが動いたのを見た…。

 その動きは、警戒をしている…感じではない…。

 辺りを見渡すが、聞こえてくるのは、木の上から聞こえるタイロンのイビキくらいのもので、動くモノ、動くような音も聞こえてこない…と…。


 ?


 天幕の中が、ほんのり明るくなっているのに気付いた。

 その光は、焚火やランタンとは違う、ほんのり黄色が混じったか弱い光である。

 一度ジェンスを見てから、その場を音もたてずに動き出し、下では姫が熟睡中なので…、それも踏まえて慎重に移動をし、馬車から降りて天幕へと進むと、寝袋に入っているクラウトの姿があり、その傍にある、馬車の壁面にかけられている盾につけたオーブから、ほんのりと発せられている光が見え、その光は、オーブについている、わずかな傷から漏れているのが確認できた。


 …これって……。

 帰還のオーブの破片…って事は…。


 寝ているクラウトを起こして、光を指さしてみせると、クラウトは寝袋から出て、そばにあったメガネをかけ、光をしばらく見てから、天幕を出て空を見上げていた。

 「今夜は…新月か……」

 顎に手を当て小さく俯いた。

 何かを考えているのだろう…。

 アサトは、オーブの光が漏れている場所にある傷を、塞いでみようと指を当てた…その時!


 ふわっとした感覚が走り………

 ………

 「お兄ちゃん!おきて……」

 「オカ カズヒ?…なら、アサトだな!よろし……」

 「抑えろよ、アサト!」

 「カズヒトくん。これから頑張ろうね…このびょう……」

 「カズ君…私、信じているから……」

 「野球が出来ないんだって?」

 「3年は様子を見た方が……」

 「カズちゃん。大きくなったらおばぁ~」

 ………


 聞こえてくる言葉に、色が揺らめいている風景は輪郭を伴っておらず、色が交じり合っているように見える…のとは違う、そう感じているのか…、そう思い出しているのか…

 湧き出てくる感覚は、決して形にはならずに…。


 それは……

 ……

 ……

 ユメ?


 「……」


 ハッと目を見開いたアサトは、クラウトを見上げると、目を見開いているクラウトの表情がそこにあった。

 そして……、頭に激痛が走り、その場にうづくまったアサト。

 その音を聞いたアリッサが馬車から飛び出し、その後にシスティナ、ケイティ…セラと出て来ると、馬車上からジェンスがのぞき込み、もっさりと飛び降りて来たタイロンが当たりを見渡していた。


 蹲っているアサトの頭の中を、駆け巡り始めた言葉……。


 『光に呼ばれし、誘われた者よ。汝らを必要とする者の生きる世界へ、

  光に呼ばれし、誘われた者よ。来たれりこの混沌の世界へと…』

 その言葉が渦になる…渦になる…渦になり………。


 アサトを見ていたケイティが、淡い光を放っているオーブに気付き、オーブを触ろうとしているのを、うずくまった姿で見たアサトは叫んだ!


 「ダメだ!触っちゃ!それを触ると……ダ…だぁぁぁぁぁぁ………」


 アサトの言葉に手を引っ込めたケイティは、目を丸くしてアサトを見てからクラウトへと視線を向け、システィナがアサトへ駆け寄り、膝枕をして名前を呼んでいる。

 アリッサは馬車の中に入り、布を手に現れ、セラは立ち尽くし、タイロンはアサトの傍に来て見下ろし始め、ジェンスも驚いた表情で見下ろしていると、馬車に隠れながらイモゴリラが事の成り行きを見守っていた……。


 アサトは………。

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