誰だ、この人! 下

 「いやぁ~、あの子達面白いねぇ~」


 その言葉に一同は、声のした方へと視線を向けると、そこには、ぼさぼさの髪に無精ひげの男が、焚火に手を当てて暖をとっている姿があった。


 …ってか…。


 「誰?」

 アリッサの声に立ち上がった男は、頭を掻きむしり、顔をデラデラと撫でると、再び、髪を掻きむしっていた。

 「あ…あ…すみません。すみません…決して怪しい者じゃないんです…ホンとすみません……」

 腰を折って申し訳なさそうな表情で、目の前で掌を合わせて頭を大きく何度も下げて見せている。


 「いや…怪しいだろう!」

 盾を置いたタイロンが立ち上がり男へ近づく。

 「いや…ホンと…ごめんなさい、ごめんなさい…」

 謝る男は、タイロンが近付くと手を前に出して後退を始めた。

 「ホンと…俺も意味がわからないんです。とりあえず…、森歩いていたら、カエルに食われ、もうダメかなと思っていたら、少年が入って来て大暴れして…。なんだこいつ?と思っていたら……外でした…」

 大きな笑みを見せる男。


 「え?じゃ…あなたも中に?」

 「あぁ~、ほんとすみません、すみません…ついでに助けてもらって…すみません…」

 平に謝る男の姿は…、すでにボロボロの状況であり、体からも腐ったような匂いがしていた。


 「中って…案外温かいんですよ…臭くってピリピリして…」


 …って、あんたは溶かされていたんでしょ!温かいって…

 …生きモノの中ですからね…んでいきなり外は…寒いでしょ!


 「…で…、なんか寒いなって思ったら、心地よさそうな火が見えて…ちょっと暖めてもらおうかな…と思って……」

 タイロンを上目使いで見る男…。

 呆れた表情のタイロンは振り返りアサトを見ると、アサトは男を見てからタイロンへと視線を移した。


 「あっ!そいつ!そうだ、忘れていた!そいつも食われた口だ!」

 ジェンスが雨の中で叫んでいる。


 …ジェンス、見ていたの?…


 小さくため息をついたアサトは、タイロンへ向けて小さく頷くと、その動きを見て男から距離を取り、男は一度、一同を見渡してから、掌をこすりながら焚火へと近づき腰を落とした。


 小雨はいまだに降っている。

 焚火で調理されているスープを分けるシスティナを見た男は、彼女を見てからスープを手にした。

 クラウトが目を細めながら近づいて傍に立ち、その傍らにはセラがフードを目深にしていた。

 用心の為だ。


 タイロンが元居た場所に座り、クラウト同様に目を細めて男を見ていて、ジェンスとケイティは…、再び雨の中ではしゃいでいる。

 アサトが腰を降ろす。


 「…いやいや…ほんとすみません…」

 頭を掻く男。

 粘液まみれの髪が、小さな塊となって色々な方向を向いている…、とにかくグチャグチャでボサボサだ…。

 「あなたは、何をしていたんですか?」

 クラウトが訊くと、そばにいたセラは、クラウトの後ろに隠れるように動いた。

 その行動を見ながら男は答える。

 「いや~、探しモン…っていえばいいかなぁ~~」

 「探し物?」

 クラウトの言葉に、頷きながらスープを口に含んだ。


 アサトは何も言わずに男を見ている。

 …彼は何者だろう…探し物って……。


 彼はスープを飲むと、クラウトの後ろに隠れているセラを黙って見た…。


 …もしかして…。


 タイロンも気付いたようであり、近くにある大剣へと手を持ってくると、隣のアリッサが、その動きに立ち上がり、男の傍へと剣を持って近づいて腰を降ろした。

 その動きを見た男は、アリッサを目を細めて見てから、視線をケイティへと向けた。

 その動きに、アサトが後方ではしゃいでいる2人を一度見てから、男へと視線を戻すと、男の視線は、スープを取り分けているシスティナに向いていた。


 …って?なに…この人……。


 「…あるモノを探しているんだ……」

 セラを見るアリッサとアサト…。


 …もしかして…やっぱりこの人は、奴隷狩りか…でも同じ人間…そして……ぼくは……。


 アサトは考えた。

 少しの間だが、いままで考えていた一線の事。

 インシュアが言っていた『一線』。

 これは持っておけと…、そして、クレアシアンとの戦いで言った言葉、『僕は、僕の仲間を守る…!』クレアシアンは、よく考えると同じ種族に近い…、その者に刃を向けたが、それは同じ種族に近いが、魔族と言う種族であったから……。


 男はため息をつき、再びスープを口にして飲み干し、具材をフォークを使わずに荒々しく手で食べると、お椀を足元に置いて頭を垂れた…。

 「ホンと、ごめんなさい…どうやら、俺が求めているモノがここにあるのかもしれない…」

 彼の言葉に小さく動いていたタイロンが立ち上がり大剣を持ち、その動きにアリッサも立ち、クラウトとセラの前に立った。

 アサトは2人の動きを見ながら太刀を抜くと、その動きに、雨の中ではしゃいでいたケイティとジェンスも、小さく驚いた表情でこちらを見て、クラウトが口を開いた。


 「訊きます…あな…」

 「おぉ~、おれが求めていたのは、君だよ!!」

 クラウトの言葉を遮った男は、アリッサにむかい片膝をたてて腰を落とし、その行動にクラウトの表情が凍っていた。


 …え?


 呆気にとられたアサト…だけではない、タイロンにセラ…、そして、ジェンスにケイティ…、システィナ…、いや、一番呆気に取られているのはアリッサである。


 …ってか、何?


 「ここで会えたのは何かの縁。いやぁ~、俺、口下手だから、あなたをその気にさせるようなセリフが言えないけど…」

 顔をアリッサに向けた男は続ける。


 「…俺のになってくれ!」


 …え?


 小さく驚いたアサト…だけではない、タイロンにセラ…、そして、ジェンスにケイティ…、システィナはお玉を鍋に落として驚いたが、一番驚いているのはアリッサである。

 目を大きく見開いたアリッサは、小さくアサトらを見た…。


 …え?えぇ~~。


 「まぁ~ほんとに君は、俺のドタイプ…ってか、そっちの子もいいんだけど…」

 システィナを見る。

 「え?」

 男の言葉にシスティナは、目を見開いていた。

 「…まぁ~、そこのイィ・ドゥは、まだまだ子供だし…あっちのお転婆は……」

 ケイティを見ると…。

 大きなため息をつき、頭をゆっくり大きく振った。


 そして…

 「あれだろう…そう…あれ…。あれじゃぁ~なぁ~~、わかるだろう?」

 男たちを見ながら、ちょっと残念そうな表情を浮べて…。


 「乳が…」

 「っちぇぇぇぇぇぇぇぇぇストォォォォォォ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る