第8話 誰だ、この人! 上
翌日は、クラウトが言っていたように雨になった。
クラウトの言葉に、前日の内に馬車を森の中に入れて、馬車から森の木へと天幕を張り、水が入ってこないように、天幕より少し大きく場所をとって水路を掘ると、天幕の中で焚火をして暖を取る場所と食事を作る場所、食べる場所に寝る場所を確保しておいた。
正解である。
天幕を張った場所には雨の影響はなく、森の地面も黒土なので降った雨が地面に浸透していた。
細かな雨でよかったとクラウトはメガネを上げて言っている。
冬に近い雨なので、少しでも体に当たれば、体が冷えて良くない。
エイアイから常備薬を貰ってきていたが、あくまでも初期治療であるとの事であり、抗生物質と言う薬を中心とした内服薬であった。
この国で採取できる医薬品へと使用できる植物は、多くないとは言っていたが、代用として使えそうな植物はあるみたいで…、まぁ~、詳しく語られても分からないけど…。
とにかく、病気は、魔法とかで何とか出来る訳では無いと忠告を貰っていた。
王都には、エイアイの弟子が医師として住んでいるようであり、何かあったら、そこに行き、合言葉を言えば、この世界での先進治療をしてくれると言っていた。
合言葉は…『酸化マグネシウム』とアリッサが笑って答えていた。
…その言葉とアリッサの笑みの意味はわからないけど……。
クラウトとシスティナに、病気の症状と、その病状によって処方する薬が書かれてある本をくれたようで、一度アサトは目を通してみたが…読めなかった……。
クラウトの話しだと、英語で書かれているようだ。
そうなんだ…、なら読めなくて正解、アサトは日本人であるから……。
細かな雨なので進む事は出来たが、大事をとって止むまで待つことにし、疲れていた訳でもなかったが、休養も必要だと言う事であった。
…ただ…やる事はないんだよね……。
ケイティとジェンスが、雨でも着れる外套を羽織って森の探索に向かった。ってか…アサトでも退屈なのに、彼らが退屈でないわけがない…。
兎でもいたら捕まえてくると指を立て、大きな笑みを見せていた…イヤな予感がする。
馬車の中では、システィナが本を読んでおり、その本は、エイアイが持っていた古の歴史と言う話だったが、一度、本の内容を訊いてみたが、まったくわからない。
彼女が誘われた時代の事を書いている本のようである。
エイアイの頭?の中にあるモノをプリントアウト…ってか、印刷?したみたいであるが…、文字は…英語ね……。
一緒にセラにも文字を教えているよう、笑いながら発音をしているが…アサトの耳には、日本語と言われる、アサトが使っているであろう言葉が聞こえてきていた…。
本当は、どう発音するのだろう…。
少し興味はあったが……。
タイロンは盾を磨いている。
そうそう、クレアシアンから頂いた?いや、表現が違うな…奪った…でもアゲルと言われたから…頂いたのか…まぁ~どっちでもいいが、手にしたのは確かだ。
そのオーブの破片を、タイロンは盾の真ん中に装飾として埋め込んでおり、ペンダントトップが良いのではないか?と訊いたが、後々を考えれば、これが良いと言う事である。
後々ってなんだ?
タイロンが盾を磨いている横で、アリッサがタイロンに短剣を突き刺して笑っている。
…へぇ~、アリッサさんもおちゃめな所があるんだ…。
痛い?痛い?と、にんまりとしながら刺しているアリッサの表情をみていると、アリッサの別の面が見えているような気がしていた。
それは…、いや、触れないでおこう…。
見上げた空には、まだ薄暗い雲が覆っており、今夜もここで休む事を考えなければならないような気がしていた。
昼近くになったころであろうか、少しだけ居眠りをしていると、聞きなれた声が聞こえてくる、この声は……。
…あぁ~姫の声だ…。
イヤな予感は当たるものだ…。というか…、地面を揺らすような、どこかで感じた感覚もともにあり、その声がはっきりしてきた…と言うか、走りながら叫んでいる。
…なんだ?
アサトは立ち上がり、声の方へと視線を向ける…と?
「シス!シス!爆発!爆発!」
血相を浮べて、ケイティが木々を掻い潜りながら向かってくるのが見え、その声をきいたのか、馬車の後方からシスティナが顔を出して見ていた。
そこには……。
…ケイティと…カエル?
どうやらカエルに襲われたらしく、地面を揺らす感覚はカエル…ってか…ジェンスは?
「ジェンス食われた!シス、爆発させて!」
…って、なんで…。
近くに来たカエルをシスティナが、お得意の爆発と言うのは、あんまりよくないか…。
とりあえず爆発させて、ジェンスを救出したが、ヌレヌレのドロドロジェンスは…外套を着ていてよかったのか…、外套が少しだけ解けており、横になってブツブツと何かを口ずさんでいた。
「きゃはははは…新記録じゃない?何分中にいたぁ?」
上機嫌の姫は腹を抱えて笑い、その言葉に立ち上がったジェンス。
「うっせぇ~、今回はマジ、死んだと思った。今までは、入っても胃の入り口で助かったけど、今回は、じりじりするような水に入ってしまった…ってか、あのなか腐った匂いで充満していた…なんでだぁ?」
「それは胃酸だ、酸だから溶かす。溶かして栄養にするんだ…。その時に出た発酵した匂いが充満しているんだろう、胃ってのはそう言う場所だ…」
メガネのブリッジを上げながら言うクラウトを見ていた2人は、しばらくクラウトを見てから腹を抱えて笑い始めた。
「何言ってんだかわかんねぇ~」
「なになにクソ眼鏡。あたしたちってそんなにばぁかぁ~なのぉ?なんでいつもメガネ上げて勝ち誇るのぉ?」
…ってケイティ姫…(-_-;)
ケタケタ笑う2人を、目を細めて見ていたクラウトは、何かを思ったのだろう、一同に背中を見せると小さくうつむいてから…、空を見上げた。
その背中がなんだか寂しそうに映ったのは、アサトだけでは無く、しばらくすると、ジェンスとケイティにセラが近付いて、召喚用のロッドで頭を一撃すると、クラウトへ近づき、クラウトの腰を何度か小さく弾く、その姿が…、ヤケにクラウトの哀愁を強くさせていた……。
叩かれた2人は、しばらくムッとしていたが、何かに気付いたのか、ジェンスは上着を脱いで雨の中に走って行く、その姿を見たケイティも上着を脱いで走って行くと…、雨の中で笑いながらはしゃぎ始め、2人からは、天然のシャワーだ!と言う声が発せられていた。
…ってか…天然のシャワーって…。
案外そうかも知れない……。
少しだけ興味を持ったが、他の人の目は冷ややかであった…。
…なんか、すみません……。
と…。
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