戦場跡地を通る 下

 その攻撃から逃れた兵士2000人強が、軍の立て直しをしているようであり、数日後には増援が来て、『ミュム』の街を攻めると言う事である。また、話を聞いた兵士の中では、戦には反対の者もいるようであり、その様な事を言うと、反逆罪で『クレリアレシク』と王都『キングス・ルフェルス』の中間あたりにある、収容施設へと送られ、をされると言う事であった。


 …なんか子供みたいな回答である。


 兵士の言う事に目を細めたクラウトは、何かを察していたような表情であった。

 セナスティ皇女の話しも聞いた…と言うか、訊かれた。


 この地方のどこかにいるようであり、保護した者には、王代行の皇太子が謝礼を出すと言う事である。


 クラウトは苦笑いを浮かべ、セナスティ皇女自体を知らないと答えていた…。


 …まぁ~、本当であるけど…。


 彼女を捜索する為に国王軍の精鋭が出発しているようであり、この森に入る前に、この軍からも数人招集されたと言う事であった。

 皇太子の命に動いている軍の他に、床に伏せている現国王を支持している者らが反乱軍として行動をしているようで、その者らは、この地方のマモノに属する者を、『ルヘルム』のセーフ区画へと移送をし救出しているようだ。

 その数は分からないが、先日も、ここに来る前に一戦交えたと話している。

 まぁ~、戦いとは言えなかったが…と笑う男の表情には、アサトもちょっとイラっとした。


 …同じ種族で殺し合いを、この人は笑って話すのか……。


 5~6名ほどの反乱兵士で護衛しているようであり、道と言う道は進まず、夜に動いていると言う事で、この森に潜んでいる可能性もあると言っていた。


 トンネルを出たところで、晒されている遺体の話しをするクラウト。

 兵士の話しでは、知らないと言う事であったが、幻獣を討伐した者は、いないと鼻で笑っていた。

 幻獣は勝手に消えたと…。


 アサトらもそうは聞いていたが…。


 また、その者らが、ルヘルムで何かをしているのは聞いたが、被害にあった者はいないと言い、もし、そのデマをほざいている者がいれば、首を刎ねられるんじゃないかとも笑っていた…。

 そして、もしその者らが、本当に存在しても、この地で何かを出来る訳が無いし、また、懸賞金が掛かってお尋ね者になるのは間違いないといい、殺してもいいなら、毒で皆殺しにしてしまえばいいと言う者までいた。


 …同種族の者を殺すと…なぜ簡単に言えるんだ、この人達は……。


 ただ兵士が言っていた。

 その者らには、オークプリンスと言う、オークの王が付いているようであると…、また、オークプリンスと組んでいるなら…死刑は間違いないなと笑っていた…。


 アサトは、クラウトの裾を小さく引っ張ってみせた。


 …もう…耐えられない…。


 アサトの表情を見たクラウトは、彼らにわずかばかりだが金を渡し、その場を後にした。

 彼らが見えない場所に、馬車を止めていて正解である。

 この森の外苑を西へ向かい、兵士らと会わないようにしようと、クラウトはメガネのブリッジをあげて言葉にしていた。


 クラウトの言葉通りに森の外苑にある小さな道を進む、決していい道とは言えないが、『アルフェルス』へと続く大きな道には兵士の姿があり、砦あたりに関所のような検閲所みたいなものがあったとクラウトが言っていた。


 ……毎度のこと、洞察力には頭が下がります……。


 『デルヘルム』で入手していた地図を見ながら、推測だが、本日の野営地を決め、夕刻までには、その場であろう、少し森に入っている場所を見つけ、そこで野営を始めた。

 空を見ているクラウトは、明日は雨になるかも…。と言うことであった。

 アサトも空をみる…。

 夕焼けが落ち始めている空には、繊維状の細い雲が集まって出来ている巻雲が、白色で羽毛状の形をして高い場所にあり、上の雲は、形が鍵のように曲がって夕焼けに伸びていた。



 『キングス・ルフェルス 王の部屋』


 血色が悪く、頬の肉が落ち、目が窪んでいる顔の男が、薄く目を開けた。

 「エルソアか…。」

 傍に座っているエルソアは小さな笑みを見せた。


 息をつく男

 「なぁ~みろエルソア…。これが…王の姿かぁ?」

 「何を言っておられるのですか王!どんな姿でも、王は、王です。そんな毒ごときに…」

 「はははは…思い出すな…狩りをした時…野生のシカ…」

 「えぇ~そうですね…王。あの…」

 言葉を遮る王…、スティアスは薄く開けた瞳を鋭くした。

 「この期に及んで…、おまえと俺は、いつからそんな間になった…。敬語などやめんか!」

 「はははは…そうだな…スティアス。」

 「あぁ~、お互い、色々な事でぶつかり…協力したりで…。王である時期が、とても充実していた…」

 目を緩ますスティアス。


 「王である時期と言えば…これからもだろう」

 「また…、何を言っている…。自分の終わりくらい…わかっている…」

 スティアスの言葉にため息をついた。


 「なぁ~スティアス…。また狩りに行こう。最近では、ルヘルムでの熊狩りが熱いようだ」

 「熊か…。そうだな…熊は狩った事無かったな……」

 「あぁ~そうだ…」

 「ふふふふふ…、エルソア…疲れた…。…お前にひとつ聞きたい事がある…」

 「?」

 スティアスを覗くように見る。


 「お前は…俺の代わりを…誰にやらせるつもりだ?…セラスナルか…。あぁ~、あの子は頭がいいが…人が良すぎる…お前が支えてくれ……」

 「今朝…、女系王族の承認を取り付けた…反対派もあったが…」

 エルソアの言葉に目を閉じたスティアス。

 「セナスティか……」

 小さく息を吐く……。


 「…あぁ~、あの子を女王にか…、それも、この国が新しくなるための一歩かもしれないな…。あの子は、弟とは違い、生あるモノの存在を、心から受け入れている…。わたしの思想をつがせるな…ら…ゲホゲホ…」

 小さく咳き込んだスティアス。

 その彼の口に水を差し述べる従士の姿があり、その従士を見たエルソア。

 従士は…ゴブリンのイィ・ドゥであった。


 「…まったく…この期に及んで…水を飲ますのか?俺は王だぞ!ワインだろ?」

 イィ・ドゥを睨むスティアスの視線に、引きつった顔になったイィ・ドゥだったが、その表情を見たスティアスは大きく笑い始めた。


 「がはははは…。冗談だ…俺の最後の冗談だ…。お前もそろそろ…この城を後にしろ…。わたし…が…し…ゲホゲホ…」

 再び小さく咳き込んだスティアスを、イィ・ドゥは目を見開いてからエルソアを見ると、小さく頷いたエルソア。

 その行動に頭を下げたイィ・ドゥはその場を後にした。


 「…お前が…この国を守れ!お前が…俺の家族を…。俺からの伝言は、そこにある紙に書いてある…遺言だ…。そして…。なぁ~エルソア…そろそろ死なせろ!お前の仏頂面を見るのも飽きた…。生まれ変わったら…クジラになりたいな…」

 「クジラ?」

 「あぁ…。海を…自由に生きたいからな…」

 遠くを見つめたスティアス…。


 その姿を見ているエルソア、そして…。

 「エナを呼んできてくれ……」

 スティアスの言葉に、小さく頷いたエルソアの姿がそこにあった……。



 2時間後…王都には、大聖堂の鐘が寂しく響き始め、鐘の音と共に、優しい音を奏でながら雨が降り始めていた……。

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