『グンガと愉快な仲間達』への依頼 下

 「…世界には色々な人が住んでいて、色々な事を考えている…だから、争うんだ…。それは仕方が無いが、ただ…、争うにも、絶対に、それを使って争ってはいけない…」

 「なに?」

 レディGが訊く。


 「…生物兵器…、化学兵器…そして…核兵器…。この3つは…、軍隊を相手に起こす戦争ではない。犠牲になるのはいつも…、力のない人なんだ…、子供や老人。病人やけが人…。そして…。関係の無い人達……だから…」

 「こいつの親父さんは…テロで死んだんだ…。俺も覚えている…。よくオジサンが言っていた。喧嘩をする事はいけない事ではない…でも、力の弱い者に、自分の力を振るうのは弱い人間のする事。弱い人間は、強い物を持ちたがる…。生物兵器や核兵器、化学兵器は、弱い者が考案したモノ…。俺たちにそうなってくれとは思わない…でも、それに立ち向かえる気持ちを持てって……。」

 ガリレオが言葉にする。


 「…そいつは…それを使う気なのか?」

 グンガがエイアイへと鋭い視線を向けた。

 「…私のような…」

 「使う気なのか!」

 叫ぶグンガに、一同に緊張が走った。

 いつもおどけて、面白い事だけを追求していたグンガの表情が、厳しく、そして真剣にあったからだ。


 「…使うとすれば…、それに、あると…」

 「ミーシャ、フレディ!行こう!リメリアへ!んで、使う気な奴をぶっ飛ばす!」

 「あぁ~、それだけはダメだ!行こう!アメリカに!」

 エイアイの言葉を遮って、グンガとガリレオが力強く言葉にした。


 2人の言葉にフレディが目を閉じ、ゆっくりと立ち上がった。

 「…と言うわけだ、マスクメガネ。こいつらは沢山食う。それに…2年以上かかるなら…金貨3000枚は欲しい」

 「3000枚って…」

 エイアイがフレディへと視線をむけた。


 「こいつの事だ、旅の途中で仲間を増やしかねん。亜人はともかく、仲間がイキモノとは限らない…」

 一同を見たオレンは小さく妖艶な笑みを見せた。

 「フフフ…エイアイさん。街には1ヵ月後に向かうわぁ~、船を用意しておいて…」

 オレンを見たエイアイ。


 「君も?」

 「えぇ~弁償するわぁ~、それに…この子らで対応できない者も存在するんでしょ?破壊の子だったかしらぁ?あなたの仲間が研究していた子らが、目を覚ましているかもしれないのでしょう?」

 「それは…覚えていたのか?」

 「まぁ~、わたしわぁ~、おねぇ~さんより話し好きで、聞き上手よぉ。覚えているわぁ~、興味もあったからぁ…、あなた達が作った人間兵器ってのがぁ……」

 「……目覚めているようだ…。私が調整した子がすでに向かっている…。」

 「そうなのぉ…なら…楽しみぃ……」


 「それで?何を見つけて、誰を討伐すればいいの?マスクメガネ!」

 ミーシャが目を細める。

 「君たちが、私の街に来るまでに用意をしておくが、ここで言えるのは…君たちに見つけてもらいたいのは、ジェラルミンケースを2つだ。」

 一同を丸いメガネ越しに見てから強く言葉にする。


 「ジェラルミンケースの奪取が出来なかった場合や彼らがそれを使用しようとした時は、リメリア国の軍隊…そして…、オランプル大統領の討伐をして、使用を阻止してもらいたい……。」

 「大統領か…」とグンガ。

 「聞いた事あるぞ…。まっ…いいか…」とガリレオが不敵な笑みを見せた。


 「…それって…」

 名前を聞いたフレディが、視線を厳しくさせてエイアイを見た。

 「…最近では、こう言われているようだ…」

 再び一同を見るエイアイ。そして…。


 「彼は…『』と呼ばれている!」


 「やっぱり…」

 ミーシャが小さく言葉にし、フレディは顎に手を当てて何かを考えた。

 「まぁ~、どうせ、『アブスゲルグ』に行くんだから、そいつもぶっ飛ばそうぜ!」

 グンガが腕組みをして見せると、後方でグラッパが起き上がり、グラッパの上にいたデシャラも目を開けて飛び起きた。


 「王か…、その響きは…イラっとするんだよな…偉そうで…」

 ガリレオが不敵な笑みを深くし、不思議そうな視線をむけているネズミの亜人の子に気付いたオレンは、小さく笑みを見せた。

 「大丈夫よ。ここの国の問題は、あなた達が会った子らに任せて…あなた達は、心配しなくてもいいわぁ~、それにぃ…ちゃんとセーフ区画には、私らが連れて行ってあげるからぁ~。」

 その言葉を聞いたネズミの子は小さな笑みを見せた。

 そして…。


 「エイアイさん。こちらも準備とかいろいろあるから…さっき言ったように、発つのは1ヵ月後って事にしましょう」

 「なんで!今行こう!すぐ行こう!」

 グンガが声を上げる。

 「…あなた達にわぁ、もう少し力が必要よ…アブスゲルグに行く為にはねぇ…、足りない位だけどぉ…、むかっている内になんとかなるでしょっ」

 言葉を発するとミーシャを見た。

 その言葉に冷ややかにグンガらを見たミーシャ。すると…。


 「マスクメガネ。報酬を上げてくれ!5000枚で、帰ってきたら…」

 「っちぇぇぇぇぇぇすと!」

 背中に回し蹴りを喰らったフレディが膝から崩れ、その光景を見ていた一同が大きな笑い声をあげた。


 …こうして…

 グンガらの『アブスゲルグ』へ続く旅が始まる事になる、まずは…、ジュラルミンケースの捜索、そして…、事と次第によってのリメリア国の軍隊の壊滅と『鋼の王』の討伐!



 …王都…。


 王の部屋から出て来た、宮殿服を着ている初老の者が側近へと言葉をかけた。

 「王妃と皇太子を保護しろ…、もう長くはない…」

 その言葉に一礼をする側近は、その場を足早に離れた。


 近くにある窓から王都を見下ろす。

 夕暮れの色に染まり始めているオレンジ色の瓦が、隙間なく敷き詰められている風景。

 この風景を、ここで何度見たのであろう。


 初めて見た時は40年前である。

 当時の彼は12歳。

 彼は、『アルフェルス』の街を有する区画を統治していた『エルコア・サムアル』男爵の息子『エルソア・サムアル』である。

 その彼が、この王都『キングス・ルフェルス』へ来て、寄宿舎で勉学を始めた時期であった。


 当時、同じく寄宿舎へと入ったのが、現国王の『スティアス・エナ』である。

 皇太子であった『スティアス・エナ』と10年の月日を同じ屋根の下で過ごし、時には争い、時には助け合い、そして、切磋琢磨した時期を越え、彼が28歳の時に、『オルフェルス』領内にある領主の娘と結婚をすると、彼も同じ時期に『アルフェルス』にある領主の娘と結婚をした。


 その翌年に『スティアス・エナ』の父親である『アスティル・エナ』が急逝して、『スティアス・エナ』が国王となると、彼は王の側近の一人として仕えたのである。

 共に34歳で最初の子を授かり、6年後には、『スティアス・エナ』に待望の男児が生まれる…。


 この国は、男系王族が王を継ぐことになっており、旧友であった2人は、昼夜を問わずに酒を飲み喜んだ…。


 この国の平和と、世界と言う大きな枠組みを考えていた『スティアス・エナ』は、国の名を『エナ王国』から『オースティア王国』と改名し、その事で異論を唱えた、この国の諸侯らを説き伏せたのが彼であり、その後も、平和な国の繁栄を考えた国王と共に、人種問題に精魂を込め、国中を駆けめぐる日々を過ごしていた…。


 その矢先、何者かに毒を盛られ…床に伏せていた国王…だが……。


 エルソアは、目を閉じて大きく息を吐くと、王都を見下ろす窓から離れて行く…その先には……。

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