熱帯雨林のマモノ…アゲイン 下

 「なに?」

 「いい…。」

 ………何やら話している2人。


 少しばかり呆れた表情だったクラウトが身を乗り出し、アサトも降ろしていた腰を上げて立ち上がり、システィナは上げていた腕を降ろした。

 馬車の中では、セラとアリッサが、粘液にまみれている戦利品を水で洗っており、タイロンは大きな口をあけてあくびをしている。


 「よし!行こう」

 なにやら作戦をたてたケイティとジェンスは、ジェンスの掛け声で進み始めた。

 そして…。

 ジェンスが走ってカエルの口の下まで来ると、振り返って腰を降ろし、手を前で組んだ姿勢をとった。


 「さぁ~こい!ぶん投げてやる!」と言った瞬間!

 「え?」

 目を見開いたジェンスは、ケイティの顔を見て冷や汗を流し始めた…。


 ジェンスの姿をニマニマした表情でみているケイティは動こうとしていない。

 「おまえ、それ卑怯じゃ…」

 どうやら、ジェンスが組んだ手にケイティが乗り、そして、カエルの顎下めがけて飛ばすつもりだったらしい…。

 だが、動かないケイティの行動に、言葉を発したジェンスは、ドロドロと再び、粘液が降り注いできて、ほどよく濡れた状態になった。

 そんなジェンスを大きな口を開けて、銜えに行ったカエルめがけて…

 「いまだぁ~~!おっりゃぁ~~~~」

 ケイティが突っ込み、大きく開けている口に槍を突き刺すと、その槍を立てた。


 カエルは痛さに口を閉じながら顔を上げると、顎から槍が突き出してきているのをみたケイテはそのまま走り、つきでた槍を掴むと引き抜き、巧みに槍を回転させ、喉に槍を突き刺すと、勢いをつけて下へと剣先を流した。

 引き裂かれた腹からは内臓と多くの血が、切り口からあふれ出し、ケイティとジェンスの足元を濡らした。


 「お…おぉ?」

 あくびをしていたタイロンが身を乗り出し、クラウトがメガネのブリッジを上げ、アサトは目を見開き、システィナは小さく笑っていた。


 …まぁ~2人らしい戦い方だね…。


 「血が付いていれば、ねっとりしたカエルの体でも刺せると思ったのかもしれないな…、これは…面白い組み合わせだな、そして…槍か……」

 クラウトがメガネを上げて、興味深そうな視線を二人に向けていた。


 はらわたをさらけ出して死んでいるカエルの前で、高々に笑っているケイティに、怒りの声を上げていたジェンスの姿を、クラウトはメガネを上げて見ていて、大声で笑っているタイロンが隣にいた。

 アサトとシスティナは見合うと小さく笑い、怪訝な表情でセラとアリッサが馬車の扉から2人を見ていた。


 あまりにも汚い場所にケイティ以外は近づかず、ケイティが、カエルの胃袋を切り裂き、お宝を探ってから馬車を進めた。


 空は程よく暮れ始めた頃に、熱帯雨林の森を一行は抜けた。

 ちょうど良かったのか…、近くに小さいが川があり、今日はそこで野営をする事にした。

 一目散に川になだれ込んだジェンスとケイティ。

 2人は川で汚れを落としている内に、アサトとタイロンがテントを張り、クラウトが火をおこし、セラが見張りに立って、システィナとアリッサが食事の準備を始めた。


 ほどなくしてセラが何かに気付いた。

 「煙が見えるぞ!」

 セラを見ると指をさしている。

 高い場所だからセラには見えているが、アサトらには、細く立ち上がっている灰色の煙の線しか見えていなかった。


 線を確認したクラウトは馬車の上に上り煙を見た。

 「ここでは状況がわからないな…でも、煙は一つだけではない、数本…10か所以上からあがっている…となれば…戦かも…」

 「戦?」

 アサトが訊き返し、その言葉に首を傾げながら馬車を降りて来るクラウトは、一同を見た。

 

 「推測だ。戦かも知れない、でも、もう日が暮れるから、明日にでも見てみよう。少し道から離れるけど…、戦なら、戦利品を頂けるかもしれない」

 クラウトの言葉に小さく頷く一同。

 「なになに、お宝?」

 ケイティが着替えてやってくると、満面の笑みを見せてクラウトに訊いていた。

 その言葉に頷くクラウト。


 「なら…あたしたちお金持ちじゃん!」

 指を立たせ大きな笑みを見せ、そのケイティを見ていたクラウトは馬車の上へと視線を向けた。

 「セラ、頼みがある!」

 「え?何?」

 顔を出したセラ。


 「ケイティに槍の扱いをソンゴに教えてもらいたいんだが…出来るか?」

 「うぅ~ん。たぶん大丈夫…あっ…銀とシルバ…戻って来た!」

 立ち上がり熱帯雨林へと視線を持って行くセラ、しばらくすると2頭の大狼が熱帯雨林の森から駆け出してくるのが見えた…。


 「頼む、明日からでも…」

 セラは馬車から降り始め「ウン」と答えた。

 クラウトの言葉に、首を小さく傾げて見せたケイティの姿がそこにあった……。



 …数時間前の『デルヘルム』…


 『デルヘルム』近郊の草原を黙って見ている妖艶な表情があり、なまめかしい唇に銜えられているキセルからは細い煙が立っていた。

 その脇では、丸渕のメガネと顔半分を覆ったマスクをつけた白衣の者がいて、その傍では、七色の装飾を施した串で、金髪の髪を束ねてさし留め、前止めの衣に動物の白くふわふわの毛でできている、長いコートを着た女性が、退屈そうな表情で佇んでいた。


 彼女らが見ている先では、土が飛びあがっている。

 ランダムに飛び上がる土が周りに積まれているのが見え、その土を漁っている影が…2つあり、1つは、ショートパンツに、革で出来ているジャンパーを着ている姿の女性で、もう一人はローブの上に厚手のジャンパーを着ていて、黄色のニット帽を被っている背の高い男であった。


 土が…飛び出す…。

 土が…飛び出す…。

 土が……。

 その飛び出している場所には…、丸坊主の男が3人にカンガルーの亜人の姿である。

 スコップを使って丸く穴を掘っている…グンガと愉快な仲間達。


 「ほんとに出るのか?グンガ」

 「あぁ…オーストラリアって言えば、ピンクダイヤがいっぱい出る地域だって、おめぇ~も知っているだろう?」

 「あぁ~、でも…ちょっと違う気がするんだよな…」


 3メートル程掘られた穴の中で会話をしている。


 「まぁ~、やりたいようにやらせてあげてもいいんじゃない?」

 ミーシャがため息をつきながら言葉にするのを見たエイアイは、ミーシャからオレンへと視線を向けた。


 「それで?君はどう弁償をするつもりなんだ?」

 「え?」

 エイアイの言葉に見上げたオレンは、首を小さく傾げて見せた。


 「弁償?」

 「そうだよ…ジープの弁償だよ。あれは、わたしのコレクションの一つで、きみのお姉さんに頼んで見つけてもらったんだよ…」

 「あらぁ~~」

 オレンは、エイアイの表情を見てから、林から進んでくる影に目を向けた。

 「何かしらぁ~あれぇ?」

 エイアイから逃れるように立ち上がったオレンは、道を進んでくる影へと進み出すと、土を漁っていたレディGも気付いてグンガに声をかけていた。


 「…まったく……」

 エイアイは呆れた表情でついて行く、そこには……。

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