ルフェルスの警告と熱帯雨林のマモノ… 下

 翌日。


 朝食を終えたのち、熱帯雨林へと馬車を進めたアサトら一行。


 熱帯雨林を走る道は、生い茂る木々をぬけて行く凸凹な道であり、少し湿った感じのする大きなシダの葉が、道脇から道へと垂れ下がっている風景が多く見え、野生の猿のような鳴き声と鳥と思われる鳴き声…、遠くか近くかは確認できないが、シダに覆いつくされている地面を進む、葉が擦れる音が聞こえる道であった。


 馬車上のケイティは、胡坐をかいて周りを見ていて、ジェンスとアサトは、馬車の左右を守り、セラが正面の扉から顔を出して匂いを嗅いでいて、アリッサとシスティナは、中で話をしているようである…。


 そして…。


 森の中に入ってしばらくたった時である。

 前方から、地面を揺らす様な感覚と音が聞こえたのに、タイロンが馬車を止めた。


 「…なんか来るよぉ~、」

 「あぁ?貧乳娘!なんかじゃわかんねぇ~~」

 「あぁ?色欲魔!もっかい言ってみろ、おまえのぉ……?」

 ケイティが言葉を止めて前方へと視線を移すと、下で文句を言っていたジェンスも、ケイティの視線に合わせて前方を見る。

 アサトも目を丸めた…。


 ドスン!と言う音と地面を揺らす感じを出しながら、シダの覆っている森から茶色の物体が道の真ん中に現れた。

 「げ…なんだあれ!」

 馬車の上でケイティが、怪訝そうな表情で物体を見ながら言葉にする。


 そこにいるのは…カエル?


 アサトらの目の前には、とにかくデカいカエルが、喉袋を規則正しく動かしている姿があり、顔の位置は見上げる程に高い場所にあった。


 …アバァを思い出す…。


 「おっしゃぁ~見てろ!貧乳娘!あいつやっつけて、今日の昼飯をおれがお前にごちそうしてやる!」

 「げ~、カエルはいやだ!ってか、ごちそうって…シスが料理するんでしょ!」

 シスと言われた言葉に反応したシスティナが、セラが見ていた扉から顔を出した…。


 「え!」

 絶句するシスティナ…。

 「出来る料理?」

 セラは、頭の上にあるシスティナへと言葉をかけると、小さく顔を引きつらせながら答えた。

 「…無理……」


 「だはははは…みてろよ…これが…愛のこもったぁ~~。じぇ~んす…すとら…あれ?」

 威勢よく突っ込んでいったジェンスは、カエルの近くに来ると、大きく剣を振りかぶった瞬間…。


 「げ!」

 ケイティが声を上げ、アサトは飽きれた表情を見せると、クラウトはオデコに手をあて、タイロンが爆笑を始めた…。


 カエルは、突っ込んできたジェンスが傍に来ると、おもむろに顔を上げてから大きな口を開いて、真下に来たジェンスめがけて…涎のような粘液をかけた…とは言い難い。

 たらしたのである。

 その粘液にまみれたジェンスは、剣をゆっくりと振り下ろすと…目を見開いて振り返った。


 …ってか……。


 「きゃははははは、ばぁ~か、ばぁ~か、ジェンスのばぁ~か!そのまま食われちゃえ!」

 ケイティが、馬車の上で腹を抱えて笑っている。

 その姿を見たジェンス。

 「あぁ~なんだって。この…」


 「え?」とアサト

 「あっ」とセラ

 「きゃっ」とシスティナ

 「げ!」…とケイティは、目を見開いて冷や汗を流しだした。


 クラウトが、メガネのブリッジを上げて涼しい表情で見ていると、隣のタイロンは、大きな口をあけたままで、その姿を見ていた…。

 異変を感じたアリッサが、システィナの上に顔をだすと、そこには…カエル…そして…カエルの口に見える…アシ?


 「…ってか、食われた!」

 馬車の上で飛び上がり、指をさしたケイティ。

 「え?えぇ~」

 咄嗟に太刀を抜いて走り出したアサト。


 「…わたしが!ヴァルハラに住まわれし、光の神よ…力を!」

 呪文を唱えると小さく輝きだしたシスティナは、腕をカエルに向け人差し指を伸ばし、印を描き始めた瞬間に…。

 アサトの目の前にいるカエルが大きく膨張を始め、その姿を見たアサトは、急いでシダが覆い茂っている道脇に飛び込んだ瞬間。


 大きな風船が割れるような音と共にカエルが爆発した!…と、ドサッと、爆発したカエルから落ちて来たジェンスは、粘液塗れで横になり、なにやらブツブツと言葉を発している。

 その姿を見たケイティは再び大声で笑い始めると、タイロンも爆笑を始めた。


 シダの覆っている場所から顔を出してジェンスを見たアサトは、ジェンスと目が合う…と?ジェンスは、なぜか頬を赤らめて寝返りを打った…。


 …ってか、今のは、何?……。


 「お?おぉ?お宝が転がっているぞ!」

 馬車の上からケイティが叫ぶと、一同がジェンスの周りを見た。

 そこには、防具や武器…布袋など色々転がっていたのが見え、お宝を確認したケイティは、そそくさと馬車を降りてジェンスの傍へ駆け出し、お宝を物色し始めた。


 ケイティの行動に、タイロンも手綱をアリッサに渡すと馬車を降りて進み、セラとシスティナも、布で鼻と口を押さえて向かった。

 アサトもシダの生い茂る道脇から、道に出てお宝の場所に向かう。


 「こいつ何喰ってんだぁ?」

 ケイティは、転がっている布袋を拾って中を確認している。

 「…兵士を食っていたのか?ってか…カエルって人を食うのか?」

 「まぁ~まぁ~いいじゃないのよジャンボ。お宝はお宝だから!」


 そう言えば、ケイティは、ゲルヘルムの時も、足長蜘蛛の中に入って行ったことがあった事を思い出した。

 こういうのは平気なんかな?それとも…お宝が絡めばって感じなのかな…。

 とりあえず、うちの姫は、なにかと驚かされることをしてくれる人だ…。


 「おぉ~、あったりぃ~~」

 高々に歓喜の声をあげたケイティの掌には金貨が3枚あった。

 「次の街で、おいしいモノ食わせてよ!リーダー!」

 ニカっとした笑みを見せて金貨をアサトに渡すと、別の袋を探し始めた。


 セラもどこかで棒みたいなものをひろったのだろう。

 それで色々な物を突っついて見ており、そばではシスティナが、怪訝な表情を浮べながら見渡し、タイロンは防具や武器を拾い上げて見ていた。


 しばらくケイティとお宝探しをしてから、ジェンスを起こして馬車は進み始めた。


 今日の戦利品は、防具が3人分と剣が2本に槍が1本。

 金貨が3枚と銀貨が26枚。銅貨が43枚。

 宝石がついているペンダントが2個に指輪が2個、そして、濡れ濡れのジェンスが一人であった。


 熱帯雨林を進む馬車の上で、裸で歩いているジェンスをバカにしながら、腹を抱えて笑っているケイティの声が、周りを騒がせている動物らの鳴き声よりも大きく響いていた…。


 そして…。


 ドスンと…再び……。

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