第3話 ルフェルスの警告と熱帯雨林のマモノ… 上

 トンネルから出ると少しだけ平らな場所となっており、そこから緩やかな下りが見え、その道を進むと、少し拓けてから熱帯雨林の林になっていた。

 緩やかな下りはかなり長く見え、距離にして…数百メートルと言ったところか…。


 その下りの道の脇にある光景にアサトらは息を呑んでいる。


 数百メートルの下り坂の両端に、十字架に杭を打たれて晒されているイィ・ドゥの遺体が、数メートル間隔に、右の端に5体、左の端に5体と道沿いに並んで晒されており、その中には、子供のイィ・ドゥの遺体もあり、よく見ると、5本の指がすべて斬りとられ、掌だけではなく、足の指までも斬りとられていた。


 …警告……。


 アサトは小さく踏み出し、その晒されている遺体を見上げた。

 「ひどいな…」

 クラウトの声に振り返ると、アリッサとシスティナの姿もあり、セラの姿は無く、様子から言って、馬車の中でジェンスと一緒にいるようであった。

 ケイティが馬車上から降りてきてアサトらの元にくる。

 「…話した方が…いいんじゃないですか?」

 アサトはクラウトを見ると、その表情に小さく頷いたクラウトは、アリッサらへと向かい話を始めた…。


 伝道師の件である…。


 その話を聞いたシスティナが小さくうつむき、アリッサは口に手を当て、大きなため息をついたタイロンは晒されている遺体を見上げた。

 「…と言う事は…俺たちのせいでもある…ってことか……」

 「あぁ…そうとも言える…。老人の話しを聞く限りでは……」

 小さく答えたクラウト。


 ケイティが何かを見つけたのか、子供の遺体が晒されている十字架へと駆け寄り見下ろし、アサトはその行動について行き、ケイティが見下ろしている場所を見ると、白く小さな花が3本、横に置かれていた。

 「…友達かな…それとも…家族の誰かかな…」

 寂しげに言葉にしたケイティ…。

 その言葉を聞いてアサトは遺体を見上げる。


 晒されている遺体は、眠っているような表情を浮べていた。

 この子がどういう風に殺されたのかはわからないが…、実際に死んでいる…。

 それも、アサトらの行動に対しての報復…とは言えないが、警告であるのは、老人が言っていた事に間違いはなさそうだ。

 このメッセージは…、辞めない…という事なのかもしれない……。


 「行こうか…」

 クラウトの声が聞こえると、ケイティが晒されている子供の遺体を見上げて、小さくため息をついた。

 「高いね…」

 その言葉に、ケイティを見たアサトは、小さく考えた。


 …確かに高い、そして、この場所は……


 子供のイィ・ドゥの遺体から視線を去ろうとしているクラウトらへと向けたアサト。

 「…クラウトさん、すみません…。行けないです…」

 アサトの言葉に、馬車に戻ろうとしているクラウトらが振り返った。

 「高すぎますよ…、眠るには…、だから…。ココから降ろして、埋葬をしましょう……」

 アサトの言葉にタイロンが大きなため息をつき、一度、晒されている子供の遺体を見ると、アサトらへと進み出した。


 「そうだな…、ここにさらされているのは、俺たちのせいかもしれないからな…」

 「そうね…」

 アリッサが動くと、システィナが小さく頷いて進み出し、クラウトは空を見上げた。

 夕暮れが近付いている色が空を染めている…。


 「魔法で降ろそうか?」

 システィナが言葉にしたが、アサトは首を振った。

 「いや…、一人ずつ丁寧に降ろしてあげましょう…。僕らの温かさを伝えたいから…。生きている温かさを…」

 「そうだな」

 アサトとタイロンの言葉に小さく笑みを見せたシスティナは、小さく頷いてアサトらへと駆け寄った。


 10体の遺体を十字架から降ろし、坂を下りた拓けた場所にスコップで穴をあけると、遺体を置いて埋葬をし、大きめの石を積み上げた。


 周りはとっくにくれていたので、今日はここで野営をする事にした一行。

 焚火で暖を取り、システィナとアリッサが食事の準備をし、タイロンとジェンス、アサトがテントの用意をする。

 ケイティは馬車の上から監視をして、セラは馬車の中で丸くなっていた。


 食事の準備ができると、セラも馬車から出てきて、ケイティも降り、焚火を囲んで食事をする一同。


 「…老人が言ったとおりだな…。思っていたより状況が悪そうだ…」

 クラウトが重い雰囲気の中で言葉を発した。

 「そうかも…」

 アサトが言う。

 「…どう言う事?」

 2人の会話に、アリッサが不思議そうな表情でアサトとクラウトを交互に見た。

 その表情に顔を見合わせた2人は、小さく頷き、クラウトが、アイゼンから聞いた話…、皇女、セナスティの話しを話し始めた。


 「…アバァ討伐戦は、そういう意味も兼ねていた…って事か…。」

 「あぁ…、別にみんなに隠していた訳では無かったんだ。ただ、あの時の重要度を考えれば、奴隷狩りは低い場所であったし、アイゼンさんの言う、これは、一市民がどうこうできるレベルではないと言う事なんだ…判ってほしい…」

 クラウトが小さく頭を下げ、アサトも同じく下げた。


 「ただの…奴隷狩りの討伐だと思っていたから…。」

 アリッサはセラを見た。

 その行動に一同が見る。


 不安そうな視線をシスティナへとむけたセラ。

 そのセラにむかい小さく笑みを見せる。

 「チビ、大丈夫だ。俺たちは、お前をどうこうさせない…それに…お前には、オークプリンスがいるし、ドラゴンも…って、あのドラゴンは、まだまだか…とにかく…心配するな!」

 タイロンが大きな笑みを見せ、その表情を見てから、再びシスティナを見ていると、いきなり抱きついたケイティ。

 「セラッチ、大丈夫!わたしが守るから!」

 ケイティの行動に小さく笑みを浮かべた一同。


 「あぁ…そうだな…、セラがどうのこうのって考えてもしょうがない。この件は、もっと上のレベルでなんとかしてもらわなきゃ…それに…、老人の話しだと、ルヘルムで皇女が行動をしているようだから…。とにかく、僕の考えは、この先の旅は、『クレリアレシク』の港へ向かい、フーリカを目指そう。」

 「王都は?」

 クラウトの常葉にタイロンが訊く。


 「行かない方が賢明と思うが…」

 クラウトはアサトを見た。

 その言葉を聞いたアサトは一同を見てから、セラへと視線を移す。


 「そうですね…王都は見てみたいですけど…、とりわけ用事もないですからね…」

 「そうだな…想い人がいるからな…フーリカに」

 にんまりとした表情を見せたジェンス。

 「想い人?」

 ケイティが、セラを抱きながらジェンスへと視線を向けた。

 「あぁ?聞いていなかったのか?あの女が言っていただろう!フーリカで待っているって!」

 「…誰がぁ?」

 「あぁ?」

 呆れた表情になったジェンス。


 「…だから貧乳は…」

 「あぁ?待て待て…いま、グンガら並にさらぁ~と、言ってはいけない事を言ったな色欲魔!」

 「へへぇ~ん、なんて言ったっていいよ~、貧乳!」

 「キィ~~、あったまきたぁ~」

 セラから離れたケイティは…。


 ちぇぇぇぇぇぇぇすとぉぉぉぉぉぉ!!


 とりあえず、王都へは向かわずに…、『クレリアレシク』の港へ向かい、フーリカ大陸を目指す事に決めた一行であった……。

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