第2話 老人の言葉とベア兄弟 上
「あっ…」
声をあげたシスティナが馬車へと戻って行き、馬車ではタイロンが車輪を固定しており、その中に乗り込んだシスティナは、何やら探し始めた。
クラウトの前にいる、老人と子供2人の母親と思われるモノは、小さく視線を外し、母親に抱かれている子供らは、覗くようにアサトらを見ていると…。
システィナが小さな駆け足で現れ、持ってきたクッキーを子供らに差し出した。
「あっ!シスゥ~」
ケイティの声が後方から聞こえる。
「どうぞ、食べて…。」
笑みを浮かべて、クッキーを差し出しているシスティナの行動に、母親は驚きの表情を見せ、隣にいる老人は、ゆっくり顔をシスティナへと向け、クッキーを目の前にした子供らは、母親の表情を伺っていた。
「確かに、私たちはマモノを狩る者達です…でも、無用な狩りはしません。ルフェルス地方では、どう言われているかはわかりませんが、私たちは、ルヘルム地方の狩猟者です。
「狩猟者…とは聞いた事がある。誘われし者らか…」
「そう言うんですね。そうです。私たちの大半は、誘われた者らです。」
「…」
クラウトへと視線を向けた老人は、ゆっくりアサトへと視線を移し、怪しい光を纏った刃を見てから、アサトの目を見た。
「アサト。もう仕舞ったら…」
アリッサの声に目を見開いたアサトは、太刀を掴んでいる手の力を抜いて、一つ呼吸を置いてから鞘へと仕舞うと、その行動を見た老人は子供らへと視線を向けた。
「頂きなさい」
老人の言葉に、システィナの手にあるクッキーへと恐る恐る手を差し伸べる。
「寒いだろう!」
数本の薪を手にして、タイロンが近付いて来るのを見たジェンスが駆け寄り、タイロンから数本の薪を手にしてアサトらへ進んだ。
薪を囲んだアサトらと獣人の亜人の4人。
「難民って言うんですか…」
アサトがクラウトへと訊くと、メガネのブリッジを上げながら、小さく顎を引いて見せた。
「難民か…、そう言われても仕方ないな…」
老人がアサトの言葉に、クッキーを頬張っている子供らを見ながら小さく返した。
彼らはネズミの亜人のようである。
よく見ると、セラよりも少しばかりだが小さい母親と老人であり、話を聞くと、ネズミの亜人は、身長は、高い者でも150センチは無いようである。
セラが気付いたのは、動物的感覚からだったのだろう。
…ま~、うちの姫も、ある意味動物的な感覚で見つけたけど…。
彼らの村は、トンネルを出て熱帯雨林を通り、その熱帯雨林沿いを、西にいった所にある小さな村であったが、先日、奴隷狩りにあい、村人はバラバラになったようだ。
彼らも動物的感で逃げたと言う話であるが、四方八方に散らばったので、村人、特にこの子らの父親が、どこに行ったか、わからない状況のようであるとの事だった。
村を守るために何人かが残ったようだ。
そもそも戦闘種族に属する部族だったので、若い男衆は血気盛んであり、それが裏目にでなければいいと老人は肩を落としていた。
彼らの間では、ココを襲われて逃げるような事があれば、トンネルを抜けてルヘルム地方のセーフティーゾーンを目指す事にしていたようで、ルヘルム地方へとつながるトンネルは、ココの他に2か所あり、バラバラになった者らは、どこかのトンネルを使って、ルヘルム地方へと向かったに違い無いと思っているようであった。
クラウトが訊いていた。
なぜルヘルム地方へと…。
老人の話によれば、数日前に、伝道師と言う犬の亜人が現れ、ルヘルム地方では、幻獣を討伐した者が、ルヘルム地方で、賞金目当ての者や奴隷を捕まえているモノを殺しまくっていると話しており、ルヘルムには、この現行の法律に対抗するものらが、弱い魔物を助けていて、噂では、セナスティ皇女が、『ゲルヘルム』近郊のセーフティーゾーンを拠点に、逃げてきている亜人らやマモノと言われる種族を、保護していると言う話が聞こえてきていたようである。
老人の話しに、クラウトは目を細めて何かを考えていた。
…その表情は、良くない事なんだろう…。
犬の亜人は、先だって討伐した時に解放した亜人であるのは、アサトにも分かった。
クラウトが施した呪文とルーンは健在なのだろうか…、というか、本当に伝道師みたいなことをやっているんだなと、少し感心していたアサトである。
「そちらの子は…、亜人だね。イィ・ドゥと言う種族だね」
セラへと視線を移した老人
「はい…、そちらでもイィ・ドゥと言うんですか?」
「あぁ~、たぶん、この表現は万国共通だと思う」
「そうですか」
「なぁ~、若いモノらよ、君たちは、ココを抜けてどこに行くつもりだ?」
老人がクラウトに訊いた。
「そうですね…、誰も到達した事の無い場所…とでも言っておきましょうか」
「ほほほほ…、誘われた者らは夢が大きくていいな…だが、ほんとに行きたいのなら…その子を置いて行くんだな。」
真剣な表情に変わる老人。
「え?」
アサトはセラへと視線を移すと、セラはクッキーを食べながら、アサトへと視線を持ってきていた。
「どう言う事でしょう?」
クラウトがメガネのブリッジを上げて訊いた。
「悪い事は言わん。引き返せ。ココを抜けると、そこは、君たちが描いているような世界ではない…もし行くとしたら、まっすぐに『クレリアレシク』の港へと進み、船に乗るんだ。どこに寄らず、泊まらず、進み続けるんだ…」
「…」
クラウトはメガネのブリッジを上げ、アサトも老人を見た。
その傍には、クッキーを頬張っている子供2人とケイティの姿があった…。
しばらく休んだのち、彼らはルヘルム地方へと出る道を進んだ。
老人らだけでは危険なので、訓練を兼ねて、セラが大狼の『ギン』と『シルバ』を召喚して護衛に付けたが、その為に、これから何かに襲われても、セラは戦闘には参加が出来なくなった。
仕方がない事である。
老人らと別れる間際に忠告を貰った。
「…ココを出た先に見える光景は、警告であると言う事だ。仲間が見て、話しを聞いていたようだ。その話によると、…それは、警告、マモノを狩る者、奴隷を捕まえる者を討伐している者らへの警告。受けて立つ!と言う事のようである…まぁ~、君たちの目で見て確認するんだ。まだ、そこから戻っても遅くは無い……」
小さくなってゆく『ギン』と『シルバ』の間に見える4つの姿に、クラウトは眉間に皺を寄せながら、メガネを上げて見送り、アサトも考えていた。
警告とは……。
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