トンネルの中で出会ったモノ 下

 「チビガキ!上では物を食うな!食べこぼしが飛んでくる!」

 タイロンが叫んぶと、その言葉に舌を出して見せ、再び腹を抱えて笑い始めた。


 …グンガさんもそうだけど、うちの姫も自由だよな…。


 「行こうか…」

 クラウトの言葉に進み始めた馬車は、煌々と前方を照らして進み始めた。


 トンネル内部は、数百メートル進むと石で積まれた部分と、石が敷き詰められた地面が無くなり、晒された岩肌と地面となったが通行には差支えが無く、多くの時間使われてきた道であったので、小さな振動くらいしか馬車には伝わっては来ないような、しっかりとした道であり、歩いているアサトらにも、その地面は抵抗は無くスムーズに進めた。


 数キロごとに休憩所があるようだ。


 トンネルから少しだけ中に切り込まれている場所があり、そこで休んだり、泊まったりしていると言い、マモノが存在する可能性もあるとの事であったので、とりあえず警戒しながら進んだ。


 2時間おきに休憩をとる事にしている。


 アサトとジェンスも歩くのは疲れるので、その度にアリッサがタイロンから手綱を受け取り、タイロンとケイティで歩く事もあり、また、アリッサやセラ、システィナにクラウトも歩いて気分転換をとっていた。


 セラがソンゴを召喚する。


 ソンゴは真っ黒い毛で覆われ、体長も1メートル50センチはある獣人のようないで立ちで、顔は真っ赤な皮膚で目は青、眉間には赤い召喚石か付いており、頭には金色の輪が付いていて、金色の地色に赤で縁取りされている鎧と小手、膝あてと長い棒を持っていた。


 …なんだろう…。


 訓練と言って、召喚をして馬車の警護をさせていたが、どうやらうちの姫が、何かに関心を持ったようで、その後も一緒に歩き、しきりに手にしている物を見ていた。


 …棒?


 アサトは馬車の屋根から2人の様子を見ていると、どうやらうちの姫は、ソンゴが持っている棒に興味を持ったようである。

 一回目の休憩の時、セラがソンゴに『訓練!』と言葉をかけると、棒を使って動き出したソンゴ。

 その動きは、古で言う棒術のようで、持っていいる棒を巧みに振り下ろしたり、振り上げてみたり、また、頭上で回したり、腹の回りを移動させたり、突きだしたり払ったり…と色々な動きを見せていた。


 姫が妙に気に入ったのが、棒で右側の下部を払い、左の下部を払うと頭上で数回回転させながら、数歩進んで棒を振り下ろして、地面に突き刺したと同時に棒を軸にして前方宙返りをしながら移動をし、地面に着くと素早く棒を、同じように動かして、大きく振り下ろして見せた棒術であった。


 姫の目にはどういう風に映ったのか…、暗い中でも瞳を輝かせていたのが、妙に…いやな予感を漂わせていて、その動きを何度も何度もやって見せろとせがむ姫を、いぶかし気に見ていたソンゴが…、召喚獣とは言え人間味があって、ちょっと笑えたのである。


 休憩を取った後、ふたたび進む。


 セラ自体が疲れたのか、ソンゴを召喚石に戻すと、気分を害した姫はアサトと変わって、馬車の屋根でふて寝を始めた…。


 …もう、うちの姫は……。


 ここまですれ違う者はいない…。

 トンネルは大きいので、音の反響も少なく、なんの音も響いては来なかった。

 これだけ誰にも会わないのは…ちょっと嫌な感じである。

 ほんとに…山脈の向こうに続いているのか?と不安に思えて来た時に、右側にある壁当たりから明りが消えた…ように見えた。


 …なんだろう…今の……。


 小さかったが確かに火のような色が見え、いきなり消えた…はず…。


 アサトは暗闇に目を細めながら進んだ。


 しばらく進んだが、タイロンやクラウトが反応していないなら、何でもないのだろう…。

 見間違い?なのであろう…。


 明りが消えたと思われるあたりまで来ると、セラが馬車の横から顔を出した。


 「…?どうした?」

 ジェンスが話しかけ、そばのアサトも視線をセラに移すと、セラは鼻を使ってなにやら嗅ぎ始め、しばらくその様子を見ていると、馬車上のケイティが飛び起きて叫んだ。


 「誰!」

 その言葉に馬車を止めたタイロン。


 ケイティは辺りを見渡し、セラも盛んに匂いを嗅いでいる。

 アサトは振り返り暗闇へと視線を移すと…、闇の中にある小さな窪みの中で何かが動いた…ように見えた。

 目が慣れては来ていたがはっきりとは言えない。

 太刀の柄に手を当て、ジェンスも脇に携えているロングソードの柄に手をあて、暗闇を見た。


 「なにか…いるのか?」

 「…?子供?」

 後ろでセラが言葉を発すると、顔を馬車の中に仕舞い、時間を掛けずに馬車後ろから出てくると、暗闇へと鼻を持ってきた。


 「…なんかいる!アサト!食べ物の匂いがする!さっきまで焼いていた匂い!」


 …って、これって動物の感ってやつ?


 頭上から聞こえたケイティの言葉に、ため息が出たが、そうなれば、はっきりした事は言える。

 さっき見た、いきなり消えたと思われる灯りは、やはり誰かの存在か…それは、マモノ?でも、セラは子供と言っていたが…。


 恐る恐る目を細めながら近づいてみると、急に目の前が明るくなり、その灯りに、アサトは太刀を抜いて両手で握ると素早く構えた……。


 クラウトが放った光の破片に映し出されているのは、どっしりと腰を降ろして座っている老人と、小さな子供2人を両脇に抱えて、身を屈めている母親と思わしき者の4人…の獣人の亜人であった。


 黒い鼻と黒みがかった銀色の毛を持っている獣人の亜人は、口元は人間の唇と同じなので言葉は発せられそうである。


 アサトは4人の近辺へと視線を向けて、他にいないかを確認したが、彼が身を潜めている窪みは、彼らが入っているだけで一杯一杯の状態であった。


 …なんだ?これ……。


 「もし…そうなら、覚悟を決めるが…」

 老人と思わしき亜人が言葉を発し始めた。

 「…君たちは、奴隷狩りか?」

 老人の言葉に、目を見開いたアサトは後方へと視線を移すと、メガネを上げながらクラウトが近付いてきているのが見えた。


 「…奴隷狩りではないなら…、懸賞金狙いの…、マモノ狩りの者か?」

 「え?」

 再び振り返ったアサトの視線には、どうどうと座っている老人の隣にいる母親の表情が、威嚇を前面に出していたが、腕の中に子供らを包み込んでいる手は、震えているのが見えた…。


 「そうです。私たちはマモノを狩る者です」

 クラウトの言葉に母親の表情が凍り付き、老人も目をゆっくり閉じて小さく顔をさげ、その状況を、クラウトの傍にきたアリッサとシスティナが見ており、その後にケイティが現れると……。

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