第1話 トンネルの中で出会ったモノ 上

 詳しく話を聞くと、トンネルの長さは34キロメートル程だと言う。

 時速約6キロメートルで進んだとして…、6時間ほどで黒鉄くろがね山脈を越えたルフェルス地方へとでるようだ。なので、10時に出たアサトら一行は、昼近くに、クレアシアンの旧砦で簡単な昼食をとった後にトンネルへと向かった。


 予定では、トンネルを抜けると熱帯雨林があり、その手前で今夜は野宿をし、翌朝から王都へと続く道を進む事にしている。

 熱帯雨林の森を通り、『デインヒル』平原に出て、しばらく行くと小規模な街に着くと言う事であり、街までは半日で着くようである。


 そこから250キロほど先にある、『アルフェルス』と言う街へ向かう事になるようだ。


 その街は、人口30万人が住むと言われる中規模な街と言うが、『デルヘルム』に比べれば都会である。


 …都会?…まぁ~いいか…。


 そこは俗に言うハブシティである。

 西に行くと、『クロッセル』と言う漁業を生業とする街に着き、そこから海岸線を進むと『クレリアレシク』と言う港町につくようだ。

 その港からフーリカへと向かう貿易船が出ており、そこに向かう事になる。


 『アルフェルス』から東へ向かうと、『エルフェルス』と言う街に着く。

 この街もハブシティで、東には、『オルフェルス』と言う、これまたハブシティが存在するようだ。


 各街から北へと延びている道を進むと、旧帝都『シドルア』、今の名は、王都『キングズ・ルフェルス』があり、その道中には、小さく細い道が無数に存在し、小さな町や村、鉱山や農場に続いていると言う事である。


 王都は海に面していて、人口は120万人が生活をしているようだ。

 高さ30メートルの外壁があり、そこから2キロ奥まったところに、内壁と言って高さ20メートルの壁がある。

 そこから、2キロほど入った所に、幅30メートルの堀があり、その堀は海に繋がっていて、堀では釣りのような楽しみ方もできるようだ。

 堀を越えた場所に高さ10メートルの壁があり、その壁に囲まれている場所に王の住む城があると言う。


 とにかく、想定外の大きさだと言う話である。


 ただこの世界には、この街よりも大きな街も存在すると言う事を、エイアイが言っていた。

 とくにリメリアの首都、『シント』はかなり大きく、中規模な街が集まったような場所で、区画ごとに分けられ、区画ごとに代表者なる区長と言う者が存在しており、その者を中心に議会なるモノが存在している。

 また、リメリアには、国の最高議決機関を設置しており、そこには元老院議員なるモノらがいると言う事であった。


 この区長や議会議員、元老院なるモノは、この世界では珍しい方法で選ぶようであり、『選挙』と言う、住民が選ぶシステムをとっているようだ。

 国の最高機関組織のトップに立っているのが…と言う事である。

 ただ、大統領だけは、血筋を重んじているようだ。


 …おかしな話だと、エイアイが言っていたが…。


 そのおかしさは、よくわからなかった。


 とにかくシントは、この世界でも近代化が進んでいることを、覚えておいた方が良いと言う事である…。


 …まぁ~、まだまだ先の話しだけど……。


 とりあえず、アサトら一行は、ルフェルス地方、西のハブシティ『アルフェルス』へと向かう事にしていた…。


 黒鉄山脈を抜けるトンネルの入り口はかなり大きい…、幅が6メートル程であろうか、高さも同じくらいあり、石で装飾され、壁にはブロック状に切り出された石が積まれ、地面にも石が敷き詰められていた。


 向こうから来る人の影はない。

 篝火が灯されているが、穴の大きさから言って、十分な灯りとは言い難かった。


 アサトとジェンスが馬車の前に立ち、馬車では手綱を持っているタイロンとクラウト、馬車の中から前方の扉を開けてアリッサとシスティナ、セラが見ていて、馬車の屋根ではケイティが胡坐をかいて目を細めていた。


 真っ暗…と言っていい…と…、いきなりアサトとジェンスの後方から、眩しい程の光が2人を照らし、長い影がトンネル内部の地面に映し出され、その光の強さに振り返った2人は、目を手で覆いながら馬車を見た。

 馬車から発せられている少しばかり黄色を伴った光の向こうに、馬車の形をうっすらと見えている。


 「ヘッドライト…っていうそうだ。凄いだろう!」

 光の向こうからタイロンの声がする。


 …確かに…すごい光の量だ…。


 「ちょっと待っていろ!」

 そう言い残したあと、しばらくして明りが小さく視線をそれ、アサトとジェンスは、その動きに目を見張りながら顔を見合わせた。


 「はははは…、これは下向きって言うそうだ。なんか、古の時代の乗り物に搭載されている明りで、走っている時はこうするそうだ、そうすると、向かってくるモノの視界を妨げないと言う事だ!んで…」

 タイロンが何やら始めると、今度は先ほどのように、目を覆わなければならないような眩しい明りに変わった。


 「…はははは…、これが上向きって言うんだそうだ…、向うから来るものがいない時はこれを使うそうだ。走行の安全を考えてな。こうすると暗い所でも視界を確保できる、なぁ~すごいだろう!」

 なんか自慢げに言っているタイロンの表情が、分かったような気がしたアサトは、小さくため息をついてから言葉にした。


 「わかりましたジャンボさん。もう…下向き?に変えてもらえますか?僕たちは、馬車の横につきますから…、これじゃ…行けない…」

 「あぁ~、分かった。」


 そう発するとすぐ明りが下を向いたが、まだ視界になんか…点が見える…。

 その点は…。


 …まぁ~いいか……。


 そう思ったアサトの隣で、ジェンスが目を閉じたり開いたりしている。

 「どうした?」

 「なんか…点が見えるぞ。これ…やばくないか?…」

 ジェンスも点が見えているようだ。


 「僕も…見える…」

 アサトも目を閉じたり開いたりしてから、点を払うように動いていると、「暗い所で強い光を見ると誰しもなる現象だ、強い光を直視しないようにしていれば、その内なくなる。」

 クラウトの声が聞こえて来た。


 クラウトは小さく笑って、その後方にいるシスティナやアリッサ、セラも笑い、ケイティもクッキーを手にしながら笑っていた。

 どうやら2人の動きが面白かったようで、クッキーを食べ終わったケイティが、両手を手前に出し、瞬きをしながら小さく払うような姿を何回か見せると、噴き出し、口に入っているクッキーを飛ばしながら、ゲラゲラと笑い始めた。

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