第18話 みなみちゃん3前

「どうもです。」

颯爽と上野の動物園に現れた美代先生。この物語は美代先生の口癖から始まるのがお約束である。

「キュル!(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

なぜか今回はパンダのパンパンも美代先生と一緒にスポットライトを受けている。

「美代先生! 世界でパンダがいる唯一の歯科医院として、世界動物愛護団体から表彰されましたが、今のお気持ちをどうぞ。」

美代先生は多数のマスコミに囲まれ、カメラのフラッシュの嵐に包まれる。

「うちのパンダのパンパンは中国の国家主席から頂いた由緒正しきパンダです。今の日中友好があるのも私のパンダがいるお陰と言ってもおかしくはないでしょう。ワッハッハー!」

美代先生は大スター気取りで悠々とマスコミ取材を受ける。

「酷い!? パンパンはみなみがもらったのに!?」

取材を受けている美代先生の片隅で助手のみなみちゃんは怒っていた。

「キュル!(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

「パンパンの裏切りパンダめ!?」

もちろん歯科助手の殺意はパンダにも向かうのだった。普段オープニングではみなみちゃんが傘を回し、その上でパンパンを回すパンダ傘回しをしている仲良しだった。

「どうもです!」

「キュル!(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

「殺す!」

この物語は歯科医師と歯科助手とパンダの心温まるお話・・・のはずである。



美代歯科医院。

客もいないので暇そうにテレビを見ている歯科医師と歯科助手とパンダ。

「上野で生まれたパンダの赤ちゃんが手のひらサイズに大きくなりました。すくすく成長して、明日から一般公開されます。みなさん、ぜひ見に来て下さいね。中継は以上です。」

テレビの情報番組で上野のパンダ特集がされていた。

「キュル。(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

テレビを見つめて動かないパンダのパンパン。

「みなみちゃん、そろそろお湯が沸いたんじゃないかな?」

一歩も動きたくないズボラな美代先生。

「ええ!? じゃんけんで負けたのは美代先生ですよ?」

みなみちゃんは抵抗する。

「いいよ。みなみちゃん今月の給料半額ね。」

美代先生は雇い主としてパワハラ全快である。

「やります! お湯でも何でも入れますから、給料半額だけはお許しください!」

美代先生はみなみちゃんの弱い所をよく知っていた。

「パンパン、一緒に行こう。」

「・・・。」

みなみちゃんが呼びかけてもパンパンは動かなかった。いつもなら喜んでついてくるのだが・・・。

「どうしたの? パンパン。」

パンパンはテレビに映る上野の動物園のパンダに見とれていた。

「キュル!(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

「先生、パンパンが上野の動物園のパンダに会いたいと言ってますよ。」

パンパンはみなみちゃんに動物園に連れて行ってくれるように頼む。

「やだ。人の多い所って嫌なんだよね。」

美代先生は相変わらずのズボラぶりであった。

「キュル。」

パンパンは電話の受話器をとり、どこかに電話をかけ始めた。

「みなみちゃん、早くお湯を取ってきて! カップラーメンが食べれない!」

「はい。」

みなみちゃんは電子ケトルのお湯を取りに部屋を出た。

「キュル。」

パンパンは受話器を置き電話を終えた。

「お湯を注ぎますよ。」

みなみちゃんはお湯を持って部屋に帰って来た。お湯を取りに行くというのは僅か数秒のことだった。

「わ~い!」

美代先生は大好きなラーメンが食べれると喜んだ。

「いただきます!」

お湯を注いで3分が経ち、美代先生たちは手を合わせてラーメンを食べようとする。

「緊急臨時ニュースをお送りします! 緊急臨時ニュースをお送りします! 中国が日本に攻めてきました!日本海に軍艦、空母、戦闘機を配備している模様です。中国本土では日本に照準を合わせた核ミサイルの発射準備が完了している模様です!」

テレビで臨時ニュースが速報で流れる。

「ズルズル、大変な世の中だな。こんなにカップラーメンがおいしいのに。」

美代先生には他人事だった。

「ズルズル、本当ですね。戦争なんて給料半額に比べたら大したことないですよ。」

みなみちゃんには世界の平和より、自分の給料の方が大切であった。

「ズルズル。」

パンパンは黙ってカップラーメンを食べていた。

「お、お伝えします! 中国の国家主席から声明が発表されました! 美代歯科医院にいるパンダのパンパンと上野の動物園のパンダを面会させなければ、日本を攻撃すると言っています!」

テレビのアナウンサーが迫真の演技で原稿を読む。

「ブブウ!?」

美代先生とみなみちゃんはラーメンを吐き出し、パンパンを怯えながら見つめる。

「な、なんてピンポイントなんだ!?」

「まさか!? さっきパンパンが電話をかけていたのは中国!?」

これが噂のパンダホットラインである。中国では人間よりパンダの方が地位が上なのかもしれない。

「キュル。(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

パンパンは笹味のカップラーメンを食べながらニヤッと笑う。

「この売国奴パンダめ!? 殺してやる!」

「先生!? 美代先生!? やめて下さい!? 外交問題になりますよ!?」

イスを持ち上げてパンパンに襲い掛かる美代先生を後ろから抱きついてとめようとするみなみちゃん。例えるなら赤穂浪士の大石内蔵助と吉良上野介といったところだろうか。

「頼もう!」

そこに大勢の黒服の男たちが不法侵入してきた。

「我々は日本国の中国特別チームです! 皆さんにはご同行いただきます!」

黒服の男たちの目的は美代先生たちの拉致だった。

「誰が行くか!? まだカップラーメンを半分しか食べてないんだぞ!?」

美代先生は大好きなカップラーメンのために抵抗する。

「拒否権はありません。」

「な!?」

「連れていけ!」

「ギャア!? 私のカップラーメンが!?」

美代先生は黒服の男たちに羽交い絞めにされて連れていかれた。カップラーメンは美代歯科医院に置いて行かれた。

「どうぞ。パンパン様。」

「キュル。(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

パンパンの乗り込む車体の長い黒塗りの車まで地面にはレッドカーペットが敷かれていた。そのレッドカーペットの左右を黒服の男たちがきれいに並んでいる。

「なんかラッキーな気分。(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

パンパンの後ろを歩くみなみちゃんは自分がVIP対応されているみたいで、なんだか照れた。

「出発!」

こうして美代先生とみなみちゃんとパンパン様を乗せた黒塗りの高級車は出発した。



黒塗りの高級車で移動中。

「キュル。(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

パンパンは車の中に笹が置いてあり食べ放題で喜んで食べていた。

「良かったね、パンパン(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

飼い主のみなみちゃんは喜ぶパンパンを見て喜んでいた。

「全然、良くない!」

食事中のカップラーメンを取り上げられた美代先生だけは不機嫌だった。

「美代先生、今回の中国との戦争を回避することができれば、日本国から特別平和賞の受賞が日本国政府で検討されています。」

黒服の男が美代先生にニンジンをばらまく。

「特別平和賞なんかいるか!? こっちはノーベル平和賞も国連平和賞も持っているんだ!」

以前に美代先生は世界を虫歯パンデミックから救っている。その時に世界中から祝福され、数々の名誉ある賞を頂いている。世界中で1番表彰された人間としてギネス記録にも登録されている。

「戦場に虫歯治療に行かされて、ピューリツァー賞も受賞したわ!」

国連の希望で世界で最高の歯科医師と任命された美代先生は、みなみちゃん2と3の間、紛争地域の医療チームに無理やりメンバーに入れられ、生死の境で兵隊や現地住民の虫歯を治療して来たのだった。

「その時の写真です。みなみも映っていますよ。(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

みなみちゃんは懐から写真を撮り出す。写真には歯の治療をするみなみちゃんと十字架に縛られているパンパンと、雨ごいをしている美代先生の姿が映っている。

「たかが日本国の賞なんか今更いるか!?」

戦地で地獄を見てきた美代先生の怒りは収まらない。

「あの・・・副賞に、カップラーメン1年分がおまけで付いていますが・・・。」

黒服の男はポソリと呟いた。

「日中友好だ! 私の言うことならパンパンは何でも聞きますよ! ワッハッハー!」

美代先生はカップラーメン1年分に釣られた。

「おお! 美代先生! お引き受けしてくれますか!?」

黒服の男は喜んだ。

「当たり前じゃないですか! 私は歯を治療している時も世界の平和を願っています! ワッハッハー!」

美代先生は絶好調。

「美代先生はこういう人間だよ・・・。」

みなみちゃんは呆れる。

「キュル・・・。」

パンパンも呆れる。美代先生が最初から上野の動物園にパンダを見に行くことを承諾していれば、日本と中国が戦争直前の緊迫した状態にならなくて良かったのだ。



日本国のパンパン緊急声明発表会場。

「どうもです。」

どこかの一流ホテルの会場で日本国政府主催のパンパン緊急声明発表会が始まろうとしていた。美代先生は受賞なれしているので気軽に登場して笑顔で手を振り自分の席に着く。

「パンパン、がんばって!」

「キュル!」

少し緊張したパンパンも会場の入り口から入っていく。なぜかみなみちゃんの席はなかったのだった。

「パンパン様! こっちを向いてください!」

「キュル?」

振り返ったパンパンを記者のカメラの無数のフラッシュが襲う。

「キュルキュル。(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

パンパンはまるで自分が大スターになったかのように得意げに振る舞い席に着く。

「それではパンダのパンパン緊急声明発表いたします。」

黒服の男が司会進行する。

「パンダのパンパン様から中国に対して、メッセージがあります。それではパンパン様よろしくお願いいたします。」

「キュル。(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

ついにパンパンの演説が始まる。

「キュル、キュルキュル。キュル、キュル、キュル。キュルキュル、キュルキュル。キュルキュル、キュル。(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

パンダの言葉は人間には分からなかった。

「私が通訳しましょう。」

美代先生が自分の出番を待っていたかのように出しゃばって出てくる。

「えっと、パンパンは美代先生に可愛がってもらって幸せに暮らしています。美代先生はとてもいい人で上野の動物園のパンダにも会わしてくれます。美代先生のように素晴らしい日本人のいる日本国と中国が仲良くすることをパンパンは望んでいます。」

カップラーメン1年分がかかった美代先生は強かった。

「おお! さすがパンパン様だ!」

「美代先生は戦争を止めた歯科医師だ!」

記者は美代先生とパンパンを大いに称えた。

「どうもです。」

「キュル。(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

美代先生とパンパンは喜んでいる。

「たった今、中国から日本国に対し誤解があったと、武装を解除する連絡があったそうです!」

「おお!」

こうして美代先生とパンパンは日中戦争の勃発を止めたのだった。

「やった! これでカップラーメン1年分ゲットだ!」

美代先生の心の声は外に漏れていた。

「ただし中国の条件は日中共同で美代歯科医院のパンパンと上野の動物園のパンダの感動の初対面式を盛大に行うことを希望しているとのことです。日本国政府は日程の調整に入った模様です。」

「おお!」

黒服の男が中国の要求を会場の記者に伝える。

「なに!? そんなことを言われたら、私のカップラーメン1年分がまだもらえないじゃないか!?」

美代先生はガッカリした。

「キュル。(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

パンパンは日本で自分と同じパンダに会えるのが楽しみで嬉しそうだった。

「良かったね、パンパン。シクシク。」

パンパンの本当の飼い主のみなみちゃんは陰のある隅っこで泣いていた。



パンパンと上野の動物園のパンダの御対面当日の美代歯科医院。

「パンパン、今日は仲間に会えるね。」

「キュル。(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

みなみちゃんとパンパンは上野の動物園のパンダに出会えることを喜んでいた。

「みなみちゃん、私も一緒に行かないとダメかな? 面倒臭いんだよね。」

美代先生はパンパンの保護者として初対面式に参加しないといけない。

「なに言っているんですか? 先生。パンパンのためですよ!?」

「キュル!(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

パンパンは明日、遠足に行く子供のように楽しみにしていた。

「ああ・・・楽しくないな。晩餐会にはラーメンが出ないんだよね。パンダなんだから中華街でやればいいのに・・・。」

美代先生にはラーメンが全てであった。

「美代先生!? 何を贅沢を言ってるんですか!? ステーキやお寿司があるじゃないですか!? あんなに美味しいのに。」

みなみちゃんに好き嫌いはなかった。

「キュルキュル。(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

パンパンは2人の会話が楽しくて笑っていた。

「失礼します!」

その時、大勢の黒服の男たちが美代歯科医院に乗り込んできた。

「ギャア!?」

美代先生たちは驚いた。

「パンパン様、お迎えにやって来ました。美代先生とお供の方もご同行してもらいます。」

黒服の男が美代先生たちを迎えに来た。

「え!? なんで私まで!?」

美代先生はズボラなので面倒臭いことは嫌いだった。

「美代先生、今日の手当てのカップラーメンも支給されますよ。」

黒服の男は美代先生対策は完璧だった。

「行きましょう! 山でも川でも、どこへでも!」

美代先生はカップラーメンには弱かった。

「お供でもいいです。みなみも晩餐会に出れるんですね。ウルウル。」

みなみちゃんはステーキとお寿司が食べれると泣いて喜んだ。

「それでは行きましょう。パンパン様。」

「キュル。(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

こうして美代先生たちは黒塗りの高級車に乗り込んで出発した。


つづく。

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