第17話 みなみちゃん2後

ここは美代歯科医院。


「写真を撮れ! 学会に提出するレポートの準備だ!」

「はい! 美代先生!」

「キュル!」


倉朝くんの歯から新種の虫歯を発見した美代先生の野心に火がついた。みなみちゃんはレポートを書き、パンパンは倉朝くんの歯の写真を撮っている。もちろんズボラな美代先生は指示を出すだけである。


「カモがネギをしょってやって来た! バン! バン! バン!」


美代先生のテーマパーク、カモネギの歌である。倉朝くんの歯から新種の虫歯菌を発見した歯科医師は絶好調だった。


「お給料が上がったら、いつものコンビニをやめて、デパートに行って高級マカロンを食べるんだ(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

「キュル!?」

「分かってるわよ。パンパンにも老舗の笹団子を買ってあげるわよ。」

「キュル(⋈◍>◡<◍)。✧♡」


お給料が上がりそうな期待に喜ぶ歯科助手とパンダであった。新種の虫歯を発見すると学会で発表し様々な所で表彰され、テレビ出演に講演会が異常に増え、みなみちゃんに臨時ボーナスが支給されるのだ。


「美代先生! みなみ、どこまでもついていきます!」

「ありがとう! みなみちゃん!」

「キュル!」


新種の虫歯の発見を泣いて抱きしめ合う歯科医師と歯科助手。その光景に感動して涙をハンカチで拭くパンダであった。


「喜び疲れたところで倉朝くん。口を閉じて、一回起こすよ。うがいしてね。」

「・・・。」


そう、倉朝くんはずっと口を開けたままだったのだ。気絶していても不思議はない。歯医者さんでは歯医者さんで働く人の言うことは絶対なのである。


「はあ・・・はあ・・・はあ・・・死ぬかと思った!?」

「じゃあ、死んでみる?」

「殺す気ですか!? 殺人予備罪で逮捕しますよ!?」

「冗談だよ。ハハハハハ!」


倉朝くんが警察官というのを忘れていた歯科医師。しかし美代先生は負けないので権力の乱用だと言い返そうと思ったが、事情が聴けなくなるのは面白くないので言葉を呑み込んだ。


「みなみちゃん、ラーメンにお湯を入れてきて。」

「は~い。美代先生。行こう、パンパン。」

「キュル。」


美代先生の好物はラーメンである。うまい具合に診察室から歯科助手とパンダを追い出した。倉朝くんと美代先生は2人きりである。


「みなみちゃんのどこが好きなの?」


回りくどいことが面倒臭い美代先生はストレートにみなみちゃんなんかのどこがいいのかを倉朝くんに聞いた。


「ええ!? なんで分かるんですか!?」

「だって歯に書いてる。」

「なんだ!? これは!?」


美代先生はパンパンに撮らせた倉朝くんの口の中の虫歯の写真を見せる。歯から愛という感じが生えていた。証拠写真を見せられた倉朝くんは観念した。


「実は・・・。」


なぜ警察官の倉朝くんは歯科助手のみなみちゃんのストーカーをしているのかが語られる。



これは倉朝くん目線の過去の話である。


「事件ですか?」


はじまりは普通だった。警察署で倉朝くんが警察の先輩から事件の内容を伝えられ、事件現場の防犯ビデオの映像を見せられている。


「コンビニですね。」

「最近、万引きが多いらしい。次に百貨店の映像だ。」

「お客さんがたくさんいますね。」

「ここも万引きが多いらしい。次にラーメン屋だ。」

「ラーメン屋ですか?」

「ここは食い逃げだ。」

「今の時代に食い逃げですか?」

「そして全ての映像に映っている要注意人物がこいつだ!」


全ての映像に映っている売り場を行ったり来たりしている手にパンダをのせた怪しい女がいる。


「挙動不審ですね!?」

「あの獲物を狙うような視線!? こいつは只者じゃない! 常習犯だ!」

「それになぜパンダ!?」

「あのパンダは密輸された可能性がある! ワシントン条約違反だ!」

「なんて恐ろしい女なんだ!?」

「まだあるぞ! この女は歯科助手なのに、歯の治療を行っているらしい!」

「医師法違反じゃないですか!?」

「まさに犯罪をするために生まれた女だ!」

「名前は・・・みなみちゃん?」

「偽名だ! どんなに調べても名字が分からないんだ!」


こうして歯科助手のみなみちゃんは凶悪犯の嫌疑がかけられた。警察署をあげて大規模な捜査が行われるかにみえた。


「この女はおまえに任せた。」

「え? 先輩は?」

「俺は民泊に潜伏中のテロリストとの戦いに忙しいんだ!」

「そんな・・・。」


先輩は手を振りながら去って行った。倉朝くんは1人で捜査をしないといけないので大変だなっとガッカリしながら映像の女を見るのであった。


「この女はいったい何者なんだ!?」


映像の中のみなみちゃんは、コンビニで周りをキョロキョロ見たり、百貨店でジッーと商品を眺めたり、ラーメン屋の中の様子を伺っている完全に容疑者の行動であった。



ある日。休日のみなみちゃんを尾行する倉朝くんの目線の物語。


「容疑者とパンダが出てきたぞ!?」


みなみちゃんがワンルームマンションから出てくる。張り込みをしていた倉朝くんは尾行することにした。


「容疑者がコンビニに入って行くぞ!?」


みなみちゃんは近所のコンビニに入って行った。そしてスイーツコーナーをグルグル回っている。


「怪しい!? まさか!? 万引きする気か!?」


みなみちゃんの行動は倉朝くんには挙動不審にみえた。まるで獲物を狙う万引き犯のように周囲の様子を伺っているように見えた。


「容疑者がコンビニを出ていくぞ!?」


結局みなみちゃんは何も買わずにコンビニを出ていった。倉朝くんは再び尾行を続ける。どうやら街の方に向かうようだ。


「容疑者が百貨店に入ったぞ!?」


みなみちゃんはエスカレーターを下りてデパ地下に向かって行く。お目当てのスイーツのコーナーをグルグル回り出す。


「取った!? 決定的瞬間だ!?」


みなみちゃんはデパ地下のスイーツの試食をもらいまくる。倉朝くんには常習犯にしか見えなかった。


「ついに獲物を選んだみたいだな!?」


みなみちゃんの動きが止まった。そしてジーっと獲物を品定めしている。警察官の倉朝くんに緊張が走る。逮捕の瞬間がやってくるかもしれない。


「あれ!? 何も取らずに去って行く!?」


みなみちゃんは何も買わずに売り場を去って行く。何も取らずに去って行き売り場を何度も視察する。万引き犯に多い行動パターンだ。


「ますます怪しい。」


倉朝くんはみなみちゃんの尾行を続ける。今度はラーメン屋さんの前でみなみちゃんが立ち止まった。


「今度はラーメン屋か!?」


みなみちゃんはラーメン屋の前で鼻をクンクンさせている。あくまでも警察官の倉朝くんにはみなみちゃんは怪しく見えるのだ。


「あ!? ラーメン屋に入らずに帰って行く!?」


みなみちゃんはラーメンを食べずに自宅に帰って行った。結局、倉朝くんはみなみちゃんが犯行を犯す現場を見ることができなかった。


「不思議な行動だ!? まさか!? 尾行がバレていたのか!?」


人を疑うのが仕事の警察官の倉朝くんには、みなみちゃんの行動は謎だらけであった。


「聞き込みにでも行ってこよう。」


こうしてみなみちゃんと倉朝くんの尾行ストーカーデートが終わった。警察官が尾行という名でストーカーするのは問題がないのだろうか?


ある日。休日のみなみちゃんを尾行する倉朝くんの目線の物語、終わる。



ここは美代歯科医院。


「ほうほう、まさにみなみちゃんの休日の行動だな。」


倉朝くんの話を聞いて納得する美代先生。普通の21才の女性の行動には到底、思えなかった。


「で、倉朝くんはみなみちゃんを逮捕しに来た訳?」

「いいえ! 違います!」

「あら? 違うの? 面白くないな・・・。」

「あなた雇い主でしょう!?」

「確かにみなみちゃんがいなくなると私も困るんだよね。楽できないから。」


倉朝くんがみなみちゃんを逮捕しに来たのではないと聞いて安心する美代先生。実は本当に楽できないと思っているだけだったりもする。


「尾行の後、みなみちゃんが立ち寄った場所に聞き込みに行ったんです。」

「ほうほう。」


倉朝くんの聞き込みの話が始まる。全ての場所の店員さんがみなみちゃんのことを知っていた。さすがはみなみちゃん。みんなの人気者だった。


「まずコンビニの店員さんに写真を見せて、みなみちゃんについて聞きました。すると店員さんが・・・「みなみちゃんが万引き!? みなみちゃんはそんなことはしないよ! みなみちゃんはお金が無いからコンビニスイーツを買いたくても買えないのさ。」って言うです。」

「うん。みなみちゃんは貧乏だからね。」


コンビニの店員さんの話に納得する美代先生。みなみちゃんは万引きなどしないのだ。ただ眺めているだけである。


「次に百貨店に行って店員さんにみなみちゃんについて話を聞いてきました。」

「ほうほう。」

「百貨店の店員さんが言うには「みなみちゃん!? ああ、あのお客様の名前ですか。来てますよ。毎週、日曜日。デパ地下を1周して試食を食べて帰りますよ。」って言うんです。」

「だろうな。みなみちゃんは給料日に百貨店に行ってスイーツを買って食べるのが唯一の楽しみだからな。」


百貨店の店員さんの話に納得する美代先生。みなみちゃんは月に1度のお買い物でも立派なお客様なのだ。


「最後にラーメン屋の店員さんにも話を聞きました。」

「ほうほう。」

「ラーメン屋の店員さんが言うには「パンダ娘!? いつもパンダを頭に乗せてる子だろ。いつもは年上の女生と一緒に来て奢ってもらってるね。おいしそうに食べてスープまで全部飲んで帰るんだ。いい飲みっぷりだぜ。」だそうです。」

「奢ってるの私だよ! 私!」


必死にみなみちゃんにラーメンを奢る優しいいい人をアピールする美代先生。これで倉朝くんのみなみちゃんの聞き込み話が終わる。


「ということで、みなみちゃんの容疑は晴れました。」

「いや~よかった。よかった。」


みなみちゃんの無罪が確定した。そこにカップラーメンのお湯を沸かし、カップラーメンにお湯を注いで食べる準備ができたので、みなみちゃんとパンパンが美代先生を呼びに来た。


「先生、ラーメンできましたよ。」

「キュル。」

「ありがとう。じゃあ、みなみちゃんは倉朝くんの歯をクリーニングしてあげてね。」

「私ですか!?」

「だってラーメンが伸びちゃうもん。今度、エクレアを買ってきてあげよう。」

「やります! みなみにやらせてください(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

「よろしくね。」

「シュークリームもつけてくださいね(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

「それは知らん。」

「・・・。」

「パンパン、おまえも追いで。」

「キュル。」


こうしてエクレアを手に入れたみなみちゃんは倉朝くんの歯の治療をすることになった。


「あの歯科助手ですよね? 歯の治療をしてはいけないのでは?」

「え? ああ、そうですね。でも私はこれを持っていますから。」

「シークレットライセンス!?」

「もらったんです。」


ジャーンっとみなみちゃんが取り出したのは日本政府公認のシークレットライセンス。ちゃんと内閣総理大臣の名前も入っているのだ。


「もう1つ聞いてもいいですか?」

「なんでしょう?」

「どうしてパンダがいるんですか?」

「パンパンですか? もらったんです。」


ジャーンっとみなみちゃんが取り出したのは中国政府公認のパンダライセンス。ちゃんと国家主席の名前も入っているのだ。


「そうだったのか。」


こうしてみなみちゃんにかけられた全ての容疑ははれた。我らがみなみちゃんの潔白が証明された。


「よろしくお願いします。」

「はい。」


ここに清廉潔白な歯科助手と疑り深い警察官に目に見えない信頼感が生まれたことを2人はまだ気づいていない。


「イスを倒しますね。」

「はい。」


再び歯の治療が始まる。みなみちゃんと倉朝くんの距離は15cm。ついに2人の愛の物語が始まろうとしていた。


「出し惜しみせずに・・・必殺! クリーニング波動砲!」


みなみちゃんの歯の治療技術の1つ、クリーニング波動砲である。一瞬で虫歯を治しきれいな歯にすることができる。便利な必殺技である。


「よし! これでよし。美代先生を呼んでくるので待っててくださいね。」


倉朝くんの歯をきれいにしたみなみちゃんは、ラーメンを食べ終わっているであろう美代先生を呼びに行く。


「確認しますよ。」


そして美代先生が1人で戻ってくる。尺の問題で休憩室のやり取りはカットされた。もちろん倉朝くんはずっと眠ったままだ。


「あ、また歯から愛が生えてきている・・・。」


倉朝くんの虫歯はみなみちゃんに対する愛なので簡単には治らないのであった。そこで美代先生は倉朝くんにアドバイスする。


「今度来るときは、差し入れのシュークリームを持ってくるとみなみちゃんは喜ぶと思うな。」


そう言うと倉朝くんの今日の歯の治療は終わった。美代先生がみなみちゃんに倉朝くんの次回の予約をとるように言う。


「え!? みなみの治療で治ってないんですか!?」

「新種の虫歯なので経過観察かな。」

「そんな・・・みなみに治せない虫歯があるなんて!?」


百発百中のみなみちゃんの歯の治療。治せない方が珍しいのでみなみちゃんは治せなかったガッカリ感がハンパなかった。見かねた美代先生がフォローする。


「倉朝くん、今度来るときはシュークリームを持ってきてくれるって。」

「毎日来てください(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

「は・・・はい。」

「パンパンに笹味のシュークリームもお願いします(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

「はい。」

「よかったね、パンパン。」

「キュル(⋈◍>◡<◍)。✧♡」


エサに釣られる歯科助手とパンダであった。あっという間に倉朝くんのことが大好きになったのだった。


「ありがとうございました。」

「シュークリームお待ちしています(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

「キュル(⋈◍>◡<◍)。✧♡」


倉朝くんは帰って行った。みなみちゃんとパンパンは次回のシュークリームを夢見て、今夜は温かい布団で嬉しそうに眠るのであった。


歯科助手みなみちゃんの15cmの物語でした。


完。


「みなみちゃん、仕事帰りに赤坂でラーメンを食べて帰ろうか?」

「ギョーザもいいですか(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

「いいよ。」

「パンパンに笹味のギョーザも頼んでいいですか(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

「いいけど、行きつけじゃないからそれは無理かな。」

「やった! ラーメン! ギョーザ(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

「キュル(⋈◍>◡<◍)。✧♡」


食べ物を奢ってくれる人はいい人だと思っている歯科助手とパンダであった。将来、事件にでも巻き込まれないか心配である。


おまけ、完。


以上。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る