第16話 みなみちゃん2前
この物語は、歯科医師と歯科助手とパンダに、今回からストーカーを合わせた、心温まる物語である。
「私はカワイイ、みなみです~♪」
「キュル~♪」
世間から白い目で見られることも気にせず歌を歌いながら笑顔で楽しそうに生きている成人女子と合いの手を入れるパンダがいた。
「やめろ! この始まり!」
「キュル!」
「これでは、みなみがアホみたいじゃないか!?」
「キュルキュル!?」
決して自分はアホキャラではないとアピールする成人女子と、実は飼い主のことをアホと思っているパンダであった。
「いつか天罰が下るわよ(⋈◍>◡<◍)。✧♡」
この誰に話しているのか分からない独り言の多い成人女子が、この物語の主人公、みなみちゃんである。そういえば名字は秘密。
「キュル(⋈◍>◡<◍)。✧♡」
飼い主を飼い主とも思っていないパンダが、みなみちゃんのペットのパンダ、パンパンである。入手方法は秘密。
「キュル。」
「ダメよ、パンパン。お菓子はあげませんよ。」
「キュルキュル。」
「遅刻しちゃう!? 急がなくっちゃ!?」
パンパンはみなみちゃんの手を引っ張るが、出勤時間に遅れそうなみなみちゃんはパンパンを邪険に扱う。そして走って勤務先に向かうのだった。
「キュル。」
パンパンは後ろを振り返る。電信柱に不審そうな男性がいた。コソコソと忍者走りでみなみちゃんの後をついてくるのだった。明らかに不審者であった。
ここは美代歯科医院。みなみちゃんの勤務先である。
「1万5000字以下で、男女と15cmをテーマに物語を書け? 文字数が少なすぎて無理だろう。ふわあ~。」
この朝から欠伸をして眠そうでやる気が無いズボラな歯科医師が美代先生である。長いので美代先生の経歴は省略。
「おはようございます! 美代先生!」
「キュル!」
「おはよう。みなみちゃん。パンパン。」
出勤時間ギリギリでみなみちゃんが汗だくで飛び込んできた。美代先生はいつものことなので冷静に対応する。
「直ぐに着替えてきます!」
みなみちゃんは超特急で更衣室に駆けこんだ。残されたパンパンは美代先生に耳を貸すように手を招き猫のようにコイコイとアピールする。
「ん? なに? パンパン?」
「キュルキュル。」
「ほうほう。」
「キュルキュル。」
美代先生は耳をパンパンに近づける。パンパンはヒソヒソ話のように美代先生の耳に囁く。いつの間にか美代先生もパンダ語が理解できるようになっていた。
「ストーカー!?」
美代先生は驚いた。パンパンガ言うには、最近みなみちゃんの周りに変な男性が後をついて来ると言うのだった。飼い主の危機を心配して、周囲に伝える良くできたパンダであった。
「おもしろい!」
「キュル?」
「あのみなみちゃんにストーカーするとは、なんと命知らずな!」
「キュル・・・。」
ニタニタ不気味に笑う歯科医師。相談する人間を間違えたと思うパンダであった。そして噂をしているとストーカーがやって来た。
「あの・・・歯を見てほしいんですが?」
ストーカーは一般成人男子で何の面白さも感じさせないキャラクターだった。学生? 社会人? まさか高校生? 憶測が憶測を呼ぶ。
「どうもです。青年よ、これを書いて。」
美代先生は興味津々であった。ストーカーに受付表を渡し、ストーカーの名前や年齢などのプロフィールを確認しようとするのだった。
「先生! ダメですよ! うちは飛び込みのお客さんはお断りなんですから!」
そこに白衣に着替え終わったみなみちゃんが帰ってきた。なぜみなみちゃんが怒るかというと、美代歯科医院は政治家やセレブ御用達で、貧乏人は1日1人しか見ない完全予約制の歯科医院だった。
「まあまあ、そんなに怒らないで。」
「またダブルブッキングしたら知りませんよ!」
「大丈夫! 今日は昼から国会議事堂の歯科当番だから午前中は問題ない!」
「ガーン!? 遅刻してよかったのか!? 走って損した・・・。」
「アホ! 遅刻するな!」
「キュル。」
美代先生の肩書その1。日本国の総理大臣の歯を治療したことがあり、お礼に国会議事堂の臨時の歯科医師に任命されたのだった。そんなカワイイみなみちゃんを見てドキドキしているストーカーがいた。
「書けました。」
「どうもです。なになに名前は倉朝くんと、年齢は25才、職業は社会人と。」
職業を正式に書いていなのを見て美代先生は疑わしい目でストーカーを見つめる。しかし美代先生は余裕だった。ちなみに倉朝くんとは、今後みなみちゃんと万が一、結婚した場合に朝倉みなみにならない非常手段である。
「倉朝くん。保険証を持ってる?」
「はい。」
そう、保険証を見ると番号が書いてあり、相手の職業が分かるのだ。現実の歯医者で働くきれいなお姉さんは男チェックによく確認しているのだ。
「33番・・・警察共済組合組合員証・・・こいつ!? こんなに頼りなくて警察官だというのか!?」
日本の将来が心配だと思った歯科医師だった。しかし、なぜ警察官がみなみちゃんなんかを好きになる? まだまだ面白そうだと興味津々の美代先生だった。
「はあ!? まさか!? みなみちゃんは貧しさの余りに食い逃げ!?」
「キュル!?」
「美代先生とは違います! パンパン! おまえも調子を合わせるな!」
みなみちゃんは歯科医師を目指すも実家は貧乏だった。医大の奨学金特待生を狙ったがコネがないので落選。ちなみに美代先生は奨学金特待生に合格した。
「はあ!? まさか!? みなみちゃんは貧しさの余りに万引き!?」
「キュル!?」
「話が進まないので、この件はやめて下さい。」
みなみちゃんも2が出るぐらいなので、美代先生とパンパンの扱いに慣れていた。雇ってもらっている恩はあるが悪ふざけに2度も付き合わない。
「で、倉朝くん。みなみちゃんは何をしたの?」
「え? 何もしてませんが。」
「なんだ、そうなの。ちっ、つまらない。」
「キュル。」
「みなみは犯罪者じゃありません(⋈◍>◡<◍)。✧♡」
みなみちゃんは逆境に負けない強い女性です。ズボラな美代先生はみなみちゃんの潔白が証明されると倉朝くんに興味がなくなった。
「みなみちゃん、歯を見てあげて。」
「え!? 私ですか!? 先生が受け付けたんですから先生が見てくださいよ。」
「私、雇い主。みなみちゃん、雇われてる人。」
「う!? それを言われると・・・。」
「じゃあ、後はよろしく。」
「あ!? 逃げた!?」
そう言うと美代先生は休憩室に一目散に走って逃げた。これが今時の美代歯科医院の日常の光景だった。
「まったく! 美代先生め!」
「キュル!」
「パンパン、調子がいい。」
「キュル・・・。」
雇われている立場の弱いみなみちゃんは真面目に働きたくない美代先生の尻拭いばかりしているのだった。おまけのパンダにも困ったものである。
「倉朝さん、診察室へどうぞ。」
「はい。」
諦めて自分で患者さんの歯を見ようとみなみちゃんは患者さんを診察室に案内する。もちろんパンダもトコトコとついていく。
「診察台に座ってください。前掛けをしますよ。イスを倒しますよ。」
「はい。」
「キュルキュル。」
歯医者さんでの普通の流れである。面白くないのでパンダのドジョウ掬いでも楽しんでいてもらおう。
「は~い、口を大きく開けてくださいね。」
「あ~ん。」
15cm、キター!!!!!!!!
歯医者さんに行き、女医さんや女性の歯科助手さんがお客さんの歯を見る時の距離が15cm。ワクワク、ドキドキの15cmである。
妄想1。
歯科助手のみなみちゃん目線で15cmを楽しんでみよう。
(警察官! 公務員! 安定した生活! 私は仕事を辞めることができる!)
病院関係で働く人は結婚相談所に行かなくても、患者さんの保険証で相手のステータスを知ることができる、みなみちゃんはおいしい職業なのだ。
(貧乏から脱出できる! セレブ一直線! カモがネギしょってバン! バン! バン! ・・・カモネギの歌は美代先生の十八番だった。いつの間にか美代先生菌に感染したのかな?)
貧乏なみなみちゃんは憧れの公務員との結婚が手の届く所にやってきた。こんなおいしいチャンスを見逃す訳はなかった。
「うっしっし。」
「どうかしましたか?」
「え!? 独り言です。お口の中を見ますね。」
「お願いします。」
みなみちゃんが倉朝くんの歯を覗き込んだ。ちなみに歯科助手は歯の治療行為は禁止であるが、みなみちゃんは日本政府公認のシークレットライセンスを持っている最強の歯科助手である。
(どうしよう!? おっぱいを当てて、みなみアピールをするべきか!?)
説明しよう。普通に治療すると女医さんや歯科助手さんのおっぱいは当たらない。しかし、女医さんや歯科助手さんが患者に関心があるとほぼ確実に当ててくる。子供は歯医者さんが嫌いかもしれないが、大人は歯医者さんが大好きである。
(きっと治療が終わったら、みなみはナンパされて、公務員の奥様になるのね!? そして毎日銀座のデパートで旦那の税金からの給料でデパ地下通い!? そしてスイーツを買いまくりブクブクとフグのように太って、お芝居を見て優雅に暮らすのね!?)
みなみちゃんは涎を垂らしながらだらしない顔で歯を削る機材を手に持っている。そして公務員の妻の座を狙って攻撃を開始する。
(くらえ! みなみのおっぱいアタック!)
みなみちゃんは胸を患者の倉朝くんに当てようと前かがみになる。これで男はイチコロである。みなみちゃんは公務員と結婚するのだ。
(しまった!? みなみには・・・胸がない・・・。)
そう、みなみちゃんはAかBカップの貧乳である。家が貧乏で牛乳やチーズを十分に摂取してくなかったのだ。例え、男をゲットしたくても、巨乳でない歯科助手のみなみちゃんには意味のない方法だった。
(ガーン・・・。)
自分に胸がないことを恨む歯科助手であった。
妄想2
患者の倉朝くんの目線で15cmを楽しんでみよう。
(みなみちゃん、かわいいな。)
やっぱり倉朝くんはみなみちゃんが好きなのだ。2人の距離は歯の治療とはいえ15cm。手を伸ばせば届く距離にいる。しかも診察室は2人きりの密閉空間。抱きつこうが愛の告白をしようが邪魔する者はいない。
(ドキドキする!? 顔が近づいてくる!? 目、目は開けてていいのだろうか!?)
気持ち悪い。これが歯科助手さんの一般的な意見である。歯医者さんに行ったら治療中は目を閉じるのが礼儀である。
(きっとみなみちゃんは、僕が公務員だからとかは気にしない子に違いない!)
歯科助手さんは一般女子なので、ほぼ9割の患者さんの社会的ステータスに興味がなく、公務員であっても生理的に受け付けない不細工が多い。
「うっしっし。」
「どうかしましたか?」
「え!? 独り言です。お口の中を見ますね。」
「お願いします。」
みなみちゃんが倉朝くんの歯を覗き込み治療を始めようとする。みなみちゃんは必死に胸を押し当ててアピールするが残念ながら押し当てる胸を持っていなかった。
(さすがみなみちゃん。わいせつ行為もしないんだ。真面目に働いている歯科助手さんなんだ。)
ますます倉朝くんはみなみちゃんのことが気に入ったのであった。口の中を見られるという行為は考え方を変えれば裸を見られるより恥ずかしいのだ。
「それでは治療を始めますね。」
「はい。」
お互いに気づいていないだけで、みなみちゃんと倉朝くんの目的は同じであった。しかし、恋愛や愛というものは言葉にして相手に気持ちを伝えるまで物語は始まらない。
普通? 期待される15cmコン的なものには触れたので、ここから「独自」の本編に戻ろう。
「ギャア!?」
「!?」
「キュル!?」
倉朝くんの歯を見たみなみちゃん大声をあげて仰け反った。いったい倉朝くんの歯に何を見たのだろう。ちなみに治療中の倉朝くんは声も出せなければ一歩も動けない。
「うるさいな。今更みなみちゃんが驚くような虫歯もないでしょうに。」
悲鳴を聞いて面倒臭そうに美代先生が診察室に入ってきた。ちなみにみなみちゃんが今までに出会った虫歯は、葉からチョコキノコが生えたり、虫歯ランド遊園地を建設している綾ちゃんという強者がいた。
「せ、先生!? また新種の虫歯菌ですよ!?」
「大袈裟な。そんなのもうないでしょう。倉朝くん失礼するよ。どれどれ。」
うろたえているみなみちゃんを下がらせて、美代先生が倉朝くんの歯を見ることになった。果たして倉朝くんの虫歯とは!?
「愛!? 愛が生えている!?」
愛。倉朝くんの虫歯の正体は愛だった。歯から愛が生えているのだ。こんな虫歯は美代先生も見たことがない。
「バカな!? 歯から漢字が生えるなんて!? こんなことがあるのか!?」
「でしょ!? でしょ!?」
「キュル!?」
1家に1匹パンパンのような合いの手パンダが欲しい。ぬいぐるみ売ったら丸儲けだろう。貧乏なみなみちゃんにお金を稼ぐアイデアは縁がなかった。
「新種だ! また学会で発表できるぞ!」
「おめでとうございます(⋈◍>◡<◍)。✧♡」
「キュル(⋈◍>◡<◍)。✧♡」
ちなみに美代先生は世界を虫歯パンデミックから救った国連名誉歯科教授である。もちろんノーベル平和賞や国民栄誉賞も受賞している。歯科医師は世界を救うのだ。(本当は世界を救ったのは歯科助手のみなみちゃんである。)
「これで名声とお金がガッポリだ!」
「みなみの給料を上げてください(⋈◍>◡<◍)。✧♡」
「キュル(⋈◍>◡<◍)。✧♡」
「いいよ。」
「やった(⋈◍>◡<◍)。✧♡」
「キュル(⋈◍>◡<◍)。✧♡」
飼い主の給料が上がれば自分のエサも良くなると喜ぶパンダであった。そしてロッカーから番傘を取り出し、パンダを上空に放り投げて、傘の上で回して喜ぶ歯科助手。
「いつもより長く回しております(⋈◍>◡<◍)。✧♡」
「キュルキュル(⋈◍>◡<◍)。✧♡」
美代先生のお供をしていて身についた曲芸である。この賑やかな間も倉朝くんは横になって口を開けたまま動けないのだった。
つづく。
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