第13話 虫歯パンデミック

「どうもです~♪」


美代先生が多くの記者に囲まれている。カメラのフラッシュが美代先生を包む。記者は外国人も多く、テレビ中継は全世界に配信されている。


「美代先生、世界を救われた気分はいかがですか?」


なに!? 美代先生が世界を救った!? 訳の分からない質問であった。


「んん・・・いわゆる一つの、どうもです~♪」


美代先生は、珍しく白シャツにスーツを着ている。初めての試みである。


「ドキドキする!?」

「キュルキュル!?」


いつも、飲んだくれて酔っ払っていたり、桜吹雪を巻いている、みなみちゃんとパンパンも珍しく、礼装をしている。パンダの礼装はカワイイのだろうか?


「どうもです~♪」


美代先生は、代表の国連事務総長から感謝状を受ける。世界を滅亡から救ったことに対して、美代先生は、世界中から賛美を受ける。


「ボケの無いオープニングで楽しいのかな?」

「キュル?」


この物語は、世界を救った歯科医師と、ボケの無いオープニングを心配する助手とパンダの、世界を救う奇跡の物語である。



恐怖の大魔王ならぬ、恐怖の女王さまが現れた。


「綾、ご飯よ~♪」


ここは細菌娘こと、綾ちゃんの自宅である。綾ママが、朝ごはんの支度をしていた


「ワ~イ~♪ ご飯~♪ ご飯~♪」


綾は、ご飯を食べるために食卓にやって来る。お父さんと弟が座っている。綾ちゃんは、綾ママも入れて、4人暮らしである。


「綾、もう高校生なんだから、はしゃぐのはやめたらどうだ?」

「いいじゃん、はしゃぐしか取り柄が無いんだから。」

「そうだよ。お姉ちゃんは、まともになった方だよ。」

「弟よ、おまえは、お姉ちゃんの何を知っているんだ?」


綾ちゃんの家は、明るく楽しそうだった。


「はい~♪ 今朝はハンバーガーよ~♪」

「ワ~イ~♪ ハンバーガー~♪ ハンバーガー~♪」


朝食のメニューは、ハンバーガーだった。綾ちゃんは大好きなハンバーガーの登場にはしゃぎまくる。


「どうぞ、お召し上がれ~♪」

「いただきます。」

「おいしい。」


綾パパと弟は、普通にハンバーガーを食べていた。


「いただきま・・・あ!?」


綾ちゃんが食べようとした時に、何かに気づいた。


「レタスとトマトが入っている!?」


綾ちゃんは、野菜が大嫌いな女の子だった。


「綾、もう女子高生なんだから、好き嫌いはするな。」

「お姉ちゃん、本当に野菜嫌いだな。」


綾パパと弟は呆れる。


「トマトとレタスを抜いたら、ただの肉パンになってしまう!?」


綾は、朝からテンションが下がる。


「大丈夫よ~♪ 綾には、スペシャルハンバーガーを用意してあるから~♪」


綾ママは、娘の好き嫌いを把握している。


「さすが、お母さん~♪」


綾も、自分の母親が、どんな料理を得意なのか、知っている。


「今日のは、力作よ~♪」


綾ママが厨房から、笑顔でスペシャルハンバーガーを持ってくる。


「じゃじゃーん! 綾専用、おやつのハンバーガーよ~♪」

「ワ~イ~♪ すごい~♪」


一見、見た目は普通のハンバーガーである。


「食べてみて~♪」

「いただきます~♪」


綾がハンバーガーを食べた。肉汁と何かが流れてきた。


「おお!? これは、チョコレート~♪」


ハンバーガーを食べたら、チョコレートと肉汁が流れてきた。


「野菜嫌いの綾のために、トマトとレタス、それにタマネギのみじん切りを、チョコレートで作ったのよ~♪」


綾ママは、おかずをおやつで作る「おかずおやつ」という、新ジャンルのカリスマ料理人である。SNSやインスタグラムに投稿し、全世界に数100万のファンを持つ人気者であった。


「さすが、お母さん~♪」


綾ママは、ハンバーガーを食べて、肉汁とチョコレートを口からこぼす、娘の写真を携帯電話のカメラで撮る。


「おいおい、あんまり綾を甘やかせるなよ?」

「お父さん、言うだけ無駄だよ。この母親に、この娘ありだよ。」

「そうだな。」

「僕たちが、しっかりしとこう。」


綾パパと弟は、綾と綾ママのことは、諦めている。


「きっと、これも全世界で、たくさんの人に食べてもらえるわ~♪」


綾ママは、写真を投稿するだけでなく、おかずおやつのネット販売も行っていた。


「この前のチョコキノコとチョコチキンは、すごく売れたね~♪」

「アメリカ、ヨーロッパ、中国、ロシア、中東、アフリカ、全世界から注文がきたもんね~♪」

「今回のチョコバーガーなら、販売記録の更新は、間違いないよ~♪」

「ありがとう~♪ 期待しててね~♪」


綾ちゃんの朝は、いつもこんな感じだった。


この時は、まだ誰も気にしていなかった。まさか綾ちゃんの家から、新種の虫歯の細菌が全世界にバラまかれていることを・・・。



美代歯科医院に、朝がやって来る。


「おはよう。」

「おはようございます。美代先生。パンパン。」

「キュルキュル。」


いつものように挨拶をする。


「美代先生。」

「なに?」

「みなみちゃんの2って、考えなくていいんですねよね?」

「いいんじゃない? お仕事コンテストって、あっても、1年1回だし。よくあるお仕事小説っって、題材のお仕事が違うだけで、やること一緒でしょ? おもしろくないよね。」

「そうですよ!? そのために、わざわざ私が職場でいじめられる話を作るなんて、あんまりです!?」

「キュルキュル!?」


みなみちゃん2は考えなくていいという設定。もし書いても、1年後だね。素人作家が有名作家になったら、書いている小説、全て拾われるんだろうけど、契約作家じゃないので、みなみちゃんも商品化にならず。ないと思うが、将来に期待しよう。素人のオリジナル創作アイデアをパクる、作家モドキ。最低・・・。


「ごめん、ごめん。お仕事コンテストのディテールを読んだら、リアルな職場ってあったから、学校から引き続き職場でも、いじめってあるんだよってことで。」

「みなみがフィクションだから、いいですよ? 実際に性格の悪い先輩に出会ったら、会社を辞めるまでいじめられるんですよ。家賃払えません!?」

「まあまあ、もう、この話つなぎで、みなみちゃん1も終わるみたいだから、考えずに、字数制限なしの、中身無しで緩い日常モノに仕上げよう。」

「そうですね。みなみの疲れた心が癒されます~♪」

「そうだね。虫歯からチョコバナナが生えてくるとか、最初の掴みはOKだけど、ドラマ化するにも、CGの制作に費用がかかるんだよね。」

「お金かけなくても、みなみとパンパンのコロコロ笹食いね! な日常と、ダラダラ美代先生のラーメン日記とかで、十分、楽しいですよ~♪」

「ダラダラで悪かったね・・・。」

「キュルキュル~♪」


気楽に書いていると、話をテンポよく進めなくても、日常会話だけでもいいな。こんなアットホームな職場がいいな。


「普通は、みなみちゃんが新入社員で、勉強したり、悩んで葛藤したり、乗り越えて成長したりするんじゃないかな?」

「ええ!? 今まで、それ全部、がんばってやってきましたけど!?」

「・・・そうだね。」

「はい~♪」

「キュル~♪」


確かに、前半のコミカル&パロディ路線から、後半は、お仕事環境を盛り込んだ気がする。おもしろい物語を書こうと思うと、新スキル、新アイデアなどの実装あるのみである。インフレするのは仕方がない。


「先生、今日のスケジュールは、午前中に予約のお客さんが1名。午後から渋谷大学病院で、初講演会です。クス~♪」

「キュル~♪」

「ああ!? パンダにまで、笑われた!?」


ついに美代先生が大学で講演会をする地位まで上り詰めた。


「パンパンガ笑うのも仕方ないですよ。ズボラな先生が、こ、講演会なんて~♪」

「キュルキュル~♪」

「私だって、講演会なんて、やりたくないよ。でも、綾ママのチョコバナナを取り除いてから、病院の経営が良くなってきたらしいんだ。」


それまでは、大学病院の院長の息子、ハチ太郎の医療ミスが続き、病院の評判と経営は下がり続けていた。


「そりゃそうですよ。虫歯から生えたチョコバナナという、新種の細菌を取り除ける技術がある病院ということで、今、渋谷大学病院の歯科は、おきゃくさんが大量に押し寄せて、大忙しらしいですよ~♪」

「私は、見世物パンダになりたくないな・・・。」

「キュル!?」

「先生、パンパンに失礼ですよ!?」

「パンパン、ごめん。」

「キュル。」


美代先生は、パンダにも、ちゃんと謝る。


「あ、そうだ。昼から大学病院に行ったら、パンパン専用の竹林のお庭が完成しているぞ。」

「キュル。(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

「パンパン、ここで、お留守番するか?」

「キュルキュル!?」

「講演会に一緒に来るか?」

「キュル。(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

「よかったね、パンパン。」

「キュルキュル。(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

「パンパン、誰かさんソックリ・・・。」

「みなみのペットですから~♪ あはははは~♪」

「キュルキュル~♪」


これからのドラマには、CGかぬいぐるみでマスコットキャラクターが必要だね。ダメならアニメしかない。ディテール発表前に、パンダのパンパンを書いてしまったので、仕方がない。キャハ。(⋈◍>◡<◍)。✧♡ それを創作する、愚かさか、奇跡か。


「じゃあ、今日も1日がんばりましょう。」

「おお!」

「キュル!」


こうして朝礼が終わる。


「みなみちゃん、お茶をよろしく。」

「はい。先生。」


みなみちゃんは、お茶を入れに行く。これもパワハラと言えば、パワハラか?


「なにか、おもしろい番組はやってないかな?」


美代先生は、横に寝転がり、リモコンでテレビをつける。


「みなさん事件です! 世界滅亡の危機です! 世紀末がやってきました!」


テレビのアナウンサーがうるさい。


「全世界に未知のウイルスが広まっています! 新種の細菌と言えばいいのでしょうか!? 」


そこに、お茶を3人分用意した、みなみちゃんとパンパンが戻ってきた。


「ありがとう。」

「先生、なんだか世間は騒がしいですね。」

「キュル。」

「うちのお茶と笹団子を毎日食べるパンダの方が、よっぽど新種だけどね。」

「止めてください!? バレたら保健所がうるさそうです!?」

「キュルキュル。」

「パンパンは、みなみとずっと一緒だよ~♪」

「キュル~♪」

「バカ飼い主とバカペットだな・・・。」


美代先生は、みなみちゃんの入れてくれた湯飲みのお茶を飲む。


「今日は、特別ゲストに国際連合の専門機関である、世界保健機関、通称WHOから、事務局長にお越しいただきました。」

「事務局長です。」

「早速ですが、事務局長。今回のパンデミックをどう思いますか?」

「そうですね。全くの謎です。いままでインフルエンザやコレラ、天然痘、エイズとは、まったくの違うケースです。」

「まさか、このまま世界が滅んでしまうなんてことは無いですよね!?」

「世界が「虫歯」に滅ぼされようとしています。」

「ブウウウウウ!?」


美代先生は、飲んでいたお茶を口から吐きだした。湯飲みを手から床にこぼし、湯飲みに入っていたお茶がこぼれていく。


「む、虫歯!?」


美代先生は、イヤな予感しかしない。顔の表情は引きつり体が勝手に震えてくる。


「虫歯で世界が滅びるなんて、バカバカしいですね。」

「キュル。」

「笹団子おいしいです。(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

「キュルキュル。(⋈◍>◡<◍)。✧♡」


みなみちゃんとパンパンは、虫歯で世界が滅びるなど他人事で、目の前にある、笹団子とお茶を飲んで、顔は微笑んでいる。


「事務総長、今回の虫歯のディテールはなんですか?」

「正確なことはまだ分かりません。」

「未知の病原菌ということですね!?」

「はい、見たことありません・・・歯にチョコバナナが生えてくるなんて。」

「ブウウウウウ!?」

「キュル!?」


世界を滅亡に導くパンデミックの正体は、歯からチョコバナナが生えてくるという伝染病だった。みなみちゃんは、口からお茶を噴き出し、パンパンも口から笹団子を噴き出す。


「チョコバナナ!?」

「キュル!?」


先程まで、楽しくお茶と笹団子を食べていた姿はない。美代先生同様、みなみちゃんとパンパンもイヤな予感しかしなかった。


「先生、これって・・・綾ちゃんのチョコバナナですよね?」

「だろうね・・・。なんで世界中に伝染病のように広まってるんだ!?」

「キュル!?」


世界を滅亡のパンデミックに陥れている、新種の病原菌の正体は、綾ちゃんのチョコバナナだった。


「私は何も知らない。」

「みなみも知りません。」

「キュル。」


美代先生は、テレビをリモコンで消した。無関係を装うつもりだった。関わってしまったら、自分も巻き込まれるのではないか? と自分の身を心配しているのである。


「たまには、お客さんでも、出迎えに行って来るか。」

「私、掃除しておきますね。」

「キュルキュル。」


そして2人と1匹は、普通の生活に戻って行った。


この時、美代先生たちは、まだ知らない。世界に広がるパンデミックが、チョコバナナだけではないことを。そして、自分たちの運命を。



「ただいま。お客さんを連れてきたよ。」


美代先生がお客さんと一緒に帰ってきた。


「いらっしゃいませ。」

「キュル。」

「よろしくお願いします。」


みなみちゃんとパンパンが笑顔でお辞儀して、お客さんを迎え診察室に案内する。美代先生や、みなみちゃんは、お客様とは言わない。フレンドリーなのか、ズボラなのか、その方がお客さんとの距離が近く感じるからかもしれない。


「じゃあ、後よろしく。」

「先生、連れてきたんなら、最後までやってくださいよ!?」

「キュル!?」

「もう、疲れたんだ。みなみちゃんやってよ。経営者、命令。」

「先生、それはパワハラです・・・。」

「キュル・・・。」


そう言って、美代先生は休憩室に消えて行った。


「プンプン!」

「キュル!」

「もう、先生ったら・・・。私がやるしかない! 行こう、パンパン。

「キュルキュル。」


みなみちゃんとパンパンは、怒っているが、お客さんを待たせるわけにはいかないので、お客さんの治療を始めようとする。


「はい、口を開けてください。」

「はい。」


口の中を覗く、みなみちゃん。


「きれいな歯ですね。これなら歯のクリーニングをするだけで大丈夫ですね。」


これを予防歯科と言う。


「よろしくお願いします。」

「はい。じゃあ、イスを倒して横にしますね。」


お客さんのイスがリクライニングして、ベッド状態になる。


「みなみ、いきます!」


みなみちゃんの治療が始まった。本当は歯科助手は、歯の治療行為はできないのだが、みなみちゃんは、日本政府公認のシークレットライセンスを持っているので、お客さんの歯を治療することができる。


「終わりましたよ。」

「まあ~♪ きれい~♪」


みなみちゃんの治療は、数分で終わった。鏡を見るお客さんの歯は、鏡に自分の姿が映るくらい真っ白に輝いていた。


「先生を呼んでくるので、待っててくださいね。」


みなみちゃんは、休憩室の美代先生を呼びに行く。


「先生、確認を、お願いします。」


休憩室では、美代先生が原稿を読んでいた。


「何やってるんですか?」

「キュル?」

「え? 講演会のスピーチの練習。」


美代先生は、美代先生で初めての講演会なので、緊張していた。ズボラで、普段、何事もなく、お金が儲かり、平和に暮らせればいいと思っている美代先生には、講演会などは、大役なのだ。


「そんなことはどうでもいいので、早くお客さんを診てください!」

「どうでもよくないでしょ!? 私は、こういうの苦手なんだから!?」

「お客さんを優先してください!」

「ニャア!?」

「キュルキュル。」


みなみちゃんは、美代先生の首根っこをつまんで、診察室に連れて行く。その光景を見て笑うパンダ。


「はい、健康な歯ですよ。お疲れ様でした。」

「先生、ありがとうございました。」


お客さんは、医者と言うだけで、何もしていない美代先生にお礼を言う。


「お嬢さんもありがとう。カワイイパンダちゃんも。」

「お気をつけてお帰り下さい。(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

「キュル。(⋈◍>◡<◍)。✧♡」


今日のお客さんは、笑顔で帰って行った。みなみちゃんは、自分みたいな歯科助手にも、丁寧にお礼を言ってくれる、ステキなお客さんが大好きだ。おいしい食べ物を奢ってもらうのと同じくらい好きである。


「いい、お客さんだったね。」

「はい。心の温かいお客さんがいてくれるから、ズボラな美代先生の態度にくじけそうになっても、辞めようと思っても、何とかやっていけるんですよ!」

「キュル!」

「大袈裟な・・・。」


みなみちゃんは、歯科助手と仕事に、やりがいを持っている。試験に落ちて、歯科医師にはなれなかったけど、歯に関わる仕事が、自分の天職だと、みなみちゃんは思っている。


「わかった。大学病院に行くまでに、ラーメンを食べて行こう。」

「おごってくださいね! (⋈◍>◡<◍)。✧♡」

「おごるよ。」

「大盛りでもいいですか? (⋈◍>◡<◍)。✧♡」

「いいよ。」

「おかわりもしますよ! (⋈◍>◡<◍)。✧♡」

「みなみちゃんが食べたいだけ食べていいよ。」

「やった! (⋈◍>◡<◍)。✧♡」


これが美代先生の正しいみなみちゃんの飼いならし方である。


「美代先生、カバンは私が持っていきますね~♪」

「ありがとう。」

「早く行きましょう~♪ 渋谷でラーメン食べ放題~♪」


みなみちゃんは、歯科助手なので、月給平均は、16万円。アルバイトよりはマシなのだが、正社員で1か月働いても、仕事をしないで遊んでいる五体満足の生活保護受給者の不正な若者と変わらないのだ。みなみちゃんは、ご飯を奢ってもらえる時が、1番楽しいのだ。


「パンパン、君のご主人様は、分かりやすい性格だね。」

「キュル。」


美代先生のコミュニケーション能力は、言葉の通じないパンダとも分かり合える。


「ああ、行っちゃった・・・。パンパン、窓のカギを閉めてきてね。」

「キュル。」


こうして美代歯科医院の戸締りをして、渋谷の街でラーメンを食べて、午後からの渋谷大学病院の講演会に向かう。



「こ、これは・・・。」


美代先生は、目を疑った。


「誰もいない!?」


渋谷の街から人が誰もいなくなっていたのだ。


「私の昼ご飯・・・。」


ラーメン屋だけでなく、和食店に中華店、コンビニまで閉まっている。


「キュル・・・。」


もちろん、笹団子屋さんも閉まっている。


「お腹空いた!」


みなみちゃんは、ご飯が食べれないと美代先生のカバンを投げ捨てた。


「コラ!? 私のカバン!?」


美代先生は、慌ててカバンを取りに行く。


これがパンデミックだ。世界中で広まった、虫歯の新種の細菌「チョコキノコ」。美代先生たちがテレビを消した後に、日本政府は、外出禁止令を出した。また、お腹が空いていない時に、不用意に食料を食べることも禁止したのだ。



「あ、張り紙が貼ってある。」


美代先生は、ラーメン屋のシャッターに張り紙を見つけた。


「なになに、日本政府から、新種の細菌「チョコキノコ」が落ち着くまでは、営業禁止になりました。パンデミックの終了まで、店を休業します。」


パンデミック恐るべし。


「私のラーメンが!?」

「みなみのお昼ごはんが!?」

「キュル!?」


パンダもお腹が空くらしい。美代先生は、大好きなラーメンが食べれなくて、ショックを受ける。みなみちゃんは、美代先生のおごりで、お昼ごはん代がうくと思ったのに当てが外れて、大ダメージを受ける。


「すごいな、これが綾ちゃんの細菌の実力か・・・。」

「先生、感心しないでくださいよ。」

「キュル。」


ラーメン屋は、パンデミックが長引けば、営業できなくなり、潰れてしまう。これがパンデミックのドミノ倒しだ。地球は、マンモスが絶滅した氷河期のような、危機を迎えている。


「そうだ!?」


美代先生が何かを思いだした。


「大学病院の食堂なら、ラーメンが食べれるかもしれない! 確か、災害時の指定病院のはずだ! 緊急事態の時のために、非常食として、カップラーメンを大量に備蓄しているはずだ!」

「おごりですよね? (⋈◍>◡<◍)。✧♡」

「もちろん! 私は大学病院の若奥様だぞ!」

「やった~♪ (⋈◍>◡<◍)。✧♡」

「キュル~♪ (⋈◍>◡<◍)。✧♡」


美代先生にとって、世界のパンデミックで、人が消えることよりも、ラーメンが食べれないことの方が問題で、みなみちゃんにとって、非常食であろうが、美代先生の奢りで、ラーメン食べ放題を確保することの方が大切なのである。パンパンも元気になった、みなみちゃんを見てうれしい、さらに備蓄に笹団子があると、もっとうれしい。


「いくぞ! ラーメン!」

「ラーメン食べ放題、復活! (⋈◍>◡<◍)。✧♡」

「キュル(⋈◍>◡<◍)。✧♡」


美代先生たちは、絶好調である。一同は、渋谷大学病院の食堂を目指して、笑顔で駆けていくのだった。


つづく。

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