第12話 同僚がキタ
「どうもです~♪」
美代先生が、桜の木の着ぐるみを着て、大勢のマスコミに囲まれている。
「美代先生、お花見を一緒にしたい芸能人1位になった気分はいかがですか?」
ここは桜の名所。桜が満開で、桜の花びらが、少しだけ風に揺られて舞い散る。
「んん、いわゆる一つの、どうもです~♪」
いつからだろう? 美代先生がこんな風になったのわ?
「パンパン、もうちょっと、右、右。」
「キュルキュル。」
まだ3月。当然、桜なんかは咲いてない。桜の木に登り、桜吹雪を降らしている、助手のみなみちゃんとパンダのパンパン。
「いつもなら、桜を見ながら、お酒を飲んで酔っ払っている設定なのに!?」
「キュルキュル!?」
2人は、文句を言いながらも、大好きな美代先生のために頑張るのさ。
「どうもです~♪」
これは着ぐるみを着てでも、セレブになりたい歯科医師と、生きていくためには、そんな先生にでも付いていく歯科助手とペットのお話である。
「ワ~イ~♪」
「みなみちゃん、楽しそうだな。」
「だって、同僚が来るんですよ~♪」
「同僚ができるって、そんなにうれしいんだね。」
「これで私が新種の細菌と戦わなくてよくなるじゃないですか~♪」
「そっちか。」
イマドキ女子のみなみちゃんは、自分が楽することしか考えていない。
「キュルキュル!?」
「どうしたの? パンパン。」
「あ、あいつらだな。みなみちゃんの同僚・・・。」
パンパンが窓の外で、じゃいけんをしている、おかしな3人組を発見する。みなみちゃんたちは、興味津々で、窓から外を眺める。
「ああ・・・、大学病院から追い出されるなんて・・・左遷だわ!?」
「どうして私たちが、こんな偏狭な地に・・・もう人生の終わりだ!?」
「食堂で食い逃げしたり、新人をいじめまくったのがバレた・・・誰だ!? チクったのわ!?」
問題がありそうな、イマドキの社会人の同僚の性格である。「お客さんは関係ない、自分の立場を悪用する、自分の立場が良ければいい。」これが、イマドキ女子の社会人である。
「・・・。」
美代先生たちは、目が点になり、開いた口が塞がらない。
「問題を起こして、大学病院に戻ろう!」
「おお!」
東西北さんは、動機は不純だが、一致団結した。
「じゃいけん、ほい!?」
「やった~♪ 勝った~♪」
「クソ、負けたか・・・。」
「これで配役が決まったな。」
配役? こいつらは何をじゃいけんで決めているのだろう?
「北さんが、陰湿な、いじめっ子。」
「おお! いじめるぞ!」
「西さんが、暴力をふるう、ヤンキー。」
「ちい~す! 夜露死苦!」
「私が、それを止める、偽善者。配役は、完璧ね!」
「ハハハハハ!」
3人は仲良く笑っている。
「とりあえず、最初の挨拶は、お利口さんにしておこうかしら?」
「そうね、様子見も大切よね。」
「わかったわ。」
イマドキ女子は、いじめな学校生活を送ってくるので、こういう思考をしていて、どうすれば、自分がいじめられないのか、そのために集団になるらしい。一匹狼は、いじめの的である。
「あいつら・・・バカか・・・。」
「みなみ、あんな同僚はいりません・・・。」
「キュルキュル・・・。」
イマドキ女子の登場に、美代先生、みなみちゃん、パンパンは呆れた。
「そうだ!?」
「どうしたんですか? 先生。」
「おもしろそうだ。あいつらに合わせてみようか?」
「ええ~、先生も悪趣味ですね。」
「いいじゃない。」
「仕方がないですね。少しだけですよ。」
「その割には、顔が笑っているよ。みなみちゃん。」
「(ΦωΦ)フフフ…。」
美代たちは、不敵な笑みを浮かべていた。迎え撃つ準備は万全である。
「失礼します。」
そこに3人のみなみちゃんの同僚が入ってきた。
「おはようございます。渋谷大学病院から人材交流でやってきました。」
「おはよう。聞いてるよ。みんな優秀なんだよね。助かるよ。」
軽い挨拶が終わり、自己紹介が終わる。
「歯科衛生士の東です。よろしくお願いします。」
「同じく歯科衛生士の北です。よろしくお願いします。」
「同じく歯科衛生士の西です。よろしくお願いします。」
3人は打ち合わせ通り、本性を出さずにお利口さんにしている。
「はい、よろしく。」
「(ΦωΦ)フフフ…。」
3人は筋書き通りに、順調に進んでいると思い、コッソリと笑う。
「それでは、こちら側の挨拶といこうか。」
美代先生がみなみちゃんを挨拶する。みなみちゃんは、シークレットライセンスを手に持ち、堂々と立っている。
「この子がうちの歯科助手のみなみちゃん。手に持っているのは、日本政府公認の人殺しでも、何でも許されるシークレットライセンスを持っている。みなみちゃんは私のお気に入りだからね。」
「えへへへへ。」
みなみちゃんは、不気味に笑う。
「なに!? あんなの知らないわ!?」
「私も知らない!? 人殺しってなによ!?」
「私たち、変な所に来てしまったのかも!?」
東西北さんは、少し疑心暗鬼になる。
「そして、みなみちゃんのペットのパンダのパンパン。」
「カワイイ~♪」
「人食いだから、気をつけてね。」
「キュルキュル!」
「先に言ってください!?」
パンパンは、不気味に笑う。
「なんなの!? ここは!?」
「ギャグというより、ホラーね!?」
「ここは、日本じゃないのか!?」
東西北さんは、普通に疑心暗鬼になる。
「そして、私が大学病院の名誉教授のマッドサイエンティストの美代だ。うちの歯科医院は、国家機密と関わっているから、守秘義務があるから、少しでもしゃべったら、消されるよ。へへへ。」
美代先生は、不気味に笑う。
「消される!? ここはFBIか!? CIA!?」
「違うわよ!? 北朝鮮か!? イスラム国よ!?」
「お父さん! お母さん! 助けて!」
東西北は、かなり疑心暗鬼になる。
「と、まあ、こんな感じなので、いじめや、ヤンキーに偽善者はいらないので、真面目に働いてね。ハハハハハ!」
「ワ~イ~♪」
「キュルキュル~♪」
美代先生は、ビビっている3人を見て、ネタバラシをして笑う。みなみちゃんとパンパンも笑顔で楽しむ。
「ああ!? 盗み聞きしてたんですか!?」
「卑怯よ!? パワハラよ!?」
「私、悪くありません!?」
これが、イマドキ女子の同僚の文句の言い方らしい。職場にいると困るのは、こういう人間らしい。上司・先輩は、素直に共感できる。入社3年前後は、自分のことを言われているみたいと同感する。新卒とかは、これを見て社会人になりたくないと、グッタリする。
「ああ・・・面倒臭い。とにかく、仲良くしてね。あと、よろしく~♪」
「あと、よろしくお願いします~♪」
「キュルキュル~♪」
美代たちは、去って行こうとする。
「ん? みなみちゃんとパンパンは、あっちでしょう?」
「え? ええ!? 嫌ですよ!? 性格が悪そうなんですもん!?」
「キュルキュル!?」
みなみちゃんでなくても、誰でも嫌です。
「んん・・・みなみちゃん、先輩なんだから、新入りさんの面倒を見てください。雇い主の命令です。」
「それを言われると・・・いつか、寝てる時に顔に落書きをしてやる! プンプン! ・・・はあ・・・。」
「キュル・・・。」
ガクンと、みなみちゃんは諦めた。雇われの身は辛いのだ。
「なんなんだ!? この医師と助手のフレンドリーな会話は!?」
「でも、医者が離れて、あのオチビちゃんとパンダだけになるのね!?」
「チャンス! 3対2なら、我々に勝機がある!」
東西北さんは、みなみちゃんに仕掛ける気だ。
「じゃあね。」
「どうなっても知りませんからね!?」
「キュル!?」
「(ΦωΦ)フフフ…。」
美代先生は、不敵に笑って、休憩室に去って行った。
「みなさん、お掃除しましょう。」
「キュル。」
みなみちゃんとパンパンは、東西北さんにお掃除をしようと呼びかけた。
「勝手にすれば。」
「私たちは、歯科衛生士。」
「掃除は、歯科助手の仕事です。」
東西北さんは、まったく動かなかった。
「仕事ですよ? ちゃんと働いてください!」
「キュル!」
みなみちゃんとパンパンは、働けと言う。
「オチビちゃん、何才?」
「19才です。」
「ああ~、歯科助手は、誰でも受けれるからね~。」
「いい? 私たちは3年間専門学校に通ったから、偉いのよ!」
「22才だ。年上に命令するな!」
「キャハハハハ!」
「クっ!?」
「キュル!?」
東西北さんは、美代先生がいなくなり、これ見よがしに、みなみちゃんをいじめにかかる。
「ここでは、私が先輩です!」
「キュル!」
「19才の高校あがりが、偉そうに!?」
「私たちの方が、人生の先輩よ!?」
「さっさと掃除しなさい!」
「はい・・・。」
「キュル・・・。」
結局、みなみちゃんとパンパンが掃除をすることになった。
「ええ!? ここの病院は患者さんは、1日1人だけなんだ~♪」
「やった~♪ 15時で帰れるんだって~♪」
「オチビちゃん、コンビニ行って、お弁当を買ってこい!」
「はい・・・。」
「キュル・・・。」
東西北さんは絶好調。みなみちゃんとパンパンは、疲れてクタクタである。
「美代先生、あの3人を何とかしてください!?」
「キュルキュル!?」
みなみちゃんとパンパンは、お昼ご飯にカップラーメンを食べている、美代先生に東西北さんを何とかしてくれるに、チクりに来た。
「んん・・・。同僚ができるって、あんなに喜んでいたのに?」
「あんな同僚はいりません!」
「キュル!」
「そうだね。人間関係は難しいね。」
美代先生は、しみじみと語り出す。
「私が、ズボラで何事もやる気が無くなったのも、そんな感じかな。」
「え!? 美代先生は元々でしょ?」
「違うわい!?」
美代先生にも人格形成の過去はある。
「私は貧乏だったので、勉強して、医者になって、お金持ちになろうと思った。子供の頃から、勉強ばかりしてきたから、確かに人間付き合いは苦手だよ。学校でも目立っていじめられないように、ヒッソリと勉強だけして、生きてきたからね。調子に乗らずに静かに暮らしてきたので、無事に高校まで卒業することができたんだ。」
「みなみも一緒です。」
「その辺で、私とみなみちゃんは、価値観が近いから、気が合うんだろうね。」
「そう言われてみれば・・・。」
「キュル・・・。」
これが、美代先生とみなみちゃんの高校までのイマドキ学生生活である。
「でも、私も大学生になって、環境がガラッと変わったんだ。「貧乏人が医学部に来るな!」「大学病院の院長の息子を誘惑した魔女め!」とか、いろんなことを言われたな・・・。」
「美代先生、いじめられっ子だったんですね。」
「おいおい、私は普通の人間だから、そう言われると傷つくぞ。」
「え!? 美代先生でも、傷つくんですか!?」
「みなみちゃん、明日から来なくていいよ。」
「またまた、ご冗談を~♪」
「キュルキュル~♪」
「・・・。」
美代先生は助手とパンダに呆れる。
「さすがに、その時は、いじめられるとビビったけど、私の場合は、ハチ太郎が、そいつらを全員退学にしてくれたからね。それでも、研修医の時も、患者を診ることを許されたのも、研修医で1番最後だし、大学病院の勤務医が決まったのも1番最後だったよ。貧乏だし、コネが無いから。」
「美代先生、苦労したんですね。」
「苦労っていうか、私の場合、ボーっとしてたな。」
どんな人間にも、今の自分の人格を形成する過去がある。
「私は、ハチ太郎に守られているから、人間の嫌な所が見えても、すぐに助けてもらえたけど、実際の社会は、みんなが性格のいい人ばかりじゃないし、お金持ちでもないから、性格が荒んでしまっている人の方が多いんだ。」
「そうですね。あの3人を見ていると、美代先生が優しい人に見えてきました。」
「キュル。」
「そんな風に言ってくれても、カップラーメンはあげないよ!?」
「いりません!?」
美代先生は、ラーメンが大好きさ。
「その学校に入りたいとか、その部活が好きだからとか、公務員や大企業に就職したいって思うだろ?」
「はい! 私も歯科医師になりたかったです! ウルウル。」
「キュルキュル。」
「大袈裟な・・・。」
みなみちゃんも歯科医師になり、お金持ちになりたかった。しかし、知識不足から歯科衛生士でもない、歯科助手になってしまった。平均月給は16万くらいだ。
「自分がしたい仕事は大変でも、がんばっていくっていう気持ちはあると思うんだ。でも、そこにいる性格の悪い上司・先輩・年上のことまでは考えてないだろ? 相手の方が立場が上だから、新人は歯向かうこともできないしね。」
「美代先生って、ズボラでラーメンばっかり食べてますけど・・・、他人の気持ちが分かるんですね!?」
「だって、人間って、生きてくの大変でしょう。人生って、人が生きるって書くんだよ。生きてれば、楽しいことばかりじゃないからね。」
「だから、美代先生は、半分、生きながら死んでるんですね~♪」
「そうそう。ずっと、がんばってると疲れちゃうから・・・って、おい!?」
ノリツッコミをする美代先生。みなみちゃんは、考え込んでしまう。
「同僚って、選べないんですね。はあ・・・。」
「キュル・・・。」
「立場だけで、仕事を覚えただけで、偉そうにしている人は多いけど、本当は、そういう人たちって、クビだよね。お客さんにも、どうせ態度は悪いだろうし。」
「そうですね。」
現実社会は、そんな人ばかりですよね。
「みなみちゃんは、心配しなくていいよ。」
「え?」
「私が守ってあげるから。」
「先生。」
「ここは私の病院だから安心してていいよ。」
「美代先生(⋈◍>◡<◍)。✧♡」
「キュル(⋈◍>◡<◍)。✧♡」
「私のセレブ生活を邪魔する奴は排除する!」
「そっちか・・・。」
「キュル・・・。」
みなみちゃんが物語で良かった。物語というか、異世界って、いいな。現実逃避っていう人もいるけど、自分で物語を構築できる。現実社会だと、お金持ちになるのは大変。社長になっても、売り上げだ、社員が辞めると言い出したとか、なんのためにお金持ちになり、なんのために社長になったのかが分からないからね。
みなみちゃんは、美代先生の休憩室から去って行った。
「ああ、私のラーメンが伸びてしまった・・・はあ・・・。」
カップラーメンの麺が伸びてしまったことの、ゲッソリする美代先生。伸びた麵を食べる前に、電話を1本かける。
「奥様ですけど、ベテランのおばちゃんいる?」
どこかに、電話をかけたようだ。
お昼になり。今日のお客さんが美代歯科医院にやってきた。
「いらっしゃいませ。」
「よろしくお願いします。」
みなみちゃんがお客さんを診察室に通そうとする。
「後は、歯科衛生士の私たちがやるわ!」
「歯科助手は、邪魔よ!」
「どうぞ、こちらです~♪」
東西北さんが出しゃばってきた。
「あの、お客さんには変なことしないでくださいよ!?」
みなみちゃんは、この自分のことを中心に考える、イマドキ女子の3人なら、お客さんにも変なことをしそうで怖かった。
「あん!? 黙れ、歯科助手!」
「オチビ!」
「年下!」
「そ、そんな!?」
「キュル!?」
みなみちゃんの予感は当たる。
「削りまくって、実験台にしてやる!」
「他人の歯なんて、ボロボロにして、ストレスを発散するのよ!」
「歯の2,3本を折って、ずっと通院させて、保険料をがっちり取るぞ!」
これが、現実社会の個人開業医の歯科医院に多い苦情である。これは歯科衛生士の設定であるが、コンビニよりも多い歯科医院は、過渡競争。
こんな歯科医院に通院されている方は、他の病院に行った方が良い。また大病院、若しくは歯科大の外来歯科は、若手の歯科医師の経験を積む実験場である。管理の教授の目は、全てには届かない。イマドキの若いお兄ちゃんやお姉ちゃんが遊びで適当にやっていることが多い。お金持ちのお坊ちゃん、お嬢さんだ。その中でもコネ無しは、大学病院には残れない。スキル不足の個人開業医が多いのは、そのためである。
結局、個人の開業医で、大型商業施設や大型スーパーに入っていて、お客さんが多い、まともな歯科医院に行くことがお勧めである。もう、駅前の歯科医院だからといって、安心な時代ではないらしい。
「やめてください!!!」
「キュル!!!」
みなみちゃんが、ついにキレた。
「あなたたちは、いったい何なんですか!? お客さんのことを、なんだと思っているんですか!? さっきから、自分中心で好き勝手なことばかり言って!?」
「な、なによ!?」
「お客さんは、歯に何らかの問題があるから見てほしいってやって来ているのに、働いているあなたたちが、お客さんの歯に問題を起こそうとして、どうするんですか!?」
「キュルキュル!?」
みなみちゃんの勢いに、東西北さんは、押される。しかし、気を取り直して、反撃してくる。
「黙りなさい! 私たちの自由でしょ!」
「私たちが、患者をどう料理するのか決めるのよ!」
「私たちは歯科衛生士よ! 歯科助手に命令される筋合いはないわ!」
脚色と思うかもしれないが、最近、有名なホテル、百貨店。バイトばかりなのか、本当に、顔は笑っているけど、中身は、こんな人っていうのが多いな。日本って、景気が悪いから、従業員の給料が増えないからかな。
「私には、シークレットライセンスがあります!」
これが、みなみちゃんの奥の手、総理大臣からもらった、日本政府公認の歯科助手でも歯の治療行為が許される、秘密のライセンスである。
「そんなもの知らないわよ! こうしてやる!」
「キャア!?」
偽善者役の東さんが、シークレットライセンスをみなみちゃんから奪い取り、真っ二つに怪力で折り曲げた。
「ああ!? ヒドイ!?」
「キュルキュル!?」
みなみちゃんは、吹きとばされ、涙をこぼしている。
「オチビで、年下で、歯科助手なんだから、大人しくしておきなさい!」
「私たちの言うことを聞いていればいいのよ!」
「そうよ! そうよ!」
東西北さんは、怒涛のように、みなみちゃんをいじめまくる。
「いい加減にするのは、おまえたちだ。」
美代先生が、待合室にやって来る。
「先生・・・。」
「キュル・・・。」
「みなみちゃん、大丈夫?」
「先生、出てくるのが遅いです!」
「ごめん、ごめん。伸びたカップラーメンを食べていたら遅くなってね。」
「みなみ、カップラーメンに負けたんですか!? プンプン!?」
「キュルキュル!?」
「ははは・・・。」
美代先生は、みなみちゃんに手を差し伸べて、立たせてあげる。
「君たち、どうして、こんなことをするの?」
美代先生は、東西北さんに問いかける。
「その子が、私たちにケンカを売ってきたんです!」
「私たちは仲良くしたいんですよ!」
「私たち、悪くありません!」
東西北さんは、確信犯で、開き直っている。悪いことをしても、認めなければ謝らない。これが、イマドキの学校で教わる集団行動である。いじめる側になるか、いじめられる側になるか、ただ、それだけらしい。
「ここは私の病院だよ? 君たちの遊び場じゃないんだよ?」
美代先生は、東西北さんに再び問いかける。
「私たち、大学病院から派遣されてきただけだし。」
「別に来たくて、来た訳じゃありません!」
「おばさん、医者だからって、パワハラですか!?」
東西北さんは、イマドキ女子なので、数に物を言わせて、美代先生にまで食らいつく。上司、年上、先輩という概念は、イマドキ女子にはない。
「はあ・・・。」
美代先生は、こういう人間関係が煩わしくて、大学病院を辞め、独立開業した。
「どうよ、医者がビビってるぜ!」
「これで、ここでも好き勝手出来るわ!」
「いじめ最高!」
東西北さんは、渋谷大学病院の歯科でも、自己中心的に好き勝手していたようだ。
「おやめなさい!」
そこに大学病院の総合受付のベテランのおばちゃんが現れた。病院の入り口の案内のおばちゃんは、病院の看護婦をやっていたベテランのおばちゃんが多い。大きな大学病院のことを詳しく知っている場合が多い。若い子は、ただのバイト。
「あ、来た来た。」
美代先生が大好きラーメンの麺を伸ばしてまで、電話をした相手である。
「もしかして、私たちを大学病院に迎えに来てくれたですか?」
「やった~♪ 大学病院に帰れるんだ~♪」
「おばさん、オチビ、バイバイ~♪」
東西北さんは、絶好調である。イマドキ女子は、自分の都合のいいように考えて、一般常識は身についていない。イマドキの学校で教わるのは、いじめだけである。
「黙らっしゃい! なんと失礼な、お言葉を!?」
ベテランのおばちゃんがキレキレの大声で、3馬鹿トリオを制する。
「このお方は、渋谷大学病院の院長の息子と婚約中の、美代奥様であるぞ!」
「ええ!?」
ベテランのおばちゃんの言葉に、東西北さんは目が点になり、口が開いたままになる。
「先生、いつ婚約したんですか?」
「知らない。」
「キュル。」
美代先生は、学生の頃から、院長の息子のハチ太郎に「美代と結婚する!」と、ストーカーされて来たので、大学病院の関係者には、美代は奥様と呼ばれてきた。東西北さんは、美代のことを知らなかったようだ。
「奥様、申し訳ございません。」
「おばちゃんが謝らないでくださいよ。」
「すぐに大学病院を辞めさしますから!?」
「引き取ってくれるなら、気にしませんよ。」
「こいつらを煮るなり、焼くなり、ご自由にどうぞ。」
「はは・・・食べません。」
ベテランのおばちゃんは、美代先生に頭を下げて謝る。
「先生、お肩をおもみしましょうか!?」
「奥様、私、コーヒーを入れるのが得意なんです!?」
「美代奥様! 万歳! キャハ!」
東西北さんは、状況を理解したらしい。手の平を返したように、美代先生にゴマをする。
「さっき、おばさんって言ってたじゃん・・・。」
美代先生は、以外に、おばさんと言われたことを根に持っていた。
「奥様! お許しください!」
東西北さんは、頭を下げる。お気づきだろうか? イマドキ女子は、こんな時でも、許しは求めるが、謝罪の言葉は無い。
「君たちの言葉が信用できないんだ。形だけで心がこもってないもの。」
美代先生も30年くらい生きていると、たくさんの人間を見ているので、表情、声の響きなど、相手のことが分かる人間に成長している。
「それに言ったはずだよ? みなみちゃんは、私のお気に入りだって。」
美代先生は、みなみちゃんを大切に思っているのだ。
「美代先生。うるうる。」
その言葉を聞いて、みなみちゃんの心は温かくなる。
「キュルキュル。」
パンダも、もらい泣きしている。
「失礼します。」
その時、1人の女性が現れた。
「どちらさま?」
「私は、日本秘密庁の安部景子です。こちらで、シークレットライセンスが破損したと情報がありました。」
シークレットライセンスの監督庁は。日本秘密庁である。秘密なので、ライセンスカードには、特殊なGPS機能が付いているらしい。
「ああ!? シークレットライセンスが割れてる!?」
「やったのは、こいつらです。」
美代先生は、東西北さんの指を指す。
「シークレットライセンス破損の罪で連行します。連れて行ってください。」
たくさんの黒服の男たちが入ってくる。
「キャア!? 離して!?」
「やめろ!? ぶっ飛ばすぞ!?」
「何するのよ!? セクハラよ!?」
黒服の男たちが、東西北さんを肩に背負って、退室していく。
「はい、新しいシークレットライセンスです。」
「ありがとうございます。」
「がんばってね。」
「はい。」
みなみちゃんは、安倍さんから、新しくシークレットライセンスをもらう。
「我々が来たことは、守秘義務が発生しますので、破られた場合は、みなさんのことも消さなければいけません。くれぐれも内密にお願いします。」
「はい・・・。」
「失礼しました。」
そういうと、安倍さんは去って行った。
「あの人たちは、いったい!?」
「かっこいい・・・。」
「私は何も見てませんよ!? たまたま来ただけですからね!?」
「キュルキュル!?」
美代先生、みなみちゃん、パンダ、ベテランのおばちゃんは、唖然としていた。
「さあ、みなみちゃん。お客さんが待っているよ。」
「はい、先生。」
みなみちゃんは、診察室に向かおうとするが、立ち止まり振り返る。
「たまには、先生がやってくださいよ~♪」
「みなみちゃんが歯で困っている人を助けたいのに、邪魔しちゃ悪いでしょ?」
「はい~♪」
美代先生とみなみちゃんは、似た者同士なので、価値観も近く信頼し合っている。
「みなみちゃん、今日はねぎのトッピングを食べ放題にしよう~♪」
「ニラものせまくってもいいですか? (⋈◍>◡<◍)。✧♡」
「いいよ~♪」
「ワ~イ~♪ みなみ、いってきます(⋈◍>◡<◍)。✧♡」
「いってらっしゃい。」
みなみちゃんは、診察室に去って行った。
「奥様、おもしろい子ですね。」
「でしょ? でしょ?」
「大学病院にいる若いことは、違いますね。」
「みなみちゃんは、見ていて飽きないんだ。」
「そうですね。」
若い頃の奥様に、ソックリです。と思う、ベテランのおばちゃんでした。
つづく。
おまけ。
後日。
「え!?」
「出た!?」
「キュル!?」
美代先生、みなみちゃん、パンパンは驚いた。
「おはようございます。歯科衛生士の東です。」
「お久しぶりです。歯科衛生士の北です。」
「会いたかったです。歯科衛生士の西です。」
東西北の3人組が、美代歯科医院に帰ってきた。
「美代先生、尊敬してます~♪」
「・・・別に会いたくないんだけど。」
「みなみちゃん、仲良くしましょうね~♪」
「あなたたちにされたことを忘れてないんですけど・・・。」
「パンパン、カワイイ~♪」
「キュル・・・。」
東西北さんは、日本秘密庁に連れていかれ、悪い記憶と悪い性格を抜かれたらしい。帰ってきた3人は、優しい記憶と優しい性格が植え付けられていた。
おわり。
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