第10話 美代先生の過去

「どうもです~♪」


明治神宮から原宿・表参道の方へ、1台のオープンカーがパレードしていく。沿道には、大人も子供も、たくさんの人が笑顔で手を振っている。


「どうもです~♪」


オープンカーから手を振っている、笑顔の美代先生。テレビ局もヘリコプターやドローンを飛ばして、地上班だけでなく、大規模な生中継をしている。


「美代先生、無事に生還記念パレード」


このパレードの名称である。渋谷区民のセレブ歯科医師で、タレント活動もしている美代先生。沿道のファンは、芸能人を見たさに集まった野次馬である。


「どうもです~♪」


前回、軽く1話から9話まで書いて、他の作品を片付けて、無事に帰ってくることができたのだ。その間にお仕事コンテストのディテールがプチ発表された。


「私、免許持ってないんですけど・・・。」

「キュルキュル・・・。」


オープンカーを運転するのが、最強の助手、みなみちゃん。隣にいるのが、ペットのパンパンである。


「うわあああ!? みなみちゃん!? しっかり、運転してよ!?」

「先生!? 私、免許を持ってません!?」

「みなみちゃんは、シークレットライセンスを持っているだろう!?」

「キュルキュル!?」


シークレットライセンス。これは歯科助手が、歯の治療をできないと最近、知ったので、苦肉の策で、なんでもできる国家ライセンスとしておこう。


「持ってるからって、車の運転ができる訳じゃありません!?」

「知るか!? しっかり運転してよ!? 死にたくないよ!?」

「キュルキュル!?」


車は、左へ右へ、フラフラしている。奇跡的に、日本の総理と中国の国家主席の虫歯は、治療したことがある。お礼に、もらったことにしておこう。作者の他の作品に日本秘密庁というものがある。とりあえず、シークレットライセンスの監督庁にしておこう。


「キュルキュル~♪」


マスコットキャラクターのパンダのパンパンは、コロコロ転がって、笹を食べているだけなの気にせず行こう(⋈◍>◡<◍)。✧♡


「どうもです~♪」


これは、この話で開業医になって、14日目の歯科医師と、本当は歯の治療をすると罰則を受ける最強の歯科助手の、心が温まる物語である。



美代歯科医院に、いつもの朝がやって来た。


「重い・・・。」

「重いですね・・・。」

「キュルキュル?」


院長の美代先生と助手のみなみちゃんは、連休明けの月曜日のような、憂鬱そうな顔をしている。ペットのパンパンは、不思議そうに2人を見るめる。


「みなみちゃんは、どうして重たいの?」

「歯科助手って、本当は歯の治療行為をできないんですね。歯科衛生士と歯科助手の違いを初めて知りました。」


そのため、プチ修正中のオープニングトークである。歯科衛生士と歯科助手の違いを知っている人は少ないと思います。


「私、歯科医師だけど、そんなこと知らなかったな。知ってたら、みなみちゃんを雇ってなかったかも?」

「そんな!? 先生!? 私をクビにしないでください!? 就職難で、歯科助手なんか、雇ってくれる所がないんですから!?」


現代日本では、ほぼ正社員の仕事はないのだ。今では、アルバイトの仕事もないと言われている。


「パンパン、私たちは、どうやって食べていけばいいの!?」

「キュルキュル!?」

「誰も、リストラするとは言ってないでしょう?」


泣きながら抱き合う助手とペット。美代先生とみなみちゃんは、名コンビさ~♪


「本当ですか!? 良かったね!? ぱんぱん!? 私たち飢え死にしなくていいんだよ!?」

「キュルキュル!?」

「大げさだな・・・こっちの頭が、もっと重くなる・・・。」


美代先生の、心に暗い闇が覆っていて、心身ともに怠かった。


「先生は、どうして重いんですか?」

「キュルキュル?」

「みなみちゃん、分からないの?」

「はい。」

「ほんとに、ほんとに、本当に分からないの!?」

「分かりません。」


美代先生は、自分が重い理由に気づかない、助手とペットを疑いの眼差しで見る。


「明日、細菌娘が来る・・・。」

「ギャア!?」

「キュル!?」


最近娘という言葉を聞いて、助手とペットは、大声をあげて恐怖する。


「あ、綾ちゃん!?」

「キュル!?」

「やっと分かったか、みなみちゃんとパンパン・・・。」


綾ちゃんとは、口の中が虫歯だらけの女の子である。これまでに、歯からチョコキノコやイチゴを生やしたり、わずか1週間で、虫歯ランド遊園地を作り上げる、新種の虫歯の細菌を持った女の子である。前回の治療で歯にフッ素コーティングをして、なんとか虫歯を防ごうとしている。


「どうして、久々の執筆なのに、綾ちゃんのことを忘れてないの!?」

「キュルキュル!?」

「7日に1回は、必ず、やって来るからね・・・。」


ちなみに、今の美代歯科医院の繁栄は、開業初日に綾ちゃんが、初めてのお客さんとしてやって来て、歯科なのに、外科手術のように、困難な虫歯に立ち向かい、命懸けで歯を治療する。それが世間に広まり、「あの綾ちゃんの歯を治せるなら・・・」と口コミで、あっという間に広がった、おかげである。


「先生! 明日は臨時休業にしましょう!」

「キュルキュル!」

「そうしたいけど、逃げたら保険の不正請求をばらすって、脅されているんだ・・・。」


美代先生には、逃げ道は無かった。断っておくが、美代先生は、不正請求はしていない。しかし、開業して間が無い美代先生は、正確な知識は無く、綾に鎌をかけられ、引っかかっているのだ。


「うえええええん!」

「キュル!」

「うえええええん!」


医師、助手、ペットは泣くしかなかった。そこに1人の男性が、高級外車に乗って、美代歯科医院の外までやってきた。


「ここか、美代の開業した病院は?」


男性は、車を路上駐車したまま、美代歯科医院の中に入って行く。


「すいません・・・え!? 美代、何で泣いてるの!?」


2人と1匹は、まだ、泣いていたのだ。それを見て、男性は、なんなんだと驚く。男性が来たことに、美代先生が気づいた。


「あ、ハチ太郎?」

「あ、ハチ太郎じゃない!? 久しぶりだな、美代。」

「勝手に人のことを名前で呼ぶな!」

「いいじゃないか、美代。」


この、ハチ太郎と呼ばれる男性と、美代先生は知り合いのようだ。みなみちゃんには、ズボラな美代先生に、彼氏がいるとは思えなかった。


「先生、この人は誰ですか?」

「こいつは、渋谷ハチ太郎。歯科学部の同期だよ。」

「どうも、渋谷ハチ太郎です。うちの美代がお世話になってます。」

「誰が、うちの美代だ!? このストーカーめ!」


どうやら、渋井ハチ太郎の一方的な片思いである。みなみちゃんは、「美代先生のどこがいいんだろう?」と首を傾げる。


「今日は何の用で来た?」

「さすが美代。俺のことをよくわかっている。」

「要件をさっさと言え、もうすぐ、患者さんが来る。」


美代先生は、お金に目がくらみ、セレブのダブルブッキングをしていたが、みなみちゃんに、こっぴどく怒られて、予約の患者さんを優先するように成長した。


「信じてもらえないと思うが・・・実は・・・、うちの病院の患者さんに、歯からチョコキノコが生えている患者がやって来たんだ!?」

「・・・。」


渋井ハチ太郎の言葉に、美代先生、みなみちゃん、パンパンは、言葉を失って、呆然と立ち尽くした。初めて、綾ちゃんに出会った時に見つけた新種の細菌である。


「帰れ、関わりたくない。」

「先生! 塩を巻きましょう!」

「キュルキュル!」


3人は、綾ちゃんを思いだす出来事には関わりたくないのだ。しかし、渋井ハチ太郎は、必死に美代先生に、食らいつく。


「先におかしな話だって言ったじゃないか!? バカにしてるんだろう!?」

「バカにはしていない。」

「テレビで美代を見て、どんな患者さんも、見捨てないって言ってたじゃないか!? チョコキノコもなんとかしてくれ!? このままでは、悪い評判がたって病院が潰れてしまう!?」

「大病院なんだから、優秀な医師がいるだろう?」

「失敗したら、自分の経歴に傷がつくからって、やってくれないんだ。」

「私ならいいのか?」

「うん~♪」

「・・・。」


美代先生が、ハチ太郎を嫌っている理由がこの辺にある。


「何とかしてくれたら、外車を買ってやるから!?」

「いらん! 帰れ!」

「分かった! ダイヤモンドの指輪をプレゼントするから!?」

「ハチ太郎! なんでも金で解決できると思うなよ!」


みなみちゃんは、けったいな会話を聞いている。お金の亡者の美代先生が、世の中は、お金じゃないと言っている。にしても、このハチ太郎という男性のバブルな会話はなんだろう?


「先生。」

「なに? みなみちゃん。」

「車とか、ダイヤとか、いったい何なんですか?」

「ああ、こいつの実家が、渋谷大学病院の院長なんだ。」

「ええ!?」


なんと、ストーカーの渋井ハチ太郎は、大学病院のお坊ちゃま、だったのだ。みなみちゃんは、驚いた。


「玉の輿じゃないですか!? 美代先生!?」

「そっちか。」


もちろん、ハチ太郎が大学病院の院長の息子という所は驚かず、イマドキ女子のみなみちゃんが関心があるのは、お金のことである。


「私は、こいつに興味が無い。恋愛対象じゃないんだ。」

「もったいない!?」

「ほら、お金持ちって、なんでもお金で解決できると思っているだろう? その辺が嫌なんだ。断ったら、ストーカーのように付きまとわれるし、ね。」

「ガクン・・・。」

「キュルキュル。」


美代先生は、金の亡者のはずなのに、お金持ちのハチ太郎のことは嫌いなのである。こんなチャンスを見逃す、みなみちゃんではなかった。


「先生! ハチ太郎を、もらってもいいですか!?」

「いいよ。のしをつけてあげるよ。」

「ガクン・・・。」

「やった~♪ これで貧乏から脱出できる~♪ ワ~イ~♪ ワ~イ~♪ 大豪邸に住んだら、パンパンにも、竹林のお庭を造ってあげるね~♪」

「キュルキュル~♪」

「もう、結婚してる設定なんだね・・・。」


美代先生は呆れる。しかし現代の日本の若者が這い上がるには、政略結婚しかないだろう。若者に聞いても、就職活動で採用されるのは、東大、早稲田、慶応などの1流大学だけで、まだまだ2流大学は厳しいのが現実である。


「先生! 私の旦那の病院を助けに行きましょう!」

「誰が旦那だ!?」

「・・・はあ、仕方がない。みなみちゃんの玉の輿のためだ。」

「いいのか!?」

「うちの患者さんの治療が終わってからで、よかったらな。」

「ありがとう~♪ 美代~♪」

「・・・だから名前で呼ぶのをやめろ。行くのやめるぞ。」

「はい!? 静かにしてます!?」


こうして、美代先生は、大学生、研修医、勤務医と過ごした、渋谷ハチ太郎の親が経営する、渋谷大学病院に行くことになった。


「こんにちは。いらっしゃいませ。」

「よろしくお願いします。」

「はい。診察室にどうぞ。」


美代歯科医院は、1日1人の完全予約制である。この患者さんの治療を終えると、1日の仕事が終わるのだ。あとはVIPの金持ちしか、飛び込みのお客さんは受け入れない、美代先生の金の亡者ぶりなのである。


「はい、口を開けてくださいね。」

「ああ、きれいな歯ですね。」


これを予防歯科という。半年に1回は、歯医者に行って、歯の定期診断をすると、老後になっても自分の歯で、おいしいご飯が食べられるそうな。


「みなみちゃん、クリーニングだけしといて。」

「はい、先生。」


美代先生は、ズボラな性格なので、お金は欲しいが、仕事に熱意は無い。ほとんどお客さんが、なんやかんやと理由をつけて、助手のみなみちゃんに押し付ける。



美代先生は、診察室を出て、待合室にやってくる。渋井ハチ太郎が座って待っている。待合室に飾ってある、変な写真や表彰状を目にする。


「美代、これはなんだ?」

「ん? 写真と表彰状だな。」

「こ、これは総理大臣だろ!?」

「そうだよ。」


写真は2枚ある。1枚目が日本の総理大臣と笑顔で握手する美代先生。後ろにみなみちゃんがコッソリ写っている。2枚目が中国の国家主席と笑顔で握手する美代先生。後ろでみなみちゃんとパンパンが北京ダックを追いかけている。


「中国の国家主席のもあるぞ。」

「ど、どうして!? うちの大学病院でも、国賓級は来たことないのに!?」

「ついでに日本と中国からの感謝状もあるぞ。今の私は、国会議事堂非常勤歯科医らしい。勝手に任命された。」

「なぜ、美代が!?」


美代先生は、お金に興味はあるが、神経を使い、気疲れするのは嫌な性格。わがままと言えばわがままだが、典型的な現代人である。


「先生、終わりました。」

「ありがとうございました。」

「いえいえ、お大事に。」

「先生、先生の写真を撮ってもいいですか?」

「え? いいですけど・・・また、なんで?」

「今、先生は世間で騒がれている、なかなか予約の取れない先生なんですよ。インスタに載せて、自慢するんです~♪」

「・・・ははは。」


パチッと、みなみちゃんがスマホのシャッターを押し、お客さんと美代先生の記念写真が完成する。お客様は、ルンルン~♪ 帰って行った。


「じゃあ、行きますか。」

「みなみ、大学病院に行くの初めてです~♪ パンパンも楽しみだね~♪」

「キュルキュル~♪」

「外に車を止めてあるから、送るよ。」


3人と1匹は、病院の扉に鍵をかけて、外に出る。


「ああ!? 駐禁、貼られてる!?」

「・・・アホ。」


今の時代、15分以上の路上駐車は、命取りになる。しかし、お金持ちは、罰金は痛くもかゆくもない。お金で解決できるからだ。免停にならない限り、大丈夫。



3人と1匹は、車に乗って、渋谷大学病院を目指す。


「ワ~イ~♪ 高級車~♪」

「あんまり、暴れないでね。気になって運転ができなくなる。」

「ええ!? そんなこと言わないで、あ・な・た~♪」

「な!?」


ギギギギイ! っと急ブレーキの音が響き渡る。美代先生は死ぬかと思った。


「誰が、あなただ!?」

「怒るのも愛情の裏返しね~♪」

「・・・みなみちゃん。」

「はい?」

「ハチ太郎は、私より不器用だから、あんまりふざけてると、交通事故で死んじゃうよ?」

「え・・・静かにします。」

「キュルキュル。」


助手とペットは、静かになり姿勢よく座り動かなくなった。美代先生の歯科医師としてのスキルは、普通。それよりも不器用ということは、歯の治療も、車の運転も、下手くそなのである。みなみちゃんは長生きしたい。


「お、見えてきたぞ! 俺の病院!」

「うわあ!? 大きい~♪ あれが私のモノになるのね~♪」

「ええい!?」


騒ぐ助手に、急ブレーキを予想して、両手で車にしがみつく歯科医師。そして、ギギギギイ! と急ブレーキで車が止まる。


「ああ・・・できれば来たくないな・・・。」


美代先生は、乗り気ではない。チョコキノコに会いたくないのだろうか? 


「先生の母校ですよね?」

「え、そうだよ。」

「だったら、「懐かしいな」とか、知り合いに会ったら「久しぶり」とか、ないんですか?」

「ないよ。」


美代先生は、サバサバしているというよりも、憂鬱そうだった。美代先生が、大学病院の入り口から入って行く。


「お帰りなさいませ。」


入り口の受付案内のおばさんとお嬢さんが立ち上がり、挨拶をする。みなみちゃんは、渋谷ハチ太郎が、本当に大学病院のお坊ちゃまだと思った。


「奥様。」


受付のおばさんとお嬢さんは、美代先生に挨拶をしていたのだった。美代先生は、自分が大学病院に戻ると、こうなることを知っていた。


「どうもです。」


美代先生は、愛想のない返事だ。美代先生の「どうもです~♪」は、ここから始まったのだ。


「奥様! 早くバカボンと結婚してあげてください! このままでは、病院が潰れてしまいます!」

「奥様じゃ、ありませんって。」


美代の想いとは裏腹に、瞬く間に美代の周りには、美代を慕う病院関係者で人だかりができた。


「あ!? 奥様よ!?」

「奥様だ!? 美代奥様が、帰ってこられたぞ!」

「これでまともな入院生活が遅れるぞ!」

「変な薬を注射されなくて済むぞ!」


大学病院は、美代の帰還フィーバーになり、医師、看護婦、入院患者、外来患者が美代を支持している。


「おい、どんな病院経営をしているんだ?」

「美代が、開業して、いなくなってから、斜めに傾いている。」

「あのな・・・。」


美代先生が頭を抱えて苦しんでいる。その間も病院の救世主、美代の信者は集まってくる。


「奥様! 万歳!」

「奥様! 万歳!」


美代を奥様と崇めたてる。


「どうもです。」


美代先生は、この場から逃げようと去って行く。みなみちゃんとパンパンを連れ、その場を去って行く。


「ハチ太郎、あとよろしく。」

「え!? 待って! 美代!」


もみくちゃにされる渋谷ハチ太郎は残していく。移動中、みなみちゃんは、頭の中が錯乱する。


「うう!? わからない!?」


みなみちゃんは、開業してからの、金の亡者の美代先生しか知らない。大学病院で過ごしてきた美代先生を知らないのである。


「なんで、みなみちゃんが悩んでいるのさ?」

「だって、ズボラで、いいかげんで、やる気のない美代先生が、こんな大きな病院で、神のように崇められているんですよ!? 信じられません!?」

「キュルキュル!?」


パンダまで、うなずいている。


「・・・みなみちゃんは、そんな風に私のことを見ていたんだね。パンパンまでで・・・。」


美代先生は、項垂れる。諦めたように、自分の過去を語り始める。


「はあ・・・私みたいな貧乏人が、病院に多額の寄付金をして、コネ入学する、お坊ちゃんやお嬢さんでないのに、歯科学部に合格でき、大学病院で勤務医として、歯科医師として、正規に雇ってもらい、歯の治療経験を積むことができたのは、なぜだと思う?」

「分かりません。」

「大学病院の院長のバカ息子が、歯科学部の入試試験の時に、前の席に、たまたま座っていた貧乏な女の子が「おい、名前を書くの忘れているぞ。」後ろに座っていた大学病院の院長の息子の凡ミスを指摘されて、命を救ってもらい、恋に落ちたらしい。」

「わおう~♪ ドラマチックですね~♪ 美代先生らしくない~♪」

「悪かったな・・・。」


コミカル&パロディが、恋愛要素を入れて、おかしくなったと思ったが、以外にラブコメで修正できてる(⋈◍>◡<◍)。✧♡ 


「それから、バカ息子が父親の院長に頼み込み、私は奨学金特待生として、入学金と授業料を免除。私を貧乏人と、いじめてくる女は退学。成績も普通。研修医として、現場での歯の治療スキルも普通。そんな私が大学病院に残れたのも、あいつのおかげ。」

「は!? それで私は、歯科学部受験に落ちたのか!?」

「そこか?」


その通り。試験て、表向きの正当事由なんだよね。


「その恩恵の代わりに、私は、ハチ太郎にストーカーされ、どこでも「美代は、俺と結婚する!」「美代は、俺の妻だ!」というので、病院の医師や看護婦、入院患者から、外来の患者まで、私のことが広まってしまった。」

「それで、奥様って呼ばれてるんですね。」


美代先生とみなみちゃんとパンパンは、ある部屋の前に来た。


「ここが私の研究室。」

「ああ!? 美代奥様の部屋って、書いてある!?」

「キュルキュル!?」


開業して、独立したのだが、大学病院の院長の息子と、将来、結婚して、院長婦人になる、美代の部屋は誰も無くすことはできない。


「どうぞ。」

「ワ~イ~♪ 広い~♪」

「キュルキュル~♪」


美代先生が開けた研究室の中は、美代歯科医院よりも広かった。ロイヤルスイートルームであった。


「うわあ!? シャンデリアがある!? ソファーもフカフカ~♪ 窓から富士山が見えますよ!?」

「そんなにはしゃがないで、掃除してないから、埃が立つから。」


助手とパンダが、飛び跳ねて、コロコロ転がる。美代先生の研究室は、なぜか学生時代から大学病院の最上階にある。さすがに角部屋ではない。


「こっちは、なんですか?」

「あ!? そこは開けてはダメ!?」


みなみちゃんとパンパンは、開かずの間の扉を開ける。


「ダブルベッド!? しかも、枕が2つ!?」

「キュルキュル!? キュルキュル!?」

「あちゃあ・・・。」


美代先生は、好奇心旺盛な助手に変なものを見られたな、と思う。


「せ、先生!? これはどういうことですか!?」

「キュル!?」

「これは、貧乏な私に、バカ息子との新婚生活用に、院長先生が私にくれた、住居なんだ。私は貧乏な家の生まれだから、狭いワンルームが好きなんだけどね。」


おかげで貧乏学生だった美代は、ここから大学の授業に通った。


「いいな!? どうして、美代先生ばかり!?」

「それは、あいつに聞いて。」


そこに、ハチ太郎がやって来た。


「あなた!? 私のことは、遊びだったの!? どうして、カワイイみなみより、こんなガサツな、美代先生がいいんですか!?」

「この子、歯科業界で仕事できなくしてやろうか?」

「え!?」

「やめてよ。みなみちゃんは、私の大切な、おもちゃなんだから。」

「ズル!?」

「キュル!?」

「美代が言うなら、やめよう。助手とパンダ。」

「はい?」

「キュル?」

「美代に忠誠を誓えよ! ハハハハハ!」


ハチ太郎は、本当に美代先生のことが好きなのである。しかし、美代先生は複雑そうな表情をしている。


「私は、おまえのそういう所が嫌いなんだ。」

「ガーン!?」

「みなみも何となくですが、先生が嫌ってる理由が分かってきました。」

「キュル。」

「ガーン・・・パンダにまで、頷かれた。」


美代先生がハチ太郎を嫌うは、親の権力をいいことに、偉そうな所が嫌いなのだ。悪い奴ではないのだが・・・。


「もう、諦めたらどうですか?」

「嫌だ!」

「みなみなら、空いてますよ?」

「美代がいい!」

「どこがいいんですか?」

「他の女は、お金目当てでしか近づいてこない。でも美代だけは違う! これだけ与えても、俺になびかない!」

「ど、どうせ私もお金目当てですよ・・・。」

「そっちか。」


お金持ちは、物はお金で買える。しかし、人間の心は、お金で買えない。


「美代先生。」

「ん?」

「結婚したらお金持ちになれますよ? どうしてしないんですか?」


美代先生は、少し考えてから言う。


「自分でがんばって、成功しないとおもしろくないだろう?」


みなみちゃんとパンパンは、雷に撃たれた心境になる。


「いつもの美代先生じゃない!?」

「キュル!?」

「いつもの私は、どんな人間だ?」


カッコイイ~♪ とか、みなみちゃんが美代先生を見直さないのが、現代日本のイマドキ女子のみなみちゃんである。


「私が大1の時に、訳が分からないままに、婚姻届けにサインさせられたよ。」

「ええ!?」

「こいつが独り立ちしないから、お父さんに取り上げられてる。」

「最低・・・。」

「キュル・・・。」

「ガーン。」


美代先生は、学生気分に戻ったようで、少し笑う。


「はあ・・・。さっさと終わらせて帰るとするか。」

「はい。美代先生。行こう、パンパン。」

「キュルキュル~♪」

「置いてかないで~。」


2人と1匹は、ハチ太郎を部屋から追い出して、鍵を閉め、診察室に向かう。



全員が診察室にやって来て、白衣も着た。チョコキノコが生えているという、40才前後の女性がいる。


「はい、チョコキノコを採りますから、安心してくださいね。」

「先生、よろしくお願いします。」

「どうして、チョコキノコが生えてきたんですか?」

「キノコが嫌いな娘に、なんとか食べてもらおうと、がんばってチョコキノコのフルコースを作ったんです。」

「え!?」

「まさか!?」

「キュル!?」


歯科医師、助手、パンダは、嫌な予感がした。


「みなみちゃん、カルテ。」

「はい、先生。・・・こ、こ、これは!?」


みなみちゃんは、カルテの患者名を見て、驚愕した。全身が震えている。美代先生は、みなみちゃんからカルテをもらう。


「最近娘のお母さん!?」

「綾ちゃんのお母さん!?」

「キュルキュル!?」


患者のおばさんを疑いの目で見る。


「このおばさんが綾ちゃんの虫歯の原因か!?」

「あの娘に、母親ありといった感じですね!?」

「キュル!?」


ヒソヒソ話に、綾ママが口を挟む。


「あの娘を知っているんですか?」

「知りません。」

「知りません。」

「キュル。」


本当は知っているが、完全否定する。


「娘も虫歯になって、近所の歯医者さんに行かしたんですが、私も虫歯になったなんて、娘に言えないので、大学病院まで、やってきたんです。」

(うちの病院です・・・。)


美代先生たちは、フラフラと船酔いの気分になる。


「ダメだ。私は少し休むから、みなみちゃん、後よろしく。」

「ええ!? 先生、たまには自分でちゃんとやってくださいよ!?」


美代先生は、面倒臭いことは、みなみちゃんに押し付ける。


「私は、雇い主。みなみちゃんは、雇われのみ。」

「うう!? 先生、パワハラですよ!? プンプン!」


みなみちゃんは、いつも、こんな美代歯科医院なんて、辞めたいと思っている。


「わかった。仕事が終わったら、大学病院の食堂で、好きなだけ食べていいよ。」

「本当ですか(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

「奥様が言うんだ、間違いない。」

「食料、全部タッパに詰めて持って帰ってもいいんですか(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

「いいよ。だから、早く終わらせてね。」

「はい! みなみ、がんばります~♪」


その度に、美代先生は、おいしいご飯で労をねぎらう。ちなみに美代先生は、大学病院の食堂でお金を請求されたことはない。


「パンパン、おいで。」

「キュル?」

「大学の敷地に、竹林を作る場所を見に行こう。」

「キュル~♪」

「おお、可愛いヤツめ。」

「キュル~♪」


パンパンは、美代先生に飛びつく。現金なパンダである。


「みなみちゃん、集合は食堂でね。」

「必ず行きます(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

「じゃあね。」

「キュル~♪」


診察室から、美代先生とパンダは去って行った。その様子を外で見ていたハチ太郎は、不思議に思う。


「あの子、歯科助手だろ? 治療行為は法律違反だぞ!?」

「知ってるよ。」

「なら、なんで!?」

「みなみちゃんは、歯科助手で唯一、歯の治療が許される、シークレットライセンスを持ってるから。」

「シークレットライセンス!?」


日本政府公認である。


「疑うなら、みなみちゃんが治療するところを見てみろ、私やおまえなんかより、よっぽど歯科医師らしいぞ。」

「な、なに!?」

「あの子は、コネが無くて、寄付金が払えなかったから、試験に落とされただけなんだ。成績もトップクラスだし、子供の頃から、歯医者さんになるのが夢だったんだって。そんな子が、貧乏っていうだけで、歯科医師になれないなんて、不幸だろ?」

「ああ・・・。」

「私も入学試験の日に、おまえに出会っていなかったら、寄付金を払ってないから、歯科医師になれてない。だから私には、みなみちゃんの気持ちが痛いほど分かる。まあ見てろ、みなみちゃんは、私の最強の助手だから。」

「最強の助手!?」


美代先生とパンパンは去って行き、ハチ太郎は窓越しに、みなみちゃんの治療を見ることにする。


「みなみ! いきます!」


みなみちゃんとチョコキノコの壮絶な戦いが始まった。患者さんの綾ママは、いすが倒され、横になって寝て、口を開けている。みなみちゃんは治療する機械を手に持ち、気合を入れ治療を始める。


(チョコキノコか・・・そういえば、私の初めての患者さんが綾ちゃんで、チョコキノコが生えていたな。あの時は、歯からキノコが生えるなんて、ありえないと驚いたけど、美代先生の所にやってくる患者さんは、変な虫歯ばっかりだし、2週間も働けば、慣れてきて、驚かなくな

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