第6話 パンダ
「どうもです。」
なぜか!? 美代先生は、ド派手なチャイナドレスを着ている。そう、ここは中国共産党大会のパーティー会場である。
「美代先生、よく来てくれました。」
中国のトップ、国家主席が美代先生を笑顔で迎え、両手で握手をする。
「先生は、日中戦争を止めた、正義のヒーローです。」
「いえいえ、私なんか、ただの歯科医師ですから。」
「医学で戦争が止めれる、まさに医者の鏡です。」
「ハハハハハ!」
中国の国家主席と美代先生の記事が、日中の新聞の一面を飾る。美代先生は、日本の華佗として、中国でも絶大な人気者になった。
「どうもです。」
パーティー会場の隅っこで、手のひらサイズのぬいぐるみぐらいに成長した、ミニパンダと遊ぶ女がいた。
「パンパン、かわいい。」
このパンダと遊んでいる女が、歯科助手のみなみちゃん。このお話は、小籠包より梅干しが好きな先生と、ツバメの巣に、北京ダックをひたすら食べまくった助手の話である。
ある日の、美代歯科医院。
「助けて!?」
美代先生は、黒服2人に両腕を掴まれ拉致される。
「行ってらっしゃい。」
助手は、笑顔で手を振り、美代先生を見送る。
「え!?」
新たな黒服2人が、助手の両腕も掴み拉致する。
「あなたもです。美代先生が、助手も一緒じゃなきゃ行かないと言うので。」
「先生のバカ!? 助けて! お巡りさん!」
こうして助手は、先生に道連れにされたのである。
「こんな高級車に乗ったの初めてです。」
なんやかんやで助手は、高級車の広い車内に興奮している。
「はぁ・・・いいね。みなみ君は、心配事が無くて・・・。」
美代先生は、ため息をつき、暗い顔をしている。
「先生、どうしたんですか?」
「黒服が来るってことは、また偉いさんがらみだろ?」
「ギャア!?」
はしゃいでいた助手は、悲鳴を上げた。
「もう嫌だ・・・。」
「先生、歯科医院を閉鎖しましょう・・・。」
先生と助手は、ゲッソリした。
「んん!? 車が止まったぞ!?」
「ここは・・・空港!?」
車が着いたところは、羽田空港だった。
「どうぞ、こちらへ。」
黒服に案内された先には、日本国政府専用機が待っていた。
「総理大臣が乗るやつだ!」
「カッコイイ!」
先生と助手は、テレビで見たことがあり喜んだ。
「2人には、あれに乗ってもらいます。」
「ええ!?」
黒服が唐突に言う。
「私は、パスポートを持っていないんだ!? やめろ!」
「北朝鮮に売られるんだわ!? みなみ、死にたくない!」
先生と助手は、飛行機に詰め込まれた。
「先生、私たちはどこに連れていかれるんでしょうね?」
「知らないよ、国家秘密で、教えてくれないんだから。」
行先は、謎だった。
「ワインと料理、ジャンジャン持ってきて!」
「ケーキにマカロンも、お願いします!」
先生と助手は、自分たちの状況を理解した。私たちはVIPだと。それなら、せめて飛行機の設備で楽しい空の旅を送ろうと思いついたのである。
「ジャンプ! ジャンプ!」
「床をコロコロコロ! おもしろい!」
美代先生の読み通り、誰も2人の横暴を止める者はいなかった。
「本機は、これより着陸態勢に入ります。」
機内アナウンスが流れる。まだ死にたくない先生と助手は、真顔で席に座り、シートベルトをする。こういうところは、真面目である。
「意外に近いな?」
「やっぱり北朝鮮ですか!?」
飛行機の出入り口の扉が開き、2人が外の景色を眺めた。
「中国だ!?」
「わ~い! パンダがいっぱい!」
先生と助手がやってきたのは、中国だった。
「そういえば総理大臣のおっさんが、日中首脳会談とか、言ってたな。」
「トランプのデザインがプリントされた歯を治したから、お礼の中国旅行じゃないですか?」
少しづつ調子に乗ってきた、先生と助手。
「車に乗ってください。」
「ギャア!?」
「助けて!?」
今度は、現地の黒服に両腕を掴まれて引きずられて、車に押し込められる。やっぱり2人は、恐怖しか感じないのだ。
「きっと、前回の治療が失敗して、私たちを上海マフィアに殺さす気だ!?」
「パンダの餌にされるんですよ!? 中国のパンダは人食いですよ!?」
「助けて!」
二人の悲鳴が中国全土に響き渡る。
「美代先生、お久しぶりです。」
先生と助手は、高そうなホテルの一室で総理大臣と再会した。
「どうもです。」
美代先生と総理大臣は、握手をする。
「君も、歯を掃除してくれた助手の人、よろしく。」
「みなみです。」
総理大臣は、助手にも挨拶と握手をしてくれた。歯科助手も人間として認めてくれる総理大臣の態度がうれしかった。
「実は、天下の名医、美代先生にお願いがありまして。」
総理大臣が美代先生に対し、下手に出て頼み事があるという。
「天下の名医!?」
それを聞いただけで、美代先生は、絶好調モードに入ってしまった。
「なんでしょう? この日本の名医に。ハハハハハ!」
美代先生は、有頂天になった。
「中国の国家主席が、奇々怪々な虫歯に苦しんでいて、それが日本のせいだ! と言うんです。それなら、日本の医療で治して見せますよ! ということで、美代先生をお招きしたんです。」
中国の国家主席が奇々怪々な虫歯なのだ。
「それぐらい、私が、ちょちょいのちょいっと、治して見せますよ。」
「引き受けてくれますか? ありがとうございます。」
総理大臣と美代先生は、力強く握手した。
「もちろん国家秘密ですので、失敗した場合は、命はありません。」
黒服が、言い忘れていたことを言う。
「うわあ!? 死にたくない!? 私は帰る!?」
逃げようとする美代先生を黒服が両腕を掴み捕獲する。
「先生・・・見苦しいですよ。」
助手は、呆れている。
「口から鳴き声がするんです。」
美代先生と助手は、厳重警戒の中、中国の国家主席と対面した。ろくな挨拶もなく、上海マフィア顔負けの黒服がズラリと並んでいる。失敗すれば、命は無い。
「鳴き声!?」
美代先生と助手は、顔を見合わせる。そんな症状は、聞いたことが無かった。
「とりあえず、口の中を見せてもらってもいいですか?」
美代先生と助手は、中国の国家主席の口の中を覗いた。
「ギャア!?」
2人は腰を抜かして、後ずさりするほど驚いた。
「パンダ!?」
「歯の中にパンダがいます!?」
中国の国家主席の歯の中に、かわいい小さいパンダがいるのだった。
「どうやったら、パンダが歯の中!?」
「実は、パンダが好きすぎて・・・。」
「あわわわわわ!? それ以上は言わないでください!」
助手が中国の国家主席の言葉を遮る。
「先生、どうするんですか!?」
「パンダの虫歯なんて、治療したことがないぞ!?」
美代先生と助手は、困り果ててしまう。
「おい、早く治療しろ!」
「は、はい!?」
中国の黒服が急かしてくる。
「わ、分かりました。」
「機器の確認をしますね。」
「あはははは・・・。」
無駄な抵抗の時間稼ぎであった。
「私は、日本に帰りたい・・・。」
美代先生は、項垂れる。
「どれも最新式は最新式か? お金のある歯科はいい機械を使っているな。」
感心する助手。しかし、中国制は、良く削れ過ぎた。
「あ、金属が切れた・・・。」
試しに機械を使うと、金属が切断されてしまった。
「無理だ!? これは罠だ!? 私をセレブにさせないための罠だ!?」
美代先生は、錯乱した。
「はぁ・・・、先生は、騒いでてください。私が何とかします。」
助手は、先生を見放した。
「私に治せない歯は無い!」
「おお! さすが、みなみちゃん! 私の代わりに死んでくれるのか! ありがとう! 君の死は無駄にはしない!」
「勝手に殺さないでください!」
みなみちゃんは、中国の国家主席の口の中のパンダを見つめる。
「パンパン、おいで。」
助手は、虫歯の穴に住んでいるパンダに声をかけた。
「パンパン、オジサンの臭い口の中より、お姉さんと一緒に遊ぼう。」
「キュルキュル。」
助手の呼びかけに、パンダが鳴き声を上げた。
「出てこないと、お仕置きするわよ? パンパンビーム!」
「キュルキュル。」
頭に両手を乗せてから、前に出す。それでも、パンダは出てこない。
「そうか! この子、穴に落ちて抜け出すことができないんだわ!」
助手は、パンダを救出するために、実力行使に出ることにした。
「じゃん! ピンセット!」
助手は、虫歯の落とし穴に挟まっているパンダをピンセットで挟み、中国の国家主席の口の中から取り出した。
「キュルキュル。」
パンダは、助けてくれて、ありがとうと言っている。
「かわいい!」
助手は、ミニパンダが気に入った。
「先生、あとよろしくお願いしますね。」
「え!? なんで私が!?」
「私、助手ですから。医師免許持ってませんので。」
「ああ!? いつもの仕返しだ!?」
「先生、失敗したら死刑ですよ。」
「ギャア!?」
助手は、医師免許を持っていないことが役に立ったと思った。先生は、ビビりながら、中国の国家主席の治療をすることになったのだ。美代先生の手は震えていた。
「おまえの名前は、パンパンだ!」
「キュルキュル。」
「かわいい!」
助手は、中国からパンダをもらって帰ることにした。
「おまえのご主人さまは、みなみちゃんだぞ!」
「キュルキュル。」
「かわいい!」
こうして作品のマスコットキャラクター、パンダのパンパンを手に入れた。
つづく。
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