第7話 タマネギ

「どうもです。」


美代先生は、ゴージャスなドレスを着て、会場にやってきた。


「今年の流行語大賞は・・・どうもです。」

「おお!」


美代先生をカメラのフラッシュが照らしまくる。


「美代先生、流行語大賞に選ばれた感想をお願いします。」

「どうもです。」


どんな場面でも使える、どうもです。は、美代先生がセレブになり、テレビに出れば出るほど、世間に流行していった。


「パンパン、おいしいね。」

「キュルキュル。」


会場の隅っこで、肉にかぶりつく女と、笹を食うパンダがいた。女の名前は、みなみちゃん。


「どうもです。どうもです。どうもです。」


美代先生は、歯科医師として、芸能人として成功を収め、セレブになった。この物語は、その陰には、助手とパンダがいたという、サクセスストーリーである。



「ああ~どうしよう!?」


美代先生は、頭を両手でかきながら、ジタバタ動いている。


「先生、どうしたんですか?」

「キュルキュル。」


助手とパンダは、美代先生に聞く。


「明日になれば、あの綾ちゃんが、また来てしまう!? ああ~どうしよう!?」

「もう開業してから、1週間なんですね。早いですね。」

「キュルキュル。」


美代歯科医院は、開業して7日目である。


「いろんなことがあったな。」

「そうですね。」

「キュルキュル。」


あり過ぎである。


「それでも、初日に綾ちゃんのチョコキノコと苺の虫歯に出会ってますから、後は何とかなりましたね。」

「そうだな。」

「キュルキュル。」


苦労は、若い間にすると、後の人生が楽である。


「しかし、あの綾ちゃんが、1週間の間に新しい虫歯を作っていないと思うか?」

「・・・そうですね。歯の中に異世界とか作ってそうですね。」

「キュルキュル。」


その時、美代歯科医院の入り口の扉が開き、一人のおばさんが入ってきた。


「こんにちわ。ここになんでも治せる歯医者さんでいいのかしら?」

「すいません。うちは完全予約制ですので、飛び込みのお客さんは、すべて断ってます。」

「あら? そうなの? でも、私なら、いいでしょう?」

「え!? 困ります!」


助手は、しつこいお客さんに困る。


「芸能人!?」


そこに美代先生が現れ、お客さんを見て驚く。


「は~い!」

「芸能人!?」


芸能人は、美代先生を見て、自分のことを知ってくれていると思い、話が早いと思い手を振って挨拶する。助手は、普段テレビを見ないので、分からない。


「まあ! カワイイ、パンダ。」

「キュルキュル。」


芸能人は、パンダ好きだった。


「パンダ好きなんですか?」

「私は、パンダ芸能人よ。」

「そうなんですね。」

「この子、名前はなんていうの?」

「パンパンです。」

「かわいいわね、パンパン。」

「キュルキュル。」


パンパンも、芸能人に遊んでもらえて、うれしそうだった。


「すいません。助手が失礼な対応をしまして。」

「いえいえ、おかげでパンパンと遊べましたし。」


美代先生は、芸能人に謝る。心の広い芸能人は、怒っていなかった。


「今日は、どうされたんですか?」

「歯がシャキシャキと言うのね、いろいろな病院に行ったんだけど、どこも現代医学では治せないって言うの。それでテレビを見ていたら、先生の特集があって、何でも治してくれるって言うので、治してもらおうと思ってやって来たのよ。」


テレビの宣伝効果は、絶大である。


「ありがとうございます。シャキシャキですか?」

「シャキシャキなの。」

「みなみちゃん、診察室にご案内して。」

「はい、先生。こちらです。パンパンもおいで。」

「キュルキュル。」


助手も、パンダが好きな人に悪い人はいないと思った。



「それでは口の中を見ますね。口を大きく開けてください。」


先生と助手は、芸能人の口の中を覗いた。


「ギャア!?」

「た、タマネギが生えてる!?」


なんと口の中でタマネギ畑があったのだ。


「どうして、こんなことに!?」

「私、タマネギが大好きなの。」

「はぁ・・・。」


毎度毎度、変な患者さんばかりやって来るな、と思う先生と助手。


「安心してください。これなら簡単に治せますよ。」

「本当!? 先生、よろしくお願いしますね。」

「はい。大丈夫ですよ。」


先生は患者さんに優しく微笑む。


「みなみちゃん。」


そして、助手に振る。


「ですよね・・・。」


助手も先生の行動パターンを理解してきた。


「後よろしく。」


美代先生は、ダッシュで休憩室に逃げて行った。


「はあ・・・先生ったら・・・。」


助手は、不貞腐れる。


「キュルキュル。」


パンパンが助手を応援する。


「がんばれって言うのね。分かったわ、みなみ、がんばる!」


パンダに励まされ、やる気になった助手。


「私にきれいにできない歯はない!」


決めゼリフが決まった。


「みなみ、いきます!」


助手とタマネギの戦いが始まった。


(タマネギは簡単に取れるわね。これなら楽勝ね。)

(捨てるのがもったいないから、これでカレーでも作ろうかな?)

(あれ? そういえば、パンパンは口の中で生まれたのかな?)


助手は、いろんなことを考えてしまう。


「できました!」


助手は、タマネギを取り除くことができ、歯は真っ白になった。



「先生、できました。」


助手が休憩室にやって来た。


「タマネギ持ってきてくれた?」


美代先生は、カレーを作っていた。考えることは、2人とも同じだった。


「ズコー!?」


助手はコケタ。


「虫歯の治療してくるから、タマネギ入れて煮込んどいてね。」


そう言うと、美代先生は、診察室に向かった。


「私、先生と同レベルなんだわ・・・。」


助手は、ショックを受ける。


「キュルキュル。」


パンパンが助手を慰める。



「先生、どうもありがとうございました。」

「こちらこそ、どうもです。」


芸能人の虫歯は治った。


「芸能人に、歯医者は美代先生がいいわよって宣伝しとくわね。なんなら私の番組のスポンサーになればいいのに。」

「お金ができましたら。」


美代先生は、愛想笑いを浮かべる。


「あれ? パンパンちゃんは?」

「パンパンは、休憩室で、カレーを食べています。」


ちゃんと、タマネギ入りである。


「じゃあ、さようなら!」

「さようなら!」


芸能人のおばちゃんは帰っていった。


「あ~疲れた。毎日、これだな。」

「先生、私たちもカレーを食べましょう。」

「そうだね。みなみちゃん、もう鍵は閉めといてね。」

「は~い。」


こうして、美代先生と助手の勤務時間は終わった。



「しまった!?」


美代先生がカレーのタマネギを食べながら、突然、大声を上げた。


「明日は、細菌娘が来る日じゃないか!?」


初日に来た、綾ちゃんが来るのだ。


「ああ!? ギャア!? うわあ!?」


美代先生は、狂喜乱舞した。


「パンパン、カレーおいしいね。」

「キュルキュル。」


助手とパンダは、おいしくカレーを食べた。


つづく。

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