海自の専門は海の上

 「かが」に御分霊ごぶんれいが祀られている白山しらやま比咩大神ひめのおおかみは、この状況を憐れんだのか、電話のベルを鳴らした。


「はい。かが、艦長」


 私の部下が未だ飛んで居るんだ、と後部艦橋に残った飛行長からだ。


「ヘリが着いたぞ。矢張、攻撃を受けているそうだ。下車戦闘も見受けられたらしい」


 飛行長とは、「かが」に着任してからの付合いだ。俺が射撃幹部であるが為に、海上自衛隊の航空機事情を教授してくれる優しい方だが、国防意識が人一倍ある。部下思いでもあり、「楽に稼げそうだ」と云う安直な考えの元に航空自衛隊に入隊しようと思って居た俺とは大きく違う。


「分った。ありがとう」


 受話器を置いた。


「……陸自は、戦闘を開始した」


 この一言で、士官室は騒がしく成る。驚きで息を漏らした士官が発端だ。


「司令」

「うん。無視しよう」


 そう言うと思った。円城寺なら、その智略ちりゃくで……


「え?! 無視?!」


 こいつ、何でそんな事を。


「陸自には、装甲車も戦車もあるし、輸送ヘリに観測ヘリまである。充分な完結能力があると、考えられるけどね。そもそも、海自の現有対地攻撃能力は、主砲のみ。5インチ主砲だと、有効射程は確か37キロメーター。駆逐艦クラスにとっては充分だけど、今回の戦闘地域は内陸にあって射程を遥かに超えてしまっている。あーあ、うちもトマホーク載せたいなぁ」


 円城寺の持つ理由を聞いて、俺に続いて反論しようとする愚か者は、幸いにして居なかった。



 陸上自衛隊駐屯地は、確かに襲撃に遭っていた。それが分ったのは、あれから三時間後の0300iであった。

 何故確定したのかと言うと、0300iに陸上自衛隊混成団を統べる巻口一等陸佐から連絡があったのだ。言うには、奇襲にあったがそれを退けたそうだ。

 しかもその連絡は、情報共有はついでで、支援を要請するものだった。

 円城寺は、それを快く受入れた。

 斯くして、派遣支援隊の持つMCH−101の総力を出す事となった。


「『かが』に艦載されるは、総勢7機。海自全体の保有数は10機。海自輸送ヘリ初の総力戦って訳か」


 誰に説明する訳でなく、勝手に呟いた。左舷ウィング、見張りをする艦橋上部にある露天部から、飛行甲板たる第1甲板を望む。

 甲板上にある航空機発着艦用スポット、空港で言う「H」を丸で囲んだものと同じ意味を持つ所の、5つ全てにMCH−101が発艦用意をしている。残りの2機も、全て第1甲板に上がっており、1機は待機スポット、もう1機は右舷後方に備える第2エレベーターにある。


「MCH−101、発艦、用意良し」


 艦内放送を通じて報告を受けた。すると、円城寺は、黄色の椅子から立上がった。


「発艦!」


 何時もの数倍か力強い声で、円城寺は言った。

 まさか円城寺が言うとは思わなくて、俺はその号令に即応出来なかった。


「MCH−101、発艦始め!」


 俺は、発艦、と復唱した。


「いやぁ、やってみたかったんだよね。これ」


 円城寺は、悪怯れる事も無くのうのうと言った。これはあれだ。影響を受けての行動だ。高校時代、あいつにあのアニメを勧めなければ良かった……。ちゃんと観てくれたのは嬉しいが、それがこの様に祟るとは思いもしなかった。

 細く長い回転翼を持つ大きな機体は、いとも簡単に持ち上り陸地の方向、方向角0度へ向って行った。

 MCH−101飛行隊の支援内容は、その製造目的通り、輸送である。然し、輸送するのは自衛隊ではない。ビルブァターニ軍だ。それも当然。陸上自衛隊の派遣部隊、中央即応連隊は、陸上自衛隊の中でも完全車両化された珍しい部隊だから、山等の車両進行に関わる障害が無い作戦地域では特に急を要したり包囲を画策したり特殊作戦を行ったりしない限りは空輸は選択しないだろう。

 では何故、空輸を、それもビルブァターニ軍を運ぶかと言うと、敵勢力の強大さとそれに対抗するため日媺共同して半包囲を実施する為だ。

 今回の敵勢力は、ビルブァターニと長らく敵対する国家である。不運な事に、我々自衛隊が来た時期に本格的侵攻を開始した。とぼけてみたが、自衛隊の出現が開戦の原因である事は誰が見ても明らかであった。

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