DoMaFiとの再会

「CIC、艦橋。爆破閃光確認!」


 よし。命中判定。


「α4撃墜!α1、突っ込んでくる!」

「CIWS、射撃開始した」


 CIWSは、近付く目標に対して自動的に対処する。CIWSが撃ち漏らしたら、もう逃れることはほぼ不可能だ。


「艦橋、第四戦速!回避行動」


 加瀬が命じた。繰り返すがもうCIWS以外の迎撃手段が無い。後は、回避と最後の悪足掻きであるデコイの発射だけだ。

 こんな大型艦でも船体が傾く。想像するよりも遥かに俊敏な動きをする。


「間もなく我に弾着する!」

「衝撃に備え!」


 俺は艦内全域に聞こえるように言った。

 ……皆、無言になる。これは実際の戦闘ではなく教練だ。当たったか外れたか、はたまたしまかぜの主砲やCIWSですんでの所で迎撃出来たのか判定を待っているのだ。


「加瀬……」

「……我の損害」


 必死に何かを確認している。


「浸水、火災……無し!!」


 CICがドッと湧き上がる。俺もガッツポーズで喜びを露わにした。

 しかし……


「Unknown、SeaRAM射程圏内!」


撃墜したのがミサイルということを忘れてはいけない。


「Unknown1、2。どっちもか?」


 しまかぜが撃墜判定をとっていれば……。


「はい。そのまま……あっ、今、SM-1、マークインターセプト。迫る目標は、Unknown1だけ!」


 よし!よくやった!

 ……いや、ちょっと待てよ。何だこの教練。普通、こう言うのって、護衛隊群規模でやるんじゃないのか?被弾が無いのが奇跡だよ。

 この教練を設定したのって、円城寺だよな……


「後で目に物見せてやる」

「え?」


 俺はつい独り言を漏らしてたみたいだ。加瀬が反応してしまった。


「Unknown1を墜とせ!」

「は、はい!」


 絶対に墜とさなければ、円城寺に良いいじめ材料を提供する事になる。そんなの、男として非常に情けない。


「SeaRAM、正常発射」


 当たるか、否か。


「マークインターセプト!撃墜!撃墜!」


 レーダーを監視していた隊員の嬉々とした声が上がった。

 それを確認した加瀬は進言した。


「用具収めますか?」

「ああ」


 要するに、戦闘の終了を宣言するか、ということだ。


「対空戦闘用具収め!」


 艦内放送やCIC内で、加瀬の命令は復唱された。


「なーんだ……艦長殿もやるではないか」


 円城寺は、見計らったように俺に声をかけた。

 全く、円城寺の過酷な教練のお陰でみんな疲れてるよ。あんなに、絶え間無く声量を大きくし情報を共有しあったんだ。誰だって疲労感を感じる。

 それに円城寺の発言。「なーんだ」とは何だ。その後に続く言葉は何?まるで、失敗してほしかったみたいな口調じゃないか。


「いえいえ。私ではなく、乗組員全員の練度が高いからであるかと思います」


 ここで俺の気持ちをぶつけたら、仮にでも海将補である円城寺に何をされるか分からない。幼馴染であるが故、非常に悔しい。

 そういえば、カジマリ師団長って壁内巡回騎士師団、陸上部隊だよな?海上自衛隊の教練なんかが、本当に参考になるのか?


「カジマリさん。この訓練は役に立ちましたか?」

「は、はい。とっても。これを伝えなくてはなりません」


 まだ日本語が覚束無おぼつかないらしく、正直意味が分からない。そのままの意を受け取るとなると、この教練を見学したのは、教練の内容を誰かに伝える為……。

 何か不味いことになりそうな予感がするのは、考えすぎだろうか。




 円城寺の鬼畜な教練を終え、しまかぜ、かがはDoMaFiドマーフィへ到着した。これから、しまかぜは終日、警戒監視活動に当たる。

 DoMaFiを一目見ようと、艦橋には多くの幹部が集まっていた。俺もその中の一人だ。

 我々は、実はDoMaFiを外から見た事が無い。

 “中”から出てきたのであって、外側から見れるようになる頃には消滅していたのだ。

 今、目の前に、艦橋のガラス一杯にDoMaFiが映っている。

 そのふちには、DoMaFi本体に向かって何やら。禍々しい雰囲気だ。自分等がそこを通ってきたと考えると、全身が震え背筋が凍る。遠目から、しかも窓を通して見ているのにも関わらず、不快感が俺を包み込んでいる。


「艦長、あれ……」


 双眼鏡を両手に抱えた古賀が、俺に対し呟いた。

 古賀が指を指す先には、一見して石油プラットホーム、若しくは海上に建設されたビルかのような灰色の巨大な艦船、艦尾部にクレーンやカッター等がひしめき合う四角い艦橋を持つ灰色の艦船、すっきりしたスタイルで艦尾部に多くの器具が艤装されているこれまた四角い艦橋を持つ灰色の艦船が揺蕩たゆたっていた。

 いずれも海上自衛隊に籍を置く艦船だ。

 建物と見間違える程、全長加えて全幅も大きい艦船は、ひびき型音響測定艦の1隻だ。5202という艦番号が書かれているという事は、2番艦か。

 ひびき型音響測定艦から少し離れたところにいるのは、恐らく海洋観測艦。その中でも、艦首に特徴のある装備が無い為、最新のしょうなん型海洋観測艦であろう。

 それらの奥を望むと、艦尾部に設備が集中した艦船は今、海中に何かワイヤーのような物を投下している。敷設作業中であるということだ。となると、敷設艦のむろとだ。


「補助艦艇も派遣されていたのか。聞いてないぞ」

「私も」


 俺の言葉に円城寺が同意した。

 第二次派遣隊として、おおすみ型輸送艦のくにさきが陸上部隊の増援の移動支援、そしてましゅう型補給艦1番艦ましゅうと民間のタンカーで燃料をこちらに運び、それらを護衛する護衛艦のしまかぜ等が昨宵さくしょう到着はしたが……。

 同期から、知り合いがしまかぜに乗艦しているという事で、本土の話とかを聞いた訳だが、噂としても観測関係の艦船が来るとかは聞かなかった。

 だが、この異世界の海。日本近海とは違い、水深すらもまだ分からない。観測艦を送り、様々な調査を行うのは納得が出来る。

 さて、しまかぜとはここでお別れだ。


「信号旗、UYを掲げ。汽笛を鳴らし取舵で反転する」


 取舵回頭、つまり左に曲がるので、右舷ウィングから帽振れをする。

 と、思ったのだが、ウィングは既に円城寺を始めとした気象幕僚や計画幕僚等の今回の航海に同乗した幕僚の方々で埋め尽くされていた。仕方無く、そのウィングから下に下ろされている梯子から航空甲板に降りた。

 甲板も結局は普段なら有り得ない人数がいた。幹部以外に曹官までもかいるのだ。今日が休みのいずも乗員がほぼいると言われても納得のいく程だ。

 艦が回頭を始めた。水圧で左舷が押され、右舷が下に若干沈み込んだ。

 いずもが汽笛を鳴らした。それに合わせて、皆帽振れを始めた。声援を送っている者もいる。

 いずもは、しまかぜと旭日旗を振り合い、ビルブァターニ帝政連邦本土へと戻った。

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