教練対空戦闘用意

 次の日、イュイ12番目。

 そういえば、昨日からイリューシャン副旅団長がいない。その代わりに、話に聞いていた通りカジマリ師団長が艦橋にいる。

 聞いたところによると、カジマリ師団長は自衛隊に興味があるそうだ。ならば、と、今日は円城寺に許可をもらって教練を行う予定だ。きっちりと、ビルブァターニにも許可を得た。

 第二分隊が艦内放送のマイクに向かって喇叭を吹いた。マイクを持っていた隊員は喇叭が吹き終わると、それを今度は自分の口に向けた。


「出航用意!」


 係留具が外され、かがは出港した。

 第二次派遣隊の護衛としてこちらに来た『しまかぜ』もかがと同時出航だ。これから数箇月、DoMaFiドマーフィ近辺の警戒監視活動の任に就く。

 DoMaFiにしまかぜが向かうというので、かがはそれに同行ししまかぜと教練を行うことにした。




 湾を出て、周囲に民間船舶も認められなかったので、早速教練を行うこととした。案外、DoMaFiまでの距離は短い。


「教練を行う。しまかぜに伝達」


 俺の命令で、第二分隊がサーチライトで発光信号を送った。

 返信が来たようだ。では、始めよう。

 俺はカジマリ師団長を連れ、CICに移った。

 相変わらず、CICは薄暗い。カジマリ師団長は勤勉らしく、こんな暗い環境でもメモを取っている。

 円城寺もCICにいて、壁に寄りかかっている。

 俺は、艦長席に座った。


「艦長、始めます」

「はい」


 俺が座ったと同時に、CICで実権を握る攻撃指揮官の加瀬が言った。


「教練始める。DoMaFi警戒任務にあったSH-60K一機が墜落した。かがとしまかぜは現場に向かう。DoMaFi近辺に航空機、水上艦艇の存在が認められる。各部、対空、水上警戒を厳となせ」


 艦内放送で、教練の具体的な内容が伝えられる。しまかぜにも同様に伝達される。


「各部、対空、水上警戒を厳となせ」


 加瀬が改めて言った。CICがピンと張り詰めた。

 DoMaFi近辺に到着したとし、教練を進める。


「DoMaFiの警戒海域に到着。対空レーダー反応あるか?」

「0度方向、不明の航空機確認。二機。音速を超えているため戦闘機と認む。以後Unknown1、2とする」


 加瀬がレーダー監視員に問うと偶然、敵機を発見した。そう、偶然。


「艦長、配置に付けてよろしいですか」

「良いぞ。やっちまえ」

「了解。教練対空戦闘用意!」


 俺が許可すると、加瀬は盛大に戦闘開始を宣言した。


「教練対空戦闘用意!」

「しまかぜに支援要請」


 艦内放送が終わったのを見計らい、俺が直接命令した。


「しまかぜに支援を要請」


 と、一気にCICが静かになった。かがにはやることが無くなった。まだ、SeaRAMシーラムCIWSシウスも当然ながら射程外だ。

 まずは、しまかぜがSM-1で迎撃を行う。


「目標から新たな輝点が現出!これをαアルファ1、以後連番とする。我に真っ直ぐ近付く」


 敵戦闘機より、ミサイルが発射されたようだ。恐らく対艦ミサイル。

 航空機ならいざ知らず、対艦ミサイルであればSM-1では撃ち漏らす確率が高い。


「各部、教練対空戦闘用意良し」


 浸水時などを想定した隔壁の封鎖等が完了したようだ。これで万が一、かがが直接迎撃することになっても対応することが出来る。


「輝点更に増え、α1、2、3、4が全て我に向かう」


 四機の対艦ミサイルが我に接近するという、現代戦を意識した教練だ。現代戦ではこのように、一つの目標に対して複数の攻撃を行う飽和攻撃が一番効果的と言われている。


「ECM、攻撃始め」

「はい。ECM、攻撃始め!」


 比較的最新の電子妨害装置を搭載するのはかがなので、撃墜の支援を行う。俺の言葉を加瀬が復唱した。


「しまかぜ、SM-1、四機発射」


 そして、しまかぜの迎撃が始まった。再び、CICが緊張で張り詰める。


「α2、3撃墜。α1、4は変わらず我に近付く」


 そろそろ、か。


「SeaRAM、射撃出来るか?」

「間もなく射程圏内に入ります」


 俺が聞くと、加瀬ではなく直接レーダー監視員が報告した。


「艦長、撃ちますか?」

「当然だ。沈没したいのか?」

「沈没は避けます。教練対空戦闘、α目標、SeaRAM、CIWS攻撃始め!」


 加瀬は心配性なのか、射撃になるといちいち問い掛けてくる。


「今から、何を行うですか?」


 カジマリ師団長が尋ねてきた。そういえば、存在を忘れてしまっていた。

 この教練は半ば、カジマリ師団長の自衛隊の理解を深める目的のものなので丁寧に教えることにする。


「今、私達には――」

「この艦には、対艦ミサイルと言う攻撃兵器が迫っています」


 俺の解説に無理矢理割り込み、円城寺が説明を始めた。


「それを壊す為、海に一緒に出た艦がミサイルを壊す為のミサイルを発射しました」


 どうやら、解説は任せろと言いたいらしい。

 さて、俺は教練に集中しますか。


「教練対空戦闘、SeaRAM、攻撃始め!」


 俺は、SeaRAMの攻撃を促した。

 SeaRAMと言うのは、アメリカ合衆国の開発した空対空ミサイルのサイドワインダーを元に作られたミサイルを水上艦艇用の発射機で発射する対空迎撃用兵器だ。


「発射用意……ってぇ!」


 SeaRAMが発射された。


「SeaRAM発射」


 恐らく数秒で弾着するだろう。SeaRAMは、対空戦闘においてほぼ最終段階だ。


「しまかぜが砲で対処始めた」


 自慢の艦首、艦尾にある54口径127mm単装速射砲を放っていることだろう。この教練では、主砲の射撃だけは実際に行っている。

 日本の護衛艦で主砲を二門構えている護衛艦はしまかぜと同型のはたかぜ型護衛艦しか現役ではない。


「インターセプト、5秒前。4、3、2、1、マークインターセプト」


 ミサイルとミサイルが衝突する頃合いだ。艦橋から、爆破閃光等視認出来たかどうか報告が待たれる。

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