仲間は必ずそこにいる JTF
俺は冷静になり、ヴィレッキュアから色々な話を聞いた。
ヴィレッキュアというのは、過去の天皇陛下のように神格化されていること。俺達は、異世界に来ていてビルブァターニ帝政連邦による召喚術式によって招かれたこと。ビルブァターニ帝政連邦は、その異世界では軍事的にも経済的にも優れた国家である事。数年前、神と伝えられてきた巨大な生物が国を襲ってしまう直前にF-35Aが登場しその状況を救ったり、他国との戦争が勃発した際に海上自衛隊が現れビルブァターニ帝政連邦に加勢したこと等々。
脳のキャパシティーをオーバーしそうになった。
医務室に一応運んだ射撃員の、回復報告も受けた。
ようやく、陸地が見えてきた。陸地には、肌色の部分がありレンガ造りや石造りの建物が見受けられる。
派遣支援隊は、恐らく湾のような場所に入った。
そこで、寄港する場所を指定されたのだが、そこまでの通り道が狭く困惑していたおおすみに対してまたもや空中に浮遊出来る人が登場した。その人は、こちらまでに聞こえるような声で、セミシャ・リミャインドと名乗っていた。その人がとった行動は艦橋にいた誰もが目を見張った。魔法とおぼしき信じがたい力で、おおすみを横滑りさせ強引に寄港させたのだ。おおすみの竜骨が曲がりそうで怖かった。
もうさっきから、情報過多になっている……
「艦長、自衛隊担当役としてビルブァターニより派遣された方がお見えになっています」
かがは、おおすみがスライディング寄港した場所とはまた違う区域に停泊した。
そこで、担当役か。要するに監視役だろ。そうだとしても、礼儀として円城寺も行った方が良いよな……。その考えを円城寺に伝えようとしたが、そもそも円城寺は行く気満々のようだ。一見してしわ一つ無い純白の制服を、羽織っている。
順にタラップを下りて行き、陸地へと続くタラップがある階層まで着いた。寄港直後に掛けられた大きなサイドランプからは、陸自の車両が絶え間なく吐き出されている。
艦の外に飛び出ているタラップの元には、恐らく自衛隊担当役とやらがいた。俺、円城寺の順で下り、早速自己紹介から入った。
「海上自衛隊臨時編成のJTF派遣支援隊司令、円城寺水無月海将補です。よろしく」
円城寺は、そう言って手を差し伸べた。担当役は一瞬首を傾げたが、何か一言呟いて握手に応じた。
俺も続く。
「護衛艦かが艦長の力久慎護一等海佐」
色白の小さく柔らかい手を握り、握手を交わした。ふと、顔から目線を外し、彼女の頭に目を向けた。
彼女は、頭の上に綺麗な二等辺三角形の黒い猫耳のようなものが、乗っていた。というより、猫耳だ。あ、動いた。
……これは、本当に異世界に来てしまったと思うしかないようだ。
「イリューシャン・パブリコーフ・リチャフです。自衛隊担当役を兼ねて、神聖ロリ守護騎士旅団副旅団長を務めております」
子供の容姿に猫耳という信じられない組み合わせに、更に追加されたのが淑やかな口調だ。あと、旅団の名前は何だ?何と言った?俺は「ロリ」と聞こえたんだが……どう考えても聞き間違えだろうな。
「他にも、自衛隊の護衛として壁内巡回騎士師団第3連隊を勝手ながら配備させて頂きます」
「それはありがたいですね。是非、お願いします。」
円城寺は上辺ではこう言っているが、分かりきったことだ。最悪、こちらがビルブァターニの意に沿わない行動をした時には、攻撃を受ける可能性があるかもしれない。担当役に子供を選んだのは、我々を油断させる為か?
「そうそう。彼が、私が不在だった場合に担当する壁内巡回騎士師団の師団長を務めますカジマリ・シャルンダ。日本語勉強中なので、少し変なしゃべり方ですけど、ご容赦下さい」
一人の男が前に出た。イリューシャンの紹介した者だろう。
「私……名前、は、カジマリ・シャルンダ。壁内じゃ
……じ、巡回騎士師団、師団長」
カンニングペーパーを用いて自己紹介をした男は、俺より一回り大きい体格で声も野太い。白銀の鎧は傷だらけで太陽の光ですらくすんでしまっている。ただ会話しているだけなのに、カジマリの眼は鋭く目線だけで目標を両断してしまいそうだ。
帝歴2679年イュイ11番目。今日はビルブァターニ帝政連邦では、そう言われている日だと教えてもらった。イュイは、こちらで言う"月"に該当するらしい。
昨日の到着直後、派遣された陸上自衛隊は早速行方不明者を一人発見したらしい。しかも、今日は他国に捕虜として行方不明者が捕らえられているということで、邦人救出作戦が敢行されているそうだ。
自衛隊、異世界では活発なり。
「力久ぁ」
背後から名前を呼ばれた。円城寺だ。
「司令、混成団長との情報共有、終了したんですね」
円城寺は、陸自の巻口団長が提案した定例情報共有を行っていた。巻口団長の提案は、陸海自衛隊が統合運用するにあたって効果的なものである。
情報共有を終えた円城寺は、疲れ切った表情をしている。
「どうしたんですか?司令。自慢のお顔が台無しですよ」
「え、なになに?私の超絶に美しいこの顔に見惚れちゃった?」
駄目だ。俺のからかいなど円城寺には、そよ風みたいなものらしい。
「あ、力久。陸自は今頃、出発するらしいけど、非常時に備えて海自のSH-60の支援準備を万全に」
「了解」
円城寺は急に話の内容を変えた。
SH-60Kのパイロットは、航空自衛隊のスクランブル要員と同じように交代で待機をしている。
SH-60K一機は、陸自の狙撃班を支援するため早朝、発艦した。狙撃班は先発予定らしいので、既に作戦に参加していることだろう。
今すべき準備は、航海時から既に飛行甲板に出ている機の点検だ。
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