第3話

日曜日。前にも言ったけれど、僕は毎日のように残業しているので、残業代がたんまりつく。特にこれといった趣味は無いけれど、休日は結構贅沢な生活をしていると思う。「贅沢は敵だ」なんて言うかもしれないけれど、それに見合った仕事をしているのだ。文句は言わせない。

休日出勤も多いからこそ、何もない休日がとても大事だ。

今日も、行きつけの美容院でボサボサの頭をカットして、代官山でブランド物のジャケットを買い、適当にやっている映画を見た後、ステーキを食べて、飲んだ。あとはゲームを何本か買った。どうせやる暇なんてないんだろうが、とにかく新しいゲーム機が出たり人気のゲームが出たら買ってしまうんだ。でも、買って満足してしまうタイプの僕。今日も散在した。こういうのってストレス発散になっているのだろうか?


そして、また気だるい月曜日が来る。だが、今日は偶然にも、オフィスには僕と庶務の二人だけだった。何かあったのだろうか?集団食中毒?なんて思っても見ないことを思う。

正直、僕は庶務…いや、日下部さんの事を知らない。年齢も解らないし(落ち着いていると言えば落ち着いているけれど、なんか子供っぽい話し方をする事もある)、勿論、彼氏がいるのかどうかはわからない。薬指に指輪をしているのでなんとなくわかるが。

日下部さんがこの会社に配属されたのは去年か。ずいぶんと僕のハートを突き刺したなぁ~。と、まぁ、一目惚れな訳だ。まぁ、いつもは会社に沢山の人や他の庶務もいるのでまともな会話をした事もない。


でも、今日は二人きり。日下部さんが、僕を見て「あ、ジャケットいいですねー。」と言ってきた。昨日、代官山で買ったおニューのジャケット。チャンスだ。

その後、遅れて部長が来るまで少し話すことが出来た。「彼氏?ふふふ秘密ですぅ~」この仕草が可愛くて僕は惚れているんだなぁ~と思う。

部長は、「おい、川本お前、ここで何やってるんだ、早く茅場町のプロジェクトへ行け!大トラブル発生で全員行っているぞ!」との事。あぁ、昨日、映画を見るときに携帯の電源を切ったままだったんだ。慌てて電源を入れると「留守番電話23件デス。」の声。冷や汗が出る。

僕はどんなトラブルが起きたかわからないけれど、とにかく茅場町のプロジェクトに行かなくては…。


さすがの「和歌子」も茅場町までは追ってこなかった。いや、もしかしたら尾行されていたかもしれないが、僕の入ったビルの何階で電話番号まではさすがに解るまい。

と、言うよりも「和歌子」の事なんて頭にまったく入ってこないほど忙しかった。とにかく総動員でプログラムの修正をしている。大きなトラブルはこのままだと新聞に載ってしまうかもしれないようなトラブル。僕は無責任にも「俺はこんな大きなプロジェクトをやっているんだぜ。」と心の中で自慢する。とにかくデータの復旧が大変で、問題のプログラムの特定が出来ていない。その中で下手にプログラムを走らせては二次災害の可能性がある。プロジェクトリーダーたちが、壁にプログラム関連図を貼り付けて会議をしている。

緊張が走る。僕のプログラムが原因ではありませんように…。


結果、データの復旧は完了し、同じような問題が起きないようなプログラム修正も完了した。万事解決。結局二交代制で24時間フルでプロジェクトルームが動いていた訳だ。

「よし、今日はもうみんな帰っていいぞ。」部長が言う。部長も災難だったろうに。今回のトラブルの責任および、僕たちの作業代(おそらくお客からこの分のお金はもらえないだろう。)の確保に尽力しなくてはならない。

「あぁ、空は青い。俺はヒラで良かった。」と、そんな事を呟きながら、地下鉄に乗り込む。

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