第2話
翌週の月曜日。僕がちょっと遅刻して10時に会社に行くと、ちょうど狙ったかのように庶務の電話が鳴る。そして、いつもの顔をする。あぁ、「和歌子」か。
もう、面倒なので、退職手段を使うように庶務に言う。
「申し訳ありません。川本は先週の後半に突然出張から戻ってきて、退職してしまいました。理由?さぁ、私には解りかねますが。」
さぁ、これで「和歌子」とは終わりだ。
だが、次の会話に驚かされた。
「え、川本が弊社に通勤するのを見た?そ、そうですか。」
庶務がばつの悪い顔をする。
しまった、ストーカーされていたか。それにしては家に電話や手紙は来なかったのだが…。
「少々確認してまいります。」
庶務が私にまかせて!と言った顔をしている。
「お待たせしました。川本ですが、本日は退職の関係で弊社人事部署に行って手続きをしているようです。私共の部署には来ないかと…えぇ、すいません。」
これで、今日はしのげた。だが、これから出勤はどうすればいいのだろうか?ずっと前から僕が出勤するのを見ていたのだろうか?背筋が凍る。
とりあえず、今、会社を出ても「和歌子」と遭遇するかもしれないので、普段通りプログラミングの仕事をしていた。ただ、少々取り乱していたが。
23時30。さすがにこの時間までは残っていないだろう。とは思いながらも少々用心しながら会社を出る。
いつもの帰り道。「和歌子」はどこまで知っているのだろうか?家に着いたが手紙とかは入っていなかった。とにかく無事に帰れた訳だ。
ただ、問題は明日からどうするか、だ。
僕が考えたシナリオは2つ。ひとつは「人事部で説得されて退職を撤回した。」ふたつめは「本当に会社を辞める」だ。が、どうして僕が「和歌子」の為に会社を辞めなければいけないんだ!?まったく納得できない。この職場は気に入っている。日下部さんもいるし。
どう考えても、シナリオは「会社復帰」しか残されていなかった。そうするとまた、見えない「和歌子」が僕を苦しめるのであろう。
それにしても、「和歌子」は僕に何をして欲しいのだろう?そういえば深く考えた事は無かった。最初から会話になった事もないんだけれど、ちょっと話してみればきっと決着がつくだろう。「好きです」って言われるのか「あなたの子供を身篭ったから慰謝料払え」と言うのか(まぁ、そういう行為をした人の中に和歌子はいなかったけれど…)とにかく解らない。
思い切って、明日直接「和歌子」と電話で話そうか。
翌日、昨日も終電だったので、今日も10時出勤であった。プログラマーは朝が弱い人が多い。夜はその分強いのだが。よく、他の業種の人に「早く来て仕事をすれば、その分早く帰れるんじゃないの?」と言われるが答えはノーだ。仕事は鬼のように順番待ちで待っている。”終電”が僕が帰るための一番の口実なのだ。
出勤してすぐに庶務の電話が鳴る。今日こそ俺が出るから回してくれ。と言っておく。さぁ、「和歌子」め、何を話してやろうか。庶務が「えぇ、川本は人事部に説得されて本日より、私共の部署におります。今、内線回しますので。」
僕の電話が鳴る。決戦の時。
ガチャり。「ツーツー」
電話は切れていた。僕と話す気は無いのか?まったく意味不明である。その事を庶務に話すと、「それは不思議ねぇ、普通話したいから電話するんでしょ?存在確認だけで電話するなんて意味わかんない。」至極正論である。その日はそれだけでつつがなく日々はすんでいった。
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