第6話
しばし、トイレから出てきても、うわの空だった。橋谷さんは何を思って、「待ってた」なんて言ったんだろう。僕の夢に出てきた時には「待ってた」はなかった。既に知っている仲で夜中を歩いた夢。ぼんやりだけど覚えている。
橋谷さんはと言えば、立川の隣に戻り、キャハキャハ言っている。さっきの一言はなんだったんだ?
僕は、四谷が追加で頼んでくれたビールを飲みながら、何かを思っているようだった。
「酔った?」神田が言う。
「いや、酔ってはいない、酔ってはいないよぉ~飲むよぉ~。ジャジャジャジぁー。」と僕は子供の頃に見たTV番組の口調(この口調が一時期マイブームだったなぁ~)でビールを飲んだ。
時間(2時間制だった)がきたので、一次会終了。さて、この面子で次、どう動く?立川、中野よ?カラオケに行くのか?それとも解散か?
「えー、一応、男4000円、女性2500円でお願いしまーす。余ったお金で次のカラオケに行きますー。来る人ー!」中野が先手を切った。勝負に出たな。
それに対して、我らには意外すぎる結果がまっていたのだ。
「えー、私達、明日仕事なんで、今日は帰りますー。」
な、な、なんと!断られた!どうにも今日の女性陣は明日も仕事らしい。
これは、男だらけの二次会は確定だ。立川は複雑な顔をしている。
「行って来なよ、橋谷さん、待ってるぜ。」僕達の精一杯の返送をした。
立川は申し訳なさそうな顔をして、そして小走りに橋谷さんの元へと向かっていった。橋谷さんは嬉しそうにしていた。
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「どーなってんだよー。」
「まぁ、仕方ないよ。」
「それにしても、ありゃないぜ。」
「うん、今日は酷かった。ハズレだ。」
「これは、あれだ。立川は次回罰ゲームだ。」
「だな。」
負け組の面々が2次会の居酒屋で焼酎を飲みながら反省会をしていた。ビシーっと決まったスーツの面々の4人組は鄙びた居酒屋でJINROを飲んでいる。これが僕達にはお似合いだ。
結局、ボトルを入れたので、飲み終わったのはもう日が変わっていた。そして、その後、カラオケに行って、各自ストレスの発散をした。
気がつけば、時計の針は3時を回っていた。
「うーん、タクシーで帰るか?4等分して。」
「でも、あと2時間くらいしたら、始発出るよ。」
「そうだな、うん、じゃあ、カラオケに…」
「もう、カラオケはいいじゃん。漫画喫茶行こう。」
「そうだな。漫画喫茶で始発まで時間を潰そう。」
僕達は酔っ払いながら、漫画喫茶に入り、各人の席に着くなり、眠ってしまっていた。
…どのくらいたったろうか?凄く眠った気がするが、まだ2時間も経ってない。もう、始発も出ている所だ。他のメンバーはまだ眠っているかわからんので、先に帰ろう。
店を出ると、夜が終わり、朝が始まる寸前だった。人はまばらにも歩いておらず、カラスの鳴き声が聞こえる。
「あの夢の風景と一緒だ。」
あの夢と違うのは、横にあの人が居ないって事だ。
そういえば、この風景、思い出した。大学時代だ。
大学時代には、テニスサークルに入っていた僕達は、テニスはほとんどせずに、いっつも朝まで飲んでいた。大人数で、朝まで飲んで、誰が誰かわからないくらい。始発まで飲んでいた。
その風景だ。これは。
僕はなんにも変わっていない。ただ、みんなに流されて、自分から努力をしようともせず、エスカレーターに乗っている。階段で一段飛ばししている立川とは違う。だから、僕は橋谷さんに出会えなかった。もし、僕が頑張っていれば、もう少し積極的であれば、僕は橋谷さんと出会っていたのかもしれない。こんな暁の青の風景の中で。
新橋の切符売り場で前の人がもたついている。どうも帰るお金が足りないらしい。僕は、そっと小銭を差し出し、向こうのお礼も聞かないふりをして、改札をくぐる。
僕にはまだ、そんなんじゃないんだ。もっと頑張って、もっと仕事をして、もっと、もっと努力して、そして、またこんな風景に出会ったらその時は、胸を張って言おう。
「お一人ですか、夢で会いませんでしたか?」と。
暁の青 山田波秋 @namiaki
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