第5話
「自己紹介ターイム!」中野が言う。居酒屋の個室で5対5人の合コンだ。全員にビールが回った、そして乾杯。その上での中野の発言だ。
「じゃー、まず、立川から時計回りに!」
立川はちょっと恥ずかしそうに言う。「僕の名前は立川です。うーん、言う事ないなぁ~、あの、一応、橋谷さんの彼氏って事で。仲良くさせていただいています。一応企画者なので、今日は楽しみましょう!」
夢の中の人は立川の右隣に座っていた。橋谷さんって言うのか。
「はい!じゃあ、次!僕、中野って言います!今日はこの日の為にスーツを買いましたッ!似合いますか?えー、好きなバンドはミスチルです。ミスチルの曲なら何でも歌えます!よろしくお願いします!」
おぉ、先にミスチルを出されたか。俺が今日朝の電車で聞いたのもミスチルの新譜だったっけ。こりゃ不利だ。
「四谷です。この5人は同期で、でも厳密に言うと、僕が一番年上になります。誕生日が4月3日なんです。知ってました?4月3日が学年の一番年寄りで、4月2日が一番若いんです。なんで4月3日じからなんだろう?それまでは知りませんが…あ、え、以上です。」
「神田と言います。九州の福岡県出身です。訛りはないけん。…っていきなり訛ってしまいましたね。とんこつラーメンと明太子なら任せて下さい。」
おぉ、神田、方言を上手く使った自己紹介。やるなぁ~。実は百戦錬磨か?
「え、っと僕は、出身は北海道です。上京してきて全然新参者なんですけれど、よろしくお願いいたします。」って何とか自己紹介は言えたか。
「しつもーん!」女の子の一人が言う
「北海道は何処ですか?」
「旭川って言う所です。冬は凄く寒くて、ダイヤモンドダストって聞いたことあります?空気中の成分が寒すぎて結晶化するんです。凄く綺麗なんですよ。って言っても分からないか。」
「質問タイムは全員が終ってからでーす。フライングー!一気!一気!」中野が今日の進行役だな。それにしても一気は体に悪いから言うのはやめれ。
自己紹介は女性陣に移った。ここからが勝負だ。…って言うか、もう敗戦ムード全開なんですけど。
女性陣の自己紹介があったが、正直、ハズレだ。実は四谷だって神田だって、多分…中野だって、ハズレって分かっていたんだろう。その上での進行役。今日のMVPは中野に決定だ。立川は申し訳なさそうにしている。正直、橋谷さん一人が一番綺麗だったのである。こんな事なら、いつもの店で河合さんをつまみに酒を飲んでいる方が楽しかっただろうよ。
「席替えターイム!」中野が進める。さすがだ中野。今度奢ってやる。
しばし、歓談である。ビールはピッチャーで運ばれてきて、それをお互いに注ぎながら会話は続く、会話は踊る。
席替えしても動かなかったのは立川と橋谷だ。これは揺るぎようがない。今日の接点は君なのだからな。そして、後で我々から責められる事になるだろう。可哀想だが、同情はしないぞ、立川。
女性陣がこれ…な以上、橋谷さんが輝いて見える。静かで、全てを立川に身を委ねる。正直、悔しい。カワイイからって理由だけではないな、多分、夢に出てきた女性そっくりだから、だ。
ビールを沢山飲んだら、トイレに行きたくなってきた。ちょっと酔っているし、この集団からちょっと離れるのも悪くない。ってー事でトイレに行く宣言をする。
すると、偶然にも橋谷さんが、「私もトイレ」と言った。これは偶然?必然?
同じ道を歩く。
すると、橋谷さんはこう言ったんだ「私、待ってたのに。あなたは来なかったんだよ。」立川にではない、僕に対してだ。
僕の頭はこんがらがって、パスタをフォークでくるくる巻くみたいな感じになった。
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