第4話

朝からソワソワしている。目覚まし前に目が覚めるなんて珍しい事だ。目覚めもすっきり。顔を洗った後、珍しく時間をかけて髪形をセットし、青色のYシャツに紺色のネクタイ。3ピースの黒のスーツを着込む。”212”のコロンをはたく。女性用の”212”。あぁ、212ってのはニューヨークの市外局番らしいよ。と、思い出しながら、精一杯の勝負スタイルを装着して、会社へと向かう。


そう、今日は金曜日。合コンの日だ。移動の電車の中で、カラオケで歌う為の最新曲を繰り返し聴く。


仕事はいつも通り。この一言で片付いてしまうような仕事。今日だけは早く会社を出ねば。一日中ソワソワ。”合コン”これも、新人の仕事だと思いたいね。まぁ、いつまでも学生のノリではいられないけれど。


17:30ちょうどに仕事終了。それからSL広場に向かう。同期はもう来ているだろうか?一番乗りはいやだなぁ~。学生の頃、合コンで待ち合わせていて、一番最初に待ち合わせ場所について、まわりの女の子を見ていて、「あちゃー」と思う集団がいて、見事にそれが合コンの相手だったと言う悲しい経験がある。できれば、先に誰か着ていて、一緒に物色したいではないか。


「ちょうど定時で出たから、多分、俺が一番か…」と思えば、SLの前に既に入るではないか!そう、この日を一番待ち望んだ男、中野!


中野もバシっと決めていた。ドット柄のYシャツにオレンジのネクタイ。スリーピースと来た。同様に勝負服と見た!


「おいおい!こっちこっち!」中野が手招きする。

「まだ、誰もきてない?」

「おう、俺、定時ちょうどにダッシュしたからな。間違いなく俺が一番だ。他にはお前しか来ていない。」

「あとは…女性陣だな。さすがに金曜日だからココは混んでいる。その中で女の子の5人の集団が入ればいいのだが。できれば中野の彼女を見つけられたら間違いないのだが。」


思い出した。と言うか知っていた。中野の彼女と夢の中に出てきた女性。僕はまさに”夢にまで見た”女性と出会う事が出来るのだ。まぁ、…中野の彼女なんだけれど。


しばらくして、立川登場。

「おう、こっちこっち!」中野が手招きをする。神様のご到着って訳だ。

「女性陣、この中にいる?」中野が矢継ぎ早に聞く。

「それが、ちょっと遅れるらしい。10分くらい。で、全員一緒に来るって言ってたよ。」


女性が一緒に来るパターンってのもお決まりのパターンだ。別の場所で待ち合わせて一緒に来る。常套作戦。いつもの如し、か。


四谷と神田が来た。あぁ、言い忘れていたが、この二人は同じ部署だ。

「まいったよ、神田と一緒に出ようとしたら、先輩に『お前ら、合コンだな?しっかりゲットするんだぞ!』って言われちゃったよ。」

やっぱり判っちゃうんだよな。当たり前か。いつもよりオシャレに決めた二人が定時に帰るんだから。これに気付かない先輩がいるとしたら、相当仕事が忙しいか、女性経験が無いか、だ。


男性陣は全員集合か。懐かしいな、昔はココに噴水があったんだよなぁ~。よくSL広場で待ち合わせたもんだ。まぁ、随分様変わりしてしまったが、ニュー新橋ビルだけは健在だな。未だにあの建物の存在意義がわからないが。”ニュー”でもないし。


「あっ」

立川が携帯を取り出す。

「今、着いたとさ。」


改札から、キョロキョロしながら女性の集団がやってくる。

そこには、確かに、夢の中の人がいた。夢の人が現実となって出てきた。

僕の胸の鼓動は止まらなくなってきていたんだ。

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