第2話

「おう、遅れてすまん」やってきた。最後の一人。立川である。立川は今にも”忙しい仕事をこなしてきたぜ。”といわんばかりに、スーツの上を脱ぎ、ネクタイを緩め、”おねーちゃん”に「生一つ」と頼む。仕草ばっかりは一丁前のサラリーマンだ。


「いやー、参ったよ。今日、時間があったから俺なりに資料を纏めてみたの。そしたらさ、先輩が『おぉ、いいじゃない。その資料本格的に作ってみてよ。今度の会議で発表させてあげるよ。』なんて言うんだぜ、新米の俺によ。」


立川は”俺は一歩リードしたぜ。”とでも言わんばかりに、仕事の話をする。しばらくしてキンキンに冷えたビールが運ばれてくる。


「乾杯!」俺が着てから2回目の乾杯。一体、今日何回の乾杯をしているのだろう、この安居酒屋で。


既に来ている、四谷、神田、中野は、やれやれまた始まったよってビールを飲み進めている。そんな中、立川からまたしても我々を出し抜いた発言をした。「俺、彼女ができたよ。」


みんな、ビールをブッと噴出しそうになった。な、なんだ?コイツは、よりによって、貧乏・彼女なしの連盟ではなかったのか?みんなのマドンナはこの居酒屋の河合さんじゃなかったのか?


「それがさ、先輩に連れられて六本木に行ったんだよ。勿論、初めてさ。最初に普通に居酒屋に行って、それからカラオケに連れられて、その後、先輩に『よぉ、六本木行かないか?あぁ、金なら心配するな。』ってさ。で、行ったんだよ。六本木。ここら辺とは全然違ったよ。外人も多いし、綺麗な人も多い。で、旧テレビ朝日通りってあるだろ?あぁ、わかんないか。俺もわからないけどサ。で、なんかピアノが置いてあるバーに行ったんだよ。もうドキドキしてさ。で、ウイスキーを飲んでさ。もう酔って。」


立川は、一息置いてビールをジョッキ半分飲んでニラ玉を一口ほうばって、話を続けた。


「で、先輩ったら酷いんだぜ。バーで知り合った女性とどっか消えたの。『ここの金は払っておくから、じゃあな。』って。俺、参ったよ。金ないしさ、どーやって帰ろうかって。財布の中には2000円。終電はとっくに過ぎている訳よ。で、迷ったあげくさ、始発まで漫画喫茶にいたの。で、そろそろ始発かなぁ~、って思って外に出たらちょっと空が明るくなってきてさ。駅に向かう人が沢山いるの。どーして、こんなにも人がいるんだろうねぇ~、どこにいるんだろう。」


立川は、ビールを飲んでは一気に話を進める。


「切符売り場でさ、なんか前の人が財布広げながらなんか困ってるの。女性でさ。酔ってもいたから、『どうしたんですか?』って聞いたら、恥ずかしそうに、『お金…無いんです。』って。聞いたら新橋に行く210円が無いみたいでさ。そのくらいなら、って出してあげたの。そしたら、『必ずお返ししますから!』って言って携帯番号聞かれてさ、なんか舞い上がって、諦め半分だったけど教えたの。そしたら、その日の内に電話がかかってきてさぁ~。会うことになったの。で、210円返してもらって。律儀だねぇ~、で、そこからなんとなく付き合うことになったって訳。」


立川は満足そうに話してビールを飲みほし、「おねーちゃん生もう一杯」なんて興奮している。


しばらく俺を含めた4人は”ぽかーん”である。で、ビールをみんな飲み干し、4杯の生を”おねーちゃん”に頼んだ後、ハムサラダを追加して、ビールを飲んで、しばし落ち着く。


「そうか、彼女が出来たか、お前は仕事も彼女もで順風満帆だな。」四谷が僻みっぽく言う。


「まぁ、仕事は忙しいけど、毎日電話しているよ。なんだったら合コンを開いてやってもいいぞ!」立川は一歩上の目線から言う。


中野は一歩乗り出して、「ほ、本当か!是非頼む!」と。中野よお前にプライドは無いのか。敗北宣言だぞそれは。


瞬く間に立川は僕らの中で一歩抜きん出た。それは事実。だが、僕らはまだ23歳。まだまだ可能性はある。


中野は続けた、「おい、写真、あるんだろ!?、少なくても写メくらいは…。」


立川は待ってましたとばっかりに「あるよ。」と一言。皮肉にしか聞こえないが、正直、どんな女性かの興味はあった。くやしいが興味があった。


立川は壁にかけたジャケットから携帯を取り出し、色々と操作した後、画面を僕らに見せた。それを順番に回して見た。


中野は「おいおい!すげーな。奇跡だ。」

四谷は「信じられないよ。いいなぁ~。」

神田は「う、負けた負けたよ。」


携帯は僕の手元に回ってきた。冷やかしてやろうと画面を覗き込む。


そこには、忘れられなくなった、夢の中で見た女性そのものが写っていた。

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