第152話「回る悪運」 ゲチク

 エルバティアの鷹頭の追撃から逃れ、散って、塩湖に集まったのは結局、ジャーヴァル時代から一緒にいた生き残りの連中でも年寄りだけだった。

 二十三騎。ノグルベイがいるし、タザイールもいる。

 クトゥルナムは当然いない。あいつなら生き残りを集めて結構賢く世渡りをする集団でも築くだろう。

 一から出直しだ。つまりはまだやってやれるってことだ。

 歳は食ったがまだ五十にもなってない。後この倍もある寿命でやれんことなどあるものか。目玉一つ落としたぐらいで死にはしなかったし、健康だ。

 逃げた仲間に売られて盗賊狩りが待ち伏せしなかっただけ幸運に恵まれているといものだ。


■■■


 二十三騎でまずすることは情報収集。世情が分からなければ強盗も出来ない。

 今までは頭数が揃っていたから強引に出ても――この時もちゃんと情報収集はしていた――大丈夫ではあったが、今の状況で下手を打つと今度こそ致命的。

 旧レーナカンド政権下にあって、今では独立した都市ウルンダルに入る。ここの王はイディルの従兄弟に当たる老人だ。

 悪名高きゲチク強盗団は大集団なのでバレていないし、我々の活動範囲外で顔がバレる可能性も低く、この辺りの連中と盗賊狩りに待ち伏せをしてきたサブドルタ族とは仲が悪い。アッジャール崩壊時のゴタゴタで支払いが止ったとか何とか、とにかく金銭問題だとは聞いている。

 このウルンダル王がレーナカンド政権から独立したと、城門を潜ってから聞いた時は何事かと思ったが、何とレスリャジンの大王に臣従したそうだ。

 レスリャジンの大王と聞けば、一体そいつは何だと思ったがあのイスハシル王の侵攻を防いだベルリク=カラバザル将軍だ。

 都市の独立の経緯だが、ベルリク=カラバザルの軍の恐ろしさを聞いて東に逃げようとしたレーナカンド王の受け入れを拒否。そのせいで王は逃げることを諦めて城を枕に死んだそうである。

 まだ続きがあって、レスリャジンの大王はレーナカンドを占領して拠点とすることなく破壊を行い、住民諸共虐殺したという情報。近い内にそこの住民兵士に王族、それぞれの首がこのウルンダルに届けられるという。まだ届いていないらしいが、何か飾るような木製の台が門近くで作成中だった。

 具体的な事は都市の雰囲気、人の流れ、顔ぶれからしてまだ伝令同士のやり取り程度に留まっているようだ。

 天地が引っ繰り返った気分だ。あのレーナカンドを――虐殺はまだ分かる――破壊とは想像し得ない。

 世界中で勇名と悪名で馳せるベルリク=カラバザル将軍が崩壊したアッジャール朝の諸部族を糾合しているらしいとは聞いていたが、もっと遠い国の話のつもりで聞いていた。どうせオルフ周辺で泥沼の戦いにでも嵌って苦労しているんだろうと、その程度の認識だった。

 あのアルルガン族も瞬く間に滅ぼされ、王族は皆遊戯的な処刑で素手で? 引き千切ったとかいう馬鹿話もあって嘘だと思い込んでいた。

 敵を皆殺しにして奪い尽くす、というのは昨今珍しい話ではなく聞き流していた。

 従軍している妖精、小人どっちでも良いが、そいつらの食糧として人間を食わせているなんて噂も……流石にこれは無いだろうが。嘘であると確信する助けになっていた。

 変な噂に作り話が混じっているようだが、とにかく恐ろしげな連中が快進撃であるのは間違いないだろう。

 接触は単純に危険。返り血かはともかく、血塗れで息の荒い巨大な獣に近寄る馬鹿はいない。

 賢く近寄ろうか?

 更に話を皆に、市内から集めて整理したが、近寄らぬのが最善だ。ウルンダル王が臣従したのも最悪を避けるためであった。

 臣従しなければ皆殺し、奪い尽くす。そして臣従すれば味方を使い捨ての奴隷兵士のように突撃させて捨て駒にしたり、家族を人質に、時には理不尽な理由で族滅さえしているという話だ。ウルンダル王がどの男をどのぐらい従軍させるかを主計官などと既に具体的に協議し、商人達には馬に武具弾薬を集めるように指示していたという。その商人からの情報を整理するとそうなる。

 これでは臣従しても相手の行動が予測不能過ぎて危険。背に弓を引かれたまま矢弾降り注ぐ城壁に突っ込めとやられる可能性がある。レーナカンドの陥落もきっとそうしたに違いない。

 あのレーナカンドを破壊するなんて頭を持った奴に常識を期待出来るものか。

 アッジャールはまだしもバルハギンも蔑ろにしているというのだから蒼天の神の子ではない、別の何かだ。魔神代理領の軍人のくせにセレード人だとは聞いたが、何が本当で嘘か複雑過ぎて信用ならない。

 侵攻路上にいるのは危険。ちょっとした衝突、互いに盗賊と思って小競り合いとか、それから連鎖しての大軍の追跡なんて今は耐えられない。

 このままウルンダル王の領域に留まり続けては戦いの出来る健康な男と当然見られ、強制徴募の形を取らされる可能性がある。身代わりに出されることも当然ある。気付いたら詐欺のようにそんな目に遭っていたということも有り得る。詐欺の名人は騙した事にすら気付かせないものだ。

 逃走経路。ユドルム山脈越えはレーナカンド経由が当たり前だが、今そこを通過出来ると考える者はいまい。閉鎖され、厳しく管理されているに決まっている。

 それにあの大要塞を破壊中というのだから人足が必要だ。捕まって強制労働に参加させられる気は無い。荒野で野たれ死ぬよりも名誉も誇りも無く惨めだ。

 西だけではなく東の情報も入った。

 ビジャン藩鎮軍がヘラコム以西に進出して来たという話だ。崩壊したゾドル=ラグト朝の領域を併合中らしく、おそらくはとても快調だろう。組織的まとまりを失った者達がかの超大国に敵うはずもない。

 快進撃中のレスリャジンの大王に対応するため、ヘラコムという防壁の外に草原という空堀を作りに来たと見られる。これがサウ・ツェンリーが奉文号と密偵で探っていたことなのだろうと推測出来る。為政者として当然の務めだ。

 それにしても今になってヘラコム以西に進出? 自分が昔から何度も言って来たことだ!

 ビジャン藩鎮を出て行ってからこの方針転換だ。笑える。北征巡撫とやらになって出来る事でも増えたのか? 増えたんだろうな。本来のお役目を果たせるようになって良いな。それか中原に増派しようとしていたらあのルオ・シランが素早く軍閥連中を潰してしまって不要になったかもしれないが、経緯はともかく結果はこれだ。

 良いな、羨ましい。

 こっちは無駄骨だ。実際に無駄骨を野に晒したのだから冗談にもならないじゃないか。

 金――宝石等の重量と価値の比率が良い物多数――だけはたくさんある。死んだら金は意味が無いので皆で腹一杯酒を飲んで、美人の姉ちゃんも呼んでケツに胸を触りまくった。

 ノグルベイは両肩に女を担いでどっかに行った。

 自分は東の方角へ、指に酒をつけて撒く。


■■■


 不動の極星、山、悪い。以前タザイールが占った結果だ。これらが全て現状に合致しているように思えて来る。だが今となってはこれに拘っている場合ではない。元々参考程度にするものだから拘るも何も無いのだが。

 ユドルム山脈の抜け道を行くことにした。

 レーナカンドより北の隠し山道。山道は迷路に改造されているので案内人が必須。難点は多額の通行料を要求してくる山賊紛いの、違法な商品――盗品や攫って来た人間――を運ぶ商人とは仲良しの部族がいる場所だ。

 そしてその部族とは自分の出身だ。喧嘩で族長の長男をブチ殺して逃げ、アッジャール軍に従軍したものだ。

 あそこを出て十年以上が経つ。片目も潰れて人相も代わり、名前を出さなきゃバレないとは思うが、行く道はそこしかもうないか。

 北、そして山に向かう道を行く。悪いことが重なると占いに出ているが行く。

「将軍、もう一度占いましょうか?」

「もう既に状況は致命傷みたいに悪い。後は死ぬだけだ」


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 帰郷すると笑えた。

 疫病か内紛か襲撃か知らないが、山道に点在していた部落の全てが滅んでいた。

 勝手知ったる我が家も、自分が住んでいた時とは家具や道具の配置が全く違った形で置かれ、埃を被ってやがった。

 レーナカンドが通れないからと、この道を使う通行人に聞けば十年は前にイディル王の命令でここの山賊が狩られたと教えてくれた。

 悪運は良いんだよな。


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 隠し山道よりレーナカンド以西へ出た。

 まず感じたのは厳戒体制であること。

 主要な拠点、都市には小人の兵士共がうろうろしていて隙が無い。監視塔や巨大な狼煙が幾つも用意されており、駅の整備、新造が急速に進んでいた。

 諸部族の雰囲気が大分おかしい。戦争で男が少ないから、という以上に皆何かに警戒するように気を張り詰めていて隙が無い。小口の強盗も躊躇われる。

 遊牧民らしからぬ、腕章をつけた民兵らしき武装した一団が警備活動を行っていた。こちらも襲えるものではない。

 商人も同様。皆全て大規模隊商で、魔神代理領から来たような、人じゃない毛むくじゃら面をしている連中も多く、兵隊も充実していて襲えるものではない。

 小規模商人を狙おうかと探してもそんな奴は一人もいない。狼が近くにいるから単独行動をするなと親に注意された時の、あの雰囲気より悪いか。

 盗みに入れるかと思って近づいた村等は大体が襲撃された後。そこに残るのは蹄と車輪の膨大な跡だ。大軍の食い荒らした跡の通行とは嫌になる。砂漠を渡るようだ。

 旧アッジャールの、レーナカンド以西のイディル王時代以前の領域は世界が完全に変わってしまったようだ。

 それにしても腹が減ったな。

 時々、戦争のせいで管理する者が居なくなって野良と化した家畜がいなければ飢え死にしているところだ。

 奪えるところが無いかと放浪。

 しかし旧アッジャール両翼はどこもかしこも厳戒体制で付け入る隙が無い。

 ベルリク=カラバザル将軍の遠征のために大量の男と物資を供出しているようで、居残りの彼等には余裕が少なく、その手元に残る物を守るために必死になっている様子が伺える。

 手持ちの現金、換金可能な貴金属に宝石は相変わらず、ノルガ=オアシスから奪った分を結構持っている。だが物が不足していて金があっても売れないという状態だ。飢え死にしそうな奴相手に食い物を金で買うのは無理というもの。

 もっと南下し、魔神代理領の方角、バシカリ海などの豊かな沿岸部にまで行けば良いのではないかと考える。

 そのように考えて行動した結果、南へ行く街道を進むと小人の兵士の一団に出会った。

「住民登録票の提示をお願いします!」

 馬鹿に明るいお子様みたいな声で一団の代表者が言い、何だと思っている内に周囲を囲まれた。皆、銃剣を付けた小銃を持ち、撃鉄こそ下がっているが弾薬装填済みであるということは勘で知れた。

 ヤバい。住民登録票? 意味が分からないが、誤魔化そう。

 振り返って、皆に顎を二度しゃくる合図をする。不意打ち、である。それだけだと怪しまれるので手の平を向けるようにして「お前等待て」と言う。

「再度要求します! 住民登録票の提示をお願いします!」

「ちょっと待ってくれ、まとめて袋に入れてんだ」

 鞍に下げた鞄から何か取り出すようにして手を突っ込む。

 ビィー! と鳴った。何?

「不審者発見排除!」

 撃鉄を起こして銃を構えるのも瞬く間に銃声、馬が鳴いて、仲間が咆える。

 不意打ちを食らったのはこちらだった。気付いたら仲間は一斉に銃撃を受け、銃剣で刺された後。

「続け突破! 前へ逃げろ!」

 鞄から取り出した拳銃で、声を掛けてきた代表者、号笛を口に咥えている奴の頭をブチ抜いて正面へ走る。

 続く仲間が殺されたり、反撃に刀で抜き様に小人の頭を叩き割ったりしつつ追従。

 身を捩って弓で背面射撃をしながら逃げる。

 不気味な程に素早く弾薬の再装填を終えた小人共が瞬時に列を整え、こちらに向けて一斉射撃。数える余裕はないが半数以上がそれで脱落。

 信号火箭が打ち上げられているの見て取れた。すぐさま増援が駆けつけるだろう。

 もっと逃げないと、人気の無い所、道路ではない所。


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 小人共が騎兵でなくて助かったのかもしれない。だが今度は五騎にまで減った。

 生き残りはもう少しいたが、重傷でトドメを刺してやったのが四人いた。

 ノグルベイは脇腹を銃剣で刺されたが、厚い肉と太い骨のお陰かかすり傷に等しい。傷口は火で焼いて処置した。

 タザイールは、馬上で死んだフリをしながら一緒に逃げてきたのであまり狙われずに無傷。こいつは名人だ。

 小人の兵士、巡邏部隊は危険だ。あいつらの判断基準や行動速度は人間のものじゃない。包囲の動きも、予兆というか、これから動くぞという気配が無くて反応する暇も無かった。

 開けた場所は危険と判断し、道無き道、森があれば森を通って北へ行く。

 ユドルム山脈を越えた当初、北よりの地域では小人の集団はほぼ見かけなかったからだ。

 身の安全を優先。そうなると今度は食い物が無い。

 狩りで獲物は取れるが、土地勘が無いので何とも、あまり良くない。


■■■


 ハマシ山脈の南麓にまで来た。冬になれば酷い場所だが今はまだ夏だ。

 途中、鉱山奴隷が苦しそうに働く場所を見つけたのでそこを避けるように動いたのだが、仲間の一人がそこへ食い物を盗みに行って帰らない。止せと言ったのに、皆が寝ている隙に行ってしまったのだからどうしようもない。


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 鉱山の無い方へ進んだ。小人がいるかは不明だが、警戒されているに違いない。

 今度はフレク族の鹿頭の集団と遭遇し、用が無いなら立ち去れと追い払われた。

 丁度、その警備中の鹿頭の後ろには美味そうな鹿が群れで動いていたというのにだ。

 仲間の一人が抗議すると、鹿頭の豪腕に頭を殴られて死んでしまった。復讐するも何も今になっては心が麻痺していた。以前なら雑魚扱いしていた十人ばかりの鹿頭相手に自分は恐怖していたのかもしれない。

 フレク族の縄張りには結構入ってしまっていたらしく、立ち去れと示された方角は西であった。

 これ以上西に行けばオルフの領域にまで入ってしまうが、縄張りの外までそいつらがついてくるというのだから従うしか無かった。残るは三人、十人規模の鹿頭みたいなデカブツ相手に戦えない。


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 おそらくオルフの領域に到着した。フレク族の連中に見送られ、せめて食い物を分けてくれと言っても聞き入れられず。宝石も出してみたが、あの厳戒体制の影響か何かか受け取らなかった。

 オルフでどうやって食っていけるか分からない。

 襲えそうな村、通行人はいないかと探るが、オルフはイスハシル王が暗殺されて以来十年近く内戦状態で、廃村や骨に荒れた畑は見かけるが、手頃な獲物はどこにもいない。

 城塞化された村、武装した農民、臨戦態勢でうろつく騎兵隊。いつでも軍と戦える用意がされているのだ。頼れる二人、ノグルベイとタザイールがいてもどうしようもない。

 遂にはノグルベイの馬が死に、それを食って凌いだ。

 更に自分の馬が、狩猟というよりは軍事用に仕掛けられた虎挟みに脚をやられてしまい、殺してそれを食った。

 最後にはオルフ人の騎兵隊に、盗賊か敵兵かと見られて銃撃を受け、タザイールの馬が尻に銃弾を受け、騎手を振り落として逃げてしまった。

 何とか敵騎兵に矢を浴びせて牽制しながら森に逃げ込み、高所の利を確保。夜の内に簡単な罠も作って追っ手を慎重に迎撃して撃退した。

 逃げに徹しず待ち伏せ攻撃をしたのは馬を奪おうという腹だったのだが、山狩りの犬を連れた追っ手の増援がやってきて、馬は諦めて走って逃げて川に飛び込んで臭いを辿れないようにしてようやく逃げ切れた。

 オルフ兵共の対応が素早い。流石は戦時中の百戦錬磨と言ったところか。


■■■


 とことん悲惨になってきたようだ。

 しかしノグルベイは暇があれば楽しそうに歌ったりするし、何でもないことでも話しかければいつも笑っている。石を投げて川で魚を獲れば大はしゃぎ。

 タザイールは食える野草や木の皮の裏側を見つけて来る。毎度のように食べられる虫で脅かしてくるのでその度に頭を殴る。木の実でパンを作った日には感動したものだ。

 でも腹が減る、食い足りない。動けるが、もう動けないと木の下に三人で座り込む。

「おいインチキ、占いで何か出せよ」

「筋肉占いをしてやろう。おい、腕裂けよバカ」

「うるせぇぞ」

「骨占いって知ってるか? 頭蓋骨割ってやるんだよ。お先が見えるんだぜ」

「バカの割りには良い冗談を吐くな。ほら、頭出せよ」

「うるせえって……しっ!」

 静かにと鋭く息を出す。

 音がする……蹄と車輪の回る音、馬車か?

「隠れろ」

 木の裏に隠れ、ノグルベイがはみ出ているのでやっぱり草むらに伏せて隠れる。

 そうすると馴鹿に引かせた、馬車ならぬ鹿車に乗った赤い帽子の男がやって来た。不思議な顔立ちで、オルフ人でも無いように見える。随分と金髪で赤っぽくすらあり、肌が白いが。

 近寄ったところで飛びついて奪ってやろうと頃合を伺っていると、我々が先ほどまで休んでいた木の前で鹿車は止った。

「何も隠れることはないぞ虐げられし無産階級者達よ。どうやら憎むべき帝国主義者に搾取迫害された労農兵士のようだね。いやいや何も発言せずとも良いとも。口を開くのも辛くて精神的転進傾向を示しているのは見て分かるよ。私についてきたまえよ未来の同志達。英雄的労働者達が作り出し、突撃補給隊が身命を賭し、革命前進軍が死守する食糧を分けてあげよう」

 何を言っているかはさっぱりだが、最後の食糧を分けるという言葉は理解出来た。

「案ずるなかれ、もう飢餓に怯えることない。先進科学的分配組織の確立により無職と貧困は廃絶される。我々は君等のような労農兵士の守護者、革命の暖炉であり高炉、悪逆権化たる圧制者達の醜い腸を畑に撒いて浄化する者である。さあ、来たまえ。家畜に貶められるのは今日までだ」

 どうする? このままこのわけの分からない言葉を聞いていてもしょうがない。

「立ち上がりなさい。家畜は四つ足だが、そうではないのなら二つの足で歩くものだ。そうじゃないか」

 立ち上がって弓に矢を番え、構えながら近寄る。二人も続く。誰が家畜だ糞野郎め。

 赤い帽子の男にはまるで怯えも無く、むしろ慈愛に満ちた表情にすら見える。

「そっちは寒いぞ、こっちに来なさい」

 赤い帽子の男はニコっと笑って、車から酒瓶を三つ、指に挟めて取り出した。

 ノグルベイは弓矢を捨てて酒に取り付いた。

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