第39話「南征開始」 イスハシル

 我が父、我が王、統一皇帝を目前にしたアッジャールの黒鉄の狼イディルの勅令が下された。全軍を持って魔神代理領に侵攻する。

 中央軍は正面攻撃、我々の攻撃を想定して防衛体制が堅固なヒルヴァフカへ侵攻。魔神代理領の親衛軍が到着するまでにその地で優勢を取れるかが今後の戦局を左右する。

 こちら右翼軍は一番脆弱なイスタメルへ侵攻。制圧したならば中央軍に対峙している敵軍の側面を突く。

 左翼軍は政情不安定なジャーヴァル帝国へ侵攻。その地は一旦暴動、反乱の火がついたら放置しておくだけで攻略したも同然となる。そうして後背を確保してから魔神代理領の中央へ侵攻する。最低でも冬が来る前に右翼軍をイスタメルの平野部に入れたい。冬までには中央軍に合流して魔神代理領の中央へ、と豪気なことを言う者もいるが、あのマトラの妖精の森はそう易々と突破できるものではない。

 スラーギィにいるレスリャジン氏族を中心にした部隊が国境付近の偵察と警戒を行っており、今のところはイスタメルに動きがあったとは連絡が来てはいないが、しかしいつ何かあってもおかしくない。マトラの妖精達の民兵の状態から解析して、動員が異常に早いということは調べで分かっている。

 物資の集積も目標値に到達。我々右翼軍は本日、進撃を開始する。


■■■


 早朝、出陣前に妻のユノナ=レーベが聖レーベ寺院の広場に救世神教徒の有力者を集め「世を救う神の戦を成功させましょう」と演説を振るっている場へ参加する。その美しいながらも不健康そうな顔は痛ましげで、まるでこの世の終末が訪れんとしているように切なく喋る。熱が入って唾が気道に入って咽れば肺病かと思わせるほど。魔術がどうの関係なく、感情を波立たせるこの顔と声こそが本物の魔性かとも思う。

 演説は門外漢の頭には入ってこないような、聖典の引用ばかりの優等生的、信徒向けな内容なので聞いていてつまらない。箔付けに、ユノナが王の妻であるということを再度周知するために顔だけは出しているのであくびは我慢はするが。

 演説もお終いの時間になり、待機していた少年聖歌隊が戦勝祈願と見送りの意で曲を披露するので配置場所へ動き出す。その中、一人の少年が列を外れて歩き出す……便所か? そんなわけないかと思っていると指揮者が「君?」と声をかけるとその少年は駆け出し、近くの儀仗僧兵が「おい?」と襟首を捕まえると爆発、少年と儀仗僧兵の服と肉の破片が飛び散って血が撒かれる。

 鉄片交じりの爆発で、聴衆が悲鳴をあげ、何人か倒れ、こちらを守るために人の壁になった近衛兵達も倒れ、倒れずとも膝を突く。聖レーベ寺院正面の装飾硝子が割れて降り、怪我をしないようにマントでユノナを覆うと、震えながら細身と思えぬほど固く抱きつかれる。

「怪我は無いか?」

「はい」

 こう来たか、こう来たか! 先手を取られたぞ魔神代理領め。あの儀仗僧兵が寝ぼけた奴だったら命が危うかった。

 ユノナを抱きつかせたまま、逃げず慌てず、堂々と聴衆の前へ出る。救世神教徒の守護者は誰であるか? という演出の心算だがそう見えているか?

「騒ぐな、大したことではない!」

 逃げる奴もいれば、足を止めて振り向く者も、逆に呆れるのはこれで戻ってくる奴等だ。

「これより我々はこのような手に出てくる敵を討ちに行く。救世の神があるならば、君等を守る私に勝利を下さる。信徒達は祈っていてくれ!」

 残った聴衆が歓声を上げる。征服されたくせにまあ、良い調子なもんだ。

 遠くから爆音、銃声も聞こえてくる。時刻を合わせて同時攻撃を行っているのだろう。他の都市でも橋でも。

 自爆した少年だが、普通の少年を魔神代理領が潜り込ませて使っているとは考え難いからマトラの妖精か。少年少女に見える妖精を使うとなれば、一体どこまで潜り込まれているやら。妖精は耳が尖っているという特徴があるが、個人差があってそれだけで断定は出来ない。厄介な連中だ。

 一際大きな爆発、きのこ雲が遠くに見えた。弾薬庫でもやられたか?

 流石にこのまま広場にいることは出来ないので、宮殿へ戻ることにする。まさかアッジャールの王子が寺院に隠れるわけにもいかない。

 聖レーベ寺院の中から様子を見に来た高級聖職者がやって来た。丁度良い。

「ユノナ、寺院に隠れなさい」

「お側を離れたくありません!」

 説得は無意味そうなので、腰を抱いて両膝の裏を持ち、抱き上げて寺院の中に連れて行く。そして下ろして、服を握る手を剥がして顔を撫でて気を散らせてから寺院を去る。背中に追い縋ろうとしたユノナは中に居た修道女達が引き止めた。

 宮殿に向かう道中、シビリとランマルカ大使が爆殺され、妻のポグリアも負傷したと伝令が言う。

 何を言っているのかは間違いなく理解した。もう一度理解しているか反芻して、間違いがないと確信した。動揺は否定しないが、来るべき日が来たと分かっている。狙われる立場の者が狙われ、成功してしまうのはあり得ること。頭に怒りでもない感情で血が昇っている。

 宮殿の正門脇の通用門を通る。広場に待機している近衛隊の視線は無視だ。

 まずは怪我をしている上に、何より生きているポグリアがいる医務室へ向かうので警備兵に案内させる。心構えも無くシビリを見れそうに無いというのもある。

 医務室に入る前、医師が行く手を遮る。

「ポグリアの容態は?」

「かすり傷ですが、爆発した時に毒塗りの破片が飛び散りまして。高熱を出しておられます」

「会えないような容態なのか?」

「いえ、毒の方は適切な解毒薬を処方しましたので。しかしお顔に傷がつきまして、その、治るまで見せたくないと」

 医師の肩に手を乗せ、横へ軽く力を込める。頭を下げて医師は脇に退く。

 医務室の奥に、こちらに背を向けてベッドで横になっているポグリアがいる。すすり泣くのを我慢して息が荒くなっているのが分かる。

 彼女はシビリから仕事を学んでいた。その煽りでシビリを狙った犯行に巻き込まれたのだろう。

「大丈夫か」

「申し訳ありません! 私は、その……」

 ポグリアの背中に腰が当たるようにベッドに座り、頭を撫でてやる。

「責めにきたわけじゃない。無事ならいい」

 そうしたら背中に抱きつかれ、声を上げて泣き始めた。根性の座っている女だと思っていたが、やはり市井の人間か。目の前で自爆攻撃を受けたことと、シビリを救えなかったことを責められると思ったこと、それから手引きしたのではないか疑われること、色々考えていただろう。

 泣き止んだところで医務室を出る。

 廊下には、指で突けば衝撃で死んでしまうのではないかと見える警備隊長が直立不動で待っていた。

「報告しろ」

「はい! は、犯人は女のマトラ妖精です。自爆した死体の損壊状態から、胃や尻の中に爆薬を仕込んでいた模様です。爆発自体は小規模でしたが、毒塗りの装飾品が破片になって突き刺さり、シビリ様はお亡くなりになられました……」

 警備隊長が口を止める。

「最後まで続けろ」

「しっつ礼しました! シビリ様の他、その場にいたランマルカ大使も死亡しました。その犯人ですが、ランマルカ大使の要請で、シビリ様の名前で宮殿への入城許可が出ております。犯人とともに行動をしていた商人に対して尋問を開始しておりますが、マトラとオルフ間の商売を手伝ってもらっていただけと現状では主張しております」

 ランマルカ大使を使って刺客を入れ、シビリを狙い討ちに自爆攻撃か。工業機械が欲しいからとランマルカへの窓口を作った時点で死がほぼ確定していた。欲を出した結果になるのか。

 ランマルカの関与もこれで証明が出来るようで、巻き込まれて死んだと主張されれば立証が出来ないから非難も難しい。この事件を口実に何らかの武力介入も考えられる。要人保護を理由が妥当か?

 要人暗殺と同時に、北の海に潜在敵が発生してしまった。ここまでくれば今日出陣する予定を先送りにするような空気になるものだ。

 しかし侵攻は予定通りに行う。こちらの攻撃を遅れさせるのも策の内だろう。恨みは忘れない。

「ランマルカの大使関係者を保護しろ。あくまでも丁重に、友好国のようにだ」

「は!」

 静かに深呼吸。

「案内してくれ」

「はい」

 医師に案内され、霊安室に入る。

 ベッドには、白い布が被せられた遺体が二つ。子供のような体躯のと、女性と分かる胸が膨らんでいる方。

「見せてくれ」

「お覚悟を」

 医師が布を取る。全裸の、破片が幾つも突き刺さって斑に傷だらけの、小さくも皮膚が所々剥げた姿。折角の可愛らしい顔も傷で台無しの、固まった血交じりの金髪巻き毛の女は紛れもなくシビリだ。微動だにせず、人形か何かにでもなったみたいだ。

「苦しんだか?」

「額に受けた破片が脳に達し、即死されました」

「気づく暇も無かったか?」

「前腕と胸から首、顔をご覧下さい。前腕には傷が少なく、爆発から首や顔を防いだ痕跡がありません。そして手の平ですが、傷口を触ったような血が付着しておりませんでした。お気づきにはならなかったでしょう」

「防いでいたら助かったか?」

「いえ、これだけ毒塗りの破片を受けては薬も間に合いません。傷だけでもやはり致命傷に」

「そうか。ご苦労」

 首都警察長官が早足でやってきた。

「状況は?」

「都内で自爆、爆破、放火、狙撃、毒物混入の事件が多発中です。戒厳令に準ずる状態に移行しております。また共和革命派の宣伝ビラが配られており、王政を非難する内容で、文盲向けに挿絵がついている手の込みようです」

 宣伝ビラを受け取る。挿絵は、馬に乗った凶悪な面の男が悲鳴を上げる女を抱え、農民や労働者を踏みつけている。こんなにも我々は善人だったかな?

「良い判断だ。戒厳令を発令、厳格に職務を遂行しろ。戒厳令の解除と発令の権限は一時預ける。しばらくは戻れん、思うようにやれ」

「一命を賭します」

 何時までもここで時間を食ってる場合じゃない。

 近衛隊が待っている宮殿の広場に出る。自分の馬は既に用意され、近衛隊も完全武装で待機している。近衛隊長イリヤスは言葉を待っている顔をしている。近衛隊の面々は、若干不安げか。宮殿に戻ったときに何か言えば良かったな。

 馬に乗り、手を軽く上げて注目させる。

「下らん小火騒ぎで足を止めることはない」

 シビリが死ななかったらここで笑いでも取れただろう。皆、黙ったまま。

 武装した男達とその馬が並ぶ広場に似合わぬ、小さく軽い足音に息遣いが沈黙の中響く。息を弾ませながら妻のシトゲネが走ってやってきた。遅れて護衛の、真っ白な毛皮で聖職者のような衣装で揃えたタラン部族兵もやってくる。

「どうした?」

 赤面して、何か言おうとしているがシトゲネは黙ったまま見上げてくる。タラン部族兵が代わりに言おうとしたが、手の平を見せて止める。

 馬上からシトゲネを抱き上げて馬に乗せる。時流的には足元に農民も転がした方がいいか?

「黙っていては分からないぞ」

「だんな様、ううん、王でんか様、これ」

 シトゲネが握り締めていた物を受け取る。握っていたせいでしわくちゃだが、刺繍入りの編み物のお守りだ。エラく出来は不細工で、首にかけるよう紐がついている。

「首にかけてくれないか」

「はい」

 羽根付きの毛皮帽を取って頭を下げる。紐が短かったせいか、シトゲネは手こずりながら首にかけて、それから毛皮帽も被せてくれた。お守りを握って見せて、つけて貰ったことを確認させ、服の中にしまい込む。

「ありがとう」

 タラン部族兵にシトゲネを抱えて渡す。

 イリヤスに向けてちょっと目を細めると、返事代わりに咳払いして声を、喉を整えた。

「出陣」

 とイリヤスに普通の声音で喋る。

「出じぃーん! イスハシル王殿下のご親征である、門開けぇ!」

 応えたイリヤスが怒鳴り、角笛が吹かれて宮殿正門が開く。

 民衆の見送りは混乱のせいでごくわずかだが、宮殿広場から近衛隊とともに首都警察が脇を固める大通りを抜け、城門を潜る。

 道沿いに待機する第一陣主力二十万に歓声で迎えられ、彼等を連れて進む。一歩進む毎に城門側から部隊が歩き始める。徐々に徐々に、人の馬の足音が増し、地響きと化していく。

 マトラの妖精は皆殺しだ。


■■■


 南下中に妻のフルンとその側周りだけが伝令でこちらにやってきた。立ち止まると一頭の馬が泡を吹いて倒れ、落馬した側周りの一人が首を折って死んだほどの急ぎようだ。

 フルンが疲れ切った顔も隠そうともせず、こちらの顔を見て一瞬笑おうとして引きつった顔になった。目は充血し、ほとんど寝ていないように見える。親族の葬儀でスラーギィに帰っていたせいで酷い目にあったようだ。

 フルンの首の横に手を当て、親指で頬を撫でてやる。そうしたら安心したような顔をフルンはして、やや枯れた声で報告する。

「我が王よ。イスタメル軍の急襲でスラーギィとマトラの関門が陥落。中州の要塞も奇襲を受けて陥落。我々レスリャジンとスラーギィ守備隊が敵の侵攻を遅らせるように抵抗中ですが、およそ十万を数える敵には苦戦しています。足の遅い歩兵部隊は全滅しております。非戦闘員は積めない荷物は捨て、ペトリュク南部街道を混雑させないようスラーギィ東部の荒野へ避難させました……それからマトラのグルツァラザツクを頼って寝返った者達も少なくありません。またダルプロ川が雪解け水だけでは済まない大規模な氾濫を起こしています。ペトリュク南部の沼沢地帯が増水し、街道にまで水が溢れている箇所があります。応急で補修させているのですが、専門技師がいませんので、とにかく良くないです」

「良く報せてくれた」

 出来ることはしているようだ。何にせよ、先手を取られたことが痛い。歴史的にも軍の行動に慎重な魔神代理領だが、それを飛び越える攻撃的な性格の司令官がいるのだろう。イスタメル州総督は、先の大戦ではエデルト=セレード連合王国にまで切り込んだ魔族のルサレヤ。千歳に迫るという信じ難い長命で、軍事でも内政でも優秀だと言う。年寄りが保守的で消極的と思うのは思い込みだろう。

 さて、ペトリュクとスラーギィの出入り口を敵が占拠したら突破が難しくなる。大部隊が投入できない地形なので、敵が少数でも短期では互角の勝負になる。干拓した街道沿い以外の地形は沼と小川だらけの森林地帯で、足場があればほとんどがぬかるみ。増水前でその状態だ。大軍を活かすにはその悪い地形を通り、無理矢理迂回させないといけないが、進むのは当然困難で、よって時間を合わせて同時攻撃するのも困難。各個撃破の可能性もあり、何より補給を受けさせ続けるのも困難で餓えの危険もあるが、かと言って地道に攻撃して街道の出入り口を突破しようとすれば小部隊同士の戦闘が長時間続くことになる。そうなると大量発生する虫に集られつつ、不潔な湿地が側にある細長い街道に野営することになるが、間違いなく疫病が広まる。何より、ヒルヴァフカを攻める中央軍との挟撃に間に合わなくなったら深刻だ。

 どうすればいいか? そんな酷い状況になる前に軍を進める。イスタメル軍も似たような考えでの先手だろう。

 道が悪化しているペトリュク南部を強行軍で進ませる。疲れ切っているはずのフルンが同道しようとしてきたが、近くの村で休ませた。反抗する気力も残っていないのか大人しく従った。他の妻と張り合おうとする彼女だが、いつもこれくらい素直であればいいのだが。

 騎兵は馬の糧秣輸送の馬車が邪魔なので最低限。多少は損耗しているとはいえ、レスリャジン氏族が現地にいるから騎兵の頭数は悪くならない。砲兵は当然後。道の補強も必要ならかなり後になるかもしれない。

 とにかく泥道が続き、乾いた道は少ない。下り坂の先など、低くなったところが沼の一部になっているほど浸水している場合がある。川が横断しているのも珍しくない。

 レスリャジン氏族の者が道を補修してはいたが、板や枝を泥道に敷いた程度だった。無いよりはマシだったが。

 歩兵が泥に足を取られて長靴が脱げて転ぶ光景が見られるような悪路だ。笑えるのはそれくらいで、足腰が動かなくなって泥に顔を突っ込み、そのまま起き上がれず脱落する兵が出てくる。

 何度も往復して走っている伝令の馬が、水気で蹄を柔らかくし、負担に耐えられず割ってしまって動けなくなったこともある。

 馬車の車輪が泥にはまることは頻繁にあり、邪魔だからと道の脇に押して転がされる。

 しかし足を止めてはもっと悲惨なことになるし、脱落者は後続部隊が拾えばいいから放置させる。戦う前から死傷者が出る激しさだった。


■■■


 そんな泥道を、ようやくペトリュクを抜けてスラーギィの草原に到着。休む間もなく、逃げてきたレスリャジン騎兵を集めて再編成させる。十分の一以下になったスラーギィ守備隊はもう青息吐息、後方で休ませる。

 オルフ人で編成した銃士隊が横隊整列。羽飾りの円筒帽に赤外套、丸めた毛布を袈裟懸けにする格好。武器は小銃と、又杖にもなる三日月斧。前統一オルフ王の時代の残り香がある装備、ベランゲリの宮殿に飾ってある。

「オルフ人でも戦えるところをお見せします」

 妻のジェルダナがこちらに来て開戦前の挨拶をしにきた。妻の中で最年長、自分が息子でもおかしくない歳の差。シビリは母親代わりとして彼女を選んだのではないかと思えてしまう。

「任せた」

 ジェルダナは少し派手な羽飾り付きのつば広帽を手に、胸に当てて一礼して去る。妻の中では一番交わす言葉が少ない。

 銃士隊の横隊中央の先頭にジェルダナが立った。赤い軍服を着て、武器は持たず、つば広帽を片手に掲げる。絵になる女だ。

 前方のイスタメル軍およそ二万で、歩兵ばかり。

 こちらは横隊に整えた銃士隊四万、両翼に近衛隊とレスリャジンの騎兵で五千ずつの合計五万。そして続々と後続十六万が到着している状況。

 ジェルダナが指揮杖代わりのつば広帽を前に振り、行進曲を慣らして前進を始めると敵は即座に、しかしゆっくりと後退を始めた。こちらには追撃ができる体力は強行軍で失われており、ジェルダナは敵を追い払ったのを確認し、つば広帽を横に振って横隊を停止させた。

 横には氾濫し、川沿いの街道にまで浸水しているダルプロ川。浸水していない草原は広大にあるが、馬車や荷車を易々と進ませられるほどなだらかな草原ではない。何より将兵、馬は疲れ切っている。

 あと二、三年の猶予があれば道の整備も拡張できて、もっと確実な進軍が出来たのだが。

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