第2話 2ページめ

「この年齢になって独身で、しかも一人住みしているなんて体裁が悪いと、伯母上方が次から次へと縁談を持ってくるんだ。断っても断っても諦めてくれないし、とうとう見合いの席へ引っ張り出されそうでね……正直なところ、気が重いよ」

いっそのこときっぱり断れたらと思うのだが、今まで伯母たちに世話になった自覚はあるので、そうそう思い切ることもできない。

淹れたてのお茶の香りを楽しんでいたぬらりひょんが、へっと唇を歪める。

「たかが二十代のうちに身を固めるのか。まだまだ早い気がするがの。まったく昨今の人間たちと来たら、せっかちで敵わんわ」


特に結婚に対して嫌悪感を持っているわけではないし、特別な趣味趣向があるわけでもない。

だが、いざ結婚となるといささか――いや、いささかどころではない大問題がある。

自分が『もののけの医師』である以上、他人に踏み込まれたくはないし…かといって、家族となった相手に秘密を持つというのも失礼だろう。

「今までは一人住まいだったから、家にいるときはいつでもクランケを診ることができたが。結婚したら、それも難しくなるだろうな」

「ふむ…それは、ちと問題じゃな。『もののけの医師』はとても少ない。佐一郎がおらねば、困るモノたちが増えるだろう」

「同業者どころか、視える目を持つ人間すら、ほとんどいない」

「百年くらい前までは、わりと多かったんじゃぞ。あ、いや、二百年くらい前だったかな?」

長老にとっては、百年や二百年の差などほとんど無いに等しいので扱いもざっくりしたものだ。

少なくとも自分の周りにも、もののけを感知している人はいない。物心つくまでの子どもたちには視えていることもあるようだが、大抵は成長するにつれて忘れてしまう。

忘れたほうはそのまま平和に暮らしていけても、忘れられたもののけたちは寂しさを抱えて長い年月を生きるしかない。それは、どれほどの痛みを伴うものなのだろう、と時々考える。

「なあなあ、それで、お相手はどのような女子なんじゃ?」

「興味があるのかい?」

「そりゃあのう。我らの大事な佐一郎の嫁御じゃ。どのような女子か気になるし、佐一郎にふさわしいか確かめてみないといかん」

「手出ししてはいけないよ。これは私の問題なんだからね」

わくわくした顔つきの親友に釘を刺す。

「それで、その見合いはいつなんじゃ?」

「――今度の休日に。伯母上の自宅に伺うことになっている」


気の重い、重すぎる見合いがまさか運命の出会いになるなど、このときの私はまだ知るよしもなかった。


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