一二

 私はこの瑞々しい思い出を胸に抱きながら、残りの休みを消化した。その間にも色々な出来事があったはずなのに、彼女のことだけをただひたすら想い続けていた私の脳裏には、会ってさえいないのに彼女のことだけが記憶に残っていた。

 夏休みが明けると、私はすぐにあの教室へと向かった。彼女との蜜月を過ごすために。私が彼女に近付くために。

 しかし、彼女は居なかった。

 主を失った教室は窓を締め切られ、もう風が吹くことはなく、そこにあるものは何一つ揺らがない。私の心中も似たようなものであった。

 後に私は、河川を管理する仕事をしている親を持つ生徒からある話を聞かされた。

 彼女は夏休みに、川に入って死んだ。葦の繁茂する、底の見えない深みに彼女は沈んでいたのだと言う。

 それを聞いた私は確信した。彼女は私と会ったあの日の時点で既に、自死しようとしていたのだと。そして恐らくは、私と別れたあの日に、葦と藺のなかに横たわって死んだのだろうと。

 私はその後も、彼女の幻影を追いかけるように小説を読み耽った。その際には、あの日乗ったのと同じバスに乗って図書館へと向かう。

 道中の向日葵園には、既に何も残されてはいなかった。

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