私はすぐさま自分の親に、八月十五日に家族の予定を入れないで欲しいと伝えた。時期を考えれば実家へ帰省することも有り得たからだ。

 親は最初何事かと目を見張ったが、今年は引っ越しをしたばかりで何かとどたばたしていたので帰省もしない予定だと答えたので私は心底喜んだ。その様子を見た父は不思議がったが、母だけは無言で温かい視線を私に向けた。

 やがて夏休みが始まると、私と彼女の距離は一旦開いた。私は市の図書館に通い、彼女の好きな作家の小説を探した。学校の蔵書はそこまで多くなかったし、本屋も遠く、そもそも本を買い込めるほどのお金を持っていなかった私は、図書館に行くことで彼女の幻想を追いかけた。

 それらの小説には様々な像を持ったヒロインがおり、場合によってはそういった行為に及ぶこともあった。私は小説に出てくる美しい女性たちの位置に彼女を当てはめた。すると彼女は時に汎ゆる人物を翻弄し、また翻弄され、時には強引にその美しい花を散らされるようになる。そういったシーンが描写されるたびに、私は身体の下の方にあるあの部分に力が入っていくのが分かった。

 本を読んで、彼女に会える日を待つという状況が、より彼女への憧れを強くしていった。脳裏に浮かぶ彼女の姿はより美しく、より神々しく加工されていき、そこに小説のヒロインたちの像が重なっていき、無欠の存在となっていく。私の胸は糸状のものでぐるぐる巻きにされて思い切り締め付けられるような甘い疼きを起こし始めていた。

 八月十日頃には、その苦しみは破裂する寸前まで膨らんでいた。私は、他人から聞いてはいたが、実際にはどのようなものなのかがまるで分からない場所の、その邪道な使い方について思索し始めた。

 夜。家族が寝静まった頃に、私はある儀式を始めた。それは逸脱の儀式であった。

 私は、日に日に迫る彼女との逢瀬を脳裏に浮かべた。彼女はどのような服装で来るだろうか。どのように可憐だろうか。どのように美しいだろうか。

 また私は、小説に出てくるヒロインたちを想像した。それも強烈で、セクシュアルな場面を頭の中に浮かべた。そして、その情景に彼女を重ねた。

 行為は始まった。行使を迫る私のあの器官がはち切れんばかりに自己主張する。私は噂で聞いた通りに、それを上下した。はじめのうちは違和感と痛みがあったが、続けていくうちに底上げされるような快楽を伴い始めた。私は必死になってそれを動かし続けた。

 やがて、頂上に至る電気的な快楽が全身に突き抜けた。白濁が飛び散って布団や床を汚したので、私は途端に冷静になって、それらをティッシュで拭き取ったが、布団についたものは完全には取れなかった。

 私は、自身の手に染み付いた悪臭に気が付いて、台所で手を洗った。手のひらから消えたその悪臭は未だ染みの残る布団の上に残っており、自身の逸脱を嫌と言うほど自覚させられた。

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