御園生初子。みそのうういこ。その名前からして恐らく女子であろうその生徒の名前に、何か特別なものを感じた。彼女のその苗字は一見しただけでは読み方を戸惑うような珍しい、何処か凛とした印象があるし、また逆に古風でシンプルなその名前からはいじらしい可憐さを感じ取ることが出来た。きっとそこには、自身と同じ立場に居るかもしれない人間に対する親近感とか、異性に対する漠然とした瑞々しい期待とが入り混じっていたのだろうと思うが、私が感じたそれらの心の動きは決して偽物ではなかった。

 私は早速、クラスメイトたちに聞き込みを始めた。

「なあ、御園生さんって見たことあるかい」

 大体の生徒は私が彼女の名前を言ったその時点で顔をしかめた。

「ありゃ成金だんべや」

 その生徒は性格が悪いだけではなく、普段は気のいい男子だったのだが、彼は心底嫌そうにそう言い放ったのだ。

「あいつんちではな、三十年に一度一つ目の子供が生まれんだよ」

 私は彼の話す内容が何やら怪談じみているので、小さく笑った。

「君は一体何を言っているんだ。今の時代にそんな迷信を真面目に信じているのかい」

「俺嘘は言っでねえってば」

 彼はあくまで真剣にその『一つ目伝説』を信じ込んでいるらしいので、私は彼女の話をするのをやめた。ここで私が、そういった迷信は差別を助長するとか、仮に事実であったとしてもそれは遺伝的変異であり、科学で説明可能だと言ったところで、都会の奴が小難しいことを言っているぐらいにしか思わないであろう。彼らと私との間にある隔絶とは、言ってしまえばそういったようなものであった。その他の幾人かのクラスメイトにも同じような質問をしてみたが反応は大体同じで、皆が皆先程の彼のような迷信、差別混じりの不快感を表すのだった。

 放課後になって私は最後に、クラス担任に彼女のことを聞いた。教師であれば、この土地の迷信や俗習に染まらず、もっと普通の考え方をしているだろうと考えたからだ。

 各々の生徒が教室を出る準備をする最中、私は担任に質問した。

「先生。御園生さんって学校に来たことありますか」

「御園生? ああ、御園生な。通学してはいるんだが、教室には来ていないんだ」

 私は、担任のその話から、校内における彼女の立場を大体察することが出来た。きっと保健室や相談室みたいな場所に通って勉強しているのだろう。

「なら、保健室ですか?」

 私のその些か飛躍した一足飛びな質問を聞き流しながら、担任は答えを返した。

「そんなに気になるなら、これ渡してこい」

 担任は一枚の書類を取り出した。

「この書類は本当ならすぐに渡さなきゃいけないんだが、あいつはいつも学校に来ているわけじゃないからな。丁度いいだろ?」

 降って湧いたこの絶好の機会に若干戸惑いながら、私はその書類を受け取った。

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