三
市立旗柏中学校。それが私の通う学校の名前だった。
同じ市に存在する複数の学校を統合して作られたこの学校では一学年辺りの生徒数も多く、住んでいる地域も様々だった。その中には勿論、私の住むニュータウンに同じように暮らしている生徒も居た。だが、私と彼らとの間には埋め難い壁が存在していた。
私は幼少の頃から言葉について強く躾けられてきた。例えば自分を指す一人称は私にしろと徹底されている。社会に出てからも一番恥ずかしくない、損をしない一人称は『私』だからだと父は語った。また、口調も標準語を徹底させ、何となく話した私の方言一つ一つに対し、父は沈着な面持ちで訂正を入れた。そのため、私の話し方は歳よりもずっと老けているような、まるで大人のような言葉遣いになっていた。しかし、同じ学校に通う彼らは多少地域が違えど、同じ県のある程度似通った地域で育ってきているので、皆この地域の訛りを持っていた。とくにこの地域の訛りは抑揚のない実に特徴的な話し方なので、私の話す標準語が明らかに浮いてしまう。
私はここにおいても部外者であった。彼らは私を都会の人間だと話した。そこに侮蔑、罵倒のニュアンスは伴っていなくとも、彼らにとって私は良くて客人とか、そういうふうな立場で、本当の意味での仲間になれないのだと言う強い言葉の力を感じ取った。
実際、彼らと会話していると時に聞き取れない、場合によっては意味が分からない単語が出て来ることがあり、それを聞き返すことも出来ず、かといって無理解なままでは文脈を理解出来ない。私は言葉の時点で既に孤立への道を歩み始めていたのだった。
私は何とかしてこの孤立から抜け出そうと、クラスの連絡簿を確認した。その住所の中に私と同じあのニュータウンに住む者の中にならきっと、私と同じような孤独を味わっている生徒が居るだろうと私は考えたのだ。
結論から言えばこの試みは失敗した。どうやらあのニュータウンでは私達一家がもっとも新しい入居者で、それ以外の者は皆十年以上前からあの場所に住んでいるようなのばかりであった。思えば、通学路の一部には雑草が生えたままの空き地に「好評分譲中!」と書かれたボロボロの旗が翻っていた。きっとあの空き地の雑草の森は十年以上の時間をかけて作られたのであろう。
しかし、新しい発見もあった。私の所属するクラス1ーBには、一度も顔を見たことのない生徒が一人存在するのだ。
名前を、御園生初子という。
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