第15話:青騎士に会ってみた(前編)
「なあ、お前らの元上司の四天王ってどこに居んの?」
唐突に犬男に問いかける。
いまは、各々新しい城で自由に過ごして貰っているが、ちょっと青騎士とかっていうのが気になるから見てみたくなったのだ。
昨日今日仲間になったような魔族を自由にさせていいのか?なんて事もあるだろうが、基本的にここは砂漠のど真ん中。
そして、この領土を闊歩するのは、俺に忠誠を誓った強化蛇軍団。
万が一、蛇の目を掻い潜って外に出られたとしても、この砂漠を越えるのは容易では無いはずだ。
だが、実はそれよりももっと力を掛けているものがある。
それがこの城。
実はこの城、自立型決戦兵器とでも呼ぶべきだろうか?
この城自体に俺の余りある魔力をふんだんに与えていて、意思まで持っている。
すぐに、異空間に放り込まれて永遠に彷徨う事になる。
もしくは、マヨヒガの趣味であちこちに設置されている罠によって、手ひどい目に会うだろう。
「はっ、お答えしたいのですが、私も元は大魔王様にお仕えした身。いくらタナカ様に付いたからとはいえ前の主に不利になるような事は」
「うん、お前の記憶読み取ったから大体分かったよ」
「ちょっ! 酷い!」
犬男が面倒臭い事を言い出したので、頭に手を翳して記憶を盗み取る。
ふーん、南の塔を守護しているのか。
じゃあ、そこに行けば会えそうだな。
それと、南の塔の下にも町があるのか……取りあえずそこに寄ってみるかな。
「ちょっと、行ってくるわ!」
俺がそう言って転移しようとしたら、ウララがチラッとこっちを見る。
しかし、辰子と遊ぶ方が楽しいのだろう、すぐにそっちに駆けって行った。
なんだろう、ちょっと寂しい。
なんて事を思っていたら、辰子を引っ張って連れてくる。
「パパどこに行くの?」
ああ、辰子も連れてけって事かな?
「うん? 強い奴に会いに行く!」
「何それ! おもしろそー! 辰子も行く!」
そう言って辰子が俺の手を握って来る。
さらにウララも肩に乗っかって来る。
本当は面倒くさいけど、自分の生み出した子供に……こうやって言うと語弊を生じそうだが、せがまれると嫌とは言いづらいね。
仕事ならともかく、半分遊びだし。
うん、子供なんて持った事ないけど、父親ってこういう感じなんだろうね。
よし、一緒に連れて行こう。
「そうだね、たまには外に出るのも悪くないね」
俺はそう言うと、1人と1匹を連れて転移する。
犬男がジトっとした目でこっちを見ていたが、野郎のジト目なんてウザいだけだ。
それから転移した先で、辰子が周りを見てキョロキョロしている。
ちなみに、辰子も人化が使えるので今は小さな女の子だ。
そして俺は相変わらず薄い茶髪のチャラ男です。
それにしても立派な街並みだな。
住人の人達に覇気が無いのが気になるけど、それを除けば割と良い町に思える。
建物もしっかりとしているし、かなり広い。
魔族が偉そうに歩いているのを見ると、ちょっと面白い。
前の世界じゃ考えられなかった光景だ。
悪くは無いけど、俺はどっちかというと対等に付き合える方が理想だな。
そんな事を思っていると、鰐族の女性が唐突に声を掛けてくる。
「おやおや、可愛いお子さんだね?これ食べるかい?」
それから、唐突に黒くてツヤツヤした木の実を手渡してくる。
「んー?なにこれ?」
俺は辰子の代わりにその実を手に取って、皮を剥いてみる。
中からライチのような透明の果肉が出てくるが……これって。
「これはシャボチカバですか?」
「おや、お父さん良く知ってるね」
このおばさんも八百屋なのか。
というか、この世界は鰐は八百屋をやらないといけない決まりでもあるのかね?
このシャボチカバという果物、こうやって実だけ見ると美味しそうで、実際かなり甘くて美味しい。
けれど、問題はその実の成り方にある。
見た事のある人も居るかもしれないが木の幹から直接、この黒い実が生えるのだ……大量に。
正直、ブツブツで気持ち悪い。
「ええ、ジャムやジュースにするととても美味しいですよね。ほら辰子食べてごらん。ウララもどうぞ」
そう言って2人に手渡すと、口に入れてニンマリする。
ウララも夢中で齧りついている。
「うん、甘くて美味しい」
「そうだろう、私も喜んでもらえて嬉しいよ」
こうも変わった果物ばかり出してくる鰐どもというのも奇妙なものだ。
俺はお礼に、普通のリンゴを買って齧りながら町を歩く。
それにしても、魔族の店員さんははつらつとしているのに、人間は何してるんだろうな。
大体が街の掃除や、魔族の付き人のようだな。
それ以外にも、街頭で人間相手の床屋や、靴磨きをやっているようだが……需要あるのか?
とはいえ、身なりの良い人間も居るには居るみたいだし、対照的に彼らは魔族にはヘコヘコと頭を下げつつも人間相手には偉そうだ。
俺の嫌いなタイプだな。
「ねえ、おばさんここら変で美味しい食事を出してくれるところってあるかい?」
「うーん、わたしゃ子供は人でも魔族でも関係無く好きだから良いけど、あんたら人間だろ?だったら、ちょっとこの辺じゃ無理かな?旅のお人かね?」
「まあ、そんなところかな?」
「じゃったら、この先の路地を曲がったところに人相手に食料品を売ってるところがあるから、そこで食料品を買って自分で調理するしかないね」
なるほど、人相手に商売をする魔族は居ないって事か。
とはいえ、これで魔族を追いだしたらこの人の良さそうなおばちゃんに迷惑が掛かるな。
のっけから躓いてしまった。
閃いた! この街自体を俺の支配下に置けばいいじゃないか!
街ごとあの砂漠に転移させるのは簡単だしな……
というか、あの砂漠無駄に広いから、俺が救った町は全部あそこに転移させていって、巨大な国を作り上げるのも悪くないな。
「おいおいクロ子さん、また人間に食べ物を分けてんのかい?こいつらすぐに調子に乗るから、止めろって言ってるだろ?」
「なんだいまったく、子供に罪は無いよ! あたしゃこの子にあげたんであって、人間に上げた訳じゃないからね」
そこに狼族の衛兵が駆け寄ってきておばさんを注意するが、おばさんも負けてない。
人じゃなくて、子供にあげただけだと言い張っている。
これには衛兵も苦笑いだな。
「おい人間! 魔族が皆クロ子さんみたいだと思わない事だ! ほかの魔族に同じように近付いてみろ、殺されても仕方が無いぞ!」
んー、この人も悪い人じゃなさそうだな。
勘違いして殺されないように注意してくれていると考えたら、むしろ良い奴のようにも思える。
いいねー、この国のこういった魔族達なら人間との共存も受け入れてくれそうだ。
最悪無理でも、町を二つに割れば良いし。
「貴様ら魔族が人間と何をなれ合っておるのじゃ!」
そこにでっぷり太った立派な服を来た、豚の魔族がゆっくりと近づいてくる。
有難うございます。
どうみてもオークです。
周りには護衛と思われる猪の魔族が5人か……まあ、あまりもめ事も起こしたくないし無難に切り抜けるか。
「これはスチュワート様、申し訳ありません。クロ子殿に近づく人間に注意をしておりました」
「ちっ! 嫌な奴が来たわね」
衛兵の男が慌てて頭を下げる横で、クロ子さんが悪態を吐く。
うん、クロ子さんそういうの俺、嫌いじゃないよ。
でも、余り目立たなくないから今は黙ってようね。
「なんか言ったかばばあ?」
「いえ、何も?」
思いっきり顔を背けて知らんぷりしてるけど、絶対わざと聞こえるように言ってたよね。
しかし豚が鰐に噛みつく絵ってのもシュールだよな。
やべ、ちょっと吹き出しそうになった。
そんな事を思っていると、不意に袖を引っ張られる。
「ねえパパ?なんでこの豚さんこんなに偉そうなの?」
目線を下に向けると、辰子が口をベトベトにしながら大声で爆弾を投下する。
うん、お前も急に喋り出した思ったら何を言い出すんだい?
パパは、この街を観光したいから余り目立ちたくないんだけど?
「なっ! なんだとクソガキ!」
豚の横に居た護衛の猪が、辰子に向かって怒鳴りつける。
そんな、子供の言う事に本気で怒鳴らなくても。
「んー?人間のガキが、わしに文句でもあるのかい?」
それから豚も辰子の方に近づいてくる。
それからニヤニヤしながら、目一杯腕を振りかぶる。
思いっきり辰子を殴るつもりか?
「大体さー、そこの犬もわざわざ話しかけずに、最初からこうすれば良いのだよ!」
そう言って予想通り豚が辰子に殴りかかる。
そんな弓を引いたような遅い拳が当たる訳無いけどね。
でもまあ、黙って見てるのもどうかと思ったので取りあえず片手で受け止める。
それから頭を軽く下げる。
「すいません、娘が大変失礼をしました」
「お前が父親か?汚い手でわしの手をさわブヘラッ!」
豚が俺に向かって何か言おうとした瞬間に凄い勢いで吹っ飛んでいく。
横を見ると辰子が顔を真っ赤にして豚を睨み付けている。
「何をする!」
「大丈夫ですかスチュアート様!」
慌てて護衛の猪達が豚に駆け寄っていくが、豚は泡を吹いて気絶している。
「ほえー、お嬢ちゃん強いんだね」
クロ子さんが感心しているが、それどころじゃない。
これから観光って時に早速目立ちやがって。
しかも俺が魔改造した龍だからね……あの豚無事ならいいけど。
「おのれ、人間風情が! よくもスチュアート様を!」
「おい、お前らこの二人を八つ裂きにして、今日のディナーに並べるぞ!」
そう言って5人の猪が剣を抜く。
「煩い! 薄汚れた豚共の分際で、パパの手が汚いだと! お前ら全員殺す!」
ちょっと待とうか辰子さん……こんな大通りで人々の注目を浴びた状態で人化解除したら駄目だよ?
慌てて辰子の首を捕まえると、大人しくさせる。
「ああ、パパの為に怒ってくれるのは嬉しいけど、辰子もいきなりあんな事言ったら駄目だよ」
それから優しく諭すように言うと、辰子がショボーンとする。
「だって、パパの事汚いって! 辰子のパパ汚くないもん!」
「ふん! 人間の分際で生意気な! 薄汚れているのはお前ら家族の方……だ……」
ヤメテ! もう辰子を挑発しないでおくれよ。
そんな事を思いながら、こっそりと彼等にだけ見えるように左目だけ黒く戻しさらに牙を生やしてニヤリとして見せる。
「ま……魔人だと……」
「しかも黒眼持ち……」
それから左手の人差し指に膨大な魔力を込めて、護衛の代表っぽい男の唇に当てる。
「死にたくなかったら、このままその豚を連れて帰りなさい。あの子は私が魔力を込めて育てた龍の子だからね……」
彼にだけ聞こえるように小声でそれだけ言うと、代表の男が首を高速で縦に振って豚と他の護衛を引き連れて走り去っていく。
「辰子、パパの為に怒るのは悪い事じゃないが、先に喧嘩売ったのはお前だからな?」
「だって、あの豚がおばさんの事ばばあって言ったんだもん! 先に喧嘩売って来たのあっちだし」
ああそうか、この子は良くしてくれたおばさんを悪く言われた時点で怒っていたのか。
なんだろう、いきなりある程度成長していたからなんとも言えないが、優しい子のようで嬉しくなる。
そしてそれは残された2人の魔族にとってもそうだったみたいで。
「まあ、お嬢ちゃんはおばちゃんの為に怒ってくれたのかい?嬉しいねー」
「へー、魔族でも関係無く自分の思った通りに行動出来る人間がまだ居たとわなー」
2人が感心した様子で辰子を撫でるもんだから、罪悪感に耐えきれず……
「すいません……実は俺達も魔族なんですよ」
そう言って少しだけ正体を見せる為に魔人の角を生やす。
横で見ていた辰子も龍の角だけを生やしてみせると、2人がポカーンとする。
ウララもなんかした方が良い?とこっちを見て来たが、お前はそのまんまじゃねーか!
「なるほど……それにしたって完璧な人化だねー」
「げー、俺衛兵なのに全然気付かなかったわ! 凄すぎるでしょ」
しかも二人からは、人間のフリをしていたことでガッカリされるかと思ったら、逆にさらに感心された。
正直に正体を明かした事を感心されるのではなく、人化の術の完成度の高さに感心されたもんだから若干複雑な気分だ。
とはいえ、早速ゆっくり観光どころでは無くなってきたね。
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