第16話:青騎士に会ってみた(中編)
「さぞや名のあるお方だったんですね。お忍びですか?」
「ん? パパは魔帝ムギャッ!」
辰子がまた変な事を言い出しそうだったのでその口を塞ぐ。
「はは、そんな所ですよ! あまり目立つと折角の観光が台無しになるので」
「そうですか、それならこれをお持ちになられるといいですよ」
そう言って狼族の衛兵さんが、何やら四角い木で出来た板を手渡してくる。
板には魔族の代表とも言える、メジャーな悪魔代表デーモン族の顔が描かれている。
下には見慣れない文字で、魔族と書いてある。
何故読めるかって? そこはあれだよ……魔法バンザーイ!
厳密に言うと、魔法による記憶力の超強化とエリーの講義と本の知識で古代文字から、一部族の扱う文字に至るまで全て解読できるからね。
「貴方のように人間のふりをして町を楽しみたい魔族の方に、役所の魔族窓口で発行しております魔族証明書です。ちょっと魔力を込めてみてください」
「ん?ああ、ちょっと待って」
そう言われて魔力を込めると、魔族証明書が激しい光を放つと真っ二つに割れる。
ん?これは割符か何かなのかな?
「ちょっ! 魔力込め過ぎですって! ちょっとで良かったのですが……」
「あっ、すいません」
「呆れた魔力だねー」
クロ子さんに呆れられてしまったが、仕方なし魔法で板を元の状態に戻す。
といっても対象の時間を少し巻き戻して、状態を元に戻すだけだが。
そう懐かしの作ったは良いけど、あまり使う機会の無かった【
こっちに来て思い出したのだが、よくよく考えたら町の復興なんてこれを町全体に掛ければ良かっただけだったな……
過去に行くことは出来ないが、無機物や食べ物に関してのみ時間を元に戻す事が出来るから怪我人等はどっちにしろ治すしかないけど。
「えっ?」
「えっ?」
狼族の男がびっくりした表情を浮かべてこっちを見てくるが、魔法を使えば似たような事は誰だって出来るだろう。
「真っ二つに割れたはずなのに、完璧に直ってる」
「嘘……だろう?」
おお、これにはクロ子さんもビックリみたいだな。
それから俺の肩をバシバシと叩いてくる。
「あんた凄いね! こんな魔法が使えるなんて、本当は将軍様かなんかじゃないのかい?」
「いや、名も無い1人のただの魔人ですよ」
「魔人様なのですか?! 魔人様ってのはもっと怖いもんだと思ってましたが……でもこんな事が出来る魔人様がただのって事は無いでしょう」
同族から様呼ばわりされることにちょっと違和感と、優越感を覚えつつもはにかんで見せる。
「この魔法を応用すれば、こんな事だって出来ますよ!」
調子に乗った俺は【
ついでに詰まれた野菜も、たった今まで木や畑になっていたかのような瑞々しい新鮮なものへと戻して見せる。
「ほへー……大したもんだねー」
「うん、パパ凄いでしょう!」
「こんなに優しい魔人様というのは聞いた事ありませんね」
「あんた、騙されてるんだよ! まあ名だたる魔族様だという事は私でも分かったけど」
それから4人で暫く談笑していると、遠くからまた誰かがやって来る。
「おおい! ウォーレン! スチュアート様が誰かに襲われたらしいけど知らないか?」
「あっ、隊長! 自分はいま来たところなので……」
そう言って、狼族の男がウィンクする。
お前ウォーレンって名前だったのか……
つーか、思いっきり4人で談笑してたのに、いま来たところっていうのはちょっと無理があるだろう。
というか、いきなりウィンクとかそんな事すると……
「ん? 怪しいな……見た事も無い人間の親子も居るし、こいつらじゃないのか?」
ほらバレた……
そんな目の前でこっちにウィンクなんかしたら、庇ってますよって言ってみたいなもんじゃん。
えっ? もしかしてこれ衛兵同士の合図か何かで、直接言い辛い時に行動で示す的な?
どっちにしろ、怪しすぎるわ!
「いえいえ、この人達もたまたま通りがかっただけみたいで、事情を聴いて居た所ですよ?」
「そうだよ隊長さん! うちに果物を買いに来たお客さんだよ!」
「ふーん……そうなのか?」
2人が必死で俺を庇ってくれるが、全然信じているような顔じゃないな。
それから隊長と呼ばれた男がこっちを見てくる。
うん、こいつの顔はトムソンガゼルっぽいな……
本当に魔族にもいろんな種類が居るんだな。
「ええ、まあ……」
「って、その証明書、お前魔族か?」
「ええ、実はたった今正体が魔族であるという事を聞き、この証明書を手渡したところで」
「ウォーレンはちょっと黙ってろ! おいお前! ちょっとそれに魔力を込めて見ろ」
目ざとく魔族証明書を見つけた隊長が俺の言葉を遮り指図してくる。
ウォーレンが慎重にお願いしますよと視線で訴えてくるので、仕方なし慎重に魔力を込める。
かなり強く発光したあとで、全体が黒く変色する。
「なっ! すみません……まさか魔人族の方とは存じ上げず失礼を致しました」
「へー、これで種族まで分かるようになってるんですね」
俺が感心したように答えると、隊長が深く頭を下げる。
良く見ると隣でウロ子さんとウォーレンの2人がこれでもかと言わんばかりに目を見開いている。
「はい、こちらの色で魔人様、悪魔系、獣人系、虫系、植物系、その他の分類分けが分かるようになっているのですが……ちなみにそちらのお嬢さんも魔人様という事ですか?」
「いや、こいつは俺が卵の頃から魔力を込めて育てた龍人ですよ」
「なっ……はあ、それは重ね重ね無礼を致しました」
心なしか隊長さんが怯えているような気がするが、気のせいだろう。
というか、魔人ってやっぱり珍しいのかな?
俺も他にあまり見た事無いし。
ちなみに魔王に変質した人間や、魔導に溺れ高い魔力を持った為に自らを魔族に変えた人間は魔人になるらしいが……
生まれつきの純血の魔人というのは、本当に希少らしい。
「そ……それでは、私は職務に戻りますので」
「えっ、もう行っちゃうのかい? 何か買っていくかい?」
「いや、クロ子さんすいません……スチュアート様を襲撃した犯人を捜さないといけないので」
そう言って、隊長さんがトムソンガゼルよろしく凄い速さで走り去っていった。
うん、もう目立ち過ぎだろ。
こんなんで、観光なんて出来るのかね。
「変な隊長ですね」
「そうだね……」
「ねえパパ、お話し終わった? 辰子お腹空いた」
ウォーレンとクロ子さんが隊長の後ろ姿をじっと眺めながらつぶやく。
そして、その横で俺の裾を引っ張って辰子が食事を要求してくる。
まあ、しょうがないか……
「それにしてもあんた本当に魔人だったんだねー。人は見かけによらないもんだねぇ」
「ちょっ、クロ子さん魔人様に失礼すぎます! 知らぬ事とはいえ、大変失礼を」
慌ててウォーレンがクロ子さんを制して、こっちに頭を下げてくる。
いやあ、魔人ってのはそれだけでそんなに偉いもんなのかね。
「いやいや、ただの名も無き魔人ですから。それにウォーレンさんには色々とお世話になってますしね。先ほどのように、見かけたらいつでも気さくに声を掛けてください」
「立派な魔人さんだねー! 気に入った! お嬢ちゃん達ならいつでもサービスするから、この街に来たら顔を出しとくれ」
「ちょっ! クロ子さんには敵わないなー……でもきっと貴方は、相当素晴らしい魔人様なのでしょうね……それに正体を隠したがる辺り物凄く大物臭がしますね」
ウォーレンがホッと表情を緩めて、ウンウンと頷いている。
何やら盛大な勘違いをしていそうだが、まあいっか。
「そうそう、正体がバレないように気さくに声掛けてくださいね。えっと、それじゃあ証明書有難うございました。娘がお腹空いたみたいなんで、私はこれで失礼しますね」
「あっ、はい。それじゃあ辰子ちゃんと、えっと……」
「ああ、タナカです」
「あ、タナカ殿も楽しんでいって下さい」
「また寄っとくれよ」
それから2人と別れて、食事が取れそうなお店を探す。
飲食街の方に向かうと、私のステーキハウスというお店があったのでそこで昼食を取る事にする。
幸いな事に、そこまで行列が出来ているという訳でもないし、これならすぐに食べられるだろう。
それにどことなく、同郷の人間の香りもする。
木で出来た扉を開いて中に入ると、サキュバスのウェイトレスさんがこっちにやってくる。
なんかこっちを睨み付けているような気がするが。
ふと周りを見ると、他の客も不快そうにこっちを睨み付けている。
あー、そう言えば人間はお店に入れないんだったっけ?
まあいいや、身分証を見せれば大丈夫だろう、そう言って身分証を取り出そうとすると、ウェイトレスさんに思いっきり肩を小突かれる。
「あー、人間はお断りだよ!」
ちょっとムッとしたが、まあ仕方が無い。
郷に入れば郷に従えといった事だろうし、分かっていて最初から準備をしてなかったこっちに落ち度があるしな。
「さあ、出てった出てった!」
「ちょっ! 待って! 俺魔族だから、ほら!」
ウェイトレスさんが追い出すように、ドンドンと俺の肩を小突いてくるので慌てて魔族証明書を取り出す。
その証明書を見た瞬間に、ウェイトレスさんの表情が見る見ると真っ青になっていく。
それから慌てて土下座の姿勢を取る。
「ひいっ! 魔人様! これは大変失礼を致しました……すいません……すいません……すいません……殺さないでください……なんでもしますから……すいません……やめて……子供でもなんでも生みますから……命だけは……」
ん? なにこの怯えようは……
どういう事だろう……
ふと周りを見ると、先ほどまで敵意のある目でこっちを見ていた他の魔族達が慌てて、正面を向いて皿を凝視しながら必死で食事を取り始める。
何これ?
そんな事を思っていると、奥からバタバタと足音が聞こえてくる。
どうやら騒ぎを聞きつけたコック長っぽい男が慌てて駆け寄って来る。
見ると、普通の人間のようだが珍しいな。
やっぱり、この私のグループってのは人間がメインで展開してるのは間違いなさそうだが、魔族相手にも商売が出来るくらいには実績があるのか。
「どうかなさりましたか?」
ちょっと思案に耽って居たら、コック長の男が恐る恐るといった様子でこっちに尋ねてくる。
まあ、騒いでいるのはそこのウェイトレスだけで、俺が何かしたわけじゃないけど。
「いや、人間はダメだって言うからこれを見せたら突然」
俺が魔族証明書をコック長の男にも見せると、男が一瞬顔を強張らせた後で笑顔で頷く。
どこか張り付いたような笑顔で、これぞ究極の愛想笑いといった感じだな。
「大変失礼を致しました。すぐにお席の方にご案内致します。いえ、不快な思いをさせてしまいましたので本日はお代は結構ですので」
んー……なにこの腫れ物を触るような対応。
ここまでされると、逆に気になるよな。
「ん? いや、別にそこまでしてくれなくても良いけどさ。まあこんな格好で入って来た俺も落ち度がある訳だし」
「そう言って貰えると有り難いのですが、魔人様に粗相があったとなれば店の存続に関わりますので……ほれ、お前も謝らないか!」
「はい、すいません……すいません……すいません……」
そんなに怯えなくっても。
「いや、なんでそんなに怯えてるの? 別に怒ってないよね?」
「ひっ! すいません、私みたいな人間風情が魔人様の感情を推し量って早まった行動を! すいません」
今度はコック長の男が恐慌状態に陥る。
はあ、ここで飯食べるの止めようか……こんな状況じゃご飯も食べられないし。
「ああ、なんか迷惑みたいだし、他で食事を取る事にするよ」
そう言って店を後にしようとしたら、両足にコック長とウェイトレスの女がしがみついてくる。
「それだけはお許し下さい。お店のもの全てタダで結構ですので、是非うちで食事していってください」
「すいません……許して……許して……許して……許して……」
ちょっ! どうしたら良いんだよ!
面倒臭いから、ちょっと魔法で2人を落ち着かせる。
「ねえ、なんでそんなに怯えるのかな? 俺は身分証を出しただけですよ?」
「は……はい、この世界では魔人様と言えば、大魔王様の幹部として基本扱われております。ですが中には気象の荒いものも多く、あっいえ、お客様が決してそうだとおっしゃってる訳では無いのですが、彼女も以前一度魔人の方に粗相を働いた事がありまして」
「ええ、あの時はひたすら一晩中殴り続けられて、挙句の果てには家も燃やされてしまって……しかもそれらの行動を笑いながら行うのです……あの時の恐怖と言えば」
うん、それは迂闊なこの娘にも何かしらの落ち度があったような気がするが。
家まで燃やすというのはちょっと酷いな。
「しかも、この世界で魔人の方を敵に回すと周りからの助力はほぼ絶望的と言いますか。もうこの地にはいられなくなりますね……どこか田舎でひっそりと隠れて住まうように」
「私も、あのお方の子供を身ごもる事で許して貰いましたが……その子も生まれてすぐに連れ去られていったきり……」
なかなか酷い事をする奴も居たもんだ。
辰子とステーキを頬張りながら2人の話を聞く。
取りあえず同じ魔人として、そいつの行動は許せないな……
とはいえ、元々母数が少ない魔人だけに少数のそう言った素行の悪い奴等のせいで、全体的に魔人は腫れもの扱いされているらしい。
うん、魔人になったは良いが、魔族に嫌われている感が少しあるな。
嫌われている訳では無いのだろうが、似たようなもんだ。
しばらくは種族は隠した方が良いか……
―――――――――
「おい、誰がわしをこんな目に会わせたのだ!」
一方、大きな館で豚がベッド上から大声で護衛兵を怒鳴りつけている。
先ほど、タナカ達に絡んだスチュアートという男だ。
一応この街を取り仕切る魔族の1人で、こんなのでも百人衆の1人らしい。
「はっ……正体までは分かりませぬが、大きな魔力を持った魔人族の男だという事は確かかと」
「まっ! 魔人だと! くっ、馬鹿な! 何故魔人がわしに手を出すのだ! いや、実際に手を出したのはあの小娘か……」
その目は下種た光を帯びており、あからさまに復讐を考えている事が分かる。
一瞬魔人という言葉に怯みかけたが、良く考えると自分を吹き飛ばしたのは小娘の方だったな。
魔人に娘が生まれるなどという事はあまり聞いた話は無いが、基本異種族との交配でしか子を成し得ないうえに、魔人側に生まれる事は稀だ。
ほぼ、相方の種族よりで生まれてくる事が殆どだ。
そして、魔人は魔人では無い子供に愛情を注ぐことは無いはず……
なれば、娘の方に復讐することは問題無いはずだ。
「おい! 青様の所に行くぞ! あの小娘め……目に物を見せてやる」
「いえ、それは止めておいた方が宜しいかと……」
「なんだと?」
「あの男の方の魔力は底が知れません……それに黒眼持ちです」
「ちっ! やっかいな! だが娘の方なら……」
そこまで言いかけて、部下達の顔色が酷く悪い事に気付く。
大方男の方に脅されて、怯えているだけだろう。
全く情けない部下共だ……
そんな事を思いながらも、こんな奴等でも盾としては使えるからな……無碍に扱う事もできんし。
本当に馬鹿者どもめ。
「恐れながら申し上げます……こんな事を言うのは護衛として失格だと分かっておりますが、私にはあの娘がスチュアート様に何をされたのかが……見えませんでした」
その言葉にスチュアートの方も驚きを隠せない。
いくら猪族の魔族といえども、武技の方はこの街でも上位に位置する男。
こと槍捌きに関しては、南の大陸でも5指に入ると言われた武人に、見えなかった言わせしめる攻撃に身震いを覚える。
だが、なればこそ青様に報告をすべきだろう。
そんな驚異的な親子が、こんな町に何をしに来たのか……せめて警告だけでもしておかねば。
そしてあわよくば、青様の手でそいつら親子を亡き者にしてもらえれば何よりわしも少しは溜飲が下がる。
本当なら、自分の手で復讐を果たすことが何よりも重畳だが、こいつをここまで怯えさせるような奴だ……仕方あるまい。
それからスチュアートが、南の塔へと護衛を引き連れて報告に向かう。
何やら、南の塔で魔族や魔物がバタバタと忙しなく動いているが、どうにか青様とのお目通りが叶った。
スチュアートは南の塔、最上階から1つ下の部屋で玉座に腰かける青い全身鎧を身に纏った魔族と対峙する。
目を合わせるだけで心臓を鷲掴みにされたかのようなプレッシャー。
さらには、両脇に控える2人の魔族ですら自分を片手で簡単に殺す事が出来るだろう。
百人衆のさらに上、各四天王に2人ずつ配属される、右腕、左腕と呼ばれる魔族だ。
この地での将軍を四天王の1人だとするならば、この2人は副将といった所だ。
その下に自分達百人衆が25人ずつ配属されている。
中央大陸はこの右腕、左腕クラスの魔族が真百人衆というふざけた名前で配属されている。
自分では到底辿り着けない位だ。
くっ、忌々しい……種族の違いでこうも自力に差が出るとは。
だが嘆いてもしょうがない。
今は従順に彼らに取り入って、態度と頭脳でその地位を駆け上がるしかあるまい。
「ふん、スチュアートか……お前もこの大陸の人間の地に現れた新たな勇者にでもやられたか?それとも、いつもみたく手土産持っておべっかでも言いに来たのか?」
右腕がスチュアートを見て、嘲笑交じりに馬鹿にしたような発言をする。
だが、右腕は力に秀でている魔族だ……ムキになったところで簡単に切り捨てられ、護衛の猪が代わりに取り立てられるだけだろう。
「グフフ、いえいえ私は別件です。その新たな勇者というのも気になりますが、本日この塔のふもとの町にて魔人がお忍びで来ております」
「相変わらず気持ちの悪い豚ですね……それにしても魔人ですか……いったいどなたですの?」
左腕がこっちに向かって問いかけてくる。
こいつは魔力と魔法の扱いに特に長けているからな。
心して慎重に対応しないと、ちょっとした魔力の揺らぎ等でちょっとの誤魔化しですらバレてしまう。
「それが、その正体が分からないのですよ。小さな女の子を連れた2人組のようですが、我が軍に所属するどの魔人様とも特徴が一致しませんで……えへへ」
「ふーん……知らずにちょっかいかけて、返り討ちにあったから泣きついてきたの?本当に情けない豚ね」
どっと冷や汗が出てくる。
これだからこの女は苦手なんだよ。
「えっ?えへへ、いえ、純粋に私はこの地を心配して、新たな脅威になるかもと不安で報告に来ただけでして」
「だったら、お前がちょっと行ってその実力と正体を確かめて来たらどうだ?仮にも100人衆の位を与えてやってるんだからさ」
スチュアートがニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら必死で誤魔化しをしていると、右腕にバッサリと斬ってすてられる。
「貴方のそのお為ごかしばかりの報告には、ほとほとうんざりしてたのよね。そうね、いっそそのまま殺されてしまえば良かったのに……」
「おい、アーノルド、フレイア、あまり苛めてやるな……」
「はっ……」
「申し訳ありません」
それまでジッと黙って聞いていた青騎士が、口を開いた瞬間に2人が素直に頭を下げる。
若干威圧が籠っていたのか、2人の表情から余裕が消えてなくなる。
これが、この世界でも12神将の末席に位置する青騎士というのだから、将軍様の力は……そしてナカノ様の力はどれほどのものなのかと想像して、スチュアートがブルブルっと身震いする。
「しかし、次から次へと厄介事ばかり舞い込んでくるな。ここに居る百人衆のうち4人は行方不明だし、まあクロウの話を聞いた限りだと殺されているのだろうが……例の勇者の手でさらに3人の魔族が殺されたみたいだしな」
それから青騎士が溜息を漏らす。
「しょうがない、その魔人の方は俺がちょっと見に行こうか……お前ら二人は南の地からこっちに向かっている勇者の討伐に迎え……もし、その男が真に強きものなら、右腕お前が全力で食い止めろ! 左腕はすぐに報告に来い」
思わずスチュアートの顔から笑みがこぼれそうになる。
なんと、知らぬ間に百人衆からすでに7人の欠員が出ているという事らしい。
しかも、自分より上の者達ばかり……これは昇進間違い無しだな。
しかも、魔人にもキッチリと復讐が出来そうだ。
「貴方本当に良い性格してるわね……帰ってきたら、取りあえず思いっきり遊んであげるから覚悟なさいね」
左腕のフレイアがスチュアートの顎を優しく撫でるが、爪先をしっかりと伸ばして喉元から顎にかけて斬るような仕草をする。
思わず背筋が凍るような冷たいものを感じつつも、そのまま横を通り過ぎていったことにホッと胸を撫で下ろす。
「お前は本当に……馬鹿だよなー」
顔を上げると、右腕のアーノルドが思いっきりスチュアートの顔を殴りつける。
「あんまり上の人間嘗めるなよ」
それから顔に唾を吐きかけてから部屋から出ていく。
くそ共が……スチュアートは怒りに拳を震わせながらも必死で我慢する。
こいつらに逆らった全てが台無しだからな。
「おいスチュアート……お前は少しその本音を隠す訓練をしたらどうだ? 疚しい事があると鼻が2倍に膨らむんだよ」
ガーン!
これきっと、部下の連中も知っていたよね……なんで教えてくれないの?
恨みがましく猪族の護衛達を睨み付けるが、全員が同時に顔を背ける。
これは本気で知っていた時の反応だ。
くそー! 部下からも馬鹿にされていたことをしったスチュアートは怒り心頭だったが、どうする事もできない。
馬鹿にしていた連中から、いや……下手したら今まで関わりのある魔族全てから馬鹿にされていたかもしれないと思うと、穴があったら入りたい気分だった。
「よし、案内しろスチュアート」
「えっ? 私がですか?」
「ふふっ、お前の仇を討ってやると言ってるんだ、それくらい働け!」
そう言って立ち上がった青騎士が、スチュアートの首を掴んで持ち上げるとゆっくりと歩き出す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます