第14話:非常食扱いで辛い(魚さんの場合)

「これ美味いな……このタレといい、炭火でしっかりと焼いてある鳥といい……って、思いっくそ日本の焼き鳥じゃねーか!」

「二本? タナカ様、両手にいっぱいに串持ってて二本って事は……」

「というか、堂々と人間の国を歩いていてバレないね?」


 俺はいま、中央世界の中でも割と大きな町に来ている。

 なんでも、ラブグランドという割と新しい町らしいが……こうして街並みを見ているとどことなく日本っぽいものがあちこちにある。

 建物の作りと言い、お店といいどうなんだろうね。

 ここでも同郷者の匂いがプンプンする。

 ○で囲まれたYの文字、サークルYのお店があるのも気になる。

 イネダ珈琲を見た時は思わず噴いたわ。

 他にも、ステーキハウス昼ぐまとか、MSF(モダンスパゲッティファッション)とか、なんだろうねこの既視感。

 というか、もしかしてラブグランド愛知

 さらに、俺が手にしているのはこの街にある、わたしの屋台という露店で買った焼き鳥だ。

 というか普通に買い物が出来た事に感動した。


 取りあえず、この世界の通貨を持って居なかったので、パッと思い浮かんだ金になりそうな物で取り扱いが簡単そうなアダマンタイト鉱石を魔法で作り出して鍛冶屋に売り飛ばしたら、拳大で100金貨も貰えた。(※1金貨=1万円で考えてます)

 なんでもこれ一つで剣が作り出せるらしくて、剣にしたら3倍の値は付くだろうという事だった。

 まあ、剣を作る事も出来たがあまり大金は必要としていないし、何よりその剣の入手経路等の詳細を聞かれたら面倒くさいしな。

 とか思いつつ、その価値が気になったのでアダマンタイト製の剣に、風属性の魔法を付与して作り出した剣を取りあえず武器屋に持って行ったら、1大金貨(1000金貨)貰えた。

 でもさ……知ってると思うけど、俺大体の物を作り出す事が出来るからね。

 基本鉱物は地属性魔法と火属性魔法でなんとかなるし。

 好きな形で作り出す事も出来るからね。

 家具とかも木属性魔法やらなんやらで造れるし、食料もね?

 だからお金の使い道無いんだけどね。

 本当に魔法バンザーイって感じだわ。


「で、ここには何をしにこられたので?」


 同行者はアンダードッグ改め犬男とネネだ。

 ちなみに、アンダードッグに犬男と名付けたら、アンダードッグは神妙な面持ちでウムと頷いてこれが真名を賜るという事かと感動に打ちひしがれていた。

 どうやら、この世界の魔族も北の魔族とあまり変わらないようで安心した。

 2人には人化の魔法を叩き込んで、人に化けて貰っている。

 俺も目立たないように髪と瞳を薄い茶色にしてあるが、顔だけは東洋風だ。

 前世では髪を染めた事は殆ど無かったが、ちょっとはっちゃけた感じになってる。

 異世界デビューだな。


「ん?観光!と、この辺りを仕切ってる魔族さんに挨拶をしようかと」

「そっ、それはまた豪胆な事で」


 犬男が羨望の眼差しで見てくるが、良く意味が分からない。

 隣を見ると、ネネも頷いている。


「この地を仕切っているのは、100人衆の中でも10指に数えらえる次期四天王候補のカマドール殿ですね……私はあの人は苦手なのね」

「ああ、俺もだ……あいつに会うといっつも、つま先から頭の天辺まで嘗めまわすように見てくるからな。気持ち悪い。実力は確かなのだが」


 なんだろう、凄く嫌な予感がしてならない。

 もしかして、本当にヤバい奴のような気がしてきた。


「おっ、お兄さんカッコいいね!これ食べとくれよ」


 その時不意に八百屋のおばちゃんが声を掛けてくる。

 それから、ちょっと変わった果物を見せてくれた。


「これは……キワーノ?」

「あら、良く知ってるわね。そうよ、珍しくて変な形してるけど美味しいんだから」


 うーん、どことなく鰐っぽい顔をした人間だ……どこかの誰かにそっくりだ。

 おばちゃんがキワーノを半分に切って木の匙と一緒に手渡してくる。

 甘くてちょっと酸味もあって、でもあっさりしてて物足りない残念な果物だ。


「これは、蜂蜜やヨーグルトに混ぜると美味しいんですよね」

「あら、若いのに通なのね。あいにくうちは八百屋だから、そういったのは置いてないのよね」


 おばさんが感心したとばかりに背中をバシバシ叩いてくるが、どうも鰐の顔にそっくりでそっちが気になって仕方が無い。


「あの、タナカ様それは?」

「ああ、お前らも食ってみろ!美味いぞ」


 俺がそう言って二人にもキワーノを手渡すと、匙で掬ってチュルンと口に入れる。

 それからしっかりと味わって食べる。


「確かに美味しいね」

「こんなものがあったとは」


 ああ、俺も驚きだよ。

 この世界の生態系は変な方向に偏ってる気がするが、ただで貰うのも気が引けるから置いてきた奴らにお土産としてフルーツ盛りを購入して、異空間に収納する。


「あら、マジックバック持ってるのね?羨ましいわ。私はいっつもリヤカーを引いてここまで野菜を運んでいるんだけど、商売人の憧れの道具よね」

「いや、俺の場合は魔法で収納してるので」

「ああ、凄腕の魔術師さんだったのね。でもあまり魔法を披露しない方が良いわよ?ここの魔族に見つかったら……」


 その時、遠くから大きな声が聞こえる。


「ほら、あんたすぐにお逃げ」


 おばちゃんが、露店の裏から逃げるように促してくれる。

 見ると衛兵のような恰好をした、蟹の魔族と魚の魔族がこっちに向かってくる。

 おお、こいつら手下に加えたら沢蟹や、アユとかうちの領土に連れてこれないかな?


「おい、そぎょのばばあ!いまぎょっちで強い魔力を感知したが知らぬか?」


 ぎょってなんだよ?っていうかこれが人に物を訪ねる態度かね、本当に……

 おばちゃんが慌てて遠くを指さす。


「ああ、さっきここで果物を買った人が、魔法で果物を収納して持って帰ってたからその人じゃないかね?魔族様か人かまでは分からないけど……」

「本当かに?」


 いやあ、でも喋り方面白いな。


「おい、お前何を笑っておるのかに?」

「見た事の無い奴だな」


 2人組が俺に突っかかって来るが、とうとう堪えきれずに吹き出してしまう。


「すいません。ブフォッ!かにって!プクク……蟹がカニって何それ?あっ!すいません……つい……ブフォッ!」

「お前嘗めてるのかに?」

「おのれ、俺もうおぎょったぞ!」


 もう無理!俺は大声で笑いだす。


「ちょっと、あんた」

「あははははは、ああ、おばさんゴメンね。おぎょったって。何それ!もう無理……ブフフフフ!」


 犬男とネネが横で気が気じゃないといった感じでオロオロしてるが、しょうがない。

 どう考えてもこいつらが笑わせに来てるのが悪いだろう、これは。


「くっ、ぎょれは不敬罪で切り捨ててもいいよな」

「ああ、構わないかに!」


 2人が剣を抜く!


「ちょっ!蟹なのに剣持ってる!あんなデカい鋏持ってるのに剣とかブフフ!止めて、マジ死ぬる」

「タナカ様!」

「それ以上目立ちますと……」


 2人が俺を隠そうとするが、もういいや。

 取りあえず大人しく町を観光して、適当にカマドールとかっていうやつをおちょくって帰ろうかと思ったけど、この2人採用だわ。


「よしっ、お前ら2人俺の子分になれ!」

「くっ、何を寝ぼけたぎょとを!俺はカマドール様の忠実な僕」

「ああ、カマドール様を裏切ることはないかに」


 ダメダメ、お前らに拒否権なんて存在しないの。

 俺がこうと決めたら、絶対だからね。


「おばちゃん、また遊びに来るね」

「えっ?」


 俺はそう言うとと、この2人と犬男とネネを連れて自分の城に戻る。


「なっ、ここはどこかに?」

「ぎょぎょぎょ!ばかな!」


 うわぁ……もう、こいつ魚顔の魚の帽子被った地味に凄い博士にしか思えないわ。

 こいつの名前は魚さんで決定だな。


「はあ、タナカ様悪ふざけが過ぎますよ」

「そうね。ここに連れて来たからには殺すか、監禁しかないね」

「えっ?アンダードッグ様?それにネネ様?」


 犬男とネネが変化を解くと、二人の雑魚が文字通り雑魚だな……が狼狽え始める。


「俺達は中野の野郎をぶっ殺す為に今、軍を作ってるのだが……お前ら面白いから採用な!」

「くっ、ぎょうなったら退却は不可能か……おいカルナッツォ!俺が時間を稼ぐからなんとかして逃げろ!」

「待てクライス!死ぬ気かに?」


 カルナッツォが蟹で、クライスが魚か……ふざけんな!

 お前らは魚さんとかに太で決定だよ!


「あっ、ここ砂漠のど真ん中に作ってあるから逃げ出したとしてもすぐに干からびると思うよ」

『オワタ』


 こいつら本当におもしれ―な。

 いやあ、でもこいつら仲間にしたら理想の日本式魔王城がより一層洗練されるから逃がす気ないけどね。


「パパー!そいつら私のご飯?」


 そこにこないだ生まれたばっかりの辰子がウララと一緒に駆け寄って来る。

 ウララが魚さんをジッと見つめて涎を垂らす。


「駄目だよ!この人達は新たに仲間になってもらうって決めたんだから」

「くっ、勝手な事を……」

「こうなったら、せめて一太刀浴びせるかに!」


 そう言って2人が俺に斬りかかろうとして、その手を止める。

 いつの間にか俺の後ろに来ていた荒神が蛇形態で俺にすり寄って来る。

 人化形態を知っている俺としては複雑な気持ちになるが、まあ飼い蛇だしな

 その頭を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細める。


「ああ、お前らも来たのですね」

「あっ、荒神ズルい!」


 そこに遅れてカイザルとボクッコもやって来る。

 ボクッコは俺に撫でられている荒神に嫉妬しているようだが、魔族が蛇に嫉妬するなよ。


「カイザル様にボクッコ様まで……」


 2人の顔に絶望の色が浮かんだ辺りで俺が声を掛ける。

 優しい声色で、安心させるように。


「ちなみにだが……俺はタナカだ!北の元魔王とでも言えばいいかな?」

「ひいっ!」

「タナカ……まさか、北のタナカ様!まさか魔王様が大魔王様に反旗を翻すとはと思っていましたが、ここまでの実力がおありなら納得できますかに」


 こいつは本当に締まらないかにな!

 まあ、その辺りも含めて手ごまに欲しいのだが。


「あと、ここから逃げるといったが……」


 俺が口笛を吹くと、あちこちから強化青大将が集まって来る。


「お前ら、こいつらから逃げ出す自身あるか?」


 その青大将sが一斉に魔力を纏うのを見て、慌てて首を振る。


「なーに、うちは環境としては凄く良いからな。逆らいさえしなければな」


 それから髪と瞳を本来の黒に戻して、軽く魔力を解放する。

 と同時に風魔法で、木々を一斉にざわめかせて大物感をアピールする。

 ああ、こういう所がカインが憧れて真似するんだろうね。

 俺も十分に調子に乗ってたわ。


「ぎょっ!分かりました!あなたにしたがいます」

「これは……大魔王様に匹敵するかに。こっちに付いた方がいいかに!正直カマドール様には付いていけないかに」

「そうだな……あのお方も性癖さえ普通なら……」


 やっぱり嫌な予感は当たりそうだが、これで有能な手下2人ゲットだぜ!

 俺の日本風魔王城作成計画が捗る予感。

 ってこら!辰子とウララがとうとう魚さんに噛みつき始めた。


「痛い!」

「おい、お前ら離れろ!」

「ちょっとだけ!ちょっとだけだから!パパ、ちょっと齧るだけだから!」

「キュー!」


 必死に暴れる2人を引き剥がす。

 それから魚さんを治療した後に2人に魚さん、カニ太と正式に名付けの儀式を行う。


「目からうろぎょです!ぎょんな名前を付けらるタナカ様はしゃれおつですね」

「かにー!」


 蟹太は喜んでるかどうか謎だが、2人とも新しい名前を気に入ってくれたみたいで何よりだ。

 さてと……取りあえずカマドールは放っておこう。

 嫌な予感しかしないからな。


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