第13話:城内強化

「タナカ様、カイン殿が旅立たれました」


 俺が部屋でまどろんでいると、アンダードッグが部屋の前で報告を行ってくる。

 ちなみに、この魔王城は全室引き戸だ。

 魔法による施錠は出来るようにしてあるが、なかなか風情があって気に入っている。

 いずれは、正座して戸を開けるように女性陣には教えておこう。


「ああ、上手くやってくれるといいな」


 正直どうでも良い。

 元々色々と属性持ちのカインの事だから、なんだかんだで上手くやってくれるだろうと安心している。

 それよりも、今は折角作り上げた拠点をどう改造するかに必死だ。


『なあムカ娘、適当に虫をこっちにくんない?』

『えっ?あっ、タナカ様?』


 いきなり声を掛けた為、ムカ娘が慌てている。

 そして、カサカサと部屋を歩き回る音がする。

 相変わらず色気の無い足音だ。


『ムシですか?』

『ああ、蝶とか蛾とか、カブト虫とかクワガタとか、蝉とか蜻蛉とか…蜘蛛もいるな……それから百足やら、あっエリザベートに蛙用意しといてって言っといて、そっちはアマガエルと殿様、カジカくらいで良いよ、それと蛇吉には蜥蜴とヤモリな』

『はっ、はい!』


 元気な返事が聞こえると、そのままカサカサとどっかに行く音が聞こえる。

 早速、ほかの幹部に伝えに言ったんだろう。

 ちなみに、青大将とアルビノの青大将、通称白蛇はウロ子にお願いしてある。

 そして、そいつらは今日こっちに俺の転移魔法で連れて来た。

 都合100匹の青大将と、3匹の白蛇。

 うーん、まとめて見ると気持ち悪いがこれだけ広い敷地だ、放せばそうでもなくなるだろう。

 取りあえず、青大将に出来る限りの魔法による強化を施す。

 勿論、見た目を改造することは無い。


 いやぁ、我ながら上手に出来た。

 今回蛇に施したのは、知能、筋力の強化と魔力の増強、呪詛関係の魔法と氷雪系魔法を付与させてある。


「お前らは基本的に飾り物だからな?あまり目立った動きはしなくていいが、止む負えない場合は適当にあしらって良いぞ」


 ちなみに青大将を取り仕切る1匹だけ、自重せずに強化してある。

 クロ子から送られてきたのは、平均50cm~1m50cmくらいの個体にだったが、こいつは元々が10m級の大蛇だ。

 さらに、この大蛇を全能力を種族最大値まで引き上げたうえで、超強化を施した改造大蛇に仕立てあげる。


「えっと、じゃあ普段は何をしてたら良いのですか?」


 ちなみに、何故か全員オスの蛇だったからウロ子に文句を言ってちゃんとメスの蛇も回してもらった。

 約1匹凄くデカくて、見覚えのある模様をしていたから無言で送り返したが。


「ん?蛇らしくニョロニョロしてたり、蜷局巻いてゆっくりしてていいよ」

「はあ、左様ですか」


 俺の言葉に小首を傾げつつも、その巨体をゆっくりとうねらしながら森の中に入って行こうとする。


「いやいや、お前はこの城の中に住んでもらうから」

「よろしいので?」


「ああ、取りあえず人化の術も使えるようにしたから、ちょっと使ってみてみそ」

「あっ、これですね」


 これが前世の世界なら、こいつ直接脳内に…!って言葉が聞こえてきそうだが、文字通り魔法で直接この蛇の脳内に魔法の知識を植え付けていく。

 えっ?これを使えばマイにも【三分調理キューピー】を覚えさせられるんじゃないかって?

 碌な使い方しないのが目に見えてるからそれはしない。

 絶対に野菜とか食べ無さそうだし。


 俺の目の前で大蛇が魔法を発動させると、身長2mを越えたくらいの立派な美丈夫が現れる。

 んー、本当は美女が良かったんだけどな……

 魔法で簡単に性別も変えられるけど、そんな事を勝手にやる訳にも行かないし。

 まあ、これはこれでありか。


 取りあえず、服装は和装をイメージさせるようにして武器は鉾にしてある。

 まあ、後は強さをどうするかだけど弱い美丈夫ってのもあれだから、ちょっと気合入れて能力を強化しておこう。


 あとは白蛇は、城の床下か屋根裏にでも住まわせておくか。

 付与は当然雷属性だな。


 それから、新たに仲間にした大蛇を他の幹部に紹介する。

 場所は、城の大広間だ。

 日本の城に、謁見の間なんて名前の付いた部屋は無いからな。

 畳80畳ほどの部屋で俺が上座に座ると、4人が直接畳に座る。

 それぞれが畳の感触を楽しんでいるようだが、今はそんな事はどうでもいい。


「ゴホン」


 俺が咳ばらいをすると、全員がこちらを注目する。

 それから目を大きく見開く。


「いつの間に」

「誰ですかね?」


 アンダードッグと、カイザルが俺の横に突如として現れた男を見て聞いてくる。


「うん、新たに仲間に加わった荒神だ。まあこの地を守る専属護衛みたいなものだな」

「初めまして、荒神と申します」


 そう言って荒神が頭を下げると、他の4人があっ、どうもといった様子で軽く会釈をする。

 人見知りか!

 てっきりカインの時みたいに、実力をとか言い出すのかと思ったが隠す気の無い巨大な魔力と、その強そうな見た目に尻込みしたようだな。

 まあ、カインに完膚無きまでにボコボコにされたばっかりだから自信喪失気味だったんだろうな。

 でも、正解だ!悪いけど、こいつは自重せずに強化させまくってるからね。

 でも、本音ではちょっと戦ってもらいたかったりもしたが。

 こいつの実力のお披露目は、また暫く後になりそうだな。


 ―――――――――

 とうとうこの時が来ましたわ!

 私はいま、喜びに震えております。

 タナカ様より、虫を数体引き連れて来てくれないかというお言葉を頂きましたの。

 はっ!これが噂に聞く、プロポーズというやつなのですね。


 ムカ娘が蛇吉と、エリザベートにタナカの言葉を伝えつつ配下を集めて回る。

 それにしても、我が最強の軍団、黒の騎士団は今回不要という事でしたが、よっぽど自信がおありなのでしょうね。


 そんな事を考えながら言われた通りに配下を集めて回る。


 ―――――――――

 さてと、ここに住む生物としてはあとは狼や兎、狐に鷹や鷲の猛禽類や、カワセミや鶴……鶴?鶴ってこんなとこに居るイメージ無いな、鶴はいいや。

 雉とか、あー鳥とは全然関係ないけど亀や魚も欲しいな。

 魚介系の幹部とか居ないけど、エリザベートで大丈夫かな?


「なあネネ、お前の力でさ鷹とか鷲とか、カワセミや雉とかって呼べる?」

「えっとね、魔物化したものなら大丈夫ですがね」

「ああ、それで構わないよ……でもカワセミの魔物とかって居るのか?」

「まあ、その程度なら」


 そう言うと、ネネが口笛を吹く。

 それからあちこちから鳥の羽ばたく音がすると目の前に色んな鳥が集まって来る。


「取りあえず、この森に住むように伝えておいて」

「はい、分かりましたね」


 そう言うと、ネネの合図と共に各々好きな所に飛び立っていく。

 段々と、日本っぽい森の形成が出来てくるとテンションが上がって来る。

 よし、あとは蜥蜴や、虫が集まったらそいつらを徹底的に強化して防衛に充ててから、ちょっと他の魔族を適当にかっさらってくるかな。

 あっ、そうだ。


 俺は懐から一つの小さな卵を取り出す。

 これは蛇吉から貰った、龍の卵だ。

 俺はこれにありったけの魔力を込める。

 そろそろ、自分の力で純粋に自分の配下を作り出してもいいかなと思ってね。

 それに、やっぱり龍神さまってありだよね?

 さらに、様々な属性を詰め込んでいく。

 まあ、龍だから火を吐くだろうし、雷と雨も操るだろうしね。

 それから、風も操るか……地震も起こせるといいよね。

 そんな事を思っているとほぼ、光と闇以外の全属性を付与する事になる。

 それから、暫く懐で魔力を定期的に込めながらあっためていたのだ。

 なんとなくそろそろ孵化しそうな気がするんだけどね。


「タナカ様、それは?」

「ん?龍の卵だよ!」

「今日のご飯?」


 ボクッコが失礼な事を言ってくる。


「痛い!」

「んなわけあるか!」


 取りあえず、その頭に拳骨を叩き落とすと頭をさすってこっちを涙目で見てくる。


「DV!」

「難しい言葉知ってんな!どっちかっていうとパワハラだが、今はそんな事はどうでも良いんだよ」


 そんなやり取りをしていると、卵にピシッと罅が入る。

 おお、なんてタイミングの良い。


「パパ!」


 第一声でパパと呼ばれましても……

 まあ、間違いでは無いが、微妙に違うような。

 産まれて来たのは、掌サイズの小さな龍だ。

 日本の神話に良く出てくる、細長い龍だ。

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