第12話:カイン無双

「はあ…これじゃ準備運動にすらならないですね」


 カインが肩に剣を乗せて4人の魔族を見下ろす。

 これからこの世界で裏の幹部筆頭という、カインの好きそうな役職を与えるにあたって他の魔族4人組が、是非その実力が見たいという事で手合わせをしていた。

 実際は、人間が自分たちのトップに立つが面白くないからちょっと苛めてやろうってとこだったんだろうな。

 だが結果は…


「馬鹿な、これで人間だと…すでにこの世界の一国の騎士団を越えている」

「あり得ないのですね!カイン殿はまだ右手しか使ってないのですね」

「嘘でしょ…この実力で北の世界の幹部で末席ってあり得ないのね!」

「僕も北の世界に生まれたかったな。そしたらタナカ様とももっと早く出会えたのに」


 約1名良く分からない事を言っているが気にしたら負けだ。

 遡る事10分前。


 ―――――――――

「それじゃあ、カインは人間の村や町を救いつつ俺のステルスマーケティングを頼むわ」

「ステルスマーケティング?」

「ああ、直接俺と関わりが無いふりをしつつ、タナカという魔族の評判を上げてくれ…魔帝として大々的に活動を始めた時に、少しでも人間の協力者が欲しいからな」


 ようは、サクラみたいなもんだ。

 とはいえ、カインには人間側の英雄として第一線に立ってもらいつつも、北の世界での事を大げさに触れ回ってもらうつもりだ。

 そのために、カインには色々な設定を盛り込んである。

 そして最終的には人間側の代表として、俺との協力関係を結んでもらう。

 取りあえず、名前はタケルと名乗ってもらう事にする。

 これは同郷の人間を集めやすくする効果を期待してのものだ。

 それから、職業は元北の勇者で、元魔王であるタナカを追ってこっちの世界に来たという設定だ。

 その中で、タナカが人間を好意的に思っている事を広めてもらう。

 そのため、討伐ではなく人と魔族の共存出来る世界作りに協力を申し出る為に俺を探していた。

 が、俺は魔王を退いて、諸悪の根源である大魔王を倒しに旅立ってしまった。

 そのため、共に大魔王討伐を成就させるために俺を探しているという設定にしてある。

 まあ、嘘と本当を織り交ぜつつ、魔王と協力して世界を平和にするという青臭い若造を演じて貰おう。


「ちなみに現状、北の世界に待機を言いつけてあるウロ子を除いたらお前が序列1位だな。取りあえずは表だって幹部として取り入れるのは黒騎士カインだ!この世界では北の勇者タケルとして活躍しろ」


 俺の言葉にカインが目を輝かせる。

 突如として現れた謎の勇者!圧倒的な武力で各地の魔族を制圧し人々を救って歩く。

 しかしその正体は!北の元魔王として中央の魔帝の腹心として懐刀の役割を担う、魔帝の剣!

 というような事を演技掛かった口調で説明すると、勝手にあっちの世界にトリップしてあっという間に勇者タケルになりきってくれた。

 相変わらずイタい奴だ。


「タナカ様…そのカイン殿の力を疑う訳ではありませぬが、実力も見ぬうちに序列1位というのは…」

「そのウロ子殿と言われる方の力を測る為にも、カイン殿の力を示して貰いたいですね」

「ちなみにカイン殿は、北の世界ではどのくらいの強さでありましたのかね?」

「僕はどうでもいい」


 こいつら、本当に皆が喋りたがりだな。

 誰か1人に代表して喋って貰えばいいのに。


「ん?そうだなー、主力の幹部の中では一番弱いぞ?」

「ちょっ!そんな身も蓋も無い…事実ですけど」


 カインが俺を恨めしがましそうに見ているが知ったこっちゃない。

 どうせこいつの事だ、釘を刺して置かないときっと他の幹部が居ない事を良い事に、針小棒大、中途半端な事実を大きくして話しそうだからな。

 曰く、暴走したスッピンを圧倒的な武力で無力化したとか。

 って、そんくらいしか実績なかったか。

 あとは勇者を、片っ端から蹴散らしてたくらいか。


「え?北の世界で一番弱いのに、俺らより上?それはちょっと、侮り過ぎかと…」

「ああ、カインちょっと相手してやれ!今のお前なら刻印の解放無しでもいけるだろう」


 俺の言葉にカインがニヤリと笑う。


「そうですね…まあやってみない事にはなんとも」


 という事でカイン対、新配下4人という事になったのだが誰が相手するのかで少し揉めた。

 まあ、当然予想は出来ていたわけで


「ふふ、どうせ1対1で勝った程度では納得できないでしょう?いいですよ、皆さん全員で来てください」


 とカインが言い出すのも予想出来ていた。

 ていうか、煽るねー。

 俺も良くまとめて掛かって来いなんて事を言ってたけど、ちょいちょいこいつ人の行動パクるよな。

 スッピンの特訓でやられた事を、ユウちゃん達にしょっちゅうやって、この人ウザイとか思われてたし。


「ふふ…カイン殿は冗談がお上手ですね。もう引かせませんですね」

「ああ、タナカ様ならともかく、ただの人間にここまで言われちゃな!」

「全力で相手してくださいね?じゃないと、死にますからね」

「僕の力を見せてあげる」


 あーあ、みんなあんなにやる気だしちゃって。


「お気に触ったのなら謝ります。ただ余りにもこの世界の魔族が、あっちと比べて可愛く見えてしまいましてね。まあ、4対1では口で勝てる訳も無いのでどうぞいつでも」


 誰だよ、こいつをこんな奴にしちゃったの。

 超大物臭出してるけど、あっちと比べて可愛いなんて言ってるけど、あっちの幹部達にはまだ影すら踏ませてもらってないからな?

 いやー、嫌な奴になっちゃって。


「殺す…マジで殺す!」

「いくのですね!本気の攻撃を見せてあげっ…」

「えっ?カイザル?」

「何?」


 まだ相手が喋ってる途中だというのに、一瞬でカイザルの後ろに移動したカインがその首筋に剣の柄頭を叩き付けて意識を刈り取る。

 丁寧に、自分に強化魔法をしっかりと重ね掛けしてる辺り抜け目ない。

 話をしている最中に強化魔法をバレないように発動させ、相手を怒らせて判断力を鈍らせつつも、会話中に攻撃とか…誰に似たのやら。


「すいません、威勢が良いのは構いませんが、あまり口上が長いとどうも待てなくて。案外せっかちなんですよ」


 カインが頭を掻きながら、軽く微笑むとアンダードッグが地面を蹴って一気にカインの背後に回ろうとする。


「不意打ちかまして偉そうに…って!」

「キャッ!」

「うそっ!」


 アンダードッグがカインに爪による斬撃を放つがすでにそこにカインは居ない。

 アンダードッグを無視して、一気に前方に駆けだしてネネとボクッコの腹部に右手と左手で同時に拳を叩き込み意識を刈り取っていた。

 これはアンダードッグの攻撃が、カインに当たるだろうと高を括って油断していた2人が完全に悪いな。

 というか、4対1なのにその利点を全く生かせていない。

 これは強いとか弱いとか、綺麗だとか汚いだとか以前にあまりにも未熟としか言いようが無い。


「くっそ、キタねーぞ!」

「はは、4対1で汚いとか言われましてもね?それよりも貴方達は私を嘗めているというよりも」


 次の瞬間、カインが無言でイーブルブレイクを放つ。

 会話の最中の斬撃に、アンダードッグの反応が一瞬遅れて斬撃に飲み込まれる。


「戦場を嘗めているとしか言えませんね」


 ヒデー事するな。

 可哀想に、その言葉彼には届いていないから。

 何故かって?すでに意識を失っているからね。

 仕方なく、魔法で全員の意識を戻す。


「ちょっ、カイン殿ズルい!」

「そうですね!不意打ちは無いのですね」

「何も出来なかったね…全然攻撃する暇無かったね」

「…」


 ボクッコが冷たい視線を向けているが、俺もカインも今の戦いのどこが悪いのかさっぱり分からない。


「はあ、これが本当の戦場なら貴方達はすでに死体ですよ?そもそも隙があり過ぎて、私にはいつでもどうぞと言われてるのか「くらえ!」


 カインが話している最中にボクッコがいきなり翼を広げて羽を飛ばす。

 それをカインが剣で全て打ち返すと、羽がボクッコ目がけて飛んでいく。


「ちょっ!うそッ!」


 ボクッコが放った時よりも早い速度で飛来する羽を躱しきれずに、体中に突き刺さる。


「はあ…くらえ!なんて大声で言ってたら不意打ちにならないでしょう?」


 呆れたように溜息を吐くと、残った3人を挑発するように手をクイクイと曲げて、お前らも掛かって来いと意思表示する。


「正面から行けば、お前なんて!」

「待つのですねアンダードッグ、1人で行くなですね!」

「大丈夫私がフォローするね!」


 真っ先に駆けだしたアンダードッグの陰に隠れて、ネネが超音波を飛ばしているがこれって梟も使えるのか?

 そんな事を思っていると、カインがアンダードッグ目がけて剣を投擲する。

 アンダードッグはかろうじて躱す事が出来たが、その背後に居たネネは突如アンダードッグの影から現れた剣を躱しきれずに胸に大きな傷を作って倒れ込む。

 大きいと良い事ばかりじゃないのね。


「くっ、ネネしっかりするのですね」

「キサマッ!だが、素手で俺の攻撃を防げるか!」


 カイザルがネネに駆け寄って回復を施そうとしている。

 そして、アンダードッグは好機到来とばかりにカインに襲い掛かるが、当のカインは落ち着いて投擲した剣を消すと、また自分の手元に剣を作り出してすれ違い様にアンダードッグの肩口に斬りつける。

 まあ、魔法武具だからね…消すも出すも所持者の自由自在だし。

 そして、すぐに移動してカイザルの首筋に剣を当てる。


「戦場で回復するのに、敵から目を話してどうするのですか?」


 それから呆れたように囁くと、首筋にそって剣を滑らせる。

 実際に斬った訳では無いが、これで終わりと言いたかったのだろう。

 仕方が無く、カイザル以外の3人に回復を施す。

 そして冒頭に戻る。


 ―――――――――

「あー、お前らこれでもカインは本気じゃないからな」

『…っ!』


 俺の言葉に4人が目を見開く。

 だって、刻印の第1解放にすら至ってないからね。

 これって下手したら…この世界の魔族の上位幹部より強いんじゃないか?


「でさあ、実際100人衆ってどのくらい強いの?」


 俺の質問に、4人が顔を見合わせて考え込む。

 それからカイザルが答える。


「まあ、あまり言いたくないのですが各地を統べる四天王以外は似たり寄ったりですね。後は大魔王城の将軍殿達は足元すラ見えませんですね。ちなみに100人衆全員で四天王の1人を相手出来るかどうかといったところでしょうか」

「ああ、ならカイン1人で四天王くらいはなんとかなるか」

「いえ、実際に戦ってみて確かに本気で無いのは分かりましたが、それでも四天王に匹敵するかと言われますと」


 俺の言葉に、アンダードッグが言いにくそうに伝えてくるが、カインの本当の実力を知らないなら無理も無いか。

 まあ、こんなところで無駄に手の内を晒すのは阿呆がやる事だしな。


「これでもですか?」


 そう言うとカインが右手の刻印を解放する。

 おいっ!俺が許可してないのにこいつは勝手な事しやがった。

 こういう所がユウちゃん達にウザいって言われるんだよ。

 折角、力を完全に隠した状態で圧倒したのに台無しだよ!


「こっ…これは」

「将軍様達の第一形態と同じ空気がするのですね」

「バカな…これで人間というのね?」

「いや、ここは、カインをここまで強化したタナカ様が凄い」


 おお、ボクッコはちゃんと分かってるな。

 こいつの力のほぼ全部が、俺が付けてやったものだからな。


「しかし将軍達は皆、変身が可能という事でしたので、そうなれば…いやでも。」

「これでも足りないのですか…でしたら「ストップだカイン!」


 こいつ背中の刻印まで発動させようとしやがったな!

 本当に自己顕示欲の高い奴だ…




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