第11話:北の世界の宴

 さてと…早速だが城内の食堂じゃ収まりきらないという事で、いま城下町に来ている。

 例のマイが作った広場で、テーブルやら椅子を用意して大量の料理を作り出している。


「元魔王さまー!この串にささった鳥のお肉がもっと食べたい!」

「ああ、良いぞ」


 俺は焼き鳥を大量に作り出して、狼族の子供に手渡す。


「みんなジャンジャン食ってくれ!遅くなったが、新魔王の就任祝いも兼ねてるからね」


 次々とテーブルに並べられていく料理、そして続々と集まって来る人達。

 それにしても、こいつら良く食うな。

 そんな事思いながらも、俺の顔はにやけているだろう。

 子供達が大喜びで料理を食べるのを見ていると嬉しくなってくる。

 そして、嬉しい出来事はそれだけじゃなかった。


「魔王さ…あっ!元魔王様、これ私が作ったの!」

「あっ、ずりー!こっちも食べて!これは俺が作ったんだぜ!」

「すみません先代様…この子達がどうしても先代様に料理を振る舞いたいと申しまして」


 子供達が、俺の為に料理を作って来てくれたのだ。

 卵焼きや、目玉焼きや、卵焼きや、目玉焼きや、卵焼きや…ばかりと子供達らしい料理だが、俺に食べて貰いたいという真剣な思いが詰まっていてとても嬉しくなってくる。

 俺が口に運ぶ姿を、不安そうに子供達が見つめてくる。


「うむ、大変美味しく出来ているな!こんな美味しい卵料理は初めて食べた!」


 俺がそう言うと、子供達の顔がパーッと華やぐ。

 いやぁ、気持ちが籠った料理は良いもんだな。

 なんでも美味しい料理が出来る魔王というのに、憧れを抱いた子供達の間で一大料理ブームが起こっているらしい。

 ちょっと離れたところでお皿を持って挙動不審な百足女の姿が見えるが、幻覚だろう。


 それにしてもこっちの世界は平和そのものだな。


「なあ絶倫、聖教会はあれからどうだ?」


 俺の隣に座って、同じように子供達を微笑ましそうに見つめている絶倫に話しかける。


「はっ、大魔王様…あっ、違った。はい、タナカ様、聖教会は大幅な教徒の流出を食い止められずに、今は教会の立て直しにやっきになっているようで、こちらに構っている暇は無さそうですな。とはいえ、現状聖騎士達の戦力強化にも余念が無いようで、落ち着いたらまたこっちにちょっかいを掛けてくるかもしれませぬな」


 なんか変な事を言ってた気がするが、相変わらず聖教会は諦めていないようだな。

 とはいえ、結構俺が赴任していたときに叩き潰してやったから、いまはその補填に大変なんだろうな。

 第一、女神様も教皇もいま俺の目の前で料理を食ってるくらいだから、もはや教会として成り立たないだろうな。


「タナカー!ケンチキガ無クナッチャタ!早ク、作レ!」


 そこにケビンが空のお皿を持ってやってくる。


「ああ、分かった、分かった」


 俺はそう言って大量のケンチキを作り出すと、ケビンが大はしゃぎだ


「アリガトナ!タナカ、ヤルネ!」


 そう言って一本だけ、フライドチキンを俺に押し付けてホクホクで去っていく。

 いや、俺が別に要らないんだけど…というか、作ったの俺。

 そんな事を思っていると、この国では異質な神気を纏った女性が近付いてくる。


「皆さん良く食べますね…それにしても、田中さんの魔法は本当に素晴らしいです」


 お皿に申し訳程度に料理をのせた北条さんだ。

 北の世界の女神様だな。

 その横に付き従うように、コウズさんが立っている。


「ふんっ、わしはもっと落ち着いた料理が好きじゃがのう」


 文句があるなら食うな!と言いたいところだが、同じ日本人の好だ。

 刺身や、煮物、漬物などを作り出して手渡す。


「分かっておるじゃないか。」


 言葉少なげにそれだけ言うと、料理に手を付け始める。

 ついでに日本酒や焼酎も用意しておく。


「ふふ、コウズさんもああ見えて、日本人に囲まれたここの生活を気に入っているようですよ。ユウさん達に昔の日本の話を聞かせてあげたりと、大分穏やかになりました」

「北条殿!」


 そっと北条さんが耳打ちしてくるのを、耳聡く聞きつけたコウズさんが止めてくる。

 若干顔が赤くなっているが、酒のせいだという事にしておこう。


「タナカ様~、妾の料理も食べてください~!ついでに妾も~」


 うわぁ、酒くせーなこいつ。

 どんだけ呑んでんだよ…というか、酒の力を借りて一気に特攻掛けて来たな。


「ああ、でこれはなんだ?」


 ムカ娘が出して来た皿には、ケチャップで桃の絵を描いたオムライスっぽいものが。

 というか…お前も卵料理か!良く出せたなホントに…

 そんな事を思いながらも、料理だけは受け取ってムカ娘がしなだれてくるのを躱す。


「もう…相変わらず釣れない方ですね」


 そんな事を言いながら頬を膨らませているが、どうじに顎が大きく開かれて若干怖い。

 それから、次から次へと色々な人が声を掛けに来る。

 こうやって魔王を退いた後でも、きちんと接して貰えて嬉しくなってくる。

 そう言えば、マイに聞きたい事があったんだけど、今日はもう無理そうだな。

 遠くで、口いっぱいに食べ物を放り込んでいるマイを見て、フッと笑みが漏れる。


 ―――――――――

 その日は、一部の大人だけ残って朝方まで酒を飲んでいたせいで二日酔いが続出だが、これも宴会の醍醐味だ。

 治療はせずにおこう。


 俺はカインを連れて、城の入り口に立っている。


「すみません、立たれるというの碌な見送りもできず」


 そこには、エリーと、スッピンと絶倫だけだ。

 呆れた事に、他の幹部は呑み過ぎで立ち上がる事も出来ないらしい。

 まあ、途中からウォッカやら泡盛も作り出して振る舞っていたからな。

 今日はもう仕事にならないだろう。


 ちなみにムカ娘は部屋で大号泣して、刺します娘sに明け方まで散々愚痴をこぼした後にコテンと眠りこけてしまったらしい。

 ウロ子は、今回連れて帰らない事で若干すねているらしい。


「いや、昨夜充分再会を懐かしんだからな。それにいつでも帰って来れるし別に構わないよ」


 そう言ってエリーに笑いかけると、カインを連れて中央世界の城に転移する。

 そういえば、ムカ娘に虫を斡旋してもらうの忘れてたな。


「こっ…これはまた変わった建物ですね…」


 いかにも日本の宮っぽい造りの城を見て、カインが溜息を漏らす。

 そして、目の前には中央で新たに配下に加わった4人の部下が整列している。

 一応テレパシーで今から帰る旨を伝えていたからな。


「お待ちしておりました、タナカ様」


 そう言って、アンダードッグが一礼する。


「そちらが、タナカ様がおっしゃってらした、人間でありながら北の世界で幹部をされておられたカイン殿でございますか?」


 それから、カインの方をチラリと見てこっちに聞いてくる。


「ああそうだ、こう見えてお前らより強いからな。なんなら手合わせでもしてもらうといい。俺は疲れたから少し休む」

「はっ!カイン様は私が案内致しますね」


 ネネがカインを連れていくのを見送ってから、自分の部屋に戻る。

 いやぁ、結構料理作ったな。

 最上位地獄級魔法2回分の魔力を使ったから、相当なものだというのが伺える。

 西野や、南野も混じっていたが、まあ日本人だしいっか…

 また明日から、ゆっくりと戦力の拡大と、嫌がらせを始めますか。





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