第10話:スッピンとチビコと俺と…

「お待たせ致しました」

「魔王様…タナカ様?元魔王様!お久しぶり!」


 城から城下町に続く門のところで待っていたら、スッピンとチビコが手を繋いでやって来る。

 スッピンは真っ白なワンピースに、麦わらの帽子を被って髪を一つに結んでいる。

 当然顔は木乃伊だ。

 そして、繋がれた手の先では同じような恰好のチビコが居る。

 うん、どっからどう見ても姉妹…には見えないな。

 取りあえず、俺は青年形態に変化している。


「ところでカインには何をやらせるつもりで?」


 3人で城下町を歩いていると、急にスッピンに問いかけられる。

 まあ、チラッと説明をしたが若干気にはしている様子。

 良かったなカイン。


「ああ、取りあえず勇者として中央の世界で魔族に虐げられている村や、町を解放して歩いて貰おうと思ってな」

「はあ、カインに中央の魔族や魔物の相手が出来ますでしょうか?」


 まあ、この世界の人からすれば中央は大魔王の庇護下、その魔族もこちらよりは遥かに強いと思って居るんだろうな。

 だけど、俺が改造を施したカインならそれなりに良い戦いが出来るはずだ。

 当然、見栄えの良い戦いという意味で、勝敗的なものでいったらカインの圧勝だな。


「なに、大した事は無い。すでに100人衆とかっていう微妙な強さの奴等を4人程配下に迎えてるからね。こいつ等を皮切りに、適当に魔族や魔物を集めたり造ったりして、中野と遊んでやるさ」


 俺がそう言って豪快に笑うと、スッピンも引き攣った笑みを浮かべる。

 木乃伊だから皮が引っ張られてそう見えるのか、本当に呆れているのかは分からないが。


「元魔王様は、どうして他の世界に行っちゃったの?」


 しばらく笑っているとチビコが俺の服を引っ張って聞いてきた。

 チビコからしたら、展開が早過ぎて全くついて来られていないんだろうね。


「ん?中央の世界にね、中野っていう凄く悪い魔王が居るから苛めに行ってるんだよ」

「苛め駄目だよ!」


 チビコに注意された。

 まあ、大魔王城に殴り込みかけて…というか、大魔王城に向けて地獄級魔法を4~5発ぶち込めば奴の配下の無力化は簡単だろうな。

 それから、中野との一騎打ちでぶち殺してしまえば一瞬で蹴りが着く話だ。

 でもねー、それじゃちょっと面白くないんだよね。


「うーん、苛めっていうと聞こえが悪かったね。反省してもらうためにジワジワと怖い思いをしてもらってるんだよ」

「それ、あんまり意味変わらないと思う」


 なんと!チビコにまで呆れられてしまった。

 とはいえ、大した問題では無い。


「これはこの世界の皆が平和に過ごす為の大事な仕事だからね」

「そっか…それなら仕方ないね」


 そう言って、チビコにようやく笑いかけて貰うと、何やら聞き覚えのある声がする。


「おお!元魔王様戻ってきたのかい?じゃあ、これあげるから食べとくれよ!」


 そう言って、お馴染み鰐族のおばちゃんがバンレイシを渡してくる。

 見た目から釈迦頭と呼ばれる果実だが、なんでこのお店はこういったレアな果物ばかりを扱っているのだろう。

 いや、もしかしたら、この世界がそういう果物が多いのかもしれない。

 つっても、前世では話でしか聞いた事の無い果物だ…食べ方が分からない。


「これはね、半分に割って中の果肉だけを食べるんだよ!種がいっぱいあるから、吐き出しながら食べな」


 そう言っておばちゃんが、手で半分に割ってくれる。

 それから硬い葉っぱを渡されたが、これで掬って食べろという事だろう。

 早速口に入れる。

 なるほど、甘いな。

 とはいえ、ミルクっぽい甘みで俺は好きだけどちょっとくどいな。

 横の二人を見てみると、二人とも美味しそうに食べているのでよしとしよう。


 それから暫く進むと露店から美味しそうな匂いが漂ってくる。

 なんと、ついにこの世界でも揚げ物が出来たのか?

 その匂いの元に行ってみると、フライドチキンっぽい物を揚げている料理人の姿が。

 残念ながら、油の質は良くないらしくカリッとした見た目には見えないが充分だ。

 俺はそれも貰って、二人に分ける。


 あちこち見て回っていると、時間があっという間に過ぎていく。

 気が付けば、マイの座学が終わる時間だ…と思っていると上空から割と大きな魔力を感じる。


「アニキーーーーーー!」


 ああ、こんな奴も居たな。

 上を見上げると、比嘉が空から降って来る。

 それから、俺の方に駆け寄って来ると、スッピンに弾き飛ばされる。


「なんでや!」

「いきなり、そんな勢いで近付いて来たら誰だって警戒しますよ」


 当たり前だと言わんばかりにスッピンが比嘉を見下して言い放つ。


「【中規模鉄隕石ヘキサドライトメテオ】」


 直後、チビコの放つバスケットボール程の隕石が比嘉の頭を直撃する。

 なかなか、真面目に魔法の特訓をしているみたいだな。

 すでに、そんな大きな隕石が呼べるのか。

 比嘉の頭が弾け飛んだような気がしたが、すぐに再生が始まる。

 本当にこいつも逞しくなったものだ。


「チビコちゃん、人に向かってそんな危ない魔法放ったらあかんて!」


 それから首をコキコキならして、塩梅を確認してから比嘉が立ち上がるとチビコの頭を優しく撫でる。


「むう、まだまだ練習不足」

「殺す気やったんかい!」


 なかなかチビコもおかしな方向に成長しているみたいだな。

 後でモー太にお仕置き決定だな。


「最近では蛇吉殿に剣術も習っているみたいで、チビコちゃんは将来有望な勇者になれそうですよ」


 スッピンが付け加えるが、中々に恐ろしい事になりそうだな。

 魔王軍幹部に鍛え上げられる少女か…将来は最強の勇者への道が約束されていそうだ。

 なんだかんだで、あまり城下町を満喫できなかったがチビコの成長が垣間見られただけでも良しとしよう。


「そろそろ城に戻るか」

「そうですね」

「今日は、元魔王様のご飯が食べられるんでしょう!私楽しみだなー」


 うんうん、根っこは変わってないみたいで安心したよ。

 俺はチビコの頭を優しく撫でて、転移で城に戻る。

 それから、少し遅れて比嘉もやって来る。

 お前は、この世界の住人じゃないだろ!


「なんで置いてくんすかー!」

「えっ?」

「えっ?」


 俺が意味が分からないと言った表情をすると、それが意味が分からないといった表情をする比嘉。

 まあ、最近じゃこっちの世界で協力的に頑張っているみたいだから、そのくらいにしておいてやるか。

 すぐに、マイが駆けってくる気配を感じる。


「タナカー!喉乾いたー!ジュースくれー!サイダー出せー!寄越せー!今すぐ寄越せー!」


 それから思いっきり腹に体当たりというか、ヘッドスライディングを喰らう。

 魔王のヘッドスライディングだからな。

 地味に衝撃が凄い。


「それが人に物を頼む態度か!」

「いたーい!」


 俺が思いっきり拳骨を頭に落とすと、涙目になって蹲る。

 まあ、魔王になっても余り変わっていないようで安心したけどね。


「おい、鬼餓の魔王様がタナカ様を襲っているぞ…」

「ああ、タイラントハラヘッター様か…腹さえ満たしていれば穏やかな良い魔王様なのにな」

「知ってるか?新料理長のモー太様、料理長になってから100kg体重が落ちたらしいぞ」

「ああ、たまに口に合わない物を出すと、ボコボコにされて城から追い出されるんだろ?死んだ魚みたいな目してるの良く見るわ」


 前言撤回…より食に対して貪欲になったみたいで、周りに迷惑を掛けまくっているようだな。

 暴君タイラントなのか、そうなのか…これはちょっと反省してもらわねばな。


「ああ、そうだな。他の幹部にマイがどれだけ頑張ってるか聞いてからな。良く頑張っているようだった、サイダーを大量に作り置きしておいてやろう」


 俺のこの言葉に、途端に絶望的な表情を浮かべるマイ。

 どうやら、自覚はあるみたいだな。


「なあなあ、アニキー!ユウちゃん達も呼んでもええか?あいつらも会いたがってたし」


 そうだな、どうせだから知り合い全員を集めてやるつもりだったから全然それは吝かじゃない。

 むしろ歓迎だ。


「ああ、構わないぞ!でお前はもちろん国境で警備だよな?」

「なんでやー!」


 俺の言葉に、比嘉が泣きそうになっている。

 これで、東の元魔王だというのだから、よくよく考えれば魔王というのがいかに大した事無いかが伺える。


「タナカ、キチャッタ」


 来ちゃったじゃねーよ!

 誰だよこんな言葉教えたの。

 いかにも軍人なケビンがいつの間にか、転移で目の前に現れると俺に抱き着いてくる。

 どうせなら、可愛い女の子にされたいのだが、まあ、メリケンにとっては男同士でハグというのも、普通のコミュニケーションなんだろうからいいけどさ。

 だが、来ちゃったは無いだろう。

 そして、遠慮がちにその後ろにトウゴさんと、東さんが隠れている。

 うんうん…日本食食べたいんだね。

 分かったよ、こうなったら大判振る舞いだ!


「しゃーねーから、今夜はいくらでも食べ物作ってやるから、知り合いや友達全員連れて来い!」

『本当か?』

「お前らは知り合いじゃねーだろ!」


 不意に壁から現れた西野と南野を思いっきり殴り飛ばす。

 東の4人がビックリしたような表情を浮かべている。


「魔族になった俺達ですら秒殺された西と南の魔王を、殴り飛ばすとか」

「今のトウゴですら、なんとか防御に徹して持ちこたえられるレベルだったよな」

「アニキはやっぱりアニキですね!」

「ナア、ソンナ事ヨリカツカレー出ス?出サナイ?出サナイナラ、出シテ!」


 ケビン…一人だけマイペースだな。

 でも、可愛いから許す!

 いかにもメリケン軍人だけど、この素直さには逆らえねーな。

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