第二章:中央世界編

第1話:プロローグ

 俺の名前は緒方 勇おがた いさむこの国の聖教会とやらに召喚されて、勇者をやらされてる……

 目下のところ、絶対絶命の状況におかれているけど。

 西の大陸にある魔族が立てた西の塔を目指し進んでいたはずが、転移の罠を踏んでどこか分からないが取り合えず敵陣のど真ん中に飛ばされた。

 他に2人の日本人と現地人が1人仲間に居るが、よくある異世界ものと違って全然チートでもなんでもねー。

 かろうじて戦えてはいるが、これは……

 絶望の淵に希望なんてぶら下がっていない。

 そう思えるほどに、どうにもできない状況だった。

 あの人が、来るまで。

 そう、田中と名乗る魔人が来るその時まで。


***

 さてと……

 中野を目いっぱいからかってスッキリしたし、ちょっとこの世界観光でもしてくるかな。

 魔王じゃなくなったから、人化の術もほぼ完ぺきだしな。


 俺は【八方美人キョロジュウ】を発動させる。

 人探しに特化して探索魔法だ。

 俺が作ったわけじゃないけど。

 まずは、日本人でも探してみるか。

 うまくいけば、情報も手に入るかもしれないしな。


 魔力の波で世界を覆っていく。

 中央世界全てを多いつくすように……

 たぶん、中野からも感知されるだろうけど。

 別に気にしない。


 おっ、いたいた! 日本人発見!

 早速行ってみますか。

 転移で向かった先は……この世界の地理知らないから説明できねーな。

 中野の城から西というか、めっちゃ東というか、西だなこれは。

 そんな事を思いながら上空から見下ろすと、早速見つけたばかりの日本人が大ピンチ……ワロタ。


 1000体の魔族のど真ん中に4人か……

 3人が日本人で、1人は現地人か? 

 チート的な何かを持ってれば別だろうけど、見た感じ魔族の方が強そうだな。

 もしかして、全力じゃないかもしれないが……

 どっちにしろ絶対絶命って感じだな。


 魔族の代表っぽい奴がなんか言ってるな。

 よし、悪魔の耳デーモンイヤー発動!

 ただの、集音魔法だけどね。

 風の音がうるさい。

 ノイズキャンセラーも発動で。


「フッフッフ……今代の勇者もまた阿呆よのう。もはや主神も我が君の手に堕ちた今、お主らが最後の希望だろうに……碌に警戒もせずに敵の本拠地に来るからこんな事になるのだ」


 若干絶倫に似てるところから、悪魔系の魔族だろうな。

 顔は骸骨じゃない山羊なだけ、絶倫よりはマシだな! うん。

 そんな事を思って見ていると、勇者っぽい奴がなんか言ってるな。

 なんで勇者っぽいかって?

 あからさまに、ほかの仲間が魔法使いと、僧侶と騎士だって分かるから消去法だ。


「くっ、おい! マホ! 転移の魔法は使えるか?」

「ダメです! 魔力による妨害で、転移先への接続が出来ません!」

「ランダムでも無理か?」

「いえ、いけますが……おそらくここに戻されるだけかと……」


 マホと呼ばれた女の子の答えに、勇者(仮)が歯噛みしている。


「せめてマホとキヨだけでも逃がす事が出来たら」

「えっ? 自分は?」

「お前は、俺と一緒に特攻だろ! こんなとこに勝手に呼んだんだから、女の子の為に働け!」


 騎士の現地人っぽい男が狼狽えているが、勇者(仮)は気にするつもりは無いようだ。

 思いっきり尻を蹴られて、魔族の前に飛び出しそうになって慌てて戻る。


「ちょっ! 洒落にならないっす!」

「うっせえ! 少しは時間稼げカス!」


 うん、この勇者(仮)あんまり嫌いじゃないかも。


「フッフッフ、茶番はそのくらいにして、そろそろ殺して差し上げてもいいですかね? うちの可愛い子供達も血が見たいと騒いでおりますし……」


 悪魔っぽい魔族が嬉しそうに話しかけると、他の魔族から歓声が上がる。

 奇声に聞こえなくもないけど。

 まあいいや。

 この人数差じゃ一方的に嬲られて終わりだろうな。


「そちらの女性の方には、是非城にて女中として」


 次の瞬間に、悪魔に向かって斬撃が放たれる。

 勇者(仮)が放ったのか? 割と鋭いな。

 北の世界の勇者よりは、筋が良さそうだ。


「いきなり何をなさるのかな? 矮小な猿の分際でぇ? この100人衆の1人、エロエロエッサイム様に、剣を向けるだとぉぉぉぉ!」


 沸点低くね?

 てか、100人衆ってどうなの?微妙じゃね?

 同じくらいの強さの魔族が100人いるってことなのか、100人一組の隊がたくさんあるのか分からないけど。

 大体さぁ、取りあえず先に攻撃して動けなくしてから語れば良いものを、相手が元気な状態で挑発するから噛み付かれるんだよ……

 自分に酔ってたのか、このシチュに酔ってたのかしんないけど自業自得だなうん。


「おい、俺が隙を作る! サイドロール! 二人を連れて走れ! 追いつかれそうになったら、お前が敵に飛び込めよ!」

「何それ? 酷いっす!」

「ちょっ! イサム勝手な事言わないで!」

「イサムを置いて逃げられるわけない!」


 ふーん……イサム君っていうんだ。

 いいね、可愛い子二人も傍にいて……

 やっぱ、こいつここで死んでもよくね?


 そんな事を思っていると、エロエロエッサイムの魔力が膨れ上がる……てこいつ名前なげーな……覚えやすいけどさ。

 まあいいや、エロにしとこう。

 なんとなく、絶倫に通じるものもあるし。


「フッフッフ。隙を作るですって? もう二度とあんな隙は与えませんよ!」

「ていっ!」

「おわっ! 何する!」


 喋ってる間にイサムが斬りつける。

 魔族より、魔族っぽい戦い方だな……俺の勝手なイメージだが。

 それにしてもエロも懲りねー奴だ、喋りすぎだろ? とっとと攻撃しろよ。


「くっ! 死ねゴミ虫共が! ヘルファイア!」


 えっ? 

 あれがヘルファイア?

 ちっちゃ!

 そしてしょっぼ!

 たぶん、ちびこのファイア~ボ~ルの方が、色々と優れてる気が。

 おいおい、なんて表情してるんだい! 

 日本人サイドが、驚愕の表情を浮かべているけど。

 しょぼくて驚いたのか、彼らにとっては脅威だから驚いたのか……


「やばい! マホ、障壁をすぐに張ってくれ!」

「駄目よ! 私の障壁じゃもって2分くらい……」


 ああ、後者か。

 いや、十分じゃね?

 炎熱地獄級魔法の一歩手前のヘルファイア相手に2分とか、人間レベルで考えたら凄いことだよ?

 つっても……この程度でヘルファイアとか・

 地獄の火ってこんなものなの?

 プププッ、草生えるわ!

 まあいいや、【属性無効化エレメンタルブレイク】!


「あれっ? 炎が来ない?」

「失敗?」

「もしかしてハッタリだったすか?」

「いや、確かに想像を超えた魔力が集まるのを感じたのに……」


 いつまで経っても攻撃が来ない事で、4人が首を傾げている。

 そして、魔法を放ったエロは自分の手をじっと見つめ、ワナワナと震えている。


「誰だ邪魔をしたのは!」


 それから、こっちに向かって視線を向けてくる。

 あっ、バレた?


「なっ!」

「誰?」

「本当に誰? サイドロールさん知ってる?」

「いや、知らないっす」


 でしょうね!

 皆の注目を浴びたから、日本人に向けて手を振ってみたが盛大に不思議がられた。

 まあいいや、取りあえず華々しく中央世界デビューと行きますか……


「初めまして中央世界の魔族の皆さん……そしてさようなら……【黒縄地獄ヘルバインド】」

「なっ! 第7位地獄級魔法だと!」


 エロが凄く焦ってるけど、知ったこっちゃない。

 俺が掌から作り出した真っ赤な球体から、黒い縄のような物が伸びるとエロ以外の周囲の魔族を次々と拘束していく。

 さらにその球体から一滴の滴が落ちると、魔族達の足元に瞬く間に広がってその足を焦がす。


「あついー!」

「なっ! バカな! 火蜥蜴の鎧が焦げていくだと!」

「嘘だろ……なんだよこれ!」

「エロエロエッサイム様助けてー!」


 黒縄地獄なのに阿鼻叫喚とはこれいかに。

 何てことを思っていたが、確かにこれは酷いな。

 熱された黒縄で締め付けられた所から煙があがり、ジューっという肉の焼ける音が聞こえるが、足元からも超高温の熱が発されているため踊り狂っているようにしかみえない。

 ちょっと見るに堪えるな……

 俺はそっと【虎々婆フフバ】を唱えると、苦悶の表情を浮かべたまま周囲の魔族が凍り付く。

 そして指を鳴らすと、999体の氷の彫刻が一気に砕け散る。


「アハハハハ……これは夢だ! 夢を見ているに違いない……炎熱系第7位の地獄級に、氷雪系第4位の地獄級魔法を使えるなんて……そんな奴いるはずがない……」


 あっ、壊れた……


「おい、エロ!」

「えっ? エロ?」


 俺の呼びかけに、エロがはっと我に返る。


「帰って、中野の野郎に伝えとけ! 必ず殺しに行くから、首洗って待っとけとな」

「ナカノ? 大魔王様の事か? 呼び捨てにするとは、貴様!」

「あっ?」

「いえ、なんでも無いです……すぐに伝えに行きます。他に伝言とかあれば、聞きますけど?」

「いや、そうだなー……特にないから、それだけ伝えといて」

「はっ、声帯模写は?」

「いいから、とっとと行けや!」

「あー……お名前をお伺いしても?」

「田中だよ!」

「タナカ様ですね、はい、承りました」


 そう言って、エロが慌てて転移する。

 うんうん、無傷で返してあげるなんて優しいな……俺は。

 さてと、中野への宣戦布告は終わったし、後はゆっくりとこの世界を見て回るかね。


「おーい!」


 それから、突然の出来事に全く付いていけずに口を開けたまま固まってる4人に近づいていく。

 一応4人に影響が出ないように気を付けたから、凍ってるわけじゃないよね?


「はっ! あれ? あいつらは?」

「えっ? いや、あの人が一人で……」

「……あれが魔法? あんなものを魔法と呼ぶなら、私が使っているのはなに?」

「……あの人誰っすか?」


 大丈夫かな?

 まあいいや、取りあえずこいつらには色々と情報を聞いとかないとな。

 その情報を元に行動を決めて、あとは適当に遊びながら頑張る。

 やっと、北の世界でのブラック魔王業を退職出来たんだ、少しくらい遊んでもでーじょーぶだろう。

 もしかしたら、人間の町を初めてゆっくり観光出来るかも……

 オラ、ワクがムネムネしてきたぞ!


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