第61話:タナカは何かおかしい~中野の場合~

「イテテ……」

「大丈夫ですか、大魔王様」


 中央世界の中心、中央大陸のど真ん中に位置する大魔王城に戻って来た僕は、玉座に腰かけ赤く腫れたおでこをさする。

 すでに火傷した皮膚の再生は終わり、あとはこの真っ赤に腫れたおでこだけだ。

 そのおでこを自ら作り出した氷嚢で冷やしていると、周りの配下達が心配そうにチラチラとこちらを見てくる。

 ちょっとうっとしい。

 その顔には一様に不安そうな表情を浮かべている。


「ああ、大丈夫だ……ちょっと油断しただけだ」


 俺がそう言って手を振ると、周りの配下達がどよめく。


「おい、いくら油断してたからって物理耐性MAX振り切ってる大魔王様のおでこがあんなに腫れるか?」

「どんな攻撃したら、あんな事になるんだろ……」

「もしかして、北の魔王ってとんでも無いやつじゃ……」

「早いうちに取り入っておいた方が……」


 くっ……確かにこの世界に転生して以来、数万年……まともに、怪我をしたことなんてなかったな……

 そんな事を思いながらフッと笑う。


「おい、怪我させられて笑ってるぞ……」

「気持ち悪い……」


 ちょっと怪我したからって、こいつ等調子乗り過ぎじゃないか?

 手に持った氷嚢を思いっきり部屋の真ん中に叩き付ける。


「お前ら、好き勝手な事を言いおってから……」


 こめかみに青筋を立てながら静かに漏らすと、慌てて全員が平伏する。


『はっ! 我らの忠誠は全て大魔王様のものです』


 本当に調子の良い奴等だ。

 とはいえ、アイツもきっと北野を助けるために魔王の力を譲渡したはずだ。

 となればただのタナカか……フフッ

 それにしても、その状態で僕を倒しにこの世界に乗り込んでくるとはな……なかなか根性がある。

 だが、そんなアホに真っ正面から相手する僕じゃないんだな……

 これからの行動予定を思いニヤニヤとしていると、また配下の魔族達から不審がられる。

 まあ、良い。


「ふんっ、北の新たなる魔王が目覚めたら挨拶に行く……それまではしばし休養だ」

「さすが大魔王様! タナカ様を魔王の座から引きずり下ろしたのですか?」

「ああ作戦通りいけば、奴は魔王を矮小な女に譲って……ててて……」


 何やら背中に刺さるような視線を感じて振り返るが、誰も居ない……気のせいだろう……


(なかのさぁん、みぃつっけたぁ~!)


「うわぁ!」


 頭の中に響くタナカの声に、僕は慌てて椅子から転がり落ちる。

 すぐに配下の中でも、最も位の高い大将軍のイエヤスが駆け寄って来る。


「大丈夫ですか?」


 僕が自ら創り出した魔物は各世界の初代魔王と、イエヤスの他に右将軍、左将軍、四天王の11人だが、こいつはその中でも頭一つ抜けた実力を持っている。

 実際にはもう一人居るが制御が難しくいつも寝首を掻ぎにくるので、地下に封印しているが……

 この12神将が……僕の黒歴史だ……。

 まあ、そんなこともどうでもいい。


「ああ、なんでもない……」


 辺りを探知するが、タナカの気配はどこにもない。

 自分で思っている以上に、奴の事を気にしているみたいだな……


「なんでもない……」


 自分に言い聞かせるように呟くと、次の行動に移る準備をする。


***

「ふふっ、ついに目覚めるか……」


 北野マイの再誕の兆候を感じ、思わずほくそ笑む。

 新たに生まれ変わったマイが、僕の忠実なしもべとなっていたらさぞかし彼は驚くだろうな……

 そんな事を思いながら北の世界の魔王城、新魔王の部屋に転移する。


「なっ!」


 すぐにそこに居たエリーとかいう女魔族の意識と記憶を刈り取り、マイの傍まで歩いて行く。


「クックッ……」


 つい笑みが漏れる。

 まだまだ綺麗な繭だな……

 真っ白な繭……

 そこに、魔力で作り出した種子を差し込もうとする。

 この種子を埋め込むことで、完全なる僕の子供として接してくれるようになる。

 まあ、変質が終わる前前提だが。


「ナカノサァン、ミィツッケタァ……」


 不意に肩に手が置かれる……

 冷や汗が止まらない……

 ヤバイ……振り返ったら殺られる……

 振り返らなくても殺られる……


「うわぁ!」


 僕は振り返ることもせずに、転移で自分の城に移動する。

 そして、目の前の光景に自分の目を疑う。


「これはこれは、おひさしぶり……」


 そこには、玉座に腰かけこちらに微笑みかけるタナカの姿が……

 周りの配下たちは、まるで時が止まったかのようにそれぞれが行動の途中で制止している。

 まさか、時空魔法まで扱えるのかコイツは……

 本気を出せば魔王をやめたこいつを一ひねりにするのは、なんてことないだろうが……この世界に与える影響を考えると踏ん切りが付かない。

 そしてツカツカと玉座から降りて来て、僕の肩に手を乗せる。


「中央世界か……悪くない世界だ……」


 それだけ言うと、横を通り過ぎていく。

 ハッと振り返ると、そこにはすでにタナカの姿は無かった。

 そして、配下の魔族が動き始める。

 油断をしていたつもりはない……

 あれ?

 魔王やめたんだよね?

 魔力量減ってなくないかな?

 てか、これ変身後の僕よりも上……なわけないか……

 だって、あいつ通常形態だったし……

 いや、明らかに……


「大魔王様! いつのまに戻って来られてたのですか?」

「それで、キタノ様の洗脳は?」


 部下達の言葉が全然頭の中に入ってこない。

 タナカ……あいつはヤバい……何かがおかしい……

 一気に、冷や汗が溢れ出てくるのをどうにか誤魔化しながら、無言で玉座の間から出ていく。


「大魔王様どちらへ?」

「ちょっと一人になりたい……」


 ヤバいよー……これ、結構厳しいかも。

 最悪この世界を捨ててでも全力で奴を消すか?

 くっそ、折角主神の奴を封じたというのに、なんでこのタイミングでこんな奴が……

 頭痛が痛い……


――

あとがき

 実質エピローグです。

 次話より、ゆるふわタナカ反撃編が始まります。

 まだまだ、お付き合いお願いいたします。

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