第36話:魔王様ファンクラブが魔王様ファンクラブじゃなかった……辛い

「ほれ、魔王様がお越しじゃ! 挨拶せよ」


 ムカ娘に促されて3人が挨拶をする。


『オハヨウゴザイマス、魔王……サマ』


 絶対に嫌々だよね?

 魔王と様の間に凄く妙な間があったし。


「う……うむおはよう」


 俺が挨拶を返すと、ムカ娘が嬉しそうに微笑むが3人は全く興味が無さそうだ。

 むしろゴミでも見るかのような眼を向けられる。

 なんで?


「そ……それで、今日は何の用じゃ?」


 俺の質問に対して、ムカ娘がハッとした表情を浮かべる。

 どうやら俺を見てボーっとしていたらしい。


「えっとですね、この3名を私の直属の部隊にするという報告と、人虫合身の儀を行う許可を頂きに参りましたの」


 そう言ってムカ娘が紹介したのは、一応魔王ファンクラブになった3名だ。

 女勇者と女魔法使いと女騎士だ。

 女勇者は緑色の髪をしている。

 特殊な毛色だが、この色は風魔法特化型か。

 騎士の方は赤茶けた色をしている。

 そして魔法使いは黒のメッシュが入った黄色に近い髪だ。

 メッシュとはいえ、黒が混ざっている時点で相当な魔力の持ち主だという事は分かる。

 それからムカ娘が言っていた人虫合身?何やら物騒な響きだが……

 どういう事だろう?


「うむ、分かった。して人虫合身とはなんじゃ?」

「はい! 妾の力で虫同士を合成する事が出来るのですが、今回は人と虫の合成を行うかと思いますの。早い話が合成獣キメラの作成ですわ」

「ほ……ほう、そうか。そちらの3人はそれでいいのか?」


 合成獣キメラの作成か……ちょっと憧れるけど、こいつそんな事も出来たのか。

 割と部下の事知らないんだよな。


「チッ!……ハイ、尊敬スル魔王………………サマヲ、オ守リスルニハ、少シデモ強クナリタイノデ」


 今舌打ちしたよね?

 あと棒読みヤメテ!

 色々と支障がでるから、長めに喋る時は普通に喋って。


「これ! お主ら何故かような喋り方をする? 緊張するのは分かるが、いつも妾に語り掛けるような愛らしい声をだすがよいぞえ」

「(それは無理)……分かりました。魔王……様! 少しでもム・カ・娘様の為に役立ちたいのです」

「是非、許可をお願いします……クソッ」


 おいっ、小声でそれは無理っつったかお前? あと全然愛らしい声じゃないからな?

 なんだよ、その限界まで低くした声は。

 あとクソッって結構大きめに言ったよね?

 丸聞こえだよ!


「しょうのない奴等じゃ。魔王様申し訳ありませぬがどうやら緊張しておる様子でして、何卒ご容赦を」

「か……構わぬ。しょうがない事じゃ、それでその人虫合身というのはいつから始めるのじゃ?」

「すぐにでも行おうかと」


 絶対緊張じゃないからな。

 俺とムカ娘が喋ると射殺すような視線を向けてくるし。

 全然俺に忠誠誓ってないからな、そいつら。


「分かった、好きにするがよい」


 そう言ってムカ娘を下がらせる。

 ムカ娘が部屋を出た後を3人が付いていく。


「失礼致します」

「失礼致します……ペッ!」


 ムカ娘の後を付いて出た女勇者が部屋に唾を吐きかける。

 こいつ……


「失礼致します……シネ!」


 今小声で死ねっつったろ!おい!待てよ!


「失礼致します……ブッ!」


 屁だよ! 若い女が屁して出てったよ! 女騎士の癖に下品だなおい!

 悪いけどそんなんで興奮する趣味無いからね!


 俺は泣きながら部屋の隅に吐きかけられた唾を拭いた。

 そうだよね、聖教会辞めたからって全員が全員好きになるという事はありえないよね。

 嫌悪感が無くなるだけで、何も思わなくなっても合わない人って居るよね……と無理やり自分を納得させた。


***

「失礼します」


 次の日、またムカ娘が俺の私室を訪ねて来た。

 例の3人を連れて。

 それにしても劇的な変化だな。

 魔力量も大幅に上がってるし、見た目も凄いな……

 ようこそゲテモノの世界へ。


「新たに魔王様をお守りする、3名の魔族を連れて参りましたわ」


 そう言ってムカ娘の後を3人の魔族が付いて入る。

 こっちに目線を合わせようともせず、そっぽ向いたまま頭を下げる姿は逆に清々しいわ。

 ちょっと、実力差分からせてやろうか?


「良く来たな。早速じゃが、わしの配下の魔族となったからには今までの名前は捨てて貰おう」


 俺はしっかり仕返しをさせてもらうために、3人を改名することにした。


「良かったのお主ら! 魔王様直々に名前を授けてくださるそうだ」

「(えーーー)アリガトウゴザイマス」

「(クッソ! まじ、魔王クッソ!)アリガトウゴザイマス」

「死ねばいいのに……アリガトウゴザイマス」


 お前ら小声でも聞こえてるからな! あと魔法使い! お前に至っては小声ですらないじゃないか!


「これお主ら! 全く……魔王様どうやら、あまりの嬉しさに混乱しているみたいですわ」


 絶対お前もそう思ってないよな?

 部下の躾けくらいちゃんとしろよ!


 最初は元勇者か……こいつはカマキリと合身したのか。


「よし、お前はラダ娘だ!」


 余りの嬉しさのせいか、唇を噛みしめてプルプルしてるわ。

 次は騎士だな、こいつはアリと合身だな。


「お前はアン娘だ!」


 おーお、拳をあんなに強く握りしめて、そんなに嬉しかったのか。

 最後は魔法使い、こいつは蜂と合身したんだな。


「最後のお前はビー娘だ!」


 なんかビー娘がブツブツと呪詛めいた事を呟いてるが、たぶん祝詞だろうな。

 皆に喜んでもらえてよかった。


「素晴らしい名前ですわ! 流石魔王様!」


 そうだろ、そうだろ? 最近なんとなく魔族の好みが分かって来た気がする。


「それでは城内の他の幹部にも紹介して回りますので、これにて失礼致します。ほれ、お主らもお礼を言わぬか!」


 ムカ娘に言われて3人が頭を下げる……無言で!

 おい、少しは取り繕えよ!

 これで俺のファンクラブとか、マジ笑わせるわ!


「うんうん、声にもならないほどに嬉しい様子ですわね。魔王様有難うございます。それではまた」


 そう言ってムカ娘が部屋を出る。

 その後を3人が付いて出る。


「殺す……失礼します」


 そう言ってラダ娘が風魔法を放ってから部屋を出る。

 魔族になってパワーアップした魔法が、俺の部屋をグチャグチャにしてった。

 勿論俺には効かないけど。


「覚えとけよ!……失礼します」


 アン娘が唾を飛ばすように酸弾を飛ばしながら、部屋から出てく。

 室内のあっちこっちの調度品が溶ける。

 まあ、俺には効かないけど。


「ブツブツブツブツ……失礼します」


 ……はっきり喋れよ! って呪いかよ!

 部屋に置いてある殆どの物が呪われた上に、しっかりと針を飛ばして出ていきやがった。

 部屋中穴だらけだ。

 相変わらず俺には効かないけど……効かないけどさ……


 誰が部屋を片付けるんだよ!

 面倒臭かったので魔法で一瞬で直した。

 それから、腹立ったから直った部屋の映像をすぐに3人に飛ばしておいた。


「無駄な事すんなバーカ! by魔王」


 というメッセージを添えて。

 部屋の外から3体の魔族の怒気が跳ね上がるのを感じたが、気にすることは無い。

 雑魚だ。


***

 それから事あるごとに3人に命を狙われる。

 ある時は、ムカ娘をラダ娘が引き止めてる間に、ビー娘とアン娘が襲い掛かって来た。


「お姉様をたぶらかす魔王め! 今こそ貴様を殺して、お姉様を解放する!」

「殺す! アン娘ってなんだよ! もっと良い名前あるだろ!」


 2人の酸弾や毒針を全て弾きながら、欠伸をする。


「お前ら俺のファンクラブじゃないのか?」

「くっ、お前のファンクラブというのは不本意だが、お姉さまと同じクラブに所属できるのだ! その程度我慢できる」

「お姉さまとお揃い」


 こいつら、逝ってるわ……

 百合展開とか無いからな?

 ムカ娘は俺にベタ惚れだしノン気だからな?


「取りあえず、魔族になって数日の赤子が魔王に挑もうなど100年早いわ!」


 俺はそう言って二人を部屋の外まで弾き飛ばして扉を閉める。

 扉をドンドンと叩く音がするが、


「あら、貴方達はムカ娘の? 魔王様の部屋の前で何をなさってるのかしら?」


 いつもより1オクターブ低いエリーの声を聞いて、一気に怯えているのが分かった。

 てか、魔王より側近の方が怖いのかよ!

 それからすぐに静かになった。

 良かった。


***

 また、別の日にはラダ娘一人にも襲われた。


「カイン殿より授かったこの技を受けて見よ! 全てを飲み込め! イーブルブレイク!」


 ラダ娘の鎌より無数の斬撃が放たれる。

 鋭さだけで言ったらカインのそれより上じゃないかな?

 てか、カインおい! 物騒な奴に物騒な技教えてんじゃねーよ!


「部下の技なんか喰らうわけないじゃろ! 馬鹿め! 阿呆め! ど阿呆め!」


 俺はそう言って斬撃を全て弾き飛ばす。

 そして、またボロボロになる俺の部屋……


***

「おい、ムカ娘! お前んとこの3人娘なんとかしろ!」

「えっと、どういう事ですか?」

「どういう事も、最近毎日襲われてろくに休めもしないから、ちょっと注意しとけ」


 俺がそれだけ言うと、ムカ娘が顔を真っ赤にしてプルプルしながら3人を呼びつける。


「お主たち! 妾ですら、魔王様と……その……あの……いたしてないというのに! 毎日、毎日せがみに行ってるとはどういう事じゃ? 大体魔王様だってまだだったはずなのに! 誰じゃ! 最初に行ったのは!」


 ムカ娘の覇気に3人が……あれ? ムカ娘の言ってる事が微妙に意味が分からない。

 あと3人の様子もおかしい。


「やった! ムカ娘様まだなんだって」

「という事は初めては私の針でも……」


 ん?


「やったとは何事じゃ! 妾だって魔王様とヤリたいのじゃ!」


 んん?


「おい、ムカ娘! お主は何を言って居るのじゃ?」

「はっ! 妾ったら……その、魔王様……たまには妾とも……」


 なんか話が全然違う方向に行ってる気がする。


「ムカ娘様! 大丈夫ですわ! 私達もまだですから」

「んっ? なんじゃ3人とも失敗したのか? 流石魔王様じゃ!」


 失敗はしたけど、たぶんムカ娘の考えてる意味とは違うぞ?


「まあ、まだなら良いのじゃ、まだなら! でも最初は妾が頂くからな! くれぐれも抜け駆けするで無いぞ!」


 えっ? 説教終わり?

 何それ?


 その後、ムカ娘について3人が出てくる。


「それじゃあまたお会いしましょう、童貞魔王様!」

「今夜はムカ娘様をなんとかしても、私たちのモノにしますからね童貞魔王様!」

「……プッ、魔王なのに童貞……プッ……またね童貞!」


 おい!お前ら! てか、ムカ娘コラー! 余計な事言うな!

 あと3人目! お前のはただの悪口だからな!

 あれ? 他の2人のも悪口だった……辛い

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