第35話:聖教会が色々と酷くて辛い

「さてと、初めまして魔王じゃ! タイショーのとこに案内せよ」


 城の門番に伝えると、いきなり槍を突きつけられた。


「本当に来るとはな。馬鹿め!」


 それから門番が後ろに下がると、城門が降りてくる。

 それから城壁に弓兵がずらりと並ぶ。

 その中心には見た事も無い、立派なみなりをした人物とウサンが立っている。


「ふははは、本当に来るとはな。馬鹿め!」


 それ門兵さんにも言われました。

 てか誰?


「誰?」


 あっ、思った事がそのまま口に出てた。


「ふっ、こちらはこの度新たにこの国の王となられたタイショー2様だ!」

「そうだ! わしは前国王タイショーの弟だ。何やら兄上が魔族に降伏するとか世迷い事をぬかしておったのでな、騎士団長ともども地下の牢に入って頂いた」


 そう言ってタイショー2がこっちを睨み付ける。

 全然似てねーな。

 なんか、タイショーと違って王の威厳も無ければ頭も悪そうだ。

 完全にウサンに良いようにされてそうだ。


「では、早速だが死んでもらおう! ここで貴様を殺せば兄上達も元に戻るだろう」


 そう言ってタイショー2が手を振ると、弓兵から一斉に矢が放たれる。

 しかし矢は全て俺たちを避けるようにして地面に突き刺さっていく。


「へたっぴー! やーいやーい!」


 マイが思いっきり馬鹿にすると、タイショー2が顔を真っ赤にする。

 てゆうかお前身バレしたらヤバいだろ?


「取りあえずマイは帰れ」

「えっ? もう?」


 俺はそう言ってマイを強制的に家に送り飛ばす。

 その間に、立て直した弓兵から2射目が放たれるが全て空中で制止する。


「くっ! 貴様! 何をした?」


 あー、面倒くさいよー……

 タイショーと話して金せしめて属国にして帰るだけだったはずなのになんでこんな事に。

 という事で、自重するのをやめました。

 俺が指を鳴らすと、矢がその場にポトポトと落ちていく。


「あー、取りあえずお前と、ウサンこっち来い!」


 俺がそう言って手を振ると、二人が強制的に目の前に転移させられる。


「はえ? あれ? ここは?」

「な……何が? えっ、魔王? あれ?」


 俺の目の前で二人がキョドる。

 てか、マジで人間なんでこんなに馬鹿なんだ!

 俺魔王だっつーの!

 こんくらい簡単に出来ると思わないのか。


「おい! カイン! 俺はこの二人に用があるから、上の馬鹿どもと遊んで差し上げろ! ほら折角かっこいい翼があるんだ!」


 俺の言葉を聞いてカインがニヤリと笑う。


「はっ! 御意に!」


 そう言ってカインが翼を発動して飛び上がる。


「なっ! なんだこの魔力は!」


 どうやら弓兵の後ろに魔術師団を控えさせていたようで、カインの魔力に驚き戸惑っている。

 やってね、先制攻撃確定パターンやね。


「フハハハ! 遅いぞお前ら! そんな矢が当たるか! 全てを飲み込め! イーブルブレイク!」


 出たカインの必殺技!

 すげーな城壁がえぐれてその余波で人間がいっぱい吹っ飛んでる。

 弾き飛ばされた連中が城壁からパラパラと落ちていく。


「はっは! 見ろ!! 人がゴミのようだ!」


 ……お前? 転生者じゃねーよな?

 あっ、こっちこっち。


「おい、タイショー2とか言ったな」

「な……なんじゃ?」


 こいつムカつく顔してるな……

 と思って手を翳すと……あれっ?こいつ誰だ?


「お前……全然王族でもなんでもないじゃないか」

「えっ? 何故それを?」


 俺がビックリして叫ぶと、タイショー2が心底驚いた表情をしている。


「あっ! 馬鹿者!」


 ウサンが慌ててタイショー2を止めるが時すでにお寿司だ。

 城壁の上の弓兵や、魔導士、門の後ろに控えていた騎士達が一瞬静まり返る。

 それからザワザワし始める。

 おいおい聖教会、それは流石に不味いだろ。


「あー、俺もそうだと思ってたんだ……だって顔全然似てないし」

「えっ、でも側室のサブクイーン様のお子様だって線も」

「ないない! あんな綺麗な方から、こんな不細工な奴うまれねーって」


 周りの兵たちが口々に何か言い始める。

 これに慌てたのがタイショー2とウサンだ。

 大慌てでウサンが叫ぶ。


「この不忠者どもが! 魔王の言う事に惑わされるでない!」


 ああ、全然交渉どころじゃなくなったわ……

 こいつら本当に余計な事しかしないわ。

 しかも俺の留守を狙って、また兵を送り込んでるし。

 てか自分とこが先走った癖に、負けて捕虜取られて周辺国家に助けを求めるとはな。


「おいウサン! お前良い度胸してるよな? あのでっかい聖堂がお前のとこだろ?」


 そう言って城内にある、大きな礼拝堂を指さす。

 まさか、城下町の他に城門内に聖堂を建てて貰えるとか、宗教に偏り過ぎだろこの世界。


「そ……それがどうした?」

「良く見てろよ?」


 俺はそう言うと、特大の雷を落とした。

 聖堂が音を建てて崩れていく。


「ちょっ! なにしてんすかアンターーー!」

「うっせー! 人の留守狙って城襲わせてんのもお前らだろ!」


 俺が指摘すると、そっぽを向いて口笛を吹く。

 分かりやすいなおい!


「おい、カイン! 出直しだ! おいこの国のアホども! お前の国の王は地下に繋がれてるぞ! さっさと助け出して大切に保護しとけ」


 俺がそう言うと、何人かの兵が急いで駆けだす。

 俺はそいつらに向かって【大罰組リデスノート】を使う。

 バタバタと倒れていく。


「な……何をした?」


 目の前の騎士が怯えた表情でこっちに問いかけてくる。


「そいつらは、教会の回しもんだ! お前らより先回りしてタイショーを殺すつもりだったみたいだ」

「そんなバカな事があるか! 聖教会は我らを救うための教会だ!」


 面倒臭いからこの場に居る全員に【大罰組リデスノート】使って殺してから復活させる。


「ちょっ、ウサン神官全然ヤバいじゃないっすか! 何が魔国領外は魔瘴気が少ないから弱体化するですか! 超元気! 魔王超元気!」

「うっさいタイショー2! それより、いま完璧に殺したよな? なんで生きてるんだ?」


 タイショー2馬鹿っぽいな。

 もうちょっと人選考えた方がいいぞ。

 うちんとこの居候の元魔王みたいだ。


「おい、ウサン! お前も来い!」


 俺はそう言ってウサンとカインを連れて転移しようとするが、カインがそれを制す。


「わ……私は翼がありますので、飛んで戻ります」

「えー、転移の方が早いのに」


 どうせこいつの事だ、城下町を飛び回ってアピールするのが目的だろう。

 といっても、こいつ一人居た所で何が変わるというわけでもないしな。


「分かった、せいぜい顔を売って来いよ」

「ちょっ! 待って! 待っててば! ちょっ、魔王! ちょっ! コラ」


 俺はカインにそれだけ言うと、ウサンの首根っこを掴んで転移で城に戻る。


「あら、魔王様お早いお戻りで」


 玉座に転移すると、目の前にエリーと絶倫が居る。

 2人とも玉座の両脇に立って何してんだ?

 暇なのか?


「貴方が戻られる気がしましたので、お待ちしておりました」


 こ……怖いよ。

 なにそのテレパシー。

 そして良く絶倫が必要だって分かったな。


「おい絶倫! しばらくこいつで遊んどけ! せいぜい役に立つ情報を引き出しとけよ!」


 俺はそう言って絶倫の目の前に、ウサンを放り投げる。

 絶倫に、幻術やら拷問やらでウサンから情報を集めようと思ってたところだ。

 えっ? 神官が味方に居るのになんでって? 嫌がらせに決まってるじゃないかHAHAHA!

 別にウサンじゃなくても良いけどさ、ちょっとムカついたから。


「ひっ魔族! てか悪魔! てか山羊! てか骸骨!」


 ウルサい奴だな。

 おー、絶倫の目がめっちゃ輝いてる!気がする。

 なんかあるなこりゃ。


「分かりました、魔王様。それでは早速行って参ります」


 絶倫が黒い球体を作り出したかと思うと、そこにウサンを放り込む。

 それから絶倫自身も中に入っていく。

 何それ? 魔法?


「あ、ああ、いってらっしゃい」


 あいつだけは、何考えてるか良くわかんねーわ。

 顔骸骨だから表情読みにくいんだよな。

 まっ、いっか。


「エリー、また人間のアホ共が懲りずにやってくるぞ! 今回は城門の外で返り討ちにしてやろう」


 俺がそう言うと、エリーがキョトンとする。


「えっと、それなら魔王様の直属の人間部隊が当たってますが、国境まで押し返したとの事ですよ?」


 うそっ?

 ちょっ、大量虐殺ヒャッハーしようと思ってたのに。

 の割には全然魂が集まってこない。


「てか、俺の直属の人間部隊って?」


 そんなん居たか?


「いや、先の戦で最初に魔王様に復活させていただいた者達ですよ? 約5000名くらいいらっしゃったかと」


 やっべー!

 忘れてた!

 強化解除するの忘れてたわ!

 良かったー、こっちに刃向けて来なくて……てかそんな強くしてたっけ?


「そ……そう言えばそうだったな……どれちょっと様子見てくるか」

「魔王様? 忘れてましね?」


 エリーがジト目でこっちを見てくるが……まっ、いいや

 俺が転移で国境の上空に移動すると、眼下で文字通り5000人の兵士が、30万人の兵士を押し返していた。

 そう押し返していたのだ。


「どりゃ! よっしゃー! これ10mはいったろ」

「うわああああ! なんだこの力は! 本当に人間かー」

「馬鹿、俺んが凄いぜ! ほりゃー!」

「お……お……おお? 踵が! 踵が焦げる、ちょっと誰か止めて、踵が焦げるってー!」

「おー、結構押し込んだなー」


 こいつら何やってんだ?

 手にグラウンドをならすトンボのようなものを持って、連合軍を押している。

 一度に10人単位くらいで押し込んでるが、押された側はたまったもんじゃねーな。

 悲鳴を上げながら、吹っ飛んでってるわ。


「あっ! 魔王様だ!」

「魔王様見てください! ちゃんと殺さずに押し返してますよ!」

「チビコ様から聞きましたよ! 魔王様が人を殺すのを実は嫌がってるの」

「流石、魔族にありながら私達が認めたお方です! 生涯付いていきますよ!」


 ……馬鹿だ……馬鹿が増えた。

 それも大量に増えた。

 なんていうか、ほぼ全世界の人間を洗脳した聖教会が凄いんじゃなくて、単純にこの世界の人間が馬鹿過ぎる気がしてきた。

 いや、中にはそうじゃない人も沢山いるはずだが。

 やっぱ、義務教育って大事だよね。

 それに身分格差も駄目だね……身分が偉い人が言うと絶対みたいになってるんだろうね。

 一生懸命勉強した農民より、遊びまくってた貴族の方が賢いって価値観なんだろうな。

 よし、魔国は義務教育を導入しよう。


「しっかし、殺さずに勝つってのは難しいもんだね」

「流石魔王様! 凄いよなー! 俺ら皆生きてるもんね」

「良く殺されなかったよな」


 いや、厳密には殺してるからね?

 忘れたのかな。

 いや、正確には同士討ちか……


 まあこっちは安心そうだから、また城にとんぼ返りだ。

 はあ、もういっそ全人類殺すか……


「あっ、魔王様! お帰りなさいませ」


 おう、目の前にいきなりムカ娘は強烈だぜ。


「そんなに見つめないでくださいまし」


 お……おう。


「ああ、すまない。それより絶倫はどこ行った?」

「ああ、絶倫様なら地価の秘密の部屋ですよ」


 えっ? あいつそんなものまで作ってたの?

 てか、俺の城に勝手な事するなよもー!

 教えらた場所に行くと、なるほど魔力を遮断する壁に囲まれた部屋か。

 どうりで気配探知に引っかからなかった訳だ。


 俺がノックしようと扉に近づくと中から声が聞こえてくる。


「私はウサン! 貴方様の忠実な僕です!」

「なら、この世界で一番偉いのは?」

「魔王! タナカ様です!」

「なら、この世界で一番強いのは?」

「魔王タナカ様です!」

「なら、この世界で一番英知あるのは?」

「魔王! タナカ様です!」

「なら、この世界で一番美しいのは?」

「魔王! タナカ様です!」

「じゃあ、その魔王タナカ様が一番信頼するのは?」

「世界で2番目に偉く、賢く、美しい絶倫様です!」

「良くできた!」

「早く、早くご褒美を下さい!早く!早くーーーー」


 俺は扉を開くのが怖くなってその場を後にした。

 きっと魔力遮断の部屋だから、俺の事は感づかれてないはず……

 きっと扉の上のセンサーみたいなのはデコイだよな……

 多分……


 部下がキモくて辛い

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