第34話:人間に嫌われ過ぎて辛いPART4

 俺は今セントレアに来ている。

 この国の王タイショーと話をするためだ。

 一応、今日一日この国を散策するということで、カインとウララと……何故かマイが来ている。


「おう美男美女で羨ましいね! どうだい、今夜はうちに泊まらないかい?」


 街を歩いていると宿屋のおじさんが声を掛けてくる。

 明らかに俺を無視している気がするが、気にするまい。


「いえ、まだ着いたばかりで色々と見て回ろうかと」


 カインが無難に答える。


「そうかい? うちはペットも可だったんだけどね。そこの可愛い狐さんと、あとその人型のムカつく何かも一応泊まれるよ」


 その人型のムカつく何かって俺の事じゃないだろうな?

 いや、俺の事だろうな……

 人化の術は完璧なはずなのに。


「はは、有難うございます。でもこちらは私達の主人ですよ」

「えっ? その気持ち悪い人もどきがかい?」


 ……殺すか?

 溢れ出る殺気に、おじさんが思わずたじろぐ。


「なんだいそのムカつく殺気は? ただもんじゃないね……まあ、気が向いたら戻って来ておくれ」


 殺気までムカつくってなんだよ。

 本当に染まってる人間ってのは容赦ねーな。

 それからしばらく散策するが、終始こんな感じだ。


「おっ、可愛い子だね? そっちの青年は彼氏かい? これ食べてっておくれよ」


 そう言って露店のおばさんが、試食の串に刺さった鶏肉を渡してくる。

 カインと、マイと、ウララには冷まして串から外したものを。

 俺のは?


「タナカ様、どうぞ」


 そう言ってカインが俺に自分の分を手渡してくる。

 おばさんがあからさまに嫌そうな顔をする。


「私はあげないよ!」


 マイはそう言って一気に口に放り込む。

 いや別にそこまで欲しくは無いが。


「ちょっとお兄さん! それは人が食べるものだよ! そんなものにあげたら勿体ないよ」


 ウララは?

 ウララも人じゃ無いんですけど。


「あっ、すみません。こちらの方は私の主人で師匠のタナカ様です。ちゃんとした人ですよ」


 カインが微笑みながら返すと、おばさんが頬を染める。

 イケメン死ね!


「あら、それは悪かったね。てっきりどこかの小汚い乞食が付いて回ってるのかと」


 乞食って……俺割と立派な服着て来たつもりなのに。

 感性が違うのかな?


 露店を後にしてしばらく進むと、地元の小料理店の娘が声を掛けてくる。


「お食事がまだでしたら、是非うちでどうですか? お二人様ならすぐに案内できますが」


 いくらなんでも酷すぎるだろ。


「えっ? いや3人だよ」


 マイが答えると、娘さんがキョロキョロと辺りを見回してウララで視線を止める。


「あっ、そうですよね。こちらの狐さんも家族ですもんね。店内にはお通し出来ませんが、軒下でこの子の料理も提供させていただきますよ」


 よし、滅ぼそう!

 俺が魔力を軽く開放すると、カインが慌てて俺の腕を引っ張って連れ去る。


「ごめんね、まだお腹が空いてないんだ」

「私空いてるんだけど?」


 カイン邪魔! あとマイうっせ! 俺は決めた! この国の住民全員一度殺してやる。


「タナカ様! 落ち着いてください!」


 カインが必死で俺を引き留める様子に我に返る。

 俺は今何をしようとしていた?


「もう、田中のせいでご飯食べ損ねたじゃん! 折角美味しそうだったのに」


 黙れ文無し! お前から殺してやろうか?

 ダメだ、このまま散策すると殺意の波動に目覚めそうだ。

 そう思っていると、路地の奥からこっちをジッと見つめる視線を感じる。

 そっちに目をやると、小学校高学年くらいの男の子と幼稚園児くらいの女の子がこっちを見ている。


「どうした? わしに何か用か?」


 俺が声を掛けると、慌てて目を反らす。

 くっそ……こいつら……

 と思ったら男の子の方が近付いてきた。


「おじいさん、この街初めて? 案内しようか」


 なん……だと?

 俺を見て声を掛けてくるとか珍しいな。

 と思っていたら、カインが俺の手を引っ張る。


「相手にしてはいけませんよ。ストリートチルドレンです……油断すると財布をすられますよ」


 元勇者の癖にこいつ優しくねーな。

 女の子の方はそうでも無いが、男の子の方はかなり痩せている。

 食うのにも困っているのだろう。


「そうか、どこに連れて行ってくれるのかのう?」


 俺がそう言って男の子の頭を撫でる。

 と同時に記憶を読み取る。

 どうやら、父親は居ないらしく家には病気で伏せっている母親が居るらしい。

 こうやって、初めて町に来た人たちを案内して日銭を稼いでいるのか。

 結構酷い目にあってるな……

 冒険者を案内して、料金を踏み倒されたり、貴族に声を掛けて蹴り飛ばされたりとあまりうまく行って無いようだ。

 しかも、稼いだお金で買った食べ物は殆ど母親と妹に与えているのか。

 泣けるぜ。


「目的を教えてくれたらそれに合わせて、ただブラブラするなら色々と案内してあげるよ。ただし2時間で銀貨1枚もらうけど」


 なるほど、食べ物を探したり仕事を探したりとを繰り返すうちに町の隅々まで詳しくなったみたいだな。

 2時間で銀貨1枚か、子供の稼ぐ額にしては妥当だな。


「そうだな……じゃあ、これで美味しい物を食べられるところにでも連れてってくれないか?」


 そう言って俺が大金貨3枚手渡すと、男の子が付き返してくる。

 あれっ? 母親の薬に必要な金額のはずだが……


「施しを受けるためにしてるんじゃないから……仕事だと思ってるんだ! だから余計なお金は受け取らない!」


 立派や! なんて立派なんだ。

 俺はカインを睨む!

 こんな良い子をスリ呼ばわりするなんて、酷い奴だ。

 ついでに脇腹もつねる。


「痛い! 何をするんですか」


 俺は知らんぷりをして、男の子に謝る。


「それはすまんかったな。田舎から出て来たもので無作法をした。子供が働くなんてよっぽどの事情があるかと思うての」

「ううん、こっちこそごめんなさい。折角気を遣って貰ったけど、これを受け取っちゃダメな気がするんだ。だって仕事以上のお金を貰うと……これから甘えが出てきちゃう気がして」


 マイ! 見ろこの子を!

 魔王倒しに来て、文無しで金せびって帰る勇者なんて聞いた事ないわ!


「凄いね! 私なら大喜びで貰っちゃうよ!」


 だろうね……そして、この子を見て何も感じないお前凄いわ。

 親御さんの顔が見てみたいわ。


「それで、どうするの?」


 それからマイがこっちを見てくる。


「どうせ、目的の無い散策じゃからこの子の案内に任せるか……そうだな4時間程お願い出来るかな?」


 そう言って俺が銀貨2枚手渡すと、男の子がニカリと笑って毎度ありっと元気よく答えてくれた。

 男の子の案内するところは、地元の人が見向きもしない謎の石碑や、町が一望出来る建物の屋上とか、あとは闇市なんかも案内してくれた。

 俺の恰好を見て、魔導士だと思ったらしくて、闇市内にあるそれ関係のヤバい品を扱ってるお店にも連れてってくれた。

 一応バックマージンがある事を知っていたので、必要ないが偽物の龍の鱗や、人魚の生き血、それから河童の皿なんてのを大人買いした。

 河童の皿だけ本物だった……

 てか、河童いるんだ。

 そして、金を払う際に周りに見えないように店主に本物の龍の鱗を見せる。


「おいっ、偽物だって知ってるからな……差額は全部あの子に渡せよ! ちなみに、チョロまかしたら……」


 そう言って店主に呪いを刻む。


「死ぬからな……呪いの効果は2日だ……二日以内に手渡せば刻印は消える」


 そう言うと店主が高速で首を振るって無言で頷く。


 他にも、嘘か本当か分からないけど、王国最強の騎士が眠る墓だとか、1000人の人の命を救った聖者の残した遺物を展示している博物館を案内してくれてそれなりに充実した4時間だった。

 勿論、店員さんや道行く人に嫌な顔も沢山されたが、少年の知り合いだと分かると嫌々ながら対応してくれた。

 どうやら、この辺りの人はこの子の事情を知っているらしく、俺への嫌悪感より偽善によるちっぽけな優越感が勝ったらしい。

 本当に、まともに頑張っているのが分かって応援したくなる。


「もう時間だから、ここで最後だよ」


 そう言って彼が連れて来てくれたのは女神像のある噴水広場だった。


「僕は……女神様や教会なんて信じてないけどね……おじいさんみたいな人なら好きでしょ?」

「ほう……なんでリュウは信じてないのじゃ?」


 俺が尋ねると、少年が俯く。


「……だってお父さんが死んだときも、お母さんが病気になった時も誰も助けてくれなかったもん。神官さんもお金が無いと相手してくれないし……だから、教会は嫌いなんだ」


 なるほど、それで俺に対して嫌悪感を抱かないのか。

 この世界じゃ生きにくいかもしれないが、人としては正解だな。


「そうか……リュウのお母さんは病気なのじゃな?」

「あっ、ごめんおじいちゃんには関係無いよね……なんでだろう? つい話しちゃった……」


 ふっ、本当は辛いのを我慢してるなんて分かってるからな。

 ちょっと思考誘導させてもらったが、本音を本人の口から引き出すことは大事だしね。

 たまには、心に溜まった物を吐き出さないと、どんどん思考が悪い方向に行っちゃうしね。

 最終的には溜まりに溜まったそういうものは爆発して、本人が望まない事を引き起こしちゃうし。


「ふっ、おぬしは優秀なガイドじゃったが一つだけ間違ったのう……実はわしも女神や教会が嫌いなのじゃ」


 そう言って、少年ににやりと笑って見せる。

 教会の悪口をつい言ってしまって、叱られるのではと怯えていた少年が途端にホッとした表情になる。


「実はのう……わしは治癒魔法が使えるのじゃが、少し高くての……1回で金貨1枚なんじゃ」


 そう言うと少年が一瞬笑顔になるが、悩み込む。

 実は少年が銀貨1枚は常に何かあった時の為に持ち歩いているは知っていた。

 家にも多少のお金は置いているみたいだが、それでもちょっと足りない。


「それって凄く安いけど……でも少し足りない……おじいさんいつまで居るの?」


 少年が顔を上げて質問してくる。


「明日には自分の国に向けて帰るのう……」


 そう言うと少年が一気に沈み込む。

 その時カインが口を挟む。


「そういえば、自分も一緒に案内してもらったのに代金を支払っていませんでしたね」


 それから、銀貨を2枚少年に手渡す。

 これで少し余るはずだ。

 流石カイン、うちの幹部と違って多少は空気が読めるところがある。

 というか、恰好を付けられる場面には敏感だな。


「でも、一グループで銀貨2枚で」

「それはいま初めて聞きましたね。ですが騎士が一度支払ったものを受け取るのは、恥になりますので納めてください」


 そう言って強引に手渡す。

 唯一マイだけが違う方を向いて、吹けもしない口笛を吹く真似をしている。


「おじいさん、うちまで来てもらえないかな? 家にあるお金と合わせたらきっと足りるから」


 少年が希望に満ちた目でこっちを見つめてくる。

 子供のこういうキラキラした目は、本当に心が温かくなるよな。


「そうか、ならば今からリュウがお客さんじゃな? ならこれはサービスじゃ!」


 そう言って、俺は転移を使ってリュウの家まで一気に移動する。


「す……凄い! 転移の魔法なんて物語でしか見た事ない」

「そうか? わしにしてみたら歩くのと同じようなもんじゃ」


 そういうと、羨望の眼差して見つめてくる。

 照れるぜ。


「ただいま! アリア! お母さんが治るかもしれない!」


 先に家に帰っていた少女が飛び出してくる。


「お兄ちゃん本当?」


 アリアが少年の方を見つめ不安そうに尋ねて来るが、少年が大きく頷く。


「こちらの方はきっと大魔導士様だよ! だって転移でここまで連れて来てくれたんだよ! 金貨1枚で治癒魔法かけてくれるんだって」

「えっ……でもうちにそんなお金」

「あるよ! 今日の稼ぎを合わせたら、金貨1枚とちょっとになるからさ! しばらくはご飯が寂しくなるけどいいだろ!」


 少年がそういうと、アリアの顔がパーッと華やぐ。


「本当! それならアリア我慢できる! ママが助かるなら、何にも要らない!」


 そう言って、俺のとこまで走ってくる。


「魔法使い様! お願いです! ママを助けてください」


 そう言って俺の手を引っ張って家の奥に連れていく。


「こらアリア! 引っ張ったら失礼だって」

「構わんよ、それじゃあ案内してくれるかのう」


 俺がそう言うと、ドンドン引っ張られて母親が寝ている部屋まで連れていかれる。

 なるほど、結構な重病だな……

 明らかに内臓疾患だと思われる。

 土気色した肌といい、窪んだ瞳といい良くない状況だというのがすぐに見て取れる。


「これは……今日お主らと出会えてよかったわい。このままだと持って1ヶ月といったとこだったの」


 母親の意識は今は完全に無い。

 一日に数回起きるらしいが、殆ど眠っているという事だった。

 俺は独自の回復魔法を使って、母親の全ての細胞を活性化させると共に全身の組織を新しい物に作り替える。

 これなら、例え癌だとしても問題無く健康な状態に戻るはずだ。

 それから、彼女と周囲の病原菌に対して即死魔法を掛ける。

 早い話が、菌も生き物だから殺してしまえばそれまでだ。

 ここまで細かい魔力操作が出来るのも、俺ならではのチートだな。

 健康的な肌の色が戻って来てるし、呼吸も落ち着いてるから大丈夫だろう。


「これで大丈夫だ。後は回復を待つだけだが……一応治癒をすることで金貨1枚じゃからのう、元気が出る食べ物をいくつか作って置いておく。時間停止も掛けておくから痛む事も覚める事もあるまい」


 そう言って、おかゆを3食分、さらにちょっと固めのおかゆを2食分、おじやを1食分、そしてうどんを3食分、さらに普通の食事を6食分作り出して手渡す。


「時間停止は掛けてあるが、食べると停止効果は無くなる。虫やネズミが食べても一緒じゃから、取られぬように気をつけるように」


 俺がそう言うと、二人が慌てて木の板などで蓋をする。

 

「うん、分かったよ! 本当に有難うございます」


 それから少年が深く頭を下げる。


「ありがとうございます」


 それからアリアが抱き着いてくる。


「ふむふむ、これがわしの仕事じゃからな、お主のガイドと一緒じゃ! 感謝はしてもらっても良いが、対価は貰って居るからな」


 そう言って二人の頭を撫でて、家から立ち去る。

 どうやら母親が目を覚ましたらしく、二人の歓声が聞こえてくる。


「さすが、田中! やるときゃやるな!」


 マイが何か言ってるが、お前この話で全く良いとこなしだからな。

 途中から肩でずっと寝ていたウララが起きて俺の頬を嘗めてくる。

 まるで褒めてくれているようでちょっと嬉しかった。


「ナイスアシストでしたよね?」


 カインが聞いてくる。

 俺はうむとだけ答えたが、自分で言ってこなければ満点だったのに。

 丁度その時、お金がたっぷり入ってそうな袋を持って走っている闇市の魔道具商とすれ違った。

 どうやら約束は守ってくれたらしい。

 さてと、このままどこかに宿を取って、明日はタイショーに話を付けに行くか!


 ちなみに俺だけ泊めてくれる宿屋が無かった……辛い

 やっぱりこの街滅ぼそう……

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